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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
13章 永遠の刹那

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14

 カッチーが

「あれ?」

と呟き目を覚ます。女神が消えてすぐ、クルテが揺り起こした。

「俺、なんで眠っちゃった?」


 「少し休憩してたんだよ。そろそろ行こう、マデルが心配してるぞ」

ピエッチェが微笑んで答えた。リュネがこちらに気が付いて騒ぎ始めている。マデルたちはすぐそこだ。


「あれ? なにかが近づいて来たんじゃ?」

「夢でも見たの?」

クルテがクスッと笑う。


「えええっ!? だって、ねぇ、ピエッチェさん?」

「うん? なんの話だ? 寝ぼけてないでしっかりしろ」

カッチーには気の毒だが、ピエッチェもクルテに話を合わせる。森の女神だの女神の娘だの、カッチーには話せない出来事のてんこ盛りだ。誤魔化すしかない。


 納得できないようだが、ピエッチェとクルテが歩き始めると、カッチーも黙って歩き始めた。

「あっ! あの(いなな)き、きっとリュネだ!」

カッチーの耳にもリュネの嘶きが聞こえるくらい目的地が近づいた。

「俺、先に行ってもいいですか?」

駆けだしそうな勢いのカッチー、周囲の気配を窺ってからピエッチェがクルテを見ると、クルテも頷いた。


「いいけど、転ぶなよ。木の根に足を――って、最後まで聞いてから行けよ」

カッチーはピエッチェの最初の一声で駆けだしていた。


(大丈夫。カッチーの足を取るなって木たちにお願いしたから)

ピエッチェの頭でクルテの声がした――


 キャビンの周囲はラクティメシッスの魔法で明るく照らされていた。思った通り居残り組も急激な睡魔で、ついさっきまで眠り込んでいたらしい。


「何かの力が働いたのには気が付いたんですけどねぇ……気が付いた時には遅すぎたみたいです。こんな不覚は初めてです」

眠らされてしまえば、そのあとは何も抵抗できなくなる。敵意を持った相手なら、今頃は命がなかっただろう。


「ネムリグサの花粉でも飛んできたのかな?」

クルテが惚けて呟いた。

「あぁ、そうかもしれませんね。でも、この辺りにネムリグサは自生していないはずなんだけど」

納得したのかしてないのか、相変わらずラクティメシッスは食えない。


 (たきぎ)を集めるのも組み上げるのも済んでいた。日が暮れる前に準備しておいたのだろう。組んだ薪にラクティメシッスが魔法で火をつけた。


「火をつける前に少しキャビンで休憩しようって、三人ともキャビンの中にいたんですよ。眠ったのが座席の上で良かった」

ラクティメシッスが楽しそうに言った。


 コイツ、やっぱりネムリグサなんて信じちゃいないとピエッチェが思う。キャビンの中に花粉が入り込むとは考えにくい。クルテに話しを合わせたのはなぜだ?


「夕食はどうするの?」

マデルが鍋に水を入れて焚火に作った(かまど)に置いた。

「今から作るのは面倒だわ」


「その鍋はなんのために?」

ラクティメシッスが不思議そうな顔をすると、

「お茶が欲しいのよ」

お茶好きのマデルが笑う。


「パンを買ってきたから、夕食はパンで済ませましょう」

カッチーの提案に反対する者はいない。森で贅沢は言っていられないと判っている。クルテだけは

「一つでいいから、果物も貰っていい?」

カッチーにお伺いを立て、みなの失笑を買った。


 焚火の周囲に結界を張ったのもラクティメシッスだ。

「これで夜行性の獣や魔物を恐れずに休めます」

この森には夜行性の生き物はいないとは、ピエッチェもクルテも言いやしない。ラクティメシッスは地面を平らに(なら)してもくれてた。これでゆっくり体を伸ばして眠れますね、とマデルに向かってニッコリ笑んだ。


 食事を終わらせてからピエッチェが配ったのは耳栓だ。カッチーに気付かれないようこっそり配る。ラクティメシッスだけは不思議そうな顔をしたが、隣にいたマデルが耳打ちすると『ふぅん』と鼻を鳴らしていた。鼻を鳴らしただけでカッチーを見もしなかったのは、さすが気遣い上手のラクティメシッスと言ったところか?


 ピエッチェの予測通り、最初に寝入ったのはカッチーだ。すぐに(いびき)が周囲に響き渡った。

「なるほど、これなら耳栓が欲しくなりますね」


「昨日は済まなかったね。カッチーと同室になると判っていたら先に渡したのに」

ピエッチェがオッチンネルテに言うと、

「昨日はそれどころじゃありませんでした。お気遣いありがとうございます」

オッチンネルテが恐縮する。


 次に寝入ったのはクルテ、こちらはピエッチェに(もた)れてウトウトし始めたのを、ピエッチェが自分の足を枕にして横たえた。ムフッと嬉しそうな顔をするクルテに微笑むピエッチェ、複雑な顔で見ていたのはラクティメシッスだ。が、マデルの手前だからか、何も言わなかった。


 ラクティメシッスがピエッチェに話しかけてきたのはマデルがラクティメシッスの横で眠り始め、オッチンネルテもすっかり寝入った頃だった。


「眠らないのですか?」

ピエッチェはクルテの横に足を延ばして座り、毛布で包み込んだクルテの肩に手を置いていた。クルテは足の枕からは外れ、足にしがみついていた。


「寝るよ。あんたこそ寝ないのかい?」

「いや、寝ますが……少しお話したいと思って」

「雑談ってわけじゃなさそうだね。カッチーの鼾が邪魔で、落ち着いて話せないけどいいのか?」

「えぇ、大事な話です。だけどできれば他の人には聞かれたくない」

「なるほど、みんな耳栓をしている。いいチャンスってわけだ?」

ピエッチェの指摘にラクティメシッスが苦笑いし、立ち上がる。少しでも近づいて話し易くしようと言う事だろう。案の定、ピエッチェの横、クルテとは反対側に腰を下ろした。


「で、話しって?」

ピエッチェが溜息交じりに訊けば、

「思い当たることがあるのでは?」

と探りを入れてくる。きっとクルテのことだとは思うものの、ピエッチェもそうやすやすと相手の術中に(はま)る気はない。


「なんだろう? ザジリレンの国内情勢なら、今の俺には見当もつかないが?」

ラクティメシッスも苦笑いするが、

「お嬢さんのことですよ」

ここで腹の探り合いは無意味と判断したようだ。


「クルテのこと? そう言えばクルテ、お嬢さんって呼ばれてムカついてるみたいだぞ」

「そうだったんですか? じゃあ、なんて呼べばいいのかなぁ?」

「クルテ、でいいんじゃないのか?」

「クルテって、彼女の名前じゃないでしょう?」

「そうなのか? だとしても俺はクルテとしか聞いてないし、俺だってピエッチェじゃない」

「まぁ、そりゃあ、そうですが……」

口籠るラクティメシッス、ピエッチェがクスリと笑う。


「それで? アイツの名を知りたいわけじゃないんだろう?」

だらだらと遠回しに探られるのには嫌気がさす。どうせならズバッと訊いたらどうだ?


「いえ……彼女の正体を知っているのかな、と思って」

「正体? なんのことかな? クルテはクルテだ。この話、前にもしたな?」

「本当にただの魔法使いだと思っているんですか?」


「魔法使いでないとしたらなんだと言うんだ?」

「判りません――でも、人間じゃないのは判ります」

「人間じゃない? どこからどう見ても人間みたいだけど?」

「あぁ、そうでした。あなたは魔力がないんでしたっけ? それじゃあ、あなたの馬がただの馬じゃないことも知らない?」


「リュネのことか……実際は目にしていないが、マデルとカッチーから話は聞いている。だけどクルテが言っていた。ラクティメシッスはリュネの件は不問にしてくれるってね」

「えぇ、あの馬のことを騒ぎ立てるつもりはありません。彼女のこともです」

「彼女のこと? クルテは騒ぎ立てなくちゃならないような存在なのか?」

「えぇ……」

またもラクティメシッスが溜息を吐く。


「今のあなたに言っても信じて貰えそうもありませんが……彼女が人間でないのは確かです」

「ふむ。なんで俺が信じないと言い切るんだろう?」


「だって、彼女に夢中なのは言われなくても判ります。わたし自身、恋に夢中になった経験がありますから。恋しい相手のことしか目に入らない。他のこともすべて彼女に結び付けて考えてしまう。あの人のためなら命を落としても構わない。生涯ともに居たい――あなたも今、彼女に対してそんな思いを持っているのではありませんか?」

ラクティメシッスがピエッチェを見、その傍らに眠るクルテを見る。

「彼女も同じ思いのようですね。だから、あなたがただの一庶民ならわたしも何も言いません」


「俺の身分では、恋愛にも自由はないだろうと?」

「違いますよ。それを言ったらわたしにも自由がないことになる。心はどんな事をしたって束縛できるものではありません。たとえ自身に禁じたところで、惹かれるときは惹かれるものです」

「では、何が言いたい?」


「彼女と添い遂げるのは無理なこと。それをあなたが忘れていないかと案じています――彼女が人間ならどうにかなるでしょう。でも人間じゃなければどうにもできない。違いますか?」

「……人間じゃないと、決まったわけじゃないだろう?」

「決まっています。断言します」


「ラクティメシッス――人間でないと断言するなら、ではなんなのかをはっきりさせたらどうだ? 漠然と、人間じゃないと言い張るのは子どもじみているよ」

「ふむ……なんであなたに魔力がないのか? それが残念です。魔力があれば、こんなことを言わなくても済んだ」

ラクティメシッスが立ち上がる。


「わたしが言いたかったのはこれだけです。同盟国の王太子として、確かに忠告しました。あとはあなた自身が判断するしかない」

「あぁ、俺やザジリレンのことを心配してくれてるのは判っている。だからこその意見だってこともな。感謝している」


 元いた場所、マデルの隣に戻りかけてラクティメシッスが付け加えた。

「忘れないでください――もし困ったことになった時、わたしにできる何かがあれば遠慮なく言ってください。必ず助力します」

「あぁ、ありがとう。覚えておく」

言い足りなさそうな顔をしたが何も言わず腰を下ろし、ラクティメシッスはそのまま眠った――


 差し込む光の眩しさにピエッチェが目を覚ました時は、すでにクルテは起きだした後だった。やはり起きていたマデルと何やら笑いさざめいている。男どもは誰もまだ眠ったままだ。


「あら、目が覚めた? おはよう、早起きね」

上体を起こしたピエッチェに、クルテよりも先にマデルが気が付いた。ピエッチェに背を向けていたクルテが、マデルの様子に振り向いてニッコリ笑むとカップにケトルの湯を注いだ。今朝はケトルで湯を沸かしたようだ。鍋も(かまど)に置いてある。二人で朝食の用意をしていたのだろう。


「俺より先に起きてて、それはないだろう?」

「それもそうね――だけどクルテの早起きには驚いたわ。この子ったら夜明け前には起きてたのよ」


 そんな早くに起きて、いったい何をしていたんだ?

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