表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
12章 王の恋人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

218/436

10

 明日は早目に出立し、できればグリュンパの一つ手前モリモステまで行きたい。その翌日には封印の岩があるミテスク村に到着しておきたいところだが、ミテスク村には宿がない。


 ミテスク村の手前で宿があるのはクサッティヤかソノンセカ、シスール周回道の起点クサッティヤで宿泊するのは幾らなんでも時間の無駄使い、そうなるとソノンセカを選択するしかない。

「モリモステからソノンセカなら半日ちょっとで行けるでしょうが……」

ラクティメシッスは気乗りしないようだ。それはピエッチェも同じだった。


 ベスク村のコテージのある宿から(ミテ)()()()経由でシスール周回道を行った時、当然ソノンセカを通っている。人家はあるのに人の気配がしないのもヘンだったし、なんと言うか……首の後ろを冷やされるような、そこはかとない不気味さを感じる場所だった。あの村に宿泊するのは気が進まない。


「あの村に、宿なんかあったんだ?」

「あるにはあるんですけどね」

ピエッチェの疑問にラクティメシッスが苦笑する。そしてマデルに助けを求めた。

「なんと言って説明したらいいんでしょうねぇ?」


 話を振られたマデルも困惑気味だ。

「まぁ、評判の悪い村って言うか……ね?」

振られた話を振った本人ラクティメシッスに返してしまった。マデルにちょっと拗ねた顔を見せたが諦めたのだろう、ラクティメシッスがピエッチェに向かう。

「ソノンセカは、そのぉ……死人の村って言われてるんです」


 いつもは何を話すにも、なんとなく笑みを浮かべているラクティメシッスが苦り切った顔で言う。

「あの村は、ローシェッタ建国前からあの地に住む人々が住んでいるんです」


 その昔、諸国は領地を奪い合い、(たび)かさなる戦闘に明け暮れた。あの村はその頃から続いている。

「今のように各国の領地が確定する前は、昨日は東の国だったものが今日は西の国の領地、そして明日には南か北の王が攻め込んでくるかもしれない、そんな日々が続いていたわけで……」


 ジェンガテク湖は風光明媚、枯れることのない水源でもある。だから欲しがる王は(あま)、いわば激戦区だった。


 当然のように領民たちも、()()自分たちに有利な国への編入を望み、気に入らない王が統治する国が攻め込んでくれば抵抗した。ある村は敵を追い返し、ある村は破れて捕虜となったり寝返ったり、あるいは焼き払われ皆殺しにされた。


 封印の岩はローシェッタ建国後にできたもの、人魚たちを封じ込めている。岩の向こうは短い洞窟だと言われている。だが本来は洞窟と言うよりも水路だった。


 その水路はもともと、現ザジリレン国の地下を通り抜けてスットイッコ国まで続いていた。地上部は山地、場所により平地でもあった。それが、戦乱の時代が治まる直前に起きた大地震によりジェンガテク湖の周辺から現ザジリレン国辺りまで低かった山々が隆起して、現在の険しい山岳地帯に変わってしまった。水路は崩壊、通り抜けることができなくなる。ジェンガテク湖が(そそ)ぐ川を失ったのもその時だった。


 山岳地帯により隣国と隔てられたローシェッタはジェンガテク湖領有を安定的なものとしたわけだが、それは同時に戦乱の時代の終わりを意味していた。大地震は幾つもの山岳地帯を作り、争っていた諸国を隔てる障壁を作り上げていた。ある者は大地を血で穢した報いだと(おそ)(おのの)き、ある者は森の女神の慈悲だと(あが)めた――


「ところがあの村だけはローシェッタ国軍はもとより、他国軍に蹂躙されたことが一度もない……んです」

「当時はシスール周回道もないわけだし、道らしい道もなかったはずだ。見落とされていたってことでは?」

「いいえ、それがそう言うわけでもなくて――記録によるとあのあたりもスットイッコ・メデチンガ連合軍に三度ばかり占領されてます。ですが、ローシェッタ軍が取り戻した時には、奪われる前と少しも変わっていなかったとありまして」


「敵国に抵抗することなく投降して難を逃れた?」

「学者はそう見ているようですが、村の言い伝えと言うのが奇妙なんです」

「どんな言い伝え?」

「戦乱時には村を隠せ」

「村を隠せ?」

「その言い伝え……当時は(おし)えと言われていたようですが、それに従ったから戦災を免れたのだと」


「まぁ、奇妙な言い伝えなんてどこにでもあるものなんじゃ?」

ここでマデルが口を挟み、ラクティメシッスと目を見交わした。と、

「不死の村ってやつですよね」

ラクティメシッスに遠慮して、このところ自分から発言する事が無かったカッチーが横から口を挟む。


「言いにくいみたいだから俺が言います。俺ならどんな馬鹿なことを言っても笑われて終わりですから」

カッチーが続けた。

「あの村の住人は村ができた時からずーーーーッと生き続けてる。当時から誰も死んでいないし、生まれてもいない。幽霊の村だって」

ラクティメシッスが気まずげな顔でピエッチェに頷いた――


 が、それは村人の話だ。宿は封印の岩への観光客のために国が建設したもので、従業員も国が派遣した者たちだ。宿に併設された寮で暮らしているらしい。ソノンセカ村民にも宿を経営しないかと打診したが申し出る者がなく、他からあの村に行きたがる者もなく、苦肉の策だった。ミテスク村から、村の中で勝手に野営する観光客に手を焼いていると陳情が出ていた。


「だけどね、みんな身体を壊して故郷に帰りたがるのよ」

マデルが気持ち悪そうに言った。(のろ)いだとでも思っているのだろうか?


 ラクティメシッスが苦笑して否定する。

「それは誤解です。故郷に帰るのは契約期間が終わったから。マデルまでそんな噂を信じているのですか?」

「あら、自分の住処に戻ると寝込むって聞いたわよ」

「それは慣れない寮生活での疲れが出たんです。(ひと)つきあれば元気を取り戻してる。もしあの村に何かあって従業員が健康を損ねるのなら、宿泊客にも影響が出るはずなのでは? 宿泊客に健康被害が出たとは聞いていません」

「まぁ、それはそうね」


 どんなにソノンセカが気味悪くても、先のことを考えるとソノンセカ泊にするしかない。


 だが、たとえソノンセカに宿泊し日の出とともに出立しても、その日のうちにザジリレン領トロンバに入るのは無理な話だ。食料などの補給はミテスクですることにした。


「封印の岩の頂上の近くまではキャビンで行けます。そこから先は岩を上ることになるので馬なら行けますがキャビンは無理です」

ラクティメシッスの説明に、岩の真上まで観光客を馬に乗せて連れて行く商売があったとピエッチェが思い出す。

「で、平坦な面はありません。野営は崖を越えてからになりますね」


 野営と聞いてカッチーがピエッチェを見て言った。

「毛布が足りません」

「そうだね、カッチー。よくぞ思い出した。食料・飲料、それに毛布を二枚……ほかに何が必要?」


「ミテスクに服屋はありましたっけ?」

ラクティメシッスがマデルを見る。


「どうだったかな……覚えてないわ。服が必要?」

「わたしではありませんよ」

ラクティメシッスがピエッチェを見る。

「騎士であるあなたはザジリレンでは顔を知られているのでは?」


 マデルとカッチーはピエッチェが『本物のカテロヘブ』だとは知らない。いつか自分の口から伝えたい。だから黙っていて欲しい――ラクティメシッスはお安い御用だと微笑んだ。

『オッチンネルテにも口止めを?』

『もちろんしているさ』


 実のところ、ついポロっと言ってしまいましたと、いつラクティメシッスが言い出すかと冷や冷やしている。キャビンの中の様子はクルテがマデル・カッチー・オッチンネルテの心を読んで判っているが、時おり遮蔽が掛かるらしい。ラクティメシッスがキャビン内に魔法を使ったと言う事だ。


 だが、その遮蔽はすぐ解ける。中の様子に変化はない。クルテは『きっとくせで遮蔽魔法を発動させたんだよ』と笑うが、ピエッチェはそうは思っていない。本番のための布石だと感じていた。たびたびの遮蔽は本当に隠したいとき、クルテやピエッチェを油断させるためだと疑っていた。


「どうやって身分を隠すつもりですか?」

騎士として顔を知られている――王の顔は知られているとは言えないラクティメシッスの気遣いだ。

「考えていなかった……」

ラクティメシッスの言うとおりだ。どうやって俺は隠れればいい?


「じゃあ、わたしと交代して女に化けましょう」

「へっ?」

「わたしはザジリレンでは滅多な人に顔を知られていません。男の姿に戻ります。今度はピエッチェ、あなたが女装しなさい」

「イヤ、待て――」


「却下」

クルテの声がすっきりと響く。


「お嬢さん、あなた、わたしの提案を却下してばかりだ」

「却下されたくなかったら、もっとマシな提案しなよ」

「女装した男が嫌いですか?」


「女に見えない」

「女に見えませんか? 成功していると思ったんだけどなぁ……それなりの美女に見えませんか?」

「あんたじゃなくってピエッチェ――女物を着たってあの体格じゃ女に見えない」

「あ……」

ラクティメシッスがピエッチェを見、ピエッチェもラクティメシッスを見た。目を晒したのはラクティメシッスが先だ。


「若い分、まだまだ肌も滑らか、しかもそこそこの美形。化粧のし甲斐があると思いましたが、そうですね、その(いか)つい肩ではドレスは似合いそうもありません――そうなると……」

ラクティメシッスは、ピエッチェに女装させることを諦めたようだ。


 だが今度はクルテが

「化粧させるのはいいかも」

と言い出した。

「黒髪のウイッグ、眉も黒く染めよう。ついでに顔に傷跡でも描いちゃう? きっと別人に見えるよ」


「あぁ、それはいいかもしれませんね――ウイッグはどこで買えるかな?」

「グリュンパで買ったほうがよさそうね」

マデルがクスッと笑った。


 そのあとは必要なものをそれぞれが口にし、クルテがメモを取った。

「グリュンパでは果物屋と花屋にも行きたい。それにパンとお菓子も欲しい」

ピエッチェを見上げるクルテに、あまり時間を取りたくないと内心思いつつピエッチェが答える。

「おまえの好きにしていいよ」

その様子を見ていたラクティメシッスがクスッと笑い、

「甘いなぁ……」

と呆れるが、気付かないふりをしたピエッチェだ。


 封印の岩では行けるところまでは馬車で行く。そこから崖の上までは人の目がないのを見計らって、ラクティメシッスとマデルが魔法を使うことにした。

「大きな木を回避できる自信がないわ」

マデルが不安そうに言うと、

「わたしに任せなさい」

ラクティメシッスが微笑んだ。きっとラクティメシッスは自分一人で全部を引き受ける気でいるんだと思うピエッチェだ。あんただって甘いじゃないか、そう思ったが言いはしなかった。


 明日はモリモステ泊、翌日はグリュンパでウイッグ他を購入したらソノンセカ村に向かうと決まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ