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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
14章 風の行方

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18

 クルテがピエッチェを見上げる。

「なんで二回?」


「魔物の魔法と人間の魔法、両方で遮蔽が掛けられていた――先に人間のほうを処理したのは失敗だった。魔物の魔法が人間の魔法を一つ隠してた」

「見抜けなかったんだ? どんな魔法?」

「解術されると術者に伝わる魔法。だから急げ」


 慌ててクルテがドアノブに手を伸ばす。開けると中は暗闇、が、ここもすぐに仄かな光に満たされた。階段を照らしたのはクルテだが部屋を照らしたのはピエッチェ、これだけ離れればラクティメシッスにはどちらが魔法を使ったのか判別できないはずだ。


 部屋の中には椅子が一脚、縄で縛られた男が座っている。

「ジジョネテスキ!」

名を呼ばれハッとしたのか、ぐったりしていたジジョネテスキが頭をあげた。意識はあるようだ。急な光と部屋に入ってきた二人に驚いている。


「誰だ? ゴリュンデの仲間か?」

「違う、助けに来た」

ゴリュンデとは誰だろう? 聞いたことのない名だ――ジジョネテスキを椅子に縛り付ける縄を切りながらピエッチェが言った。

「急げ。遮蔽が破られたことは術者に伝わっている……立てるか?」


「わたしを助けに?」

戸惑うジジョネテスキ、

「二階の部屋に女の人がいる。奥さん?」

クルテが尋ねると、

「妻とは別れさせられた。実家にいるはずだ」

早口でまくしたて、戒めを解かれた腕を撫で立ち上がった。だがふらついている。


()ぶっていく、そのほうが早い。あの階段は狭い。肩を貸すのは無理だ」

「わたしを()う? あなたは誰だ? なぜわたしを助ける?」

「話はあとで。今はここから脱出するのが先だ」


 クルテはすでに部屋から出て、階段の上方に注意を向けている。なんとかジジョネテスキを負ぶったピエッチェが部屋から出てくると、階段を上り始めた。と、急にジジョネテスキが軽くなる。女神の森の聖堂で、女神像を運んだ時と同じクルテの魔法だ。


 階段を上りきると

「ジジョネテスキを連れてきた。すぐにリュネに戻るよ!」

ドアを開けるなりクルテが叫ぶ。

「解除通知が使われていた。すぐにここに魔法使いが来る。逃げるぞ!」


 屋敷の表のほうから大勢の足音が聞こえてきたのは、ピエッチェが階段室のドアから出た時だった。

「わたしに任せなさい」

ラクティメシッスの声、いきなり背負っていたジジョネテスキの重さが消えて背中から離れていく。


「えっ? ええっ!?」

驚いたジジョネテスキが奇妙な悲鳴をあげる。けれど構わず魔法は続く。宙に浮かんだままスルスルと通用口へと運ばれて行く。もちろんクルテもマデルもカッチーも、ラクティメシッスとピエッチェも出口へ急ぐ。最後尾はピエッチェ、通用口のドアを閉めるとすぐに奥のドアが開けられる音が聞こえ、階段を降りて行く足音が続いた。階段室のドアを閉めなくてよかった――


 キャビンに乗り込むとすぐにリュネが動いた。浮遊感にジジョネテスキが慌てている。落ち着きなさい、ラクティメシッスが(たし)めた。


「しかし……これは魔法? 何もないところに放り出されたと思ったら、これは馬車の中、ですよね?」

「遮蔽をかけ、外部からは見えなくしてあります。音も洩れません」

「あなたはこの人たちのリーダー? それにしてもなぜわたしを?」


「わたしがリーダーと言うわけではありません。あなたを助けたのは……」

ラクティメシッスがピエッチェをチラリと見る。視線を追ってジジョネテスキがピエッチェを見た。

「では、あなたが? いや、あなたは……あれ?」

ジジョネテスキがマジマジとピエッチェを見る。そのうち顔つきが変わってきた。そしていきなり立ち上がった。


「あっ! いたた……」

「落ち着けって言ってるのに」

ピエッチェが苦笑する。


「キャビンで立ち上がれば天井に頭をぶつけることくらい、言われなくても――」

ピエッチェが言い終わる前にジジョネテスキがピエッチェの胸ぐらを掴むとウイッグをはぎ取った。カッチーとラクティメシッスがジジョネテスキを抑えようと腰を浮かす。が、ピエッチェの目配せに座り直した。


「コイツ! カテロヘブ! おまえ、おまえ、今までいったいどこに……」

ジジョネテスキの叫びは尻すぼみに消えていく。最後はピエッチェに抱き着いて、どうやら泣いているらしい。

「やっぱり友達なんじゃん」

クルテが呟く。


「友達? とんでもない!」

ジジョネテスキがハッとして、慌ててピエッチェから離れ、座席からも降りて床に膝をつく。

「王太子の頃、ずっとお守りしてきた。ただそれだけです」

そう言いながら、最後は手で両目を覆う。涙が止まらないのだろう。


「心配かけたな」

「えぇ、えぇ、どれほど心配したことか――ネネシリスはわけの判らないことを言うし、あれよあれよという間に王宮内の人事が変えられて行く。きっと何かが起きている。調べなくてはと思っていたら罠に掛けられてしまった」

ラチャンデルが掛けた罠か? いや、それはキュレムベストから聞いた話、嘘かもしれない。キュレムベストと名乗っていたあの若い男も本物かどうか怪しい。


「いいから座席に座れ。床に居られたんじゃ邪魔くさい」

「いや、でも……」

「さっきはおまえを負ぶった。今さらだぞ?」

笑うピエッチェに真っ赤になるジジョネテスキ、クルテが

「そこに居られるとね、足がぶつかって嫌なんだよね」

と言うと、さらに顔を赤くしてすごすごと座席に納まった。


 それを待ってピエッチェが訊いた。

「ラチャンデルに()められたと聞いたが?」

「ラチャンデル? 誰がそんなことを? 不出来ではあるがわたしの弟、わたしを嵌めたりするはずがない」


 ピエッチェがラクティメシッスと見交わす。

「今、トロンバの警備隊の指令が誰だか判るか? トロンペセスのままか?」

ピエッチェの問いにジジョネテスキが顔を曇らせた。

「違います。トロンペセスも牢に入れられました。わたしが失脚する少し前です」


 溜息を吐くピエッチェにラクティメシッスが言った。

「じっくり話を聞く必要がありそうですね。しかし。こうも偽者が多いと誰を信じていいのか、困りましたね」

あぁ、そうだな、とピエッチェが頷いた。


「さっき、部屋から連れ出す時、妻は実家にいると言っていたが……間違いないのか?」

ピエッチェが尋ねると、

「はい、わたしが罪に問われると、妻の父がすぐに迎えに来て連れて行きました。無実だと言っても聞く耳を持ってくれませんでした」

ジジョネテスキが苦しげに言った。


「と言うことは、妻はカッテンクリュードのサスレンに居るんだな? あの辺りはあまり治安がいいとは思えないが? サスレンから連れ去られた可能性は?」

「うーーん……まずないとは思います。わたしを捕らえているのです、妻を人質にとる必要はないかと」

「で、おまえ、なんでゲリャンガに居るんだ? 妻の父が連れ戻しに来るほどの罪なら、牢に入れられるんじゃないのか?」

「いったんは投獄されたんです。でもある日ここに移送されました。それからはあの部屋に閉じ込められて……」


「なるほど。で、あそこに閉じ込められて何日経った?」

「判りません。陽の光を何日も見ていない」

「食事は?」

「食事と水を運んでくるのは若い男で、何を訊いても答えてくれませんでした。口を開けろと言うだけで……ソイツが口の中に食べ物を入れ、水を飲ましてくれました」


「で、どんな罪に問われたんだ?」

「横領です。国庫の(かね)に手を付けたと言われました」

「うん? 金蔵から(かね)が紛失した?」

「はい……ザンザメクス卿が言うには毎日のように少しずつ減っているとかで」

ピエッチェがムッと顔を(しか)める。その犯人、きっとクルテ、いや俺か。だが……


「しかし、どうしておまえが盗んだと? おまえには王宮の金蔵に入る権限はないはずだ」

「金蔵付近で頻繁にわたしを見かけたと注進した者がいるそうです」

「ザンザメクス卿はそれを信じた? 注進したのは誰だ?」


グリ()()()()ト卿()です」

「ふむ……」

ネネシリスが証言したなら疑うのは難しい。何しろ王姉の夫だ。


「おまえとトロンペセス、()()()()()()(親友)、他に牢に入れられたり左遷された者はいるか?」

「えぇ、居るには居るのですが、ダーロミダレム? なぜダーロミダレム?」


「投獄されたと聞いているが?」

「誰がそんなことを? カテロヘブ王が居なくなってからと言うもの、彼はグリアジート卿と結託し王宮で幅を利かせています」

「ダーロミダレムが?」

「はい、ヤツの父親、ザンザメクス卿も同じです。きっとわたしの冤罪はグリアジート卿とダーロミダレムが自分たちの罪を(なす)り付けたのだと考えています」


「なるほど。だが、しょせんは浅知恵だな」

「はい――カテロヘブ王がご帰還されれば、わたしの名誉も回復されると信じています」

「あぁ、任せておけ」

鷹揚に頷いたピエッチェが、ふと窓の外を見た。


「まだそれほどゲリャンガから離れてないんだな。このあたりだと山を分け入って追ってきそうだ」

「山中に降りるおつもりで?」

「うん、いったん山に隠れようと思っている――どうだ、この辺りまで追って来れると思うか?」

ジジョネテスキはピエッチェとカッチーに挟まれて、三人掛けの座席の真ん中に座らされている。対面はマデル、ピエッチェの正面はラクティメシッス、クルテはカッチーの前だ。


「この席からは外の様子がよく判りません」

腰を浮かせて窓を覗き込み、ジジョネテスキが言った。


「それもそうだな……」

出入口側に座っていたピエッチェがキャビンの戸を開けて、

「ここに来てよく見てくれないか? 立ち上がる時、頭を天井にぶつけるなよ」

ジジョネテスキに言った。


「あぁ、それならよく見えそうですね――それにしても不思議だなぁ、このキャビン、まったく揺れないんですね」

「空を飛んでいるからな」

立ち上がったジジョネテスキ、天井に手を突き、出入り口の枠に掴まって下を覗き込んだ。足元がふらつく様子はない。


「ここなら、もし追ってきても一日じゃ来れません。いい場所だと思います」

「そうか……」

ピエッチェも中腰になってジジョネテスキの背を支えに出入り口から覗き込む。下界を見るのに気を取られているジジョネテスキ、ピエッチェがラクティメシッスに目配せしたのには気が付かない。


「さて、情報をありがとう」

「いえ、王のためなら――えっ!?」

背中に置かれていたピエッチェの手がジジョネテスキをドンと突き放す。同時に座ったままのラクティメシッスがジジョネテスキに足払いを掛けた。驚きの表情で振り向いたジジョネテスキ、必死に出入口の枠に掴まろうとするが間に合わない。ぐらりと倒れ込み、叫び声をあげて落下していった。


「偽者だった?」

ラクティメシッスがキャビンの戸を閉めて苦笑する。座席に座り直したピエッチェは苦虫を噛みつぶしたような顔だ。

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