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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
12章 王の恋人

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19

 見る見る蒼褪める受付係、

「人が死んだ? 何かあると思ってたんだ!」

本気で(おび)えている。

「理由は聞かされてないんだけどさ、なんだか気持ち悪くってね。だって不自然でしょ? あれだけのスペースを無駄にしてるんだよ?」

震える受付係、シレッと言い足したのはクルテ、

「死人が出た部屋があるってのは噂だから、ホントかどうかは判んない」

怖がったくせに『そうなんだ……』と受付係は少しがっかりしたように見える。ソノンセカに娯楽はなさそうだし、客が殺到して大忙しってこともなさそうだ。退屈な毎日を送っているのだろう。


「会議室ってそんなに広いの?」

「いやさ、寝室はどれも二人用なんだけど、それにしては狭い。なのにあの会議室だけはやたらと広いんだ。寝室はさ、もともとは四人用だったのを二部屋に分けて、二人用にしたから狭いって話なんだけふどさ。会議室も改修して寝室にする予定だったけど、中止になったって聞いた。中止になってなきゃ、広めの部屋が四部屋は増やせたと思う」


「会議室は寝室の奥にあるって言ってたよね。どの寝室からでもその会議室には行けるんだ?」

「いや、直接行けるのは六室だけだ。だけど、その寝室以外にも封鎖されてる廊下もあるから、そこを使えば誰でも行ける……この建物、もともとはシスール大橋の(にん)の宿舎だったらしいから、全員集めて打合せでもしたんだろうね」


 ピエッチェがラクティメシッスを見る。

「記録では『跡地』に宿を新築したことになってるんですけどね」

難しい顔でラクティメシッスがボソッと言った。受付係の耳を避け、小さな声だ。どこがで役人が不正を働いた――ラクティメシッスが難しい顔になるのももっともだ。


 クルテは受付係と話し続けている。

「ねぇ、役人には内緒でその会議室、使わせて」


「えっ!?」

受付係が驚き、

「おいっ!」

ピエッチェが慌て、

「ふむ……」

ラクティメシッスが(うな)る。


「イヤ、だって……」

(ため)う受付係にクルテがニッコリ笑む。

「もちろん会議室の料金は支払う。利用できないことになってるんだから、その利用料は従業員で分けちゃえばいいよ」

クルテの提案を聞いて、ラクティメシッスがこっそりクスッと笑った。


「それって横領になるんじゃ?」

「あら、いいじゃない。今日は貸し切りなんでしょ? バレやしないわよ」

これはマデルだ。ニンマリ笑んでいる。脅しと色仕掛けの中間くらいの笑顔だな、とピエッチェが思う。


 マデルが賛成ならラクティメシッスは反対しないし、従業員の不正も問わないはずだ。もしも発覚したら『わたしが許可しました』とサラリと言い放ってくれる。それにしてもクルテのヤツ、予測通り興味を持ちやがった。ったく、しかたない!


「従業員は何人なんだ?」

ピエッチェが受付係に問う。


「五人だけど?」

「じゃあ、五人分の礼金を渡す。それで会議室を使わせてくれ。もちろん会議室の設備は大切に使う――で、部屋は五部屋、そっちもきっちり支払う。それでどうかな?」

「はぁ……でも、ずっと掃除してないし。てか、したことないがないし、入ったこともない」

「うん? それでどうして広いって判る?」

「見取り図があるんだよ」

なるほどね。


「じゃあ、掃除もこっちでやるよ。モップとバケツを貸してくれ。それにバレても問題ない。王家にコネがあるから揉み消す。安心していい」

「それって本当なんだろうね? 王家の誰と知り合いなんだよ?」

「王太子ラクティメシッスだよ」

マデルがニヤニヤして、

「そうよ、この人、王太子さまに信頼されてるの」

自慢げに言えば、受付係がマジマジとピエッチェを見た。それからほかのメンバーをざっと見渡してハッとする。


「あっ! 英雄ピエッチェ!?」

「えっ?」

「そうですよね? コゲゼリテでヤギ男を退治し、ベスクで大アリジゴクを退治したって評判の! うわぁ、噂通り! スラッと背が高くってなかなかの男前、髪はミルクティー色、目は暗い青、弟子の男の子と美女二人……お供を男女一人ずつ増やしたんですね! やっぱり女性のほうは美女、美女好きって噂も本当だ!」


 〝有名人〟に会えたと大興奮の受付係、いきなり態度を変えた。言葉使いまで一変している。ラクティメシッスが後ろに下がって、笑いを噛み殺していた――


 会議室はただの広い空間、真四角で何も置いてない。窓もなかった。そしてドアが七つ。六枚は寝室に、残り一つは廊下に出るドアだ。受付係も一緒に部屋に来て

「こんなふうになってたんだ」

寝室から会議室を覗いて呟いた。


「予備のテーブルとか椅子はないかな?」

ピエッチェが尋ねると、

「二人用のテーブルしかないけど、それでいいなら運んできます」

受付係が答える。


「うん、手間をかけて済まないね。六人揃って食事をしたいんだ。よろしく頼む」

「ちょっと事務所に行って誰か呼んできますから、待っててください。あっと、食事の用意をするようにも言ってきます――それと、会議室の鍵は全部同じですから。廊下にも出られるけど廊下の先は別の鍵で、そっちの鍵も必要ですか?」

どうやら、会議室に入るためだけの廊下は、二枚のドアで封鎖されているらしい。

「ううん、要らない」

答えたのはクルテだった。鍵を預かったのもクルテだ。


 受付係が行ってしまうとクルテが、まだ開けられていない六枚のドアを順番に開け始めた。

「ここが廊下だ。小さな部屋みたいだね」

最後のドアを開けてクルテが呟き、すたすたと入って行く。

「おいっ!」

慌ててピエッチェが後を追った。


 (はば)は両手を横にあげたくらい、細長い廊下は十歩ほどの長さだ。

「ここが元凶のようですね」

ピエッチェに続いて入ってきたラクティメシッスが重苦しい声で言った。

「でも、いったいなんの気配でしょうか? 魔物ではないし、魔法の痕跡とも違う。お嬢さん、判りますか?」


 どん詰まりのドアを眺めていたクルテがラクティメシッスをチラリと見た。

「さぁ? でもね、本体は別って気がする」


「本体?」

「そう、ここに本体はない。だから正体がぼやけてる。違うかな?」

クルテがピエッチェを見上げた。


 クルテをじっと見たが、

「さぁ? さっぱりだ。俺に判るはずもない」

ふいッと目を逸らし廊下室を出て行くピエッチェ、今度は慌ててクルテが後を追う。


 会議室に戻ると、宿の従業員がテーブルを運び始めたところだった。さっきの受付係のほかに四人、ってことは従業員総出でテーブル運びってことか。それぞれにチラチラとピエッチェを見ていて、噂の英雄をけんぶつに来たんだと判る。俺は見世物じゃないと思うピエッチェ、人違いだと言えばよかったと後悔するが今さら遅い。


 その場にいるのも気まずく、寝室を見て回った。四角い部屋の壁の三面にドアが二つずつ、一面は廊下室のドアだけ、宿になる前の会議室は三部屋に囲まれていたってことか――あれ? 廊下室の両側に空間があるんじゃないのか?


「窓がないね」

クルテが呟く。

「換気が悪そう」


「天井を見ろ」

ピエッチェがぶっきら棒に言った。どんどん機嫌が悪くなるのが自分でも判る。


「あぁ、通気口があるんだ」

クルテが上を見て言った。天井にはルーバーで塞がれた開口部があった。

「ってことはさ、通気口を使えばどの部屋にも行けるし、外にも出られる?」


「ルーバーが()め殺しじゃなければできそうですね」

やはりついてきていたラクティメシッスも天井を見上げる。嵌め殺しだろうが魔法を使えば(はず)すのは簡単だろう?


「きっと天井裏には(ほこり)が積もってる。六十年分の埃ってどれくらいなんだろう?」

とクルテが言えば、ラクティメシッスが答える。


「見てみたいですか?」

「ううん、遠慮しとく――でもさ、この建物、築六十年? 改修したとしても同じころでしょう? その割にはどこも傷んでないね」

「ね、わたしもそれ、ヘンだって思ってるんです」


 六室全部見たが、窓のある部屋はなかった。そしてどの部屋も、廊下に出るドアは会議室に繋がるドアの対面の壁にある。ぐるりと廊下に取り囲まれた一画ってことになる。


「さっき、見取り図があるって言ってたよな。見せて貰うことは?」

会議室に戻り、今度は椅子を運んでいた従業員に声を掛ける。受付係の男だ。

「はい、テーブルができたらすぐに持ってきますね」

嬉しそうに答える受付係に複雑な気分になったが、気にしないことにした。


 テーブルは全部で四台並べてあった。寝室で見た時は長方形のテーブルの短辺に向かい合わせで椅子が二脚だったが、長辺側に三客ずつ置いて六席作るらしい。足が邪魔にならないかと思ってテーブルの天板の下を覗くと、中央に支えがあるタイプのテーブルだった。さらにテーブルにはクロスをかけてくれた。


「なかなか快適なダイニングになりましたね」

従業員たちがいなくなるとラクティメシッスが椅子に腰かけて言った。

「礼を弾まなくてはなりませんね。この部屋の掃除も彼らがしてくれましたから」


 カッチーが、

「テーブルを運び込む前にモップを持って来たんで俺がやろうとしたんですけど、自分たちでやるほうが早いからって渡してくれなかったんです」

申し訳なさそうに言った。


 気にするな、とカッチーに言ってからピエッチェも腰かける。天井を見ると、通気口は二か所あった。クルテは通気口を気にしていた。何かあるんだろうか?


 クルテがピエッチェの隣に座り、

()、乾いた」

と見上げてきた。すかさずカッチーが、

「お茶、貰ってきますね」

部屋を出て行き、オッチンネルテがついて行った。


 マデルがクルテの対面、要はラクティメシッスの隣に座った。

「で、クルテ。なんでこの会議室を使いたかったの? それに死人が出たって、いったいなんの話?」

そうか、ボシェッタ爺さんがこの宿のことを話した時、マデルとクルテは店に居なかった。

「なんだ、マデルはラスティンから聞いてないんだ?」

クルテが怪死事件を手短に説明した。


 マデルに『なんで話してくれなかったの?』と(なじ)られたラクティメシッスが『余計なことを話してくれましたね』と言いたげにピエッチェを見た。話しちゃいないぞ、勝手に心を読まれたんだと言い訳したいができるはずもない。さりげなく目を()らしたピエッチェだ。


「だからさ、ボシェッタ爺さんのために何か判るといいなと思って。どうして友達が亡くなったのか、きっと知りたがってる」

「そっか。理由が判れば少しは慰めになるかもね。だけど、ボシェッタ爺さんの友達が亡くなった部屋は別なんじゃないかな?」

「そうだね、きっと会議室に直接行ける部屋は上役が使ってた。ボシェッタ爺さんの友達なら下っ端だろうからね」


「だけどお嬢さん、どうやって調べるつもりなんですか?」

訊いたのはラクティメシッスだ。それはピエッチェも訊いてみたいことだった。


 事は六十年も前に起きている。当時の関係者はいないし(かん)(こう)(れい)が敷かれていたんじゃ村人だって知らないはずだ。

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