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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
16章 継承される流れ

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「わたしもピエッチェみたいな(ある)と巡り合いたいな」

ラクティメシッスが真面目な顔で言えば

「なに言ってるのよ」

マデルが呆れる。

「ラスティンに(ある)は必要ないでしょうが」


「あっと……そうでした」

ラクティメシッスは笑って誤魔化したが、本来言いたかったのは『あんな(ある)()()()()』だったんじゃないだろうか? もちろんピエッチェが、そう感じたのを口に出すことはない。カッチーが起きてくる前にラクティメシッスと話した内容を思い出していた。当たらずとも遠からずと言ったところか?


 配膳が終わる寸前にダイニングに来たクルテは、椅子に座っているもののボーっとしている。座るときに『起こしてくれなかった』とポツンと言ったきり、何も言わない。例によって皿の中身をじっと見つめていた。きっと、カッチーはドキドキしている。自分が立てた献立、自分が決めた食材、調理も殆ど自分でした。クルテはなんと言うだろう?


 暫くするとクルテがピエッチェを見上げた。

「マデルのハンバーグじゃない。これはカッチー。肉が粗挽き、マデルのはもっと細かくてふわっとしてる。でも、これはこれで重厚な肉感で甲乙つけがたい。ポテトをマッシュしたのはラクティメシッス。徹底して潰してある。まるでクリームみたい。ピエッチェだとここまで(しつ)くできない。反面、ニンジンはところどころ皮が残ってる。このいい加減さはピエッチェ」


 (しつ)いって言われたラクティメシッスがムッとしている。それにしても、なんだって? 俺のことはいい加減だって? 反論できないのが悔しいぞ。マデルとカッチーはキョトンとクルテを見ている。笑うのを忘れているらしい。


「レタスの千切り、トマトとキュウリを切ったのはカッチー、大きさが揃ってる。ほうれん草のソテーもカッチーが作った。きっと味は均一なはず……美味しそうに仕上がっているのはカッチーが上手に助手の二人を使ったから。そしてきっととっても美味しい。だけど食べてからじゃなきゃ断言できない」


 クルテの指摘は当たっている。今日は食材の観察じゃなく、誰が調理したかの観察? これって……成長したってことか?


 ピエッチェから視線を外したクルテ、

「食べていい?」

カッチーに訊いた。

「はい、もちろんです! えっと……お替りは要りませんよね?」


 クルテがナイフとフォークに手を伸ばし、

「クリンナーテンが居ない。その分はカッチーが食べるといい。マデルはもちろんのこと、ピエッチェもラスティンも文句言わない」

ハンバーグを切り分けた。切り口からジュワッと肉汁があふれ出し、クルテがニマッと笑んだ。


 クルテが一口一口じっくり味わって食べるのを眺めてラクティメシッスが言った。

「お嬢さんの観察眼は大したものですね」

味わうことに集中しているクルテは完全無視だ。取り繕うように答えたのはマデル、

「今さらよ、ラスティン。ただ、今日は食材じゃなくって料理したのは誰か、だったけどね」

そろそろ食べ終わりそうだ。


「えぇ、ハンバーグを見て『これはなんの肉?』って言われるんじゃないか冷や冷やしてました」

カッチーは、自分の分はとっくに終わらせて、余っていたクリンナーテンの皿に取り掛かっている。

「それはないわよ、カッチー。初めて食べたわけじゃないもの」

最後の一切れを口に入れてマデルが笑う。


「ん? そう言われてみると、お嬢さんは『これは何?』ってよく聞いてますよね」

ラクティメシッスも食べ終わり、お茶のカップを覗き込む。先に食べ終わっていたピエッチェがポットを手にしたのを見て、注ぎやすい場所にカップを移動させた。


「しかし……いつも思うんだが、やっぱり黙らせたほうがいいかな?」

クルテの顔色を窺いながら、ピエッチェが半ば溜息を吐く。

「ごたごた言ってないでさっさと食え、って? ピエッチェ、そんなこと、クルテに言えるの?」

コロコロ笑うマデル、ラクティメシッスは満たされたカップを引き寄せてニヤニヤしている。カッチーが

「無理でしょうね」

と笑った。

「ピエッチェさん、クルテさんが何を言い出すか、ちょっと期待してますよね?」

見透かされてた……


「でも、いつかトラブルにならないか、心配ではありますよね」

ピエッチェの気持ちを代弁したのはラクティメシッスだ。

「こんな具合に身内だけなら面白いで済まされるけど、(おおやけ)の場でとなると、ね?」


「そっかぁ、王妃さまってなると考えちゃいますよね」

カッチーの発言に、ラクティメシッスがピエッチェの反応を待つ。ピエッチェは、顔色を変えることもなくお茶を飲んでいるだけだ。


「大丈夫よ、カッチー。クルテって、ちゃんと()行きの顔もできるから」

「そうなんですか?」

クルテを庇うマデル、ラクティメシッスが意外そうな顔をする。

「だって、たまぁにお行儀が悪いけど、テーブルマナーは申し分ない。ダンスも上手だし相手によって言葉遣いも変えられる。親御さんは貴族だって言ってたけど、貴族の(たしな)みを教えて貰ってたんじゃないかな」


「親御さんってお嬢さんの?」

「そうよ、他に誰が居るの?」

そうだった……盗賊が屋敷を襲い家人は虐殺されたって話を、クルテはマデルに信じさせていたんだった。


「だけどクルテさんって強いですよね。強いっていうか逞しい?」

これはカッチー、マデルと同じ話を信じている。

「俺だったら、そのまま落ち込んで立ち直れなかったかもしれません。助けてくれた騎士隊長の屋敷にずっと世話になっていたかも」


 ここでラクティメシッスがチラリとピエッチェを見た。きっと彼はクルテの話の穴に気が付いた。騎士隊長? それはどこの誰だ? ラクティメシッスがそう追及してきたら、クルテ、どう答える? ラクティメシッスはきっと、騎士と言う騎士を掌握している……


 ピエッチェの危機感は杞憂だったのか、ラクティメシッスが訊いてくることはなかった。ふぅん、と鼻を鳴らしただけだ。しかも話を変えた。


「そう言えばカッチー、手袋のサイズはぴったりだったって言ってましたね」

「あ、はい! 使う日を楽しみにしています」

「剣術用の保護手袋とどっちがいいか迷ったんだけど……乗馬用で良かったのでしょうか?」

「もちろんです。もう、俺、十七の誕生日は一生忘れられないと思います」

目をキラキラさせて答えるカッチーに微笑んでから、ラクティメシッスがピエッチェに言った。


「カッチーに、ローシェッタ流の剣術を教えてもいいでしょうか?」

うん? とピエッチェがラクティメシッスを見る。


「ピエッチェが教えているのはザジリレン流でしょう? 基礎は終わったとマデルから聞きました――ローシェッタ流も知っておいたほうがいいかもしれないな、と思って」

「いや、しかし……」

そんな時間が取れるのか、ラスティン?


「場合によってはローシェッタの者と遣り合うことになるかもしれません。毎日少しずつ教えて行ければ、少しはいいんじゃないかと思うんですが?」

「ローシェッタと遣り合うって?」

「チュジャバリテがどんな計画を立てているか判らないし、ピエッチェがその計画に乗るかも未確定、だけどいずれはザジリレン王宮に行くことになります。そこで対決するのはザジリレンの人物とは限らないと思っています」


 ローシェッタの誰かが身分を隠しザジリレン王宮に入り込んでいると考えての配慮か。それが一人とは限らない。ソイツらと戦闘になったら、確かにローシェッタ流も知っていたほうがカッチーにはいいかもしれない。だが、それを義務と、ラクティメシッスに感じて貰っては困る。


「そうしたいなら止めないよ。だけど、時間を見つけては俺がザジリレン流を仕込んでる。隙間時間なんて見つかるかな?」

「まぁ、見つかったらその時に……だから時刻も何日おきかとかも決めずに、いいですね、カッチー」

「えっ!? いえ、俺なんかに――」


「こらっ! 〝なんか〟なんて言わない!」

すかさず(たしな)めるマデルに、カッチーが一瞬言葉を失うが、立ち上がり

「とっても嬉しいです。精一杯精進します」

ラクティメシッスに頭を下げた。


 すると、

「わたしが弓を教える時間が全くない」

ちょうど食べ終わったクルテがポツンと言った。ずいぶん早く食べ終わった。そしてムッとしている。

「カッチーを見つけたのはわたしなのに、ピエッチェに盗られた」

あぁ、確かに、カッチーを連れて行くって言い出したのはおまえだったが……


「でもいいや。お茶」

「あぁ、はいはい」

ピエッチェが慌ててポットに手を伸ばした――


 食事が終わった後も、クルテは居間のソファーでボーっとしていた。まだ本調子じゃないのかもしれない。ふと思いついて寝室に戻り花籠を見ると、花は枯れる寸前だった。片付けはクルテを除いた四人、マデルが元気よく指揮をとって進めた。


「クリンナーテンは二日酔いでダウンなのに、あなたは随分元気ですね」

ラクティメシッスが半ば呆れる。マデルがダウンしたらラスティンも一緒にダウンしそうだよな。そんな言葉を飲み込んで、ニヤッとしたピエッチェだ。


 クリンナーテンが起きてきたのは昼少し前、咽喉が渇いたと言ってぐったりしてる。

「レモン水、持ってこようか?」

立ち上がるマデル、するとクルテが

「果物食べたい。パイナップルがいい」

マデルに()る。マデルはニッコリして、

「そう言えば、朝食の時、果物がなかったわね」

と言えば、本を読んでいたカッチーがハッとして『すみません』と小声で言った。


「気にしなくっていいんですよ」

ラクティメシッスが小さくなったカッチーに微笑みかける。

「食事の時は何も言わなかったんだから。お嬢さんなら、欲しけりゃはっきり言いますよ」

そうだな、果物がないってクルテなら言うはずだ。


 マデルがレモン水と、パイナップルを切り分けて戻ってくる。クルテがなん切あるか数えるのを見て

「みんな同じにしたよ」

とマデルが笑えば、

「そっか……それじゃあ、わたしの皿から二切、クリンナーテンにあげて」

とクルテがマデルを見た。


「え? いいの?」

クリンナーテン以外が驚いてクルテを見る。

「うん、いいの。バナナの時もクリンナーテンには少し多くしてあげて。食べたことがないって言ってたから」

なるほどね、そう言うことか。


「クルテさん。パイナップルは俺も初めて食べます」

「そっか、じゃあ、カッチーはピエッチェの分を全部あげる」

「なんで全部なんだ?」

抗議したのはピエッチェ、自分は二切あげただけなのに、どうして俺は全部?


「冗談に決まってる――カッチー、なん切欲しい?」

「はい、二切でお願いします」

笑いをこらえてカッチーが答えた。ラクティメシッスは隠しもせずに大笑いしている。


 キョトンとするクリンナーテン、マデルがクスクス笑いながらパイナップルを移していった――


 そして……昼が過ぎてもチュジャバリテは姿を見せなかった。

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