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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
12章 王の恋人

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 つまり、ネネシリスも王宮にいる……ピエッチェの(ひたい)に汗が滲む。己が王宮に攻め入ることになるかもしれない。


「牢にはどうやって忍び込んだ?」

「ダーロミダレムさまの臣下だった者が身体を壊して牢の調理係になってまして、それがわたしの弟で……ダーロミダレムさまが、誰か信用のできる者と話がしたいと仰って、それでわたしに白羽の矢が」

「しかし、おまえはネネシリスの臣下なのだろう? ダーロンから見たら政敵だ」


「それが……弟には他に頼る相手がいなかったのです」

「主人を簡単に裏切る、そんな男しか信用できる相手がいない?」

「そんなっ! そうではございません!」


 平伏したままオッチンネルテが顔だけを上にあげる。

「ダーロミダレムさまとお会いしたのは、ネネシリスさまをお救いしたい一心でのことです。弟から聞いた用件はカテロヘブ王のことでした。カテロヘブ王のことが解決すればネネシリスさまのお心も安らかになるのではないか、そう思ってわたしはダーロミダレムさまにお会いしたのです」

「ふむ、なるほど。それでどんな話をした?」


「ダーロミダレムさまは仰いました。カテロヘブ王が乱心だなどあり得ない。それに死んだなどと信じない――探して欲しい」

「ダーロンはネネシリスについて何か言ったか?」

「ネネシリスさまはカテロヘブ王がいなくなったことで平常心を失っている。カテロヘブ王さえ見つかれば、きっと元のネネシリスさまに戻るはずだと仰いました」


 ダーロミダレムの顔をピエッチェが思い浮かべる。幼いころからの友人、ネネシリスと三人で行動することも多かった。父親はザンザメクス卿、いずれ父の跡を継ぎ、カテロヘブの治世を支える一人となるはずだった。


 豪快で型に(はま)らない男で、ピエッチェに『たまには羽目を外したほうがいい』とよく言っていた。ネネシリスを臆病者と陰で笑うくせに『アイツは優しいからな』と認めてもいた。


 そのダーロミダレムをネネシリスが牢に繋いだ。そしてダーロミダレムはそんなネネシリスを今でも信じ、救おうとしている。


「それでローシェッタに来た……まぁ、川に落ちたことを信じて下流を探したってことだな。でも、なぜ自らをカテロヘブと名乗った?」

「お許しくださいっ!」

頭を床に擦りつけてオッチンネルテが叫ぶ。

「ダーロミダレムさまが『王の名を騙れば本人がきっと接触してくる。放っては置かないはずだ』と、だからそうしろと仰ったのです」

なるほどね。


 何か言いたいことはあるかとオッチンネルテに尋ねると、お早いご帰国をとだけ言って震えている。帰国したいのはやまやまだ。だが、そう簡単に帰れない。


(どう思う?)

心の中でクルテに意見を求めた。


 オッチンネルテの証言に嘘がないことはクルテが保証している。心が読めるのだから、偽りはすぐに見抜ける。


(カティの思う通りでいい)

クルテがニヤッと笑ったような気がした。


 ある計画を思い浮かべていた。それをクルテは反対しなかった。だったら、実行するに値すると言う事だ。


「まぁ、座れ」

椅子を起こしてピエッチェが言った――


 ジランチェニシスとカッチーが部屋に戻ったのは、ピエッチェとクルテが自分たちの寝室の居間でお茶を楽しんでいる時だった。フレヴァンスに菓子を取られたクルテの機嫌取りに、果物と菓子をルームサービスして貰っている。


 ジランチェニシスとカッチーが帰ってくるのが判っているのだから、玄関のドアの鍵と玄関の()からメインの居間に出られるドアのかんぬきは閉めなかった。


「アイツ、帰ってくるなり、自分の寝室の紙封を確かめてました。今は紙を剥がすのに夢中です」

ピエッチェたちの寝室の居間でカッチーが笑う。


「かんぬきは閉めたか?」

「はい。玄関ドアの鍵も、しっかり閉めてきました」

「ところで偽カテロヘブだが――」


 ピエッチェがカッチーに、オッチンネルテのことを手短に話す。聞き終わったカッチーがニヤリと笑う。

「へぇ……面白いことになりそうですね」

そこで、ピエッチェたちの寝室のドアが乱暴に叩かれ

「大変だ! カテロヘブ王が目覚めました!!」

ジランチェニシスの叫び声が聞こえた――


 その日、ピエッチェたちは宿に頼んで部屋を替えて貰っている。


 宿の支配人に『病人が意識を取り戻したのはいいが、同室の男の(いびき)に悩まされている』と言うと、

「お安い御用です――鼾は自分ではどうにもならないもの、だけど他人には我慢できない、そんなものです」

すんなり部屋を用意してくれた。

「本人が気にすると可哀想だから、このことは内密に」

ジランチェニシスが鼾を掻くかは判らない。だから支配人に口止めしておいた。


 ジランチェニシスには『王が誰かと同室なのはまずいだろう』と理由をつけた。カテロヘブ王に取り入りたいジランチェニシスは難色を示したものの、

「一人になりたい」

オッチンネルテの呟きで、

「承知いたしました」

(てのひら)を返した。


 新しい部屋はもとの部屋と大まか同じだが、メインの居間には寝室が三室、各寝室ベッドは一台ずつという点が違っていた。ピエッチェとクルテの寝室には、今度も居間が付属している。


 食事はメインの居間の奥、ダイニングで五人揃って摂ることにした。カテロヘブ王との同席を望んで、ジランチェニシスが譲らなかったからだ。

「彼を見つけ、今まで世話をしてきたのはわたしですよ?」


 オッチンネルテにはカテロヘブ王のフリを続けろと命じていた。だが、ジランチェニシスと二人きりにはできない。


 ジランチェニシスがピエッチェたちの寝室に『カテロヘブ王が目覚めた』と吹っ飛んできた後、すぐにピエッチェたちはジランチェニシスの寝室に行っている。そこでオッチンネルテはピエッチェを見るなり、

「ピエッチェではないか」

震える声で言った。


 そう言うよう打ち合わせていたからだが()()()()棒読み、疑われないか冷や冷やしたが、ジランチェニシスは病み上がりのようなものだからと、却って納得したらしい。しかも横柄に見えたらしく、まさしく国王と確信していた。さらに

「ピエッチェさんは本当にザジリレンの騎士だったのですね」

と呟く始末だ。


 が、何を言っても返事をしないオッチンネルテにイラつき始める。

「さんざん世話をしたのに、ザジリレン王は恩知らずなのですか!?」


 見かねた(フリの)ピエッチェが、

「カテロヘブ王、王が夢見の病の間、お世話をしたのはこれなるジランチェニシスでございます」

とうとう取りなした。


「ふむ。それは大儀だった。が、その男の身分は? 王と(じか)に口が()けるような身分か?」

「イヤ、それは……」

この辺りでカッチーがジランチェニシスの寝室を出て行っている。猿芝居に笑い出さない自信がなかった。


「ピエッチェ、おまえが中継ぎをしろ」

「畏まりました――ご気分はいかがかと王にお訊ねです」

「ふむ。まぁまぁと言ったところか……」


 そんなわけで、ジランチェニシスはピエッチェを仲介しなければ(オッ)()()()()()と話せなくなっていた。


 込み入ったこと……オッチンネルテではどう答えたらいいか判断つかないことを訊かれた場合、ピエッチェにそっと耳打ちするフリをすることにしていた。もちろん王の言葉としてジランチェニシスに言うのは()()()()()()考え、もしくはクルテに脳内指示された言葉だ。


 その日の夕食が終り、オッチンネルテが自分の寝室に引っ込むとジランチェニシスが溜息をついて言った。

「食事は一人で摂りたい……王に対して無礼に当たらないか?」

ピエッチェがこっそり笑う。

「のちほど王に伺っておきましょう」

あとでわざわざオッチンネルテに訊いたりしない。時を見て、許しが出たとジランチェニシスに伝えるだけだ――


 ジランチェニシスが自分の寝室に戻った後は、ピエッチェたちの寝室の居間にカッチーを呼んで打ち合わせをしている。オッチンネルテは自分の部屋だ。


「明日は王宮に出向こうと思う」

昼間、ルームサービスさせた菓子の残りを数えながらクルテが言った。


「王との謁見の申し込みですか?」

カッチーの質問、が、クルテは答えない。

「まぁ、そんなところだな」

代わりにピエッチェが答えたがどことなく歯切れが悪い。


「それじゃあ、ピエッチェさんとクルテさん、二人で?」

「うーーん……それが迷ってる」

ピエッチェがクルテに視線を向けた。ところがクルテは菓子を数えるのが忙しいらしく、自分が話し始めたのに関心を示さない。


 カッチーもクルテを見たが答えないと悟ると、

「二人じゃないとしたら、どうするんですか?」

とピエッチェに訊いた。

「そうだよなぁ……」

今度もピエッチェの答えはあいまいだ。


 王宮に行くと言うと同時にクルテはピエッチェの頭の中で、『ローシェッタ王に会えるかもしれない』と呟いている。が、それきり何も言って来ない。判断に困るピエッチェだ。


「まぁ、明日の朝までに考えておく――今日はジランチェニシスの監視、大変だったな」

「え、あぁ、アイツ、本当に嫌なヤツでした。帰りにお茶していこうって言われた時にはぞっとしました」


 宿に戻ってからはオッチンネルテの件や部屋替えで慌ただしく、出かけた時の報告を聞く暇がなかった。(せき)を切ったように話し始めたカッチー、カッチーの心を読んだクルテから聞いていて知っていることがほとんどだが知らないふりのピエッチェ、同調したり、慰めてみたりする。


 一通り話し終え、これで全部ですと言った後、

「俺、もう二度とジランチェニシスとは出かけたくないです……まぁ、必要なら行きますけど」

カッチーが溜息を吐く。すると、

「うん、カッチーは偉い! よく頑張った!」

いきなりクルテが話に加わった。


「はい、これ、ご褒美」

菓子と果物を乗せた皿をカッチーの前に置いた。テーブルに置かれた菓子の皿は全部で五皿だ。


 一皿だけ他よりずっと多くの菓子や果物が乗っているのはクルテの分だろう。カッチーに一皿、残りは三皿、ピエッチェ、オッチンネルテ、ジランチェニシス……なんとなくピエッチェが思う。


「疲れたよね? わたしも引っ越しで疲れた。もう眠い」

「あ、はい」

慌てて立ち上がるカッチー、

「一皿、王さまに持ってって」

クルテが微笑む。オッチンネルテの寝室はピエッチェたちから一番近い。その次がカッチー、一番玄関寄りをジランチェニシスとした。


 カッチーが出て行くと、

「ジランチェニシスの分はどうするつもりだ?」

ピエッチェが訊いた。


「お菓子のこと? あんなヤツにはあげないよ」

「うん? じゃあ、もう一皿は?」

「あぁ、これはね……うん。どうしようかな?」

なんだよ、なんとなく五皿に分けたのか? しかも数を数えて?


「ンなわけないじゃん!」

ムッとしたクルテが頬を膨らませ

「そんなこと言うならカティにはあげない」

大盛りの皿に、さらに菓子と果物を他の皿から追加した。

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