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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
13章 永遠の刹那

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「こんなところになんの用事で来た? 国の端っこ、村から出る道は一本だけでここが終点。こっから先はどこにも行けない。そのうえ切り立った山に囲まれてる」

「用事なんてなんにもないよ。ザジリレンを隅々まで見て回りたいだけ。菓子店のお勧めはどこかしら?」


「菓子ならうちの三軒隣り。ファマスの店が旨い――ザジリレンはどこに行っても山ばっかだ。山と谷と、せいぜい川しかない。見るとこなんかなんもない」

「あら? ザジリレンが嫌い?」

「馬鹿言うな。生まれ育った国に愛着がないわけねぇだろ――でもよ、最近は……いやいや、なんでもねぇ」


「この村の店は遅くまで開いてるんだな」

横からピエッチェが尋ねた。花屋がフンと鼻で笑う。

「なんにもねぇからな。せめて店でも開けとかなきゃよ。他にやることもない」


「朝も早いのか?」

「いや、どこの店も昼過ぎからだ。山の影で朝陽は拝めねぇ。明るくなるのが遅いからな。みんなゆっくり寝てる――花籠はこれでいいか?」

出来上がった花籠を、花屋がクルテに渡す。


 赤い革袋から(かね)を出して花屋に渡したクルテ、

「代金はこれで足りる?」

渡したのは金貨一枚だ。約束の代金には充分過ぎる。


「金貨なんか渡されても困る。うちには釣りがない」

「そう。だったらお釣りは要らないわ――行きましょう」

そう言うとクルテは店の出口を向いて、ピエッチェの腕を引いた。


「おい! ちょっと待て!」

憤慨したのは花屋だ。

「なんだ? 施しのつもりか? だから金持ちは嫌いだ。馬鹿にするな!」

クルテが渡した金貨を投げつけてくる。咄嗟にそれを受け止めたピエッチェ、

「すまないな。そんなつもりはないんだ。そう怒るな」

花屋を睨みつける。そして

「銅貨はないのか?」

とクルテに問う。


「あいにく、今あるのは金貨だけ」

クルテの返答に『この嘘吐きが』と思うが、

「だったらマデルに借りてこい。俺はここで待ってる」

金貨をクルテに渡してピエッチェが言った。クルテはプッと頬を膨らませたが、何も言わず花屋から出て行った。


「許してやってくれ。世間知らずのお嬢さんなんだ」

ピエッチェが花屋に話しかける。花屋はチラリと見ただけで何も言わない。けれどピエッチェは気にもせず続けた。


「なんにもないって言ってたけどさ、宿が三軒もあるってことは、宿泊客が来るってことだよな……そのお客って、何を目的でここに来るんだ?」

花屋が軽く舌打ちをする。面倒(くせ)えとでも思ったのだろう。


「働きにくるのが居るんだよ。ソイツらのための宿さ。安宿はね」

「ってことは、俺たちに勧めたほうの宿は?」

「そっちは働かせるほうの宿」


「なんだ、働かせるほうもこの村の人間じゃないんだ?」

「あぁ、村の人間でもないくせに、村を仕切ってら。胸糞(わり)い」

「なるほど、あんたが金持ちを嫌ってるのはそのせいか?」


 ん? と花屋が気まずそうな顔をする。

「だってよ、この村の土地を使ってヤツラは儲けてる。しかも利益が村に入るわけでもない。宿をやってるのもその『働かせてるほう』だからな」


「そいつら、村に何か迷惑かけてるのか?」

「そういうわけじゃないけどよぉ――あんた、ザジリレンの人間だよな?」

花屋が急に声を潜めた。なんだろうと思いながら、ピエッチェも声を潜める。

「あぁ、こう見えても以前は騎士だった。怪我をしてやめたけどな」

すると花屋の素っ気ない態度も変わった。話すのもイヤだって感じだったのが、(すが)るような表情を見せる。

「だったらあんた、王宮にコネがあるんじゃないのかい?」


「コネって言えるほどのもんじゃないが、それなりの身分の貴族とも知り合いだ」

「あんただって貴族なんだろう? まぁ、それはどうでもいいけどさ――その貴族は信用できるか? 不正を働かない、見逃さない、そんな人かい?」

花屋を改めて真っ直ぐに見るピエッチェ、

「この村で、何か不正が行われてるのか?」

怒りで声が震えそうなのを抑えて言った。


「そんな怖い顔で俺を見るなよ。俺は加担してない……いや、少しは加担してるのか。この村が夜遅くまで店を開けてるのはソイツらのためだからなぁ」

「んーー、その連中、夜になると何か始める?」

「そうなんだよ、夜になると(こぞ)ってどこかに行ってる。で、この村に陽が差す前には戻ってきて、昼間は宿から出てこない」


「それは安宿の連中だけ? って言うか、今の話だと、宿と言うより寮なんじゃないのか?」

「寮って銘打っちまったら、お国に申請しなきゃなんない。そんな法があるって知らないのかい?」

「もちろん知ってる――三十人以上雇っての事業は申請しての許可制だ。ってことはさ、安宿には三十人以上いるってこと?」

「全部で八十人くらいは常時いるかなぁ」


 ザジリレンに限らず近隣諸国にも似たような制度がある。確かローシェッタでは雇い入れ人数が五十人以上だ。主な審査はその人数を雇い入れて、きちんと給料を払える財力があるかどうか……諸国の中で最初に始めたのはザジリレン、建国の頃だ。カテルクルストの発案だと言われている。


 諸国による国盗りの騒乱が治まると騎士ならともかく、下級兵は職を失った。カテルクルストはそんな下級兵たちに職を斡旋したが、中にはまともな職に就くことを拒んだ者もいた。


 できたばかりの国の治安は良いとは言えず、警備隊を組織するもののなかなか追いつかない。そして事件は起こった――人が住み始め、やっと体裁が整ってきた小さな村が野盗の群れに襲われ全滅したのだ。なんとか逃げ延びた村人が最寄りの役場に駆け込み警備隊が派遣されたが、当然いつまでも野盗がいるはずもない。無残に殺された人々、(おんな)どもは凌辱された形跡もあった。家々は壊され、家財や食料など利用価値のある物は持ち去られていた。


 よくよく調べると屍の数が村の人口と一致しないことも判った。足りないのだ。野党に連れ去られたのか、本人の意思でどこかに逃げたのかは不明だった。


 警備隊は野盗のあとを追ったが見つけられない。そんな中、最初の村の隣の村が襲われる。結果はこの時も同じだった。


 報告を聞いたカテルクルストは、警備隊長に訊ねている。

『近隣の村はさぞかし怯えていることだろう。村を捨て、別のところに移住する動きがあるのではないか?』


『国王がお(めい)じになり、報奨金まで出して作った村です。放棄できるはずはございません』

警備隊長はそう答えたが、カテルクルストはこれを信じなかった。だが、警備隊長が嘘を言っているようにも見えない。


『では、新たにできた村は繁栄に向かっているのだな? 一番手はどこだ?』

『ニョロスと言う村でございます。他の村と違って、村長が村人全員を雇って農耕をさせております。収穫は平等に分けると言う事で、その村に移住を希望するものも多いようです』

『それでその村は、移住希望者を受け入れているのか?』

『今は手が足りているとのこと。もっと増収が見込めるようになってからにしたいと村長は言っているそうです』


 二つの村を全滅させた野盗を放置するわけにはいかないと、カテルクルストは警備隊を増強することにした。重臣たちの反対を押し切って、五十人程度だったものを一気に二百に増やした。

『我がザジリレンは都市と言えるほどの街もなく、村の数も少ない。だが、それは今だけだ。いずれ街ができ都市になる。警備隊もいくつかに分けて各地に置くことになるだろう。そうなると二百でも足りなくなる』

将来を見据えた計画だった。


 そしてその二百を引き連れてカテルクルスト自ら(くだん)の村に向かった。村長が村人全員を雇い入れているニョロス村だ。

『村の運営方法が画期的である。ぜひとも参考としたい』

名目は討伐ではなく視察だった。警備隊を引き連れての視察など聞いたことがないと重臣たちは言ったが、カテルクルストは無視して決行した。


 ニョロスの村長は温厚な人柄だった。笑顔を絶やさず村を案内する村長の様子に、警備隊の隊長が言った。

『この村長だからこそ、村人もついてくるのでしょうな』


 村の家々を眺め、畑を見て回った。一通り終わるとカテルクルストが言った。

『家の中を見れば暮らしぶりも判ると言うもの。村長、おまえの家は除外してもいい』


『村人は総出で畑仕事、見てきたばかりではありませんか』

住人が留守中に家を覗くのはいかがなものかと村長は難色を示すが、警備隊員は構うことなく家の扉を開けていく。


 ほとんど留守だが中には女がいる家もあった。突然入ってきた見知らぬ男たち、蒼褪めて怯える女を村長が『何もしないから安心しろ』と宥めた。それを横目で見て、カテルクルストは次の家へと向かう。ほどなく全ての家を見終わった。


『さて村長。話しを聞かせて貰おうか?』

カテルクルストが村長に向き直る。


『いったい何をお聞きになりたいのやら? このようなやり用は、いくら国王と言えど勝手が過ぎはしませんか?』

と、ここで村長が気付く。警備隊の人数が減っているのではないか? 確か総勢二百と言っていた。だが今、王を取り囲むのはせいぜい十人だ。


『聞きたいことは幾らもある――畑ではみなで雑草を取り除いていたな。この時期ならそろそろ何かしらの収穫があっていいはずなのに、生えていたのは雑草だけだったのはなぜだ?』

『それは……あの畑は開墾したてでこれからなのです』


『男の人数に対して女が少なすぎはしないか? 女は全員うら若く美しい者ばかりだった。そしてこの村には子どもがいない。なぜだ?』

『募集をかけて作った村です。畑仕事と聞けば、女より男が集まっても仕方ない。子がいないのは、一緒になりたての夫婦者しかいないから。女が美しいかどうかまで知ったことではありません』


『女はすべて誰かの妻か? 若いのだから夫とともに畑仕事に(いそ)しみそうだが?』

『そこは夫婦の問題でしょう?』


『畑で働いている男どもだが、見るからに屈強な者が揃っていた』

『雇い入れるのにそんな男を選んだからです』

『みな働き者か?』

『もちろん! そうでなければ雇いません』

なるほど、とカテルクルストが笑う。


『家を見て回っている間に、畑の様子を見に行かせた』

『えっ?』

『草むしりなんかやめて談笑していたそうだ』

『うっ……たまたま休憩していただけでは?』


『案内されていない場所もくまなく見て回らせた……見せて貰った場所以外に畑はなかったそうだ』

『それは……』

『どうやって生計を立てている?』

『それはわたしの蓄えを、身銭を切って彼らを養っているのです』


『ほう、それは奇特なことだな……ところで、警備隊を畑に行かせた。今頃、男たちは縄を打たれているだろう。近隣の村を全滅させたのはおまえたちに違いない』

『何を根拠に!』

蒼褪める村長、カテルクルストが溜息を吐く――

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