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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
14章 風の行方

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16

 バルコニーでろすと、ジジョネテスキの屋敷の敷地に警備兵が整列しているのが判った。

「今日の営業は終了だって声が聞こえたのよ」

マデルがピエッチェとラクティメシッスに小声で言った。

「どうしたんだろうって、見たらお客が店からぞろぞろ出てきて帰っていくの……すぐに警備隊が来たわ」


「このあとの行動の最終打ち合わせってとこかな?」

クルテはどことなく楽しげだ。

「知らずに来店したお客を追い返してる店員もいるね」

追い返される客は警備隊を見ると店員に何か訊いているが、店員は頭を下げるだけで答えていなさそうだ。


 警備兵が四人ほど敷地を出ると左右に別れて駆けていく。右に出た二人はジジョネテスキの敷地の、宿とは反対側の端の前、左の二人は宿を越えたところで止まった。通行止めにしたらしい。


 警備兵の数はざっと五・六十、ほとんどが歩兵、騎兵は五人、歩兵の中には背に矢筒がある者もいる。

「二人とも、部屋に入りなさい」

ラクティメシッスの指示にマデルがクルテの手を引いて居間に戻り、カッチーも促してそれぞれの寝室に入った。


「捕り物ですかね?」

「だな。問題は誰を捕らえに来たか、だ」

「弓兵もいるなんて魔物退治みたいです」


「で、どっちだと思う? レストランか、この宿か?」

「この宿だと思うけど、レストランを閉店させた意味がよく判りません」

「追い詰められたら店に逃げ込んで暴れるとでも考えたかな? 罪人の狙いはジジョネテスキだと思ってるだろうから」


「なるほど……あ、宿からも人が出てきましたね。宿泊客を避難させたようです」

「この部屋にはなんにも言って来ないなぁ」

「そりゃあ、そうでしょうよ」

ラクティメシッスがクスリと笑う。


「しかし、この宿にあの兵数って無意味ですよね」

「この宿の階段の幅だと横並びはせいぜい五人、部屋の前の廊下に押し込んでからドアを開けさせるつもりかな?」

「この部屋に全員(はい)れる……かなぁ?」

「ギリいける? しかしそうなると弓兵の意味がますます判らない」

「ですねぇ……しかし、動きませんね」


「司令官を待ってるんじゃないか? あ、ほら、店から二人出てきた」

「あの、トロンペセスと同じ白い服を着ているのが司令?」

「警備隊の指令官の制服だ。副指令はグレー、それ以下は紺。トロンバで警備隊を率いてきた男が白い服を着てたなら、トロンペセスで間違いないってことだ」 


「もう一人は誰だろう? 一般人のようだけど、ここからじゃ顔が判りませんね」

「体格と雰囲気に心当たりはある」

「えぇ、偽ジジョネテスキ」

ニヤリとしたラクティメシッス、

「で、どうします?」

ピエッチェを見た。


「そうだなぁ……」

ピエッチェは警備隊から目を離さない。

「二つに一つってところか? 徹底抗戦か、投降するか」


「投降して調べられたら身分がバレますよ?」

「そりゃ、まずいな。だったら迎え撃つしかないか。とりあえずドアの前に家具を移動させて、すぐに入って来れないようにしておこう」

「そうですね」

見る間に寝室のドアが開いてベッドが飛び出してきた。と、部屋の中からクルテの叫び声が聞こえた。


「あれ? ベッドだけじゃなくお嬢さんまで飛び出してきた」

ベッドを追いかけて寝室から出て来たクルテ、

「ラスティンの馬鹿! ドロボー! スケベ!」

慌ててサックと花籠を回収している。ベッドに置いていたらしい。


「ドロボーってのは判るんだけど、なんでスケベ?」

ラクティメシッスが肩を竦める。ピエッチェが首を傾げた。

「さぁなぁ?」


 寝室から出てきたのはクルテだけじゃない。マデルとカッチーもドアの前に積み上げられたベッドを見上げてから、バルコニーに出てきた。サックと花籠を取り返したクルテは膨れっ面で寝室に戻った。


「警備隊、やっぱりわたしたちを?」

マデルが不安そうにピエッチェとラクティメシッスを見比べた。カッチーは不安を隠してきゅっと唇を結んでいる。


「確定してはいませんが……宿からジジョネテスキの屋敷まで通行止めにしたところを見ると、警備隊が向かうのはジジョネテスキの屋敷か宿のどちらか。そして偽ジジョネテスキが警備隊の司令官と話をしているんで、あちらではない。そうなると、こっちかな?」

「なにノンビリしてんのよ!? だったらわたしたちって決まってる!? どうするつもりなのよ?」


「取り敢えずバリケードをってピエッチェが言うからベッドを積んでみました」

「ラクティっ!!!」


 と、寝室のドアが開いてクルテがフラフラと出てきた。

「ねぇ、マデル、怒らないで」

涙目だ。マデルの怒りの振動をまともに受けたらしい。ピエッチェが慌てて駆け寄った。抱き寄せると『大丈夫だよ』と背中を(さす)る。


「だって……」

マデルさえも泣きそうな顔になり、ラクティメシッスが

「マデルが焦るのも仕方ないよね」

とマデルを宥めてから、居間に戻ってくる。マデルとカッチーも続いた。


 ピエッチェに向き合ってラクティメシッスが言った。

「ベッドを積み上げたのはわたしですが、よくよく考えると愚策でした。警備兵の侵入を防いで、この部屋に籠城するにしたって限度があります」


 ラクティメシッスの言うとおりだ。何日ここで頑張れるだろう? 水はポットに残っているだけ、食料は全部食べてしまった――せいぜい明日の昼頃までか?

「ふむ……」

ピエッチェが考え込む。


 さっさと正面突破したほうが良かったか? 警備兵が動けば宿から出ることすらままならない。だけど今ならジジョネテスキの屋敷の前に集結しているだけだ。だが、宿を出る前に向こうが動けばどっちにしろこの部屋に追い込まれる。


「逃げよう」

ポツンとクルテが言った。

「自分の荷物を持って、バルコニーに出て」


「バルコニー? お嬢さん、まさか飛び降りるなんて言いませんよね?」

「いいから早く!」

戸惑うラクティメシッスを無視して、クルテはピエッチェの手を引いて寝室に向かう。

「まぁ、何かいい考えがあるのでしょう」

わけが判らないものの、ラクティメシッスもマデルを促して自分たちの寝室に戻った。もちろんカッチーも荷物を取りに行く。


 一番最初にバルコニーに出たのはカッチーだ。クルテやマデルと違って服が少ない分、支度も早い。手すりから下を見ていたが、ピエッチェとクルテを見ると、

「ロープは貨物台に置き去りです。でも、ロープで降りてたんじゃ気付かれちゃいますね」

情けない顔で笑った。


「警備隊はまだ動かない?」

ピエッチェよりも先にクルテが訊いた。


「そろそろだと思います。あ、動き出した……やっぱりこっちに向かってますね」

「カッチー、頭を引っ込めとけ」

ピエッチェがクルテの後ろで言った。

「できればこっちが気付いていると知られないほうがいい」

きっととっくに気付いていると思いながらピエッチェが言った。


 バルコニーに出てきたラクティメシッスがニヤニヤしながら

「いやぁ……さっき、お嬢さんにスケベって言われた理由が判ったよ」

とピエッチェに耳打ちした。

「寝室は服が散乱してた。マデルが怒ること怒ること……下着もぶちまけちゃってた。それでだ」

あぁ、それでサックと花籠を改修したらさっさと寝室に戻ったのか。


「どうです?」

「動き出した」

「それで、どうやって逃げるんですか?」


「トロンバで言ってたよな。結界を動かせるって。それって、ハッタリじゃないんだろう?」

「もちろんできます……向こうから見えない状態、音も洩れない状態で動きに連れて移動させることは可能です。だけど警備兵の間を擦り抜けられはしませんよ?」

「それって、自分を中心にしての結界だけ? 自分じゃない対象をってのは?」

「できます。でも、一人ずつ移動させたって警備兵は(かわ)せません」

すると黙って聞いていたクルテが、

「いいよ、それで――警備隊は宿に入ったみたいだね」

と笑んだ。


 廊下から、大勢が階段を上る足音が聞こえ、それがどんどん近づいて来る。

「マデルとカッチーは窓際にいて。ラスティンはこっち」

クルテがバルコニーの端、道に面したほうに向かう。首を(かし)げながらラクティメシッスが従い、マデルとカッチーは居間への出入り口の間際に、ピエッチェは積み上げられたベッドの前で待機した。


 足音はドアの前に〝溜まって〟いく。階段を上る気配がしなくなって寸時、僅かに聞こえた話声、廊下の緊張か高まった。


 ノックの音と、

「ピエッチェさん? お客さんが来てますよ」

男の声がする。なるほど、キュレムベストが来たと、こちらに思わせたいわけか。


 寝室から出てきたと装うため少し間をおき、ピエッチェが尋ねた。

「んー、まだ寝てたんだが? 何の用事?」


「そりゃあ、すいません――昨日、(おっしゃ)ってたお客さんですよ」

偽ジジョネテスキのせいで、キュレムベストって言う客が来ると宿に言うのをすっかり忘れてた。でも、まぁいいや。


「お客さんって? そんなこと言ったかなぁ?」

「寝ぼけてないでしっかりしてくださいよ。若い男性二人です。約束したんじゃないんですか?」

「覚えてないなぁ。髪の色はどんな?」

「えっ? えっと……」

「あ、なんか思い出してきた。約束したのは女だった」

「えっ? えぇえ?」

こっそり笑うピエッチェだ。


 バルコニーに出て行ったクルテ、手すりから下を見ると

「うん、思った通り、指令も宿の前に来てる。お誂え向きに偽ジジョネテスキまで一緒」

ニヤッとし、ジジョネテスキの屋敷に面したほうに向かうと再び下を見た。ラクティメシッスがウロウロと、クルテのあとをついていく。


「キレイさっぱり居ない……まぁ、向こうに何かあるとは思わないよね」

「お嬢さん、どうするつもりなんですか?」

「うん、ちょっと待って」

クルテが唇を尖らせてピューと口笛を吹いた。


「巧いもんですねぇ。ピエッチェとキ――」

「余計なこと言うな! 馬鹿スケベ!」

ラクティメシッスがケラケラ笑う。


「ほら、笑ってないで、出番だよ」

「うん? 出番?」

「開けっぴろげの(うまや)で助かった。簡単に出て来られる」


 クルテの言葉にラクティメシッスが見降ろすと、厩からキャビンを牽いてリュネが出てきたところだった。

「ははん、なるほど。お(んま)さんとキャビンに魔法を使えって?」


「そそ、早くやって。リュネは空を飛べる。自分と、自分に直接触れているものなら見えなくできるけど、キャビンは無理。でもついでだからリュネとキャビン、まとめて魔法をかけて」

「お(んま)さんの魔力を温存したいんですね?」

ラクティメシッスがニヤッと笑った途端、馬車ごと見えなくなった。


「ねー、間抜け? わたしたちにまで見えなくしてどーする!?」

「それもそうですね」

クスクス笑うラクティメシッス、見えるようになったリュネはキャビンを牽いて、すぐそこまで来ていた。


 廊下では、ピエッチェに(から)われた警備兵の苛立ちが限界に近付いていた――

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