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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
16章 継承される流れ

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 確かにカッチーの言うとおりだ……ピエッチェはそう思うのに、窓の外を見ていたクルテがキャビンの中に視線を戻して言った。

「きっとリュネは嫌がる」

どうやら賛成できないらしい。


「ダメですか、クルテさん?」

「まずはリュネに水を飲ませて、カッチー。今んところ周囲に魔物はいない。だから今の内――マデル、カッチーを通してあげて」

クルテがマデルを揺り起こしている間に、ピエッチェがキャビンの戸を開け、ラクティメシッスがタラップを魔法で貨物台から運び、ピエッチェがキャビンから降りた。


「この森、随分魔物が多そうです」

ピエッチェに続いて降りてきたラクティメシッスがイヤそうに言った。それからリュネを見て、

「うん、お嬢さん、お(んま)さんが疲れていることに気が付いてたんですね」

と呟く。


「リュネが疲れてる? こいつ、昨日一日何もしないで食っちゃ寝だったんじゃないのか?」

「そうですよねぇ。でも、その割には魔力の消耗が著しいような?」


 中に残るのかと思っていたら、クルテもマデルもキャビンから降りてきた。最後にカッチーが降りてきて、貨物台に回るとレモン水を二本ずつ二人に渡した。そのあとカッチーは、飼葉を容れた箱とバケツを持ってリュネのところに行った。


「慣れない場所で、わたしたちと離されて緊張してたんだよ」

ピエッチェにレモン水を二本渡してクルテが言った。マデルはラクティメシッスに一本渡しただけだ。栓を開けろと言うことだなとピエッチェが苦笑する。


「リュネ、寂しかったんですねぇ」

バケツに革袋の水を注ぎながらカッチーが声を張り上げる。

「飼葉は要らないみたいですね。朝、しっかり食べさせたからだと思います」

バケツに顔を突っ込んで水を飲むリュネの横で、カッチーが飼葉を片付け始めた。


「この森って、どんな魔物がいるの?」

マデルがレモン水を飲みながら訊いた。


「えぇ、気になりますね。小物ばかりじゃないでしょう?」

ラクティメシッスもピエッチェを見る。そこへ自分の分のレモン水を持って、カッチーも来た。

「魔物が出るんですか?」

緊張した面持ちでピエッチェを見る。


「山犬やクマが通常よりもでかくなったような? 俺が実際遭遇したわけじゃないからな、はっきりとは言えない」

「ザジリレンでは魔物の呼び方って定めてないんですか?」

「いや、ローシェッタとほぼ同じだと思うよ。ただ、森に潜む魔物は得体が知れないものや普通の生き物が突然変異したものとかも居るだろ。そしてザジリレンは変異種が多い。だから、名称が定められていないものも多い」


 栓を抜いたレモン水をピエッチェから、嬉しそうにクルテが受け取る。近寄る気配に気を取られて、なかなか栓を抜けずにいたピエッチェだ。ラクティメシッスもマデルも、その気配に気づいた様子がない――きっと森の女神だ。


「面倒臭いわね」

マデルがボソッと言ったのは、魔物の呼び方のことだ。

「そのたんびに、細ごま報告しなくちゃならないのね――魔物の討伐って、どこがどうしてるの?」


「民間からの報告で管轄の警備隊が動くって感じだね。ザジリレンは魔法が使える人材が限られてるから、なかなか来れない時もあるらしい」

「魔法使いの養成が課題になっている?」

ラクティメシッスが飲み終わったレモン水の瓶を弄びながらピエッチェを見る。


「まぁ、それは随分前からの懸案だけど、養成しようにも指導できる人材がいないんだ」

「ローシェッタから派遣しましょうか?」

「えっ?」

「以前、父が『ザジリレンは魔力持ちを巧く育てられてない』って言ってました。ピエッチェ、あなたのことも言ってましたよ」


「俺のこと?」

「えぇ。第一王子が誕生したら顔を見に行くって、ローシェッタ・ザジリレン両王家に取り決めがあることはご存知でしょう?」

「顔を見に行くってんじゃなくって、(いわ)いに行くだろう? 名代は立てず王自ら、できれば王妃を伴って」

「わたしの時もあなたの父上が来たわけですが、わたしもあなたも、その時のことなんか覚えているはずありませんけどね」


「で、ローシェッタ王は俺のことをなんと?」

「あなたの戴冠式であなたを見て、えっと……あの小さな男の子が随分立派に成長したって感慨深げに言ってました。生まれた時は小さかったそうですね」

「あぁ……そのせいもあって子どもの頃は身体が弱くってね。体力をつけるためって随分と鍛えられた。お陰で今じゃ丈夫だ」


「一目見て、鍛えてあるのは判ります」

「ピエッチェさんの筋肉量は相当なものですよ」

横からニコニコとカッチーが口を挟んだ。ラクティメシッスがニッコリする。

「はい、服の上からでも想像がつきます」


「俺もピエッチェさんみたいになりたくて、毎日、腹筋や腕立て伏せをして鍛えてるんです」

「それじゃあ、わたしくらいならすぐに追い越してしまいそうですね」

「はい! 頑張りまっす!」

屈託のないカッチーの笑顔に、ラクティメシッスの笑いは少しばかり苦い。カッチー、追い越してしまいそうだってのは社交辞令だぞ。ラスティンはそんなに(やわ)な身体じゃない……はずだ。


 が、それよりも、

「で、ローシェッタ王は俺のことをなんて言ったんだ? 身体のことだけじゃないんだろう?」

ラクティメシッスが口籠った理由が気になる。


 元は魔力を育てる話だ。赤ん坊の時のことを口にしたのは体格のこと言いたかったからじゃない。もしもそうなら、『戴冠式の時に、あの小さかった赤ん坊が立派になった』と感じたこと最初に話し、誕生祝にも行っているんだよと話は流れていくだろう。まぁ、なぜ言い淀んだか、だいたい想像が付く。


 参ったなぁとラクティメシッスが、今度は明らかに苦笑いする。

「父がね、生まれたてのあなたからは相当な魔力量を感じたって。それが戴冠式でのあなたは凡人程度の魔力量しかなかった……ちゃんとした教育を受けさせていれば、相当な魔法使いになれたのにって残念がってたんです」

やっぱりそこか。俺には大して魔力がないとは言いずらかったってことだな。


「王子でさえそうなのだから、ザジリレンでは大半の人がせっかく持って生まれた魔力を開花させずに終わらせてしまうことが多いんじゃないか……ピエッチェ、ローシェッタはザジリレンに協力することを(いと)いません。勝手に押し掛けるわけにはいかないので、要請していただければ喜んで指導教官を派遣しますよ」

さて、なんと言って断るか? いくら友好関係にあっても、他国の魔法使いを不用心に王宮には入れられない。下手なことをしたら、特殊魔法が使えることがバレてしまう。


「ありがたい話だな」

じっくりとラクティメシッスを見てピエッチェが答えた。すぐにラクティメシッスが小さく溜息を吐いた。

「その顔は、どう断るかを考えている顔ですね」

苦笑するのはピエッチェの番だ。


「うん、断ろうと思ってる。ザジリレンにはローシェッタに渡せる見返りがない」

「指導者を派遣する見返り? そんなもの要りませんよ」

「いいや、だめだ。それでは恩を受けることになる――ザジリレンとローシェッタは対等、それが崩れる原因になる」


 今度はラクティメシッスがじっとピエッチェの顔を見た。そして何か言おうとするが、ピエッチェが先に口を開き言わせなかった。

「判ってる。何があってもローシェッタがザジリレンと対立することはない、そう言いたいんだろう? 兄弟国の絆は永遠だって。でもさ、それはそっちが大国だから言えることだ」


「確かに国の規模としてはローシェッタが上でしょう。しかしザジリレン建国より(こん)(にち)まで、ローシェッタはザジリレンを下に見たことはありません」

「ローシェッタはそうかもしれない。だけど諸外国は? ザジリレンは今でさえ、ローシェッタの属国と思っている国も多いのは知っているよな?」

「それは、事情を知らない他国の話」


「互いの国以外と交流しないのなら、そんな考えでもいいかもしれない。だが現実はそうではない」

「もし、他国が干渉するようなことがあるなら――えっ? あっ!!!」

ラクティメシッスが自分が言わんとしていたことの意味に気付いて絶句する。ピエッチェが冷ややかに、しかし穏やかに訊いた。


「もし他国が干渉してきたら? その時はどうする?」

「いや、その……」

「言えないのか?」

クッとラクティメシッスが悔しげにピエッチェを見た。そしてピエッチェが表情から冷ややかさを消した。

「対等と言いつつ、今でも決して対等たりえないと気づいたようだな」


 諸国がローシェッタに攻め込むには地理的な問題で、先にザジリレンを片付けなくてはならない。


 例外がないわけでもない。ローシェッタの南に位置するミラカプヤグ国だ。だがこちらは矮小国、ローシェッタに攻め込めば(ひと)ひねりされるのがオチだ。昔はローシェッタも併合を考えないでもなかったが、恭順を示すミラカプヤグを南の備えと見ることとして今に至っている。


 ザジリレンと同じような立場なわけだがザジリレンと大きく違うのは、ローシェッタ王家とミラカプヤグ王家の間に婚姻関係が一切ないことだ。ミラカプヤグ側からは何度か打診もあったが、ローシェッタが受け入れたことは一度もない。婚姻してもローシェッタにはなんの旨味もないからだ。そんなことをしなくても従えさせられる。そう考え、事実それを可能とするだけの力がローシェッタにはある。そして、いざとなれば赤の他人ならば切り捨てるのも()やすい。


 それと比べてザジリレン王家とはもともと兄弟、頼もしい家族だ。さらに何度も互いに王女を嫁入りさせている。絆が強まることはあっても、弱まることはない。そしてそれは諸国の知るところだ。


 ザジリレンが他国から侵攻されるようなことがあれば、必ずローシェッタが出てくる。だから諸国はザジリレンには手を出せない。ザジリレンを侵攻しないことには、ローシェッタを脅かすのも無理だ。ザジリレンはローシェッタに守られ、ローシェッタもザジリレンに守られている。だが皮肉にも、それこそが二国間に〝微妙な〟上下関係を生じさせた。


 ラクティメシッスは『他国が干渉するようなことがあったらローシェッタが黙らせる』と言おうとしていた。裏を返せば、ローシェッタが見限ればザジリレンは立ち行かなくなる事実を内包している。


 もちろんラクティメシッスに、ローシェッタ王家にそんなつもりはないだろう。ザジリレン国があるからこそ、自分たちの安全が保たれていると感謝していても奇怪(おか)しくない。だから当たり前のように『対等』と口にする。


 ピエッチェだってそんなローシェッタの立場は理解している。けれど? 辛うじて対等でいられるだけだと考えている。ここに()()が一つでも増えれば、その均衡は崩れると告げたのだ。

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