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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
15章 大地の模様

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 監視の男たちの手前、カッチーはジジョネテスキと厨房を出て玄関から屋敷を出るしかない。ジジョネテスキとの話を終えたピエッチェとクルテは、ラクティメシッスとともに裏口から屋敷を出ることにした。


 すでにドーナツは揚げ終わっていた。

「カッチー、ちゃんとドーナツ、貰ってくるかな?」

クルテ、おまえの心配はそこか?


 裏口から庭へと回り、結界に守られたリュネのもとへと急ぐ。すぐにリュネが飛翔する。そして何も指示していないがジジョネテスキの屋敷の前に繋がる道に降りた。そこで屋敷の正門から出てくるカッチーを待つ。事前にカッチーには指示しておいた場所だ。チュジャバリテの店に行く途中にあたる。


 やがてカッチーが姿を見せた。周囲を気にしている。だが、ここまでくればジジョネテスキの屋敷からは見えないし、クルテが『見張ってるヤツはいない。カッチーを()てる気配もない』と保証した。キャビンの戸が開きカッチ―が乗り込む。

「はい、クルテさん。お待ちかね。まだホカホカしてますよ」

渡された紙袋にクルテがニンマリする。そしてリュネが動き出した――


「当分ジジョネテスキは今の生活を続けるってことですね?」

ラクティメシッスが苦笑する。

「クリンナーテンが黙っていなさそうですよ?」


「んー、どうかな? クリンナーテンはもともと(おと)しい。その上グッと年上の夫君に口答えしたことがない。もっと自己主張しなきゃダメだって(カテ)()()()(の姉)が言ってた」

「ジジョネテスキとは幾つ違うんですか?」

「確か十歳違い」

「マデルと気が合うようだから、クリンナーテンも気が強いのかと思ってました」


 クルテが

「マデルは誰とでも仲良くなる」

袋の中を睨みつけつつ言った。

「クリンナーテンもそれは同じ。だから気が合う」


「クルテ、見張ってなくたって、誰も盗りはしないし、()くなりもしないぞ」

呆れるピエッチェ、ラクティメシッスが何かを感じて

「ちょっと失礼」

と言ったかと思うと姿が見えなくなった。


 ボーっとクルテが言う。

「結界内に結界張った――魔力、宿まで持つのかな?」


「持たなきゃそんなことしないだろ?」

ピエッチェは笑うがクルテは真剣だ。


「魔法使いの通信手段も使ってる。きっと緊急連絡で後回しにできなかった。そんな時、自分の魔力があとどれくらいかなんて考えないと思う」

いつかラクティメシッスが言っていた二枚貝を使った通信だろうとピエッチェが思う。しかし、緊急連絡? ローシェッタで何かあったのか?


 ラクティメシッスはすぐに姿を現したが蒼褪めている。それでも、

「お嬢さんは本当に油断なりませんね。なんでもお見通しだ」

笑顔を浮かべている。が、すぐに顔を引き締めた。


「できるだけ早くローシェッタに戻らなくてはならなくなりました」

「何があった?」

「ん……」

言うか迷っているのだろう、ラクティメシッスが口籠る。察したピエッチェが

「いや、無理に明かす必要はない。どれほど急ぐ? このままララティスチャングに向かうか?」

と気遣った。


「いえ、それは無理です。わたしもリュネも魔力が持たない」

ピエッチェの申し出に、ラクティメシッスの表情が明るくなり楽しそうに笑った。

「まったく……あなたはいつでも()のままですね」


()のまま?」

「最初はね、何を考えているのかよく判らないって感じてました。でもだんだん、この人は不用心に心を見せない代わり、きちんと吟味した言葉を話すのだと気が付きました」


「なんだか、過大評価されてる気がする……それに、隠し事もすれば嘘も吐く。ラスティンのことだって騙してるかもしれないぞ?」

「いいえ、理由もなく隠したり、嘘を言える人ではありません。王の誇りがそれをあなたにさせない」


 王の誇り……王としてよりも人としての誇りなのではないか? 誰かに知られて恥じるようなことはするな。それは父の訓えであり、(カテ)(ルク)()(スト)が残した言葉だ。


 ラクティメシッスが戸惑うピエッチェを見詰めて言った。

「明日、チュジャバリテに会いに行くのでしょう? それに同行した後、わたしはローシェッタに帰ります。マデルは……彼女の意思に任せましょう。もし、ザジリレンに残ると言った時はピエッチェ、頼みますよ」


「いや、それはもちろんだが……急ぐのなら、リュネを貸そうか?」

「ありがたいお話ですが、それではあなたが困ることになる」

「なんとかするよ。移動が少し遅くなるだけだし、今さらジタバタしたって大勢に影響はない」

「いや、うーーん……まぁ、チュジャバリテの話を聞いてから決めましょう」


 ラクティメシッスが溜息交じりに苦笑した。

「理由も言わないわたしに大切な仲間を貸してくれると言う……ピエッチェ、あなたには感服しました」


「何を言い出す? 困っている時はお互い様だし、知らない相手じゃない。できることをするのは当たり前だ」

「そうは言ってもなかなかできないものですよ。まずは自分の都合を考える、人間なんてそんなものです」

「そんなヤツもいるだろうけど、ソイツはソイツ、俺は俺だ――でも、クルテも似たようなことを言ったことがあるな」

「お嬢さんが?」

ラクティメシッスがクルテを見る。クルテは相変わらず紙袋の中をジッと睨みつけていた。


「誰もがみんな俺みたいには考えない。良くされたことも忘れて、こちらが困っていても知らんふり、悪くすれば簡単に裏切る。それが悔しいって言ってた」

「それでなんて答えたんですか?」

「うん? そんなヤツもいるだろうねって答えたよ。それに相手から、できないことをして貰おうとも思っちゃいないって言ったんだったけかなぁ?」

「できないこと?」


「そうさ、知らんふりをするのも裏切るのも、ソイツにはソイツの事情があってのことだろうからさ。俺はたまたま相手にとってプラスになることができる状況にあったからそうしたってだけだよな。できないことは俺だってしない」

「……それでお嬢さんは納得したんですか?」

「納得って? アイツは俺にそうするなって言ったわけじゃない。そのままでいろっていつも言われるぞ」

「いや、そうじゃなくって……」

じゃあ、なんだろう?


「たとえあなたが相手を許しても、お嬢さんは容赦しないんじゃないのかなと思ったんです」

「許す? うーーん、許すとか許さないとかっていうんじゃないんだけどなぁ。でもまぁ、クルテが俺の意に反することをするとは思えない」

「あなたには制裁する気がない?」


 ピエッチェがラクティメシッスに微笑む。

「今回の件を言っているのなら制裁はするさ。でもそれは俺個人の感情や都合じゃない。あくまで国の法に(のっと)ったもの、王宮で審議してのものになる――ラスティンはそれでは不満かな?」


「それで怒りが収まるのですか? あなたの気は済むのですか?」

「どうだろうね? 収まるのか収まらないのか、そんなのはその場にならなきゃ判らない。だけどもし怒りに任せて個人的な制裁なんかしたら、それは自分自身を穢すことになる。違うかな?」


 ラクティメシッスがマジマジとピエッチェを見る。それから目を伏せ、笑った。


()しなことを言ったかな?」

首を傾げるピエッチェ、

「いいえ、自分が可笑しかったんですよ」

ラクティメシッスが顔をあげる。


「今、あなたと話しながらわたしがどう感じていたか判りますか?」

ラクティメシッスの真剣さにピエッチェがたじろぐ。

「不思議なんですよ――綺麗ごとばかり言うヤツだと思いながら、どこかでホッとしていました。この人らしい返答だと思ったんです」


 綺麗ごとか……確かにそうかもしれない。冷静だから言えた答えだ。激情に駆られていたら同じことが言えるのか? そんな自信はない。でも激情って? 怒りも悲しみも感じたことがある。だけどそんな感情はいつまでも残ってはいない。思ったことをすぐに口にするな、その訓えの正しさを感じずにはいられない。移ろって行くものを、即座に判断してしまうのは危険だ。


 黙り込んでしまったピエッチェに、ラクティメシッスも何も言わなくなった。するとクルテが紙袋を覗き込んだまま言った。

「黙ってないで、言いたいことは言えばいいんじゃない? 言いたくないことは言わなくてもいいし――カッチー、遠慮しなくっていいんだよ」

なんだ、カッチーに言ったのか。なのに口を開いたのはラクティメシッスだった。

「お嬢さんはわたしの第二の目的に気が付いている……んでしょう?」


「なに、それ?」

クルテがクスリと笑う。

「第一の目的も判らないのに、第二の目的なんてさっぱりだよ?」

キョトンとラクティメシッスがクルテを見る。


「第一の目的は、ローシェッタ王家とザジリレン王家を狙ってる人物のあぶり出しだって話をしましたよ。忘れちゃったんですか?」

「そうだったっけ?」

やっとクルテが袋の中身から目を離し、ラクティメシッスを見てからピエッチェを見上げる。


「そうだったの?――てっきりマデルのオマケでついてきたのかと思ってた」

吹き出したカッチー、ラクティメシッスがムッとクルテを睨みつける。

「オマケ? わたしが? 心外だなぁ」


「そっか、オマケじゃないのは判った――で、目的って何だったの?」

再び袋の中を見てクルテがニヤリとする。ラクティメシッスが『しまった』と言いたそうな顔になった。そしておずおずとピエッチェを見た。


「気を悪くしないでくださいよ。あなたが王の(うつわ)かどうか観察するよう、父に言われてきたんです。ザジリレン国は、果たしてローシェッタの同盟国に(ふさ)しい王を戴いているか見極めてこいってね」


 そうか、それでやたらと俺に判断させようとしていたのか――ピエッチェもラクティメシッスを見た。

「それじゃあ俺は失格だったかな? 俺は機転が利かないし、判断も遅い。他人の思いを汲み取るのも苦手だ。ラスティのような人望もない」


「随分と自己評価が低いんですね。ちょっとマイナスしようかな……あー、でも、自分を過信するよりマシですね」

ラクティメシッスが目を細めてピエッチェを見る。

「ご自身が言うのだから、あなたはそんな人なのでしょう。だけどね、もしもそうだとしても一番大切なのは信用できるかできないかだとわたしは思っています」


 隠し事も嘘もあるとさっき言ったのに? 騙しているわけじゃないのに、騙している気分になる。なんだか今日はヘンな日だ。さっきから同じことを繰り返しているんじゃないのか?


「あなたの誠実さはイヤと言うほど見てきました。わたしだって自分を不誠実だなんて思っていないけど、あなたの前では自分が不誠実に思えてしまう」

ラクティメシッスが居住まいを正して言った。

「カテロヘブ王、あなたがザジリレン国王で良かったと心から思っています」


 ラクティメシッスになんと答えればいい? 相手は大国の王太子だ――

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