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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
15章 大地の模様

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 クリンナーテンはセーレムの州都ケンブルにあるジジョネテスキの屋敷から連れ出られたのだと言った。クルテ以外は食事を終えて、クリンナーテンから詳しい事情を聞いていた。


「夫はケンブルの警備隊に呼ばれて出かけていたの。そしたら、馬が急に暴れて馬車は暴走、キャビンは横転、ジジョネテスキが大怪我したって報せが来てね」

クリンナーテンが溜息を吐く。


「生きた心地がしなかったわよ。なんでこんなに悪いことばかり続くの? 王の行方不明に始まって、次から次に嫌なことばかり」

「その事故は事実ですか?」

訊いたのはラクティメシッスだ。


「判らないのよ。迎えの馬車には男が三人乗っていて、その時点で()しいって思ったんだけど、思った途端に薬を嗅がされて眠らされたの。殺されなかっただけマシね」

クリンナーテンが力なく笑う。

「気が付いたらあの部屋のベッドに眠らされてたわ。乱暴されることもなかった。まぁ、そのあたりは良かった――事故が事実かって訊くのは、まだあの人には会えてないってことよね?」

あの人とはジジョネテスキの事だ。ピエッチェがクリンナーテンに頷く。


「トロンバで『ジジョネテスキを頼れ』って言われてね。それで、ゲリャンガに行った。ジジョネテスキはゲリャンガで隠遁生活を送っているとその人が教えてくれた」

「隠遁生活? レストランを始める計画だったのよ。わたしが誘拐される翌日にはゲリャンガに行くことになってた――わたしが居たのはゲリャンガなのね?」


「その計画って、具体的にはどんな?」

「ゲリャンガに屋敷を買ったって言ってたわ。無駄に広い敷地で、そこにレストランを建てるって。レストランが完成したら引っ越すからって言われてて、わたしは一度も行ったことがないのよ」


「なんでレストラン?」

ピエッチェの質問にクリンナーテンがウフフと笑う。

「ジジョネテスキったらね、料理が好きなの。わたし、あの人の料理の腕に騙されて妻になったようなものだわ」


 あのレストランは本来なら〝本物〟のジジョネテスキの店になるはずだった。クリンナーテンを人質に権利を奪うか、使うことを容認させるかして偽ジジョネテスキが本人を騙り、店を始めた。ゲリャンガの街人は偽ジジョネテスキを本人だと信じている。警備隊はセーレムの統括責任者に逆らうことはない。店を始める、それが本物と偽物が入れ替わる好機になった。


 本物のジジョネテスキは今もケンブルにいる可能性がある。

「次から次に嫌なことばかりって言ったけど、何があったんだ?」

「そうねぇ……」

ピエッチェの質問にクリンナーテンが指を折って数えながら答えた。


「最初は王が行方不明になったこと。あぁ、これはイヤなことじゃないけど、クリオテナが王都に戻ってきたわ。国王代理ってことね――で、キクバーレンが急な高熱で倒れて三日後に亡くなったわ」

キクバーレンは王宮警備隊の隊長だ。


「その次はモンチャレンガ、乗っていた馬が急に暴れ出して落馬したの。命はとりとめたけど身体が動かせなくなったし、話すこともできなくて寝たきりになった。だからジジョネテスキの乗った馬車の馬がって聞いた時には『また?』って思ったわ。モンチャレンガの次はカーカーコーネル、この人は徴税の責任者なのに、徴収した中から私腹を肥やしてたって。で、投獄されているけど……ジジョネテスキが彼はそんなことをする人間ではないって言ってね。色々調べてたみたいだけど、判らないうちに今度は本人よ」

クリンナーテンが溜息を吐く。


「クリオテナへの邪恋だって取り沙汰されて。わたし、クリオテナが王宮に戻ってから、何度も会いに行ってるのよ。カテロヘブのこともあるし、少しでもクリオテナを元気づけてあげたくて。あの人も一緒に行ったことがあって、それがきっかけだって言われたわ。あの人が書いたクリオテナあての手紙を何通もラチャンデルが見付けたって。わたしも見たけど、筆跡は確かに似てた。クリオテナも魔法の形跡はないって言うし、でもね、何かありそうだとも言ってくれたの。だけどネネシリスが激怒してて、クリオテナもなんの処分もしないわけにはいかなかった」


 手紙の偽造も魔物の魔法か? あるいは相当な使い手で、魔法の痕跡を消すのに()けているとかか? あるいは魔物、しかも魔力と知能の高い魔物……


「それでセーレムの統括責任者に左遷されたんですね? 前職は王家の騎士だったのでは?」

ラクティメシッスの質問にピエッチェが答える。

「王家警護隊の隊長だよ。その前は王太子付きだった。俺が即位したんで、この際だから王家警護隊も一新しようってことになった。で、年配者は王宮内の別の役職に異動させて、ジジョネテスキを含め若年層を格上げさせた――もちろんアイツだって、クリオテナのことは以前から知っている。クリンナーテン、二人の仲を取り持ったのはクリオテナだろ?」


「お見通しなのね」

クリンナーテンが少し(はに)んで笑う。

「クリオテナに会いに行ったわたしを見染めたんですって。見抜いたクリオテナが問い詰めたら白状したそうよ」


 ジジョネテスキは武術一辺倒、どうやって口説いたらいいか判らないとクリオテナに言ったそうだ。そんなジジョネテスキから武術以外で得意な事を聞き出したクリオテナは、次の休暇には王宮に来て料理を振舞えと命じた。

「一緒に食事しようって呼ばれて行くと、テーブルには沢山のお料理。この人が作ったのよって紹介されたのがジジョネテスキだったの」


 そんなことが何度かあって、今度はジジョネテスキの屋敷で食事会をすることになった。ジジョネテスキから思いを打ち明けられたのは星が煌めく庭でだった――

「だからね、ジジョネテスキがクリオテナに思いを寄せるなんて有り得ないの。ましてあんな手紙を書けるような人じゃない」


 内容までは判らないが『卑猥な手紙』と聞いている。ピエッチェもジジョネテスキがそんな手紙を書くとは思えない。偽ジジョネテスキは『弟がそんなことをするはずがない』的なことを言ったが、ラチャンデルを信用させようとの意図があったのだと推測できる。


「クリンナーテン、俺はよく知らないんだが、ラチャンデルってどんなヤツだ?」

「よく判らないわ。同じ屋敷に住んでるのに、一緒に食事したことすらないの――わたしのことを嫌ってるのだけはよく判るけど」

「嫌われるって、どうして?」


「わたしの家柄が気に入らないのよ。兄上ならもっと上流貴族の娘を妻にできた。おまえは(ふさ)しくないって。結婚式にも来てくれなかったわ。お義父さまにも訴えたらしいけど『心が通わない相手と一緒になっても幸せになれない』って取り合ってくれなかったって怒ってた」

「それは誰から聞いたんだい?」

「本人……結婚式が終わって屋敷に入ったその日にラチャンデルが言いに来たの。ジジョネテスキがお義父さまのところに行っているのを狙って部屋に来たんだと思う。おまえが産んだ子がモバナコット卿を継ぐのは絶対許さないって、言いたいことだけ言って出て行っちゃった」


「失礼ですが、お子さんは?」

ラクティメシッスが遠慮がちに訊いた。居たとしたら、その子の安否が心配だったのだろう。


「それがね、一・二年は二人の生活を楽しもうって言っててね。で、そろそろ作ろうかって話してたらこんなことになっちゃって、このままじゃ無理よね」

クリンナーテンが恥ずかしそうに答えた。結婚してそろそろ三年か、とピエッチェが思う。


 クリオテナがネネシリスと結婚したのはその少し前だ。あの夫婦は子をどうするか話し合っているのだろうか?


「お(なか)いっぱい」

やっと食べ終わったクルテがピエッチェを見上げた。皿を見ると、数種の料理の盛り合わせだがそれぞれきっちり半分食べてある。クルテにしては上出来だ。


 皿を受け取ったピエッチェ、周囲の視線が痛いが約束だからと食べ始める。するとクルテがニッコリ笑い、

「お(なか)もいっぱいだけど、わたしは子もいっぱいがいい」

さらっと言った。グッと咽喉を詰まらせそうになったピエッチェ、

「おまえ、まさか子が食えるとは思ってないよな?」

ここは冗談で流そうとするが、

「思ってるわけないじゃん。たくさん産みたいってこと――(かあ)さまみたいに子沢山がいい」

クルテは真面目な顔だ。


 あれ? っと首を傾げたのはマデル、

「クルテって兄弟姉妹はいないんじゃ?」

そうだよ、そんな話をマデルとカッチーにしたはずだ。


「母さまって呼んでるだけ」

「あぁ、本当のお母さんじゃないのね」

「うん、わたしを()()()わけじゃない」

絶妙に嘘じゃないのが、却ってピエッチェに冷汗を掻かせる。


 ニヤッとしたのはカッチー、

「ピエッチェさん、頑張りがいがありますね」

なんて言っている。するとクルテが

「でもね、どうやって産むのかが判らない」

またもピエッチェを見上げた。ここでラクティメシッスが堪えきれずにゲラゲラ笑いを始める。


「いや、俺だって産んだことはない」

なに言ってるんだ、俺? マデルとカッチー・クリンナーテンまで笑い始めた。


 クリンナーテンがクルテに訊ねた。

「ねぇクルテ、あなたって(とし)は幾つ?」


「あと三日で十九」

「あら、そうなの? 三日後が誕生日?」

それは初耳だ。だけど、三日後に十五ってのが本当なんだろう?


 マデルまで身を乗り出して

「そうなんだ? 三日後ね、お祝いしよう」

と言う横で、カッチーが、

「俺、その日、十七になります」

遠慮がちに言った。


「クルテさんと同じ誕生日だなんて、なんか嬉しい……な」

カッチーの歯切れが悪いのはピエッチェへの遠慮だろう。


「成人ですね、カッチー。クルテには悪いけど、その日の主役はカッチーですね」

笑顔のラクティメシッス、すると

「あ、違った。わたし、誕生日、来月だった」

ケロッと言うクルテ、さてはカッチーの心を読んで、言い出せずにいるカッチーのために三日後が誕生日だなんて言ったな――カッチーが『そうなんですか? そうですよね、偶然過ぎますよね』と複雑な表情で呟いた。


「自分の誕生日を間違えないでよ」

マデルは笑ったが、ラクティメシッスは穏やかな眼差してクルテを見ていた。きっとピエッチェと同じことを考えたんだろう。


 出産の話はみんな忘れ、これからどうするかに話題は移る。

「ケンブルに行きますかね?」

ラクティメシッスがピエッチェを見る。

「ジジョネテスキは自分の屋敷にいるかもしれない。もしもどこかに監禁されているなら助け出し、クリンナーテンは無事だと伝えたらどうでしょう? 頼もしい戦力になると考えているのでしょう?」


 少し考えてからピエッチェがクリンナーテンに訊いた。

「キュレムベストはどうしている?」


 クリンナーテンの顔が不安に曇った。

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