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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
14章 風の行方

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「宿の連中がしているのは盗掘?」

ピエッチェが考え込む。

「かなり昔に取りつくされて、坑道は閉鎖されたり埋め戻されたりだ――村ができたときは採掘も続いていて、この村も賑やかだった。だけど、取りつくした後は寂れていく一方、坑夫は別の場所に移ったし、山に囲まれて日当たりが悪いから農耕にも向かない。旨味のない村になった。見捨てられた村だ、いまさら掘り起こしても何も出ない」


「うーーん、世の中正直者ばかりじゃないぞ」

ラクティメシッスがピエッチェに近付くと耳元で言った。その必要もないのに声を潜めている。

「新たな鉱脈を発見したが国に内緒で採掘してる――それは夜の闇に紛れて。運び出すのも真夜中、村人に気付かれないように」

顔を遠ざけたピエッチェが、ラクティメシッスの顔を見る。ラクティメシッスがニヤリと笑った。

「ありそうだと思えてきただろう?」


 確かにそう言われるとそんな気がしてくる。でも、

「捜索は警備隊に任せればいい」

と答えた。ラクティメシッスは

「果たして警備隊に突き止められるかな?」

不服そうだ。


「王都を目指してるんじゃなかったか? そのためにわざわざ来たんだろう?」

「そりゃそうなんだけどさ、犯罪を見逃すのは悔しいな」

するとマデルが笑う。

「そのあたり、ピエッチェも同じじゃなかった?」

ムッとピエッチェが押し黙る。


「それに……」

と言ったのはクルテ、

「スズマリアネの犯罪が立証できない場合、わたしたち、拘束されるかもしれないよね?」

またも眠そうな顔だ。

「今の話を警備隊がどこまで信じてくれるか判らない――それに、王の名を騙ったのは誰なのか詮索するに決まってる。そしたらウイッグだってバレるかも」

その原因を作ったのはおまえだろうが!?


「潔白を証明できないうちに身分を明かせば、待っているのは破滅。だから手紙を出したのは自分だと言えない――あれ? 封蝋印は誰が?」

ラクティメシッスがクルテを見ると、クルテは

「指に()めてる」

とピエッチェを見る。仕方なくピエッチェが

「指輪に細工がしてある。調べなきゃ封蝋印と判らない」

と答える。

「ってことは調べられたら判るってことですね」

ラクティメシッスがクスリと笑う。


 いいや、調べたって判るもんか。魔法で隠してある。しかも魔法封じも使っ――あれ? なんでクルテは封蝋印を手紙に捺せた? クルテに魔法封じは効かなかった?


「追い詰められましたねぇ……」

ラクティメシッスの呟き、

「追い詰められてるのはラクティ、あんたも一緒」

マデルが皮肉り、

「あなたと一緒なら火刑だろう絞首刑だろうと構いませんよ」

ラクティメシッスが笑う。

「あら、そう。だけどわたしはまっぴらごめんだわ。なんとかしなさいよ。しないと嫌いになるわよ。婚約も解消」


「ちょっと待ってください、考えるから」

と、言いつつ、チラリとオッチンネルテを見たラクティメシッス、

「ここはいっちょ、芝居を打ちますか」

ニヤッと言った。


「カッチーがいたら――」

「で、ラスティン、どんな芝居だ?」

クルテの言葉を遮って、ピエッチェが言った。

「――熱演したのに」

言い切ってニンマリするクルテ、誰も相手にしない。


 ラクティメシッスが説明し始めた。

「オッチンネルテを利用します――警備兵を誰が呼んだのか、外の連中は知らないし、そもそも警備兵が来ることを知らない」


「うん、それで?」

「警備兵が来ると脅します。もちろんそんなことでビビりやしないでしょう。だからハッタリをかまします――何をしているか知っているぞとね」


 そこで交渉を持ちかける。警備兵に黙っている代わりに、計画に加わらせろ。宿にお宝を隠しているんだろう? 分け前さえ貰えれば、朝には村を出ていく。


「そう巧く行くかな?」

ピエッチェが難色を示す。

「オッチンネルテが警備隊を呼んだってのはあいつらも納得すると思う。助けてくれって叫んで逃げようとしたからな」


「それじゃあ、穴掘りしてるのは知ってるぞって言いますか?」

「推測だけで確信があるわけじゃない。方向違いだったらどうする?」

「うーん、確かに……その時は却ってこっちが不利になる」


「ねぇねぇ、聞いて」

クルテがピエッチェの腕を揺さぶる。

「あぁあ? 眠いならそこらへんで寝てろ、今はそれどころじゃない」


「ちょっとピエッチェ、それはないんじゃないの?」

抗議したのはマデルだ。

「クルテ、訊くのはわたしじゃダメ?」


「いいよ、マデルで。マデルに言えは二人にも聞こえるから」

「ピエッチェとラクティに聞いて欲しかったの?」

「うん、宿に女の人が監禁されてることを忘れてるよ」

「えっ!?」


 えっと思ったのはマデルだけじゃない。

「なんですか、それ? 聞いてませんよ?」

ラクティメシッスがピエッチェを見、ピエッチェが顔色を変えた。

「うん、言ってない。失念してた――女を監禁して、売春させてるらしい」

ムッと表情を硬くしたラクティメシッス、怒りを抑えているようだ。そんな大事なことをなぜ忘れていたのかと言うよりも、女を食い物にしていることが許せないのだ。


「だけど、女のことは村中が知ってることだ、今さら脅しのネタになるかな?」

ピエッチェが言い訳じみたことを言うと、ラクティメシッスが大丈夫だと答えた。自信があるようだ。


「妹がこの村の宿で監禁されていると聞いて、ここに来たと言います。宿の受付で来村の理由をしつこく訊いてきた。村に来た目的を気にしてるってことです。多少なりとも動揺するでしょう」

「うーーん、それで?」


「居ないと言うなら宿にいる女全員に会わせろって言います」

「なるほど、向こうは会わせたくないはずだ。だけど会わせない事には居ないことを証明できない。さぞ困るだろうな――しかしそんなことを言えば俺たちを、何がなんでも捕らえようとするぞ」


「えぇ、そうでしょうね。そうさせないためにクルテさんの金袋をチラつかせましょう。受付係、あの革袋を妙な目つきで見てました。馬には追っ手をつけた、キャビンは手に入れたも同然、金袋も狙っているはずです。そうでなくても、妹を金で買い取ると言えば迷うはず、さらに――」

ラクティメシッスが声を潜めた……


 話がまとまるとラクティメシッスがスズマリアネを見てニヤッと笑った。結界の向こうのスズマリアネ、ギクッとしたがすぐにまた何かをがなり立てている。


 が、ラクティメシッスが結界ギリギリまで近づいて手をあげると肩を竦め、顔を手で庇った。それに失笑するラクティメシッス、手を翳したまま言った。


「スズマリアネだけに物申す。結界内に聞こえるのはスズマリアネの声のみ」

ラクティメシッスの手からフワッと光が飛び出して結界に沿って広がっていく。その光は広がるにつれて消えていった。一瞬の出来事だ。きっと魔法に不慣れな者には見えなかっただろう。


「スズマリアネ、わたしの妹をどこに隠した?」

ラクティメシッスが言った。


「あんたの妹? なんの話だ?」

そう言うと、隣に立つコケシュアレのほうをむき、

「コイツの妹を知っているか?」

と言った。コケシュアレがなにか怒鳴ったようだ。スズマリアネが舌打ちした。


「魔法か? あんたの声は、俺にしか聞こえないようだな」

「あぁ、気が付いたか? で、わたしの妹は?」

「あんたの妹なんか知るか」

「宿に女を監禁しているな? その中にわたしの妹がいる。どれがわたしの妹なのか判らないのなら、女全員に会わせてくれ」


「言いがかりだ!」

叫ぶスズマリアネ、クルテがそっとラクティメシッスの後ろから革袋を差し出してラクティメシッスに渡した。わざとじゃらッと音がするように渡している。スズマリアネにも聞こえたらしい、ギロッと赤い革袋を睨みつけた。


「中に入っているのは金貨だ。これで妹を買い戻す」

ラクティメシッスの申し出に、スズマリアネがぐっと(つば)を飲み込んだ。そして再びコケシュアレの方を向き耳元に口を寄せた。


 音は聞こえなくとも結界の透明な壁越しに、こちらの様子は向こうにも見える。受付係から赤い革袋と聞いているのか、コケシュアレはクルテの金袋を睨みつけていた。


「あの革袋だ、ジョジンが言ってた金袋。かねの音がじゃらじゃらしてたって、中から金貨を出したって――で、あの男、あのかねで妹を買い戻したいって言ってる」

受付係、ジョジンって名か。


 スズマリアネはラクティメシッスの声がコケシュアレに聞こえないなら、自分がコケシュアレに話す声も聞こえていないと勝手に思い込んでいるらしい。が、どんなに声を潜めようと全部聞こえている。


 スズマリアネの話を聞いてコケシュアレが何か言った。それに頷くと

「しかし、相手は魔法使いだ。どうやってあの袋を取り上げる?」

スズマリアネが訊いた。コケシュアレが何か言い、スズマリアネがニヤッと笑う。


 スズマリアネがラクティメシッスに向き直った。

「判った、宿の女たちに会わせてやる――早く結界を解け。宿に行くぞ」

するとラクティメシッスがニヤリと笑った。


「結界を解く条件は別にある」

「はぁ? 話しが違う!」

「誰が妹を返せば結界を解くと言ったか? 金袋をやると言っただけだ」

「うっ……どうしたら結界を解いてこっちに出てくる?」


「まず一つ教えてやる。わたしは結界を動かしながら移動できる。わたしの仲間と一緒にな。だから、結界を解かずに宿にも行けるし、ここの村から出ることも可能だ」

「なにぃ?」

「それなのに、ここに留まっているのには理由がある――おまえたちの悪事の分け前が欲しい」

「悪事? なんのことだ?」

スズマリアネがシラを切る。が、こんなのは想定内だ。


「宿に居る女たち、あれは誘拐したか騙したかしてここに連れてきた。そして売春を強要している――売春及び売春の斡旋が禁じられていることを知らないとは言わせない」

「売春? なんの話だ? 女が男を連れ込んでいるのには気が付いていたが、どんな男と寝ようが知ったことか」

「妹に訊けば判ることだぞ?」

「そうかい、だったら聞けばいい――だがもしも本当に売春してるなら、おまえの妹も罪人だぞ?」

スズマリアネがニヤリと笑う。

「それはどうかな?」

ラクティメシッスが応じて笑む。


「もっとも女たちに関しては、妹さえ返してくれればいい――おまえたちがもっと実入りのいい悪事を働いていると判っている。その分け前をいただこう」

「悪事? 分け前? 何を言っているんだか」


「正直に言ったらどうだ? それに早い方がいい。この男……」

ラクティメシッスがオッチンネルテを見て続けた。

「わたしたちの目を盗んで警備隊を呼んだ」


「そりゃ、お(あつら)え向きだ。おまえたちを――」

「スズマリアネ、おまえが王命で手配されているのを知らないとでも?」

スズマリアネが見る見る蒼褪めていった。

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