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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
15章 大地の模様

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 クリンナーテンが呆気に取られてピエッチェを見る。

「封じる? ケッポテラスを? えっ?」

舌打ちしたそうな顔のピエッチェがクリンナーテンから目を逸らす。

「ジジョネテスキを屋敷に軟禁したのはケッポテラスらしいんだよ」


「ケッポテラスはあの人の副官よ? あの人が信用していろいろ任せるって言った人よ?」

「詳しいことは判らない。だけどはっきり『ケッポテラスに裏切られた』って書かれてた。アイツが王都との連絡役になっている。だからまずケッポテラスを抑えろってね」

倒れそうなクリンナーテンにマデルが寄り添う。


 声を低くしたラクティメシッスが訊いた。

「無策で会いに行けばケッポテラスに知られ、王都に居る首謀者にも知られるってことですね?」

「そういうことだと思う」

「だけどピエッチェ、行動を起こす前にできればジジョネテスキに会ってじっくり話を聞きたくはありませんか?」

「あぁ、悩ましいところだ」

クリンナーテンを眺めながらピエッチェが答えた。


「ジジョネテスキにしては歯切れの悪い言いかただった。アイツなら『ケッポテラスは敵だ』って書きそうなのに、そうは書いてない。だけど『裏切った』と、はっきり書かれている」

「つまり?」

「裏切り行為は強制されてなんじゃないか? ジジョネテスキはそう考えているのかもしれない。でも確証はない、そんなところじゃないかな」


 ふぅんとラクティメシッスが鼻を鳴らす。

「ケッポテラスも人質を取られている?」

「しかし、その確証はない――さて、ケッポテラスとジジョネテスキ、どっちを先にする?」

「それを決めるのはピエッチェ、あなたです」


 クリンナーテンはマデルに支えられ、カッチーがくれたお茶を飲んでいる。少しは落ち着いたようだ。それを眺めていたピエッチェがラクティメシッスに向き直った。

「今夜、行くか?」

ラクティメシッスがニヤリとする。

「強行軍ですね。すぐに出発しますか?」


「いや、夕食を摂ってからだ――宿は引き払わない。マデルとクリンナーテンは部屋で待機。残りのメンバーで行く」

「なるほど。こっそり宿を出て、ケンブルに向かうのですね?」

「リュネを使えばケンブルはすぐそこだ」

「お(んま)さん、大活躍ですね」

「ラスティンにも活躍して貰うよ」

魔法で馬車ごと見えなくしろということだ。お任せください、とラクティメシッスが微笑んだ。


 やがて夜が深まって……宿を出たのはマデルとクリンナーテンだ。夕食を運んで来た給仕係に教えて貰った、女だけでも安心して利用できる居酒屋に行く予定だ。受付に居た従業員は二人、一人はその給仕係だった。


(うち)の馬、(おと)しくしてるかな?」

マデルが玄関扉を開けて言った。するとクリンナーテンが、

「旦那さまより馬のほうが心配?」

と笑う。

「だったら(うまや)に寄って、様子を見てから行きましょうか?」

居酒屋に行く前に厩に立ち寄るらしい。受付係が『行ってらっしゃいませ』とにこやかに見送ってくれた。


 二人が宿を出てすぐ、居酒屋を教えてくれた受付係が舌打ちをした。

「あれ、扉を閉めずに行っちゃったよ」

ゆっくりとカウンターから出る。開けっ放しの玄関扉を閉めるためだ。もう一人が

「貴族の奥方はいいねぇ……旅先で亭主を放り出して女二人で酒盛りとは」

呆れ顔で言えば、

「そんな楽しみがなきゃ、亭主と一緒になんか旅行に行かないって言ってたよ」

玄関扉を閉めながら笑った。


 二人が厩に着くとリュネがブヒヒと鼻を鳴らした。

「笑われたのかしら?」

マデルが苦笑する。と、

「マデルを笑ったんじゃないと思う」

クルテの声がした。


「よかった、ちゃんとついて来てたのね」

クリンナーテンがホッとする。

「見えないから居るのかどうだか判らなくって……不安だったわ」


「見えていたら、見てしまうでしょう?」

今度はラクティメシッスの声が聞こえた。

「不自然なところを見ていると不審に思われてしまいますよ」

結界を張り、音と姿を消したままマデルとクリンナーテンの近くを移動してきた。他に誰もいないのを確認して、どうやら音の遮蔽は解除したようだ。


 キャビンの貨物台からタラップが動き出す。ラクティメシッスの魔法か、それともカッチーが運んだのか?


「二人が厩を出てからお(んま)さんとキャビンを消そうと思います。判っているとは思いますが、厩の扉は全開にしておいてくださいよ」

判ってるわよ、マデルが不満げに答え、クリンナーテンが

「そっちからはわたしたちが見えてるんでしょ? お互いは見えてるの?」

と疑問を口にする。

「見えなきゃいろいろやりずらいですから」

ラクティメシッスが苦笑した。


 心配そうな声はカッチーだ。

「宿の従業員、厩に来たりしませんよね?」

答えたのはピエッチェ、

「その時はその時だ」

これには愉快そうにラクティメシッスが笑い、

「笑ってないで行くよ」

ちょっと不機嫌そうなクルテの声がした。


 ()ごり()しそうにマデルとクリンナーテンが厩から出ていく。打ち合わせ通り、出入口は全開だ。キャビンのドアが開き

「行きますか」

ラクティメシッスの声、少ししてタラップが浮かんで消えて、キャビンもリュネも見えなくなった。


 キャビンにはピエッチェとクルテ、そしてラクティメシッスとカッチー、ゆっくり歩きだしたリュネに牽かれて進んでいく。もちろん四人にはキャビンの中も、窓からの景色も見えている。リュネの(ひづめ)の音や車輪が小石を弾く音、そんな音も聞こえている。けれど、結界内部が見えるのも聞こえるのも四人にだけだ。やがてキャビンがすっかり厩から出てしまうと、ふわっと浮き上がる感触がした。


「ちゃんとケンブルに着くんでしょうか?」

窓の外を見ながらラクティメシッスが呟くと、

「西に向かって最初の街ってリュネに言った」

クルテが言った。


「お嬢さんはお(んま)さんと意思疎通ができるんですか?」

「リュネは賢いから、こっちの言葉を理解できる――ワンコやニャンコも飼われてるとそうなるでしょ?」

「あぁ、確かにね――でも西? 方向まで理解してる?」


「リュネなら判りそうだな。何しろ普通じゃない」

苦笑したのはピエッチェだ。

「トロンバの時だって、なんの指示もしてないのにカッチーを無事にワッテンハイゼの警備隊の詰め所に連れて行ったんだ。今度もちゃんと理解してる」


「あぁ、あの時は驚きました……俺、馬に乗るのは初めてだったのに、落ちるどころか振り回されもしなくって」

カッチーがしみじみ言った。

「あとでピエッチェさんに『ほかの馬じゃこうはいかない』って言われたけど、リュネは特別、なにしろ空を飛ぶんですから」


 ラクティメシッスは少し不満そうだった。

「わたしもリュネみたいな馬が欲しいです――くれって言ったって、くれませんよね?」


「おや、王太子ともあろう者がお()りしてる」

クルテがボーっとラクティメシッスを見た。

「リュネはね、リュネの意思でわたしたちと一緒に居る。だからどんなにラスティンが頼んでも無理」


「って、お嬢さん。くれとは言ってません。言ったってくれやしないのは判っているし、わたしの手に負えるとも思っていませんよ」

「あぁ、そうか、冗談?」

「い……いや、冗談とはちょっと違いますが。まったくもう、お嬢さんって面白いけど、やっぱりわたしの手には負えない。マデルとは仲がいいのに、わたしのことは嫌いですよね?」


「わたしがラスティンを好きか嫌いか? どっちでもないよ」

カッチーが吹き出し、ラクティメシッスが頭を抱える。

「それ、嫌いって言われるよりきついんですけど?」


「嫌って欲しかった?」

「そうは言ってません」

「ピエッチェと仲良くしてくれれば、マデルの次の次くらいは好きになるかも」


「ほほう、一番はピエッチェで、マデルは二番目?」

「ピエッチェは別格。マデルとカッチーとリュネが一番目、二番目は内緒」

「別格ね、なるほどね。内緒が誰なのかが気になります」

「気にしたってラスティンには教えないよ」

「はいはい。それにしたってマデルとカッチーはお(んま)さんと並べられちゃうんですね」


「俺はまったく気になりません」

カッチーは笑顔だ。

「むしろリュネと同等なら嬉しいです」

キャビンの外でリュネがブヒヒと鼻を鳴らした。

「リュネも喜んでるみたいですね」

窓の外を見てカッチーが言った――


 リュネが降りたのは大きな屋敷の裏庭だった。高度が下がり始めてから、窓の外をずっと見ていたピエッチェが

「ジジョネテスキの屋敷に降りた……」

と呟いた。


 ラクティメシッスが苦笑する。

「先にジジョネテスキに会えって、リュネが判断したってことですか? ピエッチェはケッポテラスって考えていたんですよね?」


「いや、ケッポテラスの住処は判らない。クリンナーテンも知らなかったよな?」

「ケンブルで訊き込むのかと思ってました」

「こんな夜中に? 怪しまれることこの上ないな」


 スザンネシルからここまで、たいして時間は経っていない。だが何しろ、出てきたのが夜中だ。いくら州都とは言え、出歩いているのは酔客だけだろう。あるいは街の警備に当たる者、またはなんらかの目的を持って誰かを監視する者だ。


「ジジョネテスキから、どこに行けばケッポテラスに会えるか聞き出してからってことですね」

「できればこのままジジョネテスキを連れて行きたいところだけど、まぁ、詳しい話を聞いてからだな」


 キャビンから全員が降りるとタラップが勝手に貨物台に戻って行く。

「さて、どこから入りますか?」

ラクティメシッスの問い掛け、ピエッチェがクルテを見た。


「中に居るのは何人だ?」

「一階に三人、二階に一人――一階の三人はおそらくカードゲームを楽しんでる」

「ってことは二階?」

「二階の南、中央の部屋。階段は西に一本、裏口を入ると厨房、その先がダイニング、三人が居るのはそこ」


 じっとクルテを見ていたラクティメシッスが、

「いや……一階に三人、二階に一人ってのはわたしにも判りますが、カードゲームとか、厨房とかダイニングとか、階段の場所まで判るんですか?」

目をしばしばさせる。


「カードゲームかどうかははっきりしないよ。そんな事よりどうする? 裏口って言うか勝手口? そこからは入れない。入れば三人に見付かる。もう一つドアがあるんだけど、そこは倉庫かな? 階段の下で、屋敷の中には行けなさそう」


「あっ!」

とカッチーが小さく叫んだ。

「それ、中に入れます。階段の下は食糧庫で、俺、そこに野菜を運びました。でも、外から入れるかまでは判りません」

そうだ、カッチーは今日、この屋敷に来て、中にも入ったんだった。


「カッチー、昼間来た時はジジョネテスキだけだったんだよな?」

「えぇ、誰にも会ってませんし、気配も感じませんでした」


 ラクティメシッスが

「監視は夜だけってことですかね?」

ピエッチェを見て言った。

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