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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
13章 永遠の刹那

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 カテルクルストは新たな村人を受け入れないと聞いた時からニョロスを怪しいと感じていた。戦乱は納まったとはいえ、徴兵による人手不足は解消されていない。にも関わらず人手が足りているからと、移住を拒否するのはどこか()しい。希望者の年齢などで拒むのなら、まだ話も判る。


 村を放棄する動きがない点もよくよく調べてみるとニョロス以外の村では人口の減少が起きていたが、それを知られると罰せられるのではないかと恐れ、村の責任者が虚偽の申告をしていたのだった。


 が、怪しいだけでは捕らえることもできない。さらなる調査を命じるにしても、どこをどう調べさせればいいのか見当がつかない。そこでカテルクルストは自ら出向くことにした。国王である自分が行けば、警備隊よりも大胆なことができるはずだ。


 ()くしてニョロスに出向いたカテルクルストは村長を一目見て、来てよかったと感じている。王と対面して萎縮もせずに笑っていられるのはなぜだ? 畏まってカチカチになってしまうのを、こちらが『そう緊張するな』と声を掛けるのが常だ。


 だが、いくら怪しくても、それだけでは咎められない。村内を歩いて犯罪の気配を探った。


 家は建ち並んでいるが生活感がない。人声がしないのは全員畑に行っているのだとしても、子どもが一人もいないのも奇妙だ。そして畑と、そこにいた男たちを見て、疑念はますます深まった。


 どう見ても作物を作っているとは思えない。いるのは屈強な体格の男ばかり、女がいない。そして男たちは国王が来たと言うのに畏まりもしないで草むしりを続けている。それを村長はまるで気に留めない。


 何かがあるのは判ったが、それを野盗と決めつける根拠はない。他の犯罪の可能性もある。だから確認することにした。


 すべての家の内部を見る、これは時間稼ぎだった。村長は付きっ切りでついてくるはずだ。心配で他には気が回らないだろう。その隙を突いて警備兵に村の中を探らせた。


 時間稼ぎのはずの民家の巡回は、思いもしない収穫があった。女の存在だ。しかも村長は怯える女に『なにもしない』と言った。何かされると思って女は怯えているのだと思った。少女と言ってもいいような若い女ばかり、しかもタイプは違うものの美しい女ばかりなのも引っかかる。この村の犯罪は野盗でないとしたら誘拐、あるいは人身売買、売春の強要も考えられる。女の幽閉が民家だったことから、犯罪は村ぐるみと判断した。


 警備兵からは逐一報告が入っていた。警備隊長と村の様子について話しているふりをしながら報告を聞き、指示を出した。その指示を隊長が部下に伝えた。村長はカテルクルストに気を取られ気付かなかった。


 さらにカテルクルストは時間稼ぎをしている。村長への尋問だ。その時は、畑にいた男たちの捕縛と村長の屋敷の捜索、民家に居た女たちの保護を命じている。屋敷の中は、小さな村の村長にしては高価な調度や食器類などで溢れかえっていた。蔵には幼い子どもが閉じ込められていた。


 捕縛された男たちは自分たちの悪事を呆気なく警備兵に白状している。全て村長の命令で動いた。首謀者は村長だ。どうか見逃してくれ……もちろん警備兵にそんな権限はない。すぐさま警備兵は隊長に、隊長はカテルクルストに報告している。


 女たちからも襲撃された村から略奪され、男たちの慰み者になっていたと証言が取れた。家から出たら殺すと脅され、逃げることもできなかったらしい。拘束した村長に行方不明の子どもの人数が足りないことを詰問したところ、蔵にいたのは売れ残りだと笑った。


 この事件をきっかけにカテルクルストは人身売買、売春及びその斡旋を禁じた。さらに徒党を組むことによる犯罪の悪質化、とくに首領がいることによる組織化に着目している。組織化すれば役割分担ができ、より大胆な悪事を働くようになるのではないか?


 そこで国内の『集団』を管理することにした――


 宿に居るのは常時八十人……それだけ居れば大掛かりなことができる。

「そんなに大勢なら、役人だって気が付くんじゃないのか? この村にだって役人がいないわけじゃないだろう?」

ピエッチェが花屋に訊いた。


「役人なんか当てになるかい? だいたい村長に任せて役人なんか気が向いた時に顔を出すだけだ」

「うん? 常駐しているんじゃないのか?」

「口裏を合わせて、居ることにしてるだけ。まぁ、役人がそんなだから悪人の羽振りも良くなるさ」


「宿に泊まってる連中は羽振りがいいんだ?」

「あぁ、何をしてるんだか知らないが金遣いは相当荒いらしい。うちみたいな花屋なんか、おこぼれにあずかれないけどね」

「酒に金を使うか。でも、それくらいじゃ羽振りがいいって言うほどでもなさそうだな」


 すると花屋が顔を(しか)めた。

「なんでも、安宿のほうには女もいるらしい。ヤツらが連れてきた女だ。ほとんどの客は宿の連中だが、村人でも金さえ出せば買えるらしい」


「買える?」

「連中、女を売ってるんだよ――村人の中には、働かせて支払った賃金を回収してるんだって見てるヤツもいる。当たらずとも遠からずなんじゃないのかね。女たちは宿の部屋に閉じ込められてるらしいからな。可哀想に、無理やりか、騙されるかして連れて来られたんじゃないのかねぇ……おいおい、そんな怖い顔するなよ。役人にチクっても無駄だぞ。役人だって知ってるが知らんふりだ」


「役人も知っている?」

声が震えるのが自分でも判る。

「なぁ、ソイツら、いつからこの村に?」


「ん? そうさな、五年くらい前からかな?――なぁ、ニイさん。悪ことは言わねぇよ、関わらないほうが身のためだ。何をしても無駄だし、あんま煩いことを言うと報復されかねない」

「報復?」

「あぁ、正義感の強い若モンが数人で金持ちのほうの宿に抗議したことがある。相手にされやしなかったが、諦めずに毎日のように出向いてた。そしたらある日、若モンのリーダーが袋叩き、今でも寝たきりだ。しかも犯人は捕まってない」


「村人が大怪我をしても村長は動かなかった?」

「うーん、泣いて謝ってたがそれだけだ。法外な見舞金を持ってったらしいがな。村長も抱き込まれてるってことだろうさ」


 そこにクルテが戻ってきた。

「マデルも持ってなかったから、お菓子買って崩してきた」

菓子屋で金貨を使ったのか?


「はい、これでぴったりだよね?」

花屋に銅貨を三枚渡すと、

「行くよ。ラスティンが待ち(くた)れてイライラしてる」

ピエッチェに意味深な笑顔を見せた――


 花屋(いわ)く金持ち用の宿は見た目も立派なものだった。

「まだ新しそうな宿ですね」

ラクティメシッスが建物を眺めて言った。ピエッチェが

「できて五年程だそうだ」

面白くなさそうに答える。


「村には全部で三軒の宿があるそうだけど、この宿にはレストランがあるしルームサービスもあるらしい。他の二軒は安宿だって話だった」

「だったらここにしたほうがよさそうですね。問題は部屋があるかです」


 ところが問題はそこではなかったようだ。宿の受付でトロンバに宿泊する理由を訊かれた。

「宿泊の理由を訊かれたのは初めてだ」


「この村に観光客はいない。親類を訪ねてきたのならそちらに泊まるだろう――悪事を目的に村に来たと思われても仕方ないんじゃないのか?」

宿の受付の言葉にマデルがカッとして何か言いかけたが、クルテがそっとそれを抑えた。


「随分な言われようだな――ザジリレン国内をあちこち周遊してる。その流れでトロンバに来た。それじゃあダメかい?」

ピエッチェがそう言うと、

「うーーん、そうなると観光ってことになるのかな?」

受付係が考え込む。


「いやさ、俺だってこんなこと訊きたかないんだ。でも、ここの責任者から、必ず訊くように言われてるんだよ。理由は納得できなくもないだろう?」

()を見たら泥棒と思えって感じなのかね?」

「そう言うことだと思う――何しろなんもない村だからね」


「ここに来る途中で、この村だとどの宿がいいか訊いてみたんだけどさ、全部で三軒あるそうじゃないか」

「あぁ、なるほど。この村じゃあこの宿が一番さ、うん」


 と、ピエッチェの頭の中でクルテの声が響いた。

(それ以上突っ込むな。泊まる宿が無くなるぞ)


 親類を訪ねたのならその家に泊まる、観光客が来るはずもない、だったらなんのために宿があるんだ? しかも三軒も――受付係にそう言おうとしていた。


「できるだけ上等な部屋を用意して貰えないかな? かねならあるから、心配しなくていい。もう少しでザジリレンを制覇できるんだ。この村に泊まれなきゃ、それも叶わなくなる」

「ザジリレンを制覇? あぁ、周遊してるって、そう言うことか。あとどれくらいで全国制覇なんだい?」

「トロンバ街道はここで終わりだからね、いったんカッテンクリュードに戻ってコッテチカ街道に挑戦するつもりだ。ジャムジャンヤ街道とスナムデント街道はもう終わっているからね」


「ムスケダムには行ったことがあるかい?」

「もちろんさ、スナムデント街道は制覇したって言っただろう。あぁ、でもゲランギャ街道には回ってないんだ。もう一度行くかな」

ムスケダムはゲランギャ街道の始点の街だ。


「ムスケダムに行ったならゲランギャに足を延ばせばよかったのに」

「ゲランギャでは虫を食わせられるって噂を聞いたことはないかい? 本当か嘘かは知らないけど、コイツ、虫は食べたくないって泣くからやめといた」

ピエッチェがクルテを(あご)で指す。クルテが膨れっ面でツンとソッポを向いた。


「虫を食わせる? なんでそんな噂が?」

受付係は知らないようだ。ピエッチェがニッコリと答える。

「ゲランギャは養蜂が盛んなんだよ。で、ハチの子料理もあるらしいんだ」


 噂があるのは本当だが、誤解だ。養蜂は確かに盛んだが、ハチの幼虫を食べる習慣はゲランギャにはない。デリッサと言う山間の村ではそんな習慣もあるが、それもミツバチではなくスズメバチの幼虫だ。


「あぁ、ゲランギャのハチミツは有名だね――うーーん、判った。でも、悪いけど俺には決められない。ちょっと待っててくれよ、上に確認してくるから」


 受付係が奥に消えるとマデルが訊いてきた。

「本当にハチの幼虫を食べるの?」

ピエッチェが苦笑する。


「そんな噂があるのは本当だよ。だけど食べてるかどうかまでは判らない。ゲランギャにも行ってみなくちゃだなぁ」

これは万が一の盗聴に備えてだ。そんな事とは知らないマデルが

「なによ、虫を食べてみる気なの?」

気持ち悪そうに言った。


 花屋で聞いた話は、まだラクティメシッスやマデルたちには話していない。話すかどうかも迷っている。犯罪の匂いがプンプンするし、宿の受付の対応も不自然だった。だが――


 これはザジリレン国の問題だ。ラクティメシッスたちを巻き込んでいいものか?

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