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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
13章 永遠の刹那

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15

 ピエッチェの疑問はすぐに解ける。

「クルテったらね、ここじゃ日の出が見えない、朝陽が差し込まないってガッカリしてたわ」

マデルが笑う。

「日の出を見ると元気が出るんですって。ピエッチェ、知ってた?」


「ん? まぁな」

クルテが手渡してくれたカップを傾けて、ピエッチェが答える。そしてコゲゼリテで女神の森で目覚めた村人たちと村に帰った時のこと思い出していた。


 森と村の境目で、不意に飛び上がったクルテ、同時に差し込んできた朝陽――クルテの髪がふわっと広がってキラキラと煌めいた。タンと着地し振り返ったクルテがニッコリと笑う。その美しさにピエッチェの心臓がドキリと音を立てた……自覚できなかったが、あの時から俺はクルテに惹かれていたのかもしれない。


「スープのほかには何を作る?」

クルテがマデルに訊いている。森の中でなければ平和な日常を見ている気分だ。

「何を作ろうか? 簡単なものがいいよね。そろそろ他の三人も起きてきそうよ」


「簡単なものって?」

「そうね、買ってくれた材料で作るなら……」

マデルが食材を確認する。

「あら? また調味料を忘れてない? 塩がないわ。どうしよう、せっかくスープを作ったのに」

どうやらスープの味付けはこれからだったようだ。


「調味料ならカッチーが持ってる。塩と胡椒、それに砂糖やバターにハチミツなんかも……前に買って使い切ってないのがあるはずだ」

ピエッチェが立ち上がり、空いたカップをクルテに渡す。

「飲み終わった。お替りを頼めるか?」

それから、寝ているカッチーを起こしに行った。


 カッチーを起こすピエッチェの声で、ラクティメシッスとオッチンネルテも目覚めた。オッチンネルテはすぐに動いて、マデルに何か手伝えることはないか聞いたが、

「何を作るか迷ってるのよねぇ」

マデルが答えると、ラクティメシッスが

「スープがあれば充分ですよ」

横から口を挟む。


「ハチミツもあるようですし、昨日の残りの丸パンとマデル特製のスープで充分なのでは? あ、それに果物も食べましょう」

情けない顔になったクルテに気付いて、ラクティメシッスが慌てて言い足した。


 面白くないのはピエッチェだ。ハチミツはあるにはあるが、カッチーが荷物の中から取り出している(さい)ちゅう、なぜあると知っている? 寝たふりをして聞き耳を立てていたに違いない……


 昨日と同じようにキャビンは木立の上を運んだ。もちろんラクティメシッスの魔法だ。リュネの()づなはカッチーがひいているが、尻尾を振り回してご機嫌な様子のリュネは、カッチーの歩調など気にしないでどんどん先に行きたがる。カッチーは()()引っ張られ気味だ。


 ラクティメシッスは『そこには木の根が飛び出している』だのと、いちいち手を差し出してマデルを手助けしようとするものだから煩がられている。クルテはピエッチェの傍に居るものの、時おり野鳥や花を眺めて立ち止まる。その(たび)ピエッチェに『おいていくぞ』と言われ、慌てて歩き始めていた。オッチンネルテはメンバー全員を気にしながら、ピエッチェの後ろについていた。


「この辺りが山頂かな?」

ラクティメシッスが立ち止まったのは傾斜が緩み、進行方向がほぼ平らになった場所だった。

「木立が邪魔をして、どこに居るのかよく判らないのは困りものです」


「方向はあっているはずだ。下り始めれば、周囲も見えるようになるんじゃないかな?」

「まぁ、いざとなったら木の上からろす手もあります」

「木に登るのか?」

「無理そうなら、誰かをキャビンと同じように吊るしますよ」

とにかくいったん休憩することにした。


 水を入れた革袋はそれぞれ持っている。カッチーが背負っていたサックから菓子の袋を出して、思い思いのところに腰を下ろした五人に配り始めた。

「クルテさんが選んだレモンケーキです。型焼きケーキにレモン風味のアイシングをコーティングしてあります」

クルテが、

「ローシェッタのお菓子はもうしばらく食べられない。ザジリレンのお菓子はローシェッタより甘さ控えめでマデルたちは物足りないかもしれないよ」

と言えば、マデルが

「じっくり味わって食べなきゃね」

と微笑んだ。


 それを聞いていたピエッチェが、

「なんだったら、俺の分も食うか?」

とマデルに言ったのに

「食べるっ!」

クルテが答え、ラクティメシッスが

「マデルにはわたしの分をあげるからいいです」

怒ったように言った。見ていたカッチーとオッチンネルテが苦笑する。


 休憩を終え、森の中をまた進む。するとラクティメシッスの見立て通り、地面が下り斜面を呈してきた。

「進むのに慎重になった方がいい」

クルテがピエッチェを止める。

「もう少し行けばトロンバの村からこちらが見えるようになる。木の上にキャビンがあったら騒ぎになるよ」


「それもそうだな……俺とクルテで先行する。トロンバの様子を見て、キャビンをどこで降ろすか見当つけて戻ってくる」

カッチーが

「俺も行きますか?」

と訊いてきたが、

「下りのほうが体力を使う。それに人数が多いほうが下からも気付かれやすい」

と断った。クルテと脳内会話で打ち合わせ済みだ。


 クルテに従って下っていく。やがてクルテが足を止めた。

「この先は急斜面になってる。歩いては降りられないけれど、下が見渡せる。間違っても転がり落ちるなよ」


「あぁ、気を付ける――だけど、もし落ちたらおまえが助けてくれるんじゃ?」

「無理」

「なんで? ネネシリスに追い詰められて――」

「あの時の力はもうない」


 ピエッチェがハッとする。姿が消せなくなったとクルテは言っていた。姿を変えることも、宙に浮くこともできないってことか。でも引っかかる。あの時の力はもうない?


「クルテ!」

先に行ってしまったクルテをピエッチェが呼び止める。

「おまえ、魔力が弱まったってことなのか?」

するとクルテが振り向いて

「その分、カティの魔力が強まってる」

鼻で笑う。


「ご本人は気がついてないみたいだけどね」

「いや、待て、どういうことだ?」

「わたしが人間に近付いてるってことだよ」

「あ……?」


 戸惑うピエッチェを置いて、再びクルテが歩き出す。何をどう言えばいいのか迷いながらピエッチェが後ろに続く。


 前方が明るくなり、木立の途切れが見えるとクルテが止まった。

「もうちょっと行けば下が見える。木の根が避けてくれるけど、地面までは言うことをきいてくれない。崩れるかもしれないし、滑べるかもしれない」

そこからは僅かな距離だが慎重に進んだ。そして目の前が開けた。そこは……ザジリレンだ。


 連なる山々はローシェッタの比較的なだらかな丘陵とは違って険しく、山岳と呼ぶほうが当たっている。いくつもの尾根があり谷がある。谷を繋げるように曲がりくねった道、その先に行きつくのは王都カッテンクリュード……大きく息を吸い込むピエッチェ、だが、感慨に耽ってばかりはいられない。


「あれがトロンバの村だな」

村があるのはほぼ真下、木は生えているものの絶壁に近い。村からは真上を向かなければこちらが見えなさそうだ。


 トロンバから延びる道もピエッチェたちが立っている真下を通り、山際に沿って見ている。その山は今いるところと同様、木立があってもかなりの急斜面だ。


「キャビンはおろか、俺たち自身、降りられないんじゃないのか?」

ピエッチェが弱気になる。


 チラリとクルテかピエッチェを見た。

「ラクティメシッスの魔法でも無理かな?」


「それは考えなくもなかった。だが、どこに降ろして貰う? 道は、いつ誰が通るか判らない。それに人や馬やキャビンやらが宙に浮かんで下降していけば村人だって気が付く。それなりにゆっくり降ろさなくちゃ、怪我をする高さだ」

「村から死角になるところは……なさそうだね」

横を見ると山肌がずっと続いて見えた。


 チッとクルテが舌打ちした。

「仕方ない、この森の女神を呼びだすかな」


「呼び出してどうするんだ?」

「地面に穴を掘って貰う」

「女神ってそんな事までできるのか?」

「女神にはできないけど、モグラだのアナグマだの、穴掘り名人はどこの森にでもいる」

「しかしそれって、物凄く時間がかかるんじゃ?」


 ピエッチェの心配をよそに、クルテは森の奥に戻って行く。きょろきょろと見渡していたが一本の大木に触れると呟いた。

「森の女神を呼べ」

すると枝がブルブルと震え、木の葉がざわざわと音を立る。


 そのままクルテは動かない。木は枝を揺らし続ける。いったいどうなるんだろうと見守るピエッチェ、女神はどこから現れる? あたりを気にしているが、いっこうに気配を感じない。


 じりじりと心は焦るが、ピエッチェにできることはない。クルテは集中しているのか完全にピエッチェをシャットアウトしている。心で話しかけても、無視されていると言うより届いている感触がない。クルテは木の幹に触れたまま()じろぎ一つしない。このまま木と同化してしまいそうだ。


 と、いきなり枝の揺れが激しくなった。嵐に揺さぶられているかのようだ。

「ん!?」

ピエッチェが足の裏に振動を感じる。地面も揺れているのか? そしてカツンと何かが外れたような気がした。それとともに木の揺れも治まり、クルテが大木から手を離す。


「地下道があるって教えてくれた」

「地下道? って、木に触れることで女神と話してた?」

「そうだよ――それで、入り口には道標が置いてあるから勝手に探せって」

「勝手に探せって……この広い森で、なんの当てもなく?」

「言っただろう? 女神は意地悪なんだよ」

クルテが苦笑する。


「でもまぁ、この近くにあるはずだ。出口はトロンバの村にほど近く、すぐそこが下の道、木の陰で道からは見えない場所……ブッシュを掻き分けて出ることになるね」

「そこから道にはどう出る?」

「気に隠れて様子を窺い、誰もいないのを見計らって出るしかない――とにかくまずは地下道を探すよ」

またもクルテがピエッチェを置いて動き出す。まぁ、森ではクルテに従っていれば間違いない。


 地下道の入り口はすぐに見つかった。ご丁寧にきっちり木枠で囲ってある。木の杭で立てられた木板の道標には一見何も書かれていないように見えるが、よくよく見ると『トロンバ村』と書かれている。経年劣化でペンキが掠れているらしい。そう思ってみると囲っている木枠も道標もボロボロだ。


「これって女神が作った?」

驚くピエッチェ、

「ミテスクの女神は凝り性なんだろ……ん、人間が作って放置したってのが正解っぽい」

それはクルテの推測か?


「この森はミテスク?」

「そうだよ、道の向こうがトロンバになる」

「山が連なってるけど、尾根伝いに進むとどうなるんだ?」

「境界は一応決まってる。でも入り乱れてるところもある」


 ピエッチェに受け答えしながら、クルテは地下道を調べていた――

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