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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
13章 永遠の刹那

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「入るとすぐ階段、しかも古めかしくってボロボロ……果たして王太子さまは下りる気になってくれるかな? 下りるのに同意しなきゃ、キャビンとリュネに魔法を使ってくれないよね?」

考え込むクルテ、ピエッチェも地下道を覗き込む。地面にぽっかり空いた四角い穴の一辺が階段になっていた。


 大きめの石を積み重ねた階段は、足を踏み入れただけで崩れそうだ。それが穴のずっと先まで続いている

「どれくらい下まで階段なのかな? ちょっと見てみるか……」

ピエッチェの呟き、同時に地下道の中が明るくなった。クルテがフフンと鼻を鳴らす。


「珍しいね、ピエッチェが基礎魔法を使うなんて」

「いちいちおまえに頼むのも面倒だ」


 魔法で照らされた階段は、かなり先まで続いている。しかも曲がり角があって、その先がどうなっているのか、入り口からは判らない。

「仕方ない、下りて行くか」


 森の女神が教えてくれた地下道なら、危険はないはずだ。だが念のため、慎重に足を踏み出した。なるほど、ボロボロなのは、そして凸凹なのは見かけだけだ。踏み込むとそこは平面で、しかもしっかりしていた。

「あと問題なのは、どこまで階段が続いているのか。そしてキャビンが通り抜けられるのか、だな」


 空間の大きさを確かめながら降りて行く。キャビンを浮かして移動させられるほど広くなければ使えない。入り口の幅には余裕がありそうだ。天井の高さは? キャビンが潜れるほどあるか?


「いっそ、キャビンをサックに入れちゃう?」

ピエッチェの後ろでクルテがポツンと言った。ピエッチェが振り返る。

「そんなことができるのか? できたとしてその魔法、ラクティメシッスとマデルに知られても大丈夫なものなのか?」


「きっと大いに怪しまれるよね」

苦笑するクルテ、

「じゃあ、却下。おまえに危ない橋は渡らせられない」

迷いもせずに答えたピエッチェ、前を向いて先へと進む。


「なかなか底につかないね」

クルテの声、

「だがキャビンは通せそうだ。天井は下がるにつけて高くなる――しかし、本当にトロンバに辿り着くのかな?」

ピエッチェの返答に、クルテが上を見る。

「天井、木の根だ」


「木の根? 土をどこかに退()かしただけか?」

「どこか近くのはず。わたしたちがトロンバについたら埋め戻すって言ってた」

「埋め戻す?」

「うん、とっくの昔に崩壊してたのを、土を退かして通れるようにしたっぽい」

「女神がってことか……だったら、必ずトロンバには行けるってことだな――あれっ?」

角を曲がったピエッチェが足を止めた。

「この先は平坦だ。それに……風が吹き込んできた」


「もうすぐ出口ってことだね――灯りの魔法を解除して」

クルテに言われるより早く魔法を解除したピエッチェ、周囲は薄暗くなったが前方から光が差し込んでいる。

「あれが出口だな。ってことは、ほぼ階段だ。なんだかんだで出口まで来ちまったな。まぁ、いいか。出口まで確認してきたぞって偽りなく報告できる。あとはラクティメシッス頼みだな……戻るぞ」


 ところがクルテ、

「今、着いたばかりだよ?」

と動く気配がない。


「うん? 外の様子も確認したほうがいいか?」

「ううん。ちょっと休もうよ」

「なんだ、疲れた?」

「どうしてこの地下道を見付けたのか、ラクティメシッスになんて言うか考えてから戻ったほうがよくない?」


「偶然見つけたってことで問題ないんじゃ? 何か理由があったら、却って不自然な気がする」

「そっか、それもそうだね――じゃあ、疲れた。すぐにあの階段を上るのはイヤ」

階段を腰かけ代わりにして座り込んだクルテ、最初から素直に言えばいいのにと思いながらピエッチェも隣に座る。嬉しそうな顔で(しな)れかかってくるクルテ、ピエッチェが肩に腕を回す。


 軽く息を吐いてからクルテが言った。

「覚えてる? 封印の岩を初めて見た時、この山脈はあの滝に隠された洞窟がある山に続いているって教えたこと」

そう言えばそんなことを頭の中に言ってきたっけ。


「とうとう帰ってきたって感じてるのはわたしだけ?」

「いや、俺だって感じてる。さっき、気付けば大きく息を吸い込んでた。ザジリレンの空気だって思ってた」

「そっか、カティにとっては〝ザジリレン〟なんだよね」

「うん? おまえには違うのか?」

カッ()()()()()()ード()がすぐそこだって思った。連なる山はカッテンクリュードにも繋がってる」


「ん? あぁ、そうか。おまえ、生まれはコゲゼリテだけど、グレナムの剣に封印されて七百年もカッテンクリュードに居たんだったな。懐かしく感じても()しくないな――あれ? 封印されてて外界とは遮断されてたんじゃなかったか?」

「そうだね。だけど、『目』と『耳』を貰った。カテルクルストがくれたんだ」


 またカテ()ルク()()スト()か……しかも目と耳を貰ったってのは、どんな意味だ? それに、随分と親密そうだな。

「なぁ、おまえ、カテルクルストとどんな関係だったんだ?」

ピエッチェの嫉妬をクルテが笑う。

「妬かれるような仲じゃないよ。心配しなくていい。きっとカテルクルストはカティを信頼してくれる」


「なんだよ、それ?」

「もしここにカテルクルストが居たら『ザジリレンを建て直せ。王家が蹂躙されたままでいいはずがない』ってカティに言う……そろそろ行こう、あんまり遅いとマデルが心配するし、トロンバにつくのが夜になる」

「おい?」

ピエッチェの腕からクルテがそっと抜け出して、階段を上っていく。


 クルテが質問に答えないのはよくあることだ。きっと答えられない理由があるのだろう。だけど、それなら匂わせるようなことは言って欲しくない……釈然としないまま、ピエッチェも階段を上り始めた。


 別れた場所に戻ると、ラクティメシッスがイライラしていた。

「かなり遠くまで足を延ばしたようですね――で、山は下りられそうですか?」

不機嫌を隠しもしない物言い、普段のんびり構えているのはやっぱり見せかけだとピエッチェが思う。実は底意地の悪いヤツなんじゃないのか? なんとなくジランチェニシスを思い出した。おおかた、俺とクルテがみんなを裏切って、二人で行ってしまったのではないかと気を揉んでいたんだろう。


 だが、それは憶測で証拠があるわけでもないし、ここで揉めるのは愚鈍すぎる。ラクティメシッスの不機嫌を不快に感じていると顔に出すこともなく、ピエッチェが言った。

「地下道を見付けたんだ――しっかり下まで足を運んで確認してきた。安全に山を下りられる」


「地下道? そんなものがあったんですね。でも、こんな森に?」

「かなり古い物だ。あの断崖は登れそうもないからな。目の前の森の恵みを手に入れるために作ったのかもしれない。だけど何らかの事情でその必要もなくなったんだろう。使われなくなって、かなり経っていそうだった。放棄され、忘れられているんだと思う」


「長年使われてないってことですか? そんな地下道は、それこそ崩落の危険がありそうです」

危ぶむラクティメシッス、ここでクルテが

「あれは魔法で作られたもの。見た目は古くなっていったようだけど、機能は完成当時のものが維持されてる」

口を挟む。

「だから見た目はボロボロだし、足元だって不ぞろいの石が積まれているだけだから歩きずらそうに見える。でも、実際に階段を下りてみるとちゃんと平面になっていて足を取られる心配はないし、劣化している場所もなかった――そうだよね?」


 クルテに話しを振られたピエッチェが、

「ヘンだと思ってたんだ。下りて行った感触が見た目とまるきり違ってた。あれって魔法のせいだったのか」

魔力が弱いことになっているピエッチェ、クルテが言うまで気が付かなかったかのような芝居をする。クルテと打ち合わせ済みのことだ。

「階段の使用にはなんの支障も感じなかった。あれなら安心していいと思う」


 二人を疑うわけではないけれど、魔法でキャビンを降ろせるかどうかは見てみないと判断できないとラクティメシッスが言い、取り敢えず行くことになった。


 なんの目印もない森の中を迷わず進むピエッチェとクルテを不思議がるラクティメシッス、クルテが笑って木を指さす。


「そこの枝を見て」

「あぁ、折って目印にした? そっか、迷子になってるんじゃないかと心配することはなかったようです」

微笑むラクティメシッス、イライラしていたのはピエッチェたちを心配してのことだったのか。


 俺は少し、ラクティメシッスを警戒し過ぎているかもしれない……ローシェッタはザジリレンにとって兄弟国とも言える友好国、そのローシェッタの王太子がザジリレン王に悪意を持つとは考えにくい。クルテの件で俺は感情的になってしまっている。


 地面にぽっかり空いた四角い穴に

「思っていたよりもずいぶんと大きいんですね」

ラクティメシッスが感心する。

「ああ、これが道標……んー、読みずらいけど『トロンバ村』って書いてありますね」


 地下道への入り口は幅がピエッチェの背丈の二倍、奥行きはその倍程度、四辺をぐるりと囲む低い柵には獣・魔物除けの魔法が施されている。

「ホント、凄いわねぇ……」

マデルが穴の階段と反対側から下を覗き込む。隣でカッチーも同じように下を見ている。

「えぇ、かなり深さって言うか、高さがありそうです」


 マデルの、カッチーとは反対側の隣に立って穴を見ているのはオッチンネルテ、ピエッチェはラクティメシッスと一緒に階段入口の方で何か話し込んでいる。ピエッチェの隣でその話を聞いていたクルテが、聞いているのに飽きたのかカッチーの隣に移動した。


「マデル、気を付けて。魔物や獣が中に入ることはないけど、落ちたら下は石の階段が続いてる。大怪我するかも」

カッチー越しにクルテがマデルに声を掛ける。

「あれ? クルテさん。俺の心配はしてくれないんですか?」

カッチーがケラケラ笑う。


 恐々と身を乗り出して覗き込むのはオッチンネルだ。よくよく見ようと思ったのか?

「下までかなりありそうですね。まったく見えませんよ――あっ!」


 言わんこっちゃない、バランスを崩して前のめりに倒れ込む。咄嗟に隣にいたマデルが支えようとして手を出せば、その手に縋るオッチンネルテ、

「えぇえぇっ!」

支えきれずにマデルの身体が崩れていく。


「マデルさんっ!」

カッチーがマデルの手を摑まえた。マデルの身体は柵を越え穴の中、カッチーが捕まえて無ければそのまま落ちていた。だが宙づり状態、クルテの手が、カッチーが掴んでいるマデルの腕に伸びた。


「マデル!」

穴の向こうにいたピエッチェが気付いて叫び、ラクティメシッスが蒼褪める。穴に落ちるマデルの勢いで、安全な場所に弾き飛ばされたオッチンネルテはその場で腰を抜かしガタガタと震えている。


 駆けつけたピエッチェが、クルテ・カッチーとともにマデルを引っ張り上げようとするがままならない。

「ラスティン、なにボーっとしてる! 魔法を使え!」

ピエッチェが大声で怒鳴った。

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