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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
14章 風の行方

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 スズマリアネが溜息を吐く。

「それはない。王宮内の情報をこれだけ知ってるんだ。この男、いったいなにものなんだろう?」

「それじゃ、どうするのさ?」

うーーん、とスズマリアネが唸る。


「本当に俺を警備隊に売らないんだな?」

「あぁ、企みの全容を明かすなら、おまえがスズマリアネだなんて言わない」

「企みの全容?」

「そうとも、それを知ったうえで分け前を貰ったらわたしたちもおまえと同罪、そちらにしたってそのほうが安心だろう?」


「根こそぎ持って行ったりしないだろうな?」

「おまえ、何人の男を使ってるんだ? わたしたちは男二人に女二人、全部持って行けるもんか」

カッチーを忘れてると思ったが、あえて言わなかったのかもしれない。


 ラクティメシッスを睨みつけていたが観念したのだろう、スズマリアネが溜息交じりに言った。

「判った、知りたいことは全部教える。だが、ここではダメだ、ついてこい」


「あんたぁ……」

コケシュアレが情けない声で止めようとするが、

「煩い! 向こうのほうが俺たちより(うわ)なのが判らないのか? しかも魔法使いなんだぞ?」

無視して後ろを向くと歩き始めた。


「おまえたち、こいつらに手を出すなよ」

結界があるんだ、どうせ手出しなんかできないだろうと思いつつ、スズマリアネは手下たちに命じるのも忘れていない。そうでも言わなければ格好がつかない。


 スズマリアネを追うコケシュアレ、ピエッチェとラクティメシッスが頷き交わしてそれに続く。当然マデルとクルテも歩き出す。


 取り巻いていたスズマリアネの手下どもは、結界が解除されたとも知らず自ら(あと)退ずさる。魔法使いが怖いのだ。手出しするなと言われ内心ほっとしている。


「わたしはどうしたら?」

村長の声、すれ違いざまにクルテが『帰っていいよ』とニッコリした。


「それから……そこで眠ってる男は病気だから。誰か面倒見てやって」

オッチンネルテのことだ。

「記憶喪失で、自分の名前も判らない。だけどそれだけ、心配ない。頼んだよ、村長さん」


 スズマリアネが向かったのは、どうやら自分の屋敷らしい。この村では多分一番大きいんじゃないか? 門を入り建屋に入るのかと思いきや、ぐるりと回って裏へと進む。裏手には、これもまた大きな建物、だがこちらは平屋だ。厳重に鍵がされているが母屋と違って隙間風が吹くんじゃないかと思えるほどのボロ屋だ。よく見ると、内部へのドアが三か所あり、一つは馬車が通れそうなほど幅がある。さらによく見てみれば、奥は山肌に面して……いや、入り込んでいる。


 スズマリアネが舌打ちしながら、手前のドアに付けられた複数の錠前を開けていく。その先のドアは同じくらいの大きさ、馬車が通れそうなドアは一番向こうだ。錠前を複数付けているのは用心のためだろう、盗人ほど盗難に気を遣うのかもしれない。舌打ちしているのはどの鍵がどの錠前か、覚えきれていないからだ。あわなくてイラついている。


 やっとすべての錠前を外し終え、

「ここだ」

スズマリアネが振り返る。ラクティメシッスが顎をしゃくって

「先に入れ」

と言った。フンと鼻を鳴らしてから、スズマリアネが入っていきコケシュアレが続く。ラクティメシッスは、ドアをじろじろ見てから中に入った。


 中は土間だった。山肌に、木材で補強された穴が黒く口を開けている。だが開口部はそこだけじゃなかった。入ってすぐには地面に穴、下の方へと階段が続いている。そこも木材で囲われ補強してある。トロンバに降りてくるのに使った地下道を思い出させる作り、ほとんど同じと言っていい。ただ、木材はまだそこまで古くない。他に同じような開口部が中ほどのドアの前にもあった。


「坑道は三本?」

ラクティメシッスの問いに

「あぁ、始めたのが五年前だからな。手に入れられる土地はここだけだった。掘りつくしたら貧乏人を脅して、ほかの土地も手に入れようと思ってる」

スズマリアネが答えた。


 馬車が通れそうなドアの前には鉱石らしきものが積み上げられている。隅のほうには台車や、棒に吊るせるよう細工した布、その布を吊るす棒が散乱している。それらを使って鉱石を荷馬車に乗せるのだろう。


 マデルはこわごわと、入ってきたドアの前で様子を見ている。中に入りたくないようだ。ピエッチェとクルテは積み上げられた鉱石や運搬道具に近付いて確認している。コケシュアレがそれをいまいましげに見ていた。


 鉱石の山の向こうから

「部屋があるよ……平屋の中に小屋? 鍵が掛かってる」

クルテの声が聞こえ、舌打ちしたのはコケシュアレだ。


「開けて貰おうか?」

ニッコリ笑むラクティメシッス、スズマリアネが()()()()とそちらに向かった。


 小屋の中には石が積まれていた。一目で(アメ)()(スト)と判る物もあるが、ただの石ころに見える物もある。ピエッチェが一つ手に取り、じっくり見てから石の山に放り投げて戻した。

「ちょっとぉ! 丁寧に扱ってよ! 割れたらどうすんだい!」

コケシュアレが怒鳴るが無視された。


「ただの石ころ、じゃないですよね?」

「あぁ、ジオードだ。中が空洞になってて、そこで結晶化してる。多分アメジストだ。まぁ、割ってみなきゃはっきりとは言えない」

「割ってみますか? なんだか、割るの、面白そうです」

ラクティメシッスがニヤリとする。コケシュアレが金切り声を出し、それをスズマリアネが宥めている。


「割ると、価値が下がるんですか?」

「そこまでは知らない」

雑談しながらマデルが覗き込んでいるドアに向かうピエッチェとラクティメシッス、クルテは一足先にマデルと合流している。スズマリアネとコケシュアレがようやく平屋の中の小屋から出てきた。


 ピエッチェが平屋から外に出る。ラクティメシッスも出て、ドアを抑えていたマデルに頷く。頷き返したマデルがパタリとドアを閉めた。サラリと風が吹いたように感じたのは魔法の発動、魔法を使ったのはマデル、クルテが

「ほかのドアも錠前を使ってる。中からは開けられない」

ニヤリと言った。


「さて、行くか……うちのキャビン、無事だろうなぁ」

ピエッチェがスズマリアネの屋敷の母屋を回り込んで門へと向かう。平屋からは、閉じ込められたと気づいたコケシュアレの金切り声が聞こえてきた――


 宿に戻ると人垣は解消されていた。キャビンは動かされた形跡もなく、相変わらず(うまや)の出入り口を塞いでいる。

「ちょいと動かしますかね」

ラクティメシッスが出入りしやすいようキャビンを通りに引き出した。もちろん魔法だ。厩にはコケシュアレが言っていたように馬が一頭もいない。全部引っ張り出してリュネを追っていったらしい。


「警備隊はまだ来ないみたいだな」

キャビンの中と貨物台を調べながらピエッチェが言った。

「盗られたものが()()()()ですか?」

ラクティメシッスの問いに、盗られたら()()()()よな、と思いながら

「なさそうだな……宿に入る時、おいてったのは揃ってる」

と答える。どうやら思いのほか疲れているようだ。


 部屋に置いてきた物を取ってくると言ってクルテとマデルは宿の中に入っていった。宿の従業員がすんなり通してくれるのか危ぶんでいたが、程なく帰ってきた。


「あれ? 花籠は?」

「枯れたから置いてきた」

今日……もう日付が変わったから昨日か。買ったばかりなのに? もう生気を吸い尽くしたか。


「次の村で買ってくれる?」

「花屋があればな」

「あるよ、小さいけど――軽食を出してくれるサロンもある」

「腹が減ったか? 昨日、菓子を買ったんじゃなかったのか?」

「あれはね、カッチーにあげちゃった」

朝食は隣の村ザゲナってことか。どっちにしろ、カッチーとリュネが戻らなきゃトロンバから出られない。


 そろそろ空が白み始めた頃、馬がいないはずの厩からリュネがカッチーを乗せて出てきた。

「なんで、俺、ここに?」

カッチーがキョトンとしてる。


「さっきまで、空を飛んでたんです。村が見えて、宿が見えて、でも明るくなってるからヘタなところに降りれないし。警備隊もトロンバ街道の最後のかどを曲がる直前まで来てるんです……どうしようと思ったら厩の中でした」

リュネの魔法に決まってる。ブヒヒと鼻を鳴らしリュネが笑った。


「急ぎましょう」

ラクティメシッスの号令で、慌ててキャビンをリュネに繋ぐ。


「リュネを追っていった男たちは?」

「ワッテンハイゼで警備隊に拘束されました――なんか、持ってった手紙にそうしろって書かれてたって」

クルテは手紙になんと書いたんだろう? カテロヘブ王の名で書いたこと以外は聞いていない。


 村の入り口方向から(ひづめ)の音が近づいて来る。マデルとクルテがキャビンに乗り込み、カッチーがぎょしゃ台の助手席に座った。ラクティメシッスはキャビンから少し離れたところで警備隊を待ち構えていた。


 全部で三十騎あまりでやってきた警備隊が、ラクティメシッスからほどよく離れた場所で馬を停めた。そのうち一騎がキャビンの(ぎょ)しゃ台の目を止やって、ギョッとした顔で先頭の馬に近付いて何か言った。言われた男も(ぎょ)しゃ台を見る。ワッテンハイゼに置いてきたカッチーを見たのだ。ここに来ても()しくないが、先に来ているはずがない。

「双子の弟だよ」

気付いたラクティメシッスが言い、警備隊員たちが『あぁ』と頷いた。


「で、我々を呼んだのは?」

先頭の男が尋ねる。

「わたしだ――この宿の男が悪事を働いているのを知ったのでね」

ラクティメシッスが答えた。


「わたしの後ろにある宿の持ち主は、ここを含め全部で三軒の宿を所有している」

「あぁ、それは知っている」

「そのうち一軒では、誘拐したり騙したりして連れてきた女たちを監禁して売春させている」

「噂で聞いたことがある。どう調査するかを検討していたところだ――が、それで警備隊を呼ぶのは大げさでは?」


「三軒の宿、宿泊客を装って実は宿の持ち主が雇い入れていることは?」

「長逗留が多いのは奇妙と調べてみたが、これと言って咎め立てるようなことは見付けられていない」

「見付けられていない、と言うことは、そちらも調べていないわけではないと?」

「うむ……この村が気に入ってここにいると言われれば、咎めることはできない」

クスリとラクティメシッスが笑う。


「宿の持ち主が言っていた。村長を丸め込んだってね」

一瞬、先頭の男に緊張が走る。他にもちらほら蒼褪めた警備兵がいる。

「で、村長は警備隊を丸め込んでいるとも言っていた」

男がラクティメシッスを睨みつける。そしてニヤリと笑った。

「もしそうならば、我らをここに呼ぶ意味もなさそうだが?」

この男が収賄の首謀者とみてよさそうだ。


 だが、今すぐ糾弾するのは得策ではない。まずはスズマリアネとその一味を警備隊に捕らえさせるのが先だ。

「呼ぶ意味はある――この宿の持ち主の悪事の証拠を掴み、男は幽閉した。引き渡すから捕縛して連れて行け。男の一味も宿に居るから一網打尽にできるはずだ。売春させられていた女たちは保護してやって欲しい」

ラクティメシッスが男に言った。

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