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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
12章 王の恋人

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 夕食が済むとカッチーは自分の寝室に戻り、ピエッチェとクルテは二人きりになった。


「寝室に外から鍵をかけるにはどうしたらいいか? なんで鍵なんか必要?」

ピエッチェの心配をクルテが鼻で笑う。


「俺たちが寝室に入れるままじゃ、ジランチェニシスが出かけるとは思えない」

「まぁ、出かけないだろうね」

「だからだよ……アイツ、魔法で部屋に鍵を掛けられるかな?」

「魔法なんか必要ない」

「うん?」


「ドア枠とドアに掛かるように紙を貼り付ければいい。で、その紙に、アイツにサインでもさせとけば?」

「あ……帰ってきたときも出かける前と同じように紙が貼り付いてれば誰もドアを開けてないって?」

「そゆこと――アイツが出かけたら紙を剥がして、用が済んだらまた貼り付ける。もちろんそれは魔法を使って。多分、アイツはそんなことが魔法で簡単にできるなんちゃ思わない」

「うーーん。紙を貼ったり剥がしたりなんて、初歩の魔法なんだけどなぁ……」


「ジランチェニシスはね、基本が全くできてないんだよ。持ち前の魔力の強さで変な魔法は難なくこなすけど、簡単なことができない。できないって言うか、そんなことができるってことを知らない」

「まぁ、そんな感じではあるな。アイツが得意なのは自分の魔力の制御。他人の魔力に関しては意識すれば感知できるけど、無意識の感知はできない」


「普通は無意識に感知して、意識して確認するものなんだけど。魔力が弱いわけじゃないのになんで?」

俺に訊くかい?


「想像だけど、魔法が使えることを他人に知られるのを極端に恐れたからなんじゃないかな? けどなぁ……平均より少し力がある魔法使いなら、ジランチェニシスに魔力があるってすぐに気付くよな」

「そうだね、誰に知られるのが怖かったんだろう?」

「ふむ……」


 ピエッチェとクルテが顔を見合わせ、声を揃えて言った。

「ジランチェニシスを利用しようとしている誰か」

さらにピエッチェが付け足した。

「そして、そいつは魔法使いじゃない。魔法使いならジランチェニシスが子どもの頃には、ヤツの才能に気付いている」


 フフンとクルテが笑う。

「ジランチェニシスの魔力を悪用させないためアイツに魔力制御を教え、基礎の魔法さえ教えなかったのがノホメなら、彼女の立ち位置が違ってくる」

「あぁ、ノホメの後ろに誰かがいると考えたけど、そんな誰かはいないのかもしれないな。ノホメはその魔法使いじゃない誰かからジランチェニシスを守りたかっただけかも」

クルテの考えにピエッチェが同意する。


 が、クルテは

「イヤ、ノホメに命じた誰かの存在は完全に否定できるものじゃない。ただノホメはその誰かに忠実ではないのかもしれない」

ピエッチェとは別の考えを口にする。


 少し考えてからピエッチェが言った。

「ローシェッタ王家を倒そうとしていることは間違いない。ジランチェニシスが強力な魔法使いだったらローシェッタ乗っ取りが()(やす)くなる。ヤツは王家の血を引いている。王位継承権のある者としてヤツを担ぎ上げ、即位させたら実権は自分が握る」


「邪魔なのはラクティメシッス。そのラクティメシッスは有能な魔法使い。そしてローシェッタは魔法使いの国……大して魔法を使えない対抗馬では勝ち目がない。そう考えてノホメは彼の魔法の開花を阻んだ。でもさ、ノホメはなぜ、その誰だか判らないヤツの企みを知ったんだろう? 知らなきゃ阻みようもない」

「それは単純な話だ。ノホメは本人に言われたんだよ。妥当ローシェッタ王家を考えているから、協力しろ。同時にジランチェニシスの教育係もを依頼された」


「つまりノホメは、ソイツに協力すると見せかけて妨害している?」

「うん、俺はそうなんじゃないかと思う。だけど(あから)さまには妨害できない。少なくともジランチェニシスに魔法教育を施していると見せかける必要がある。その結果、アイツの魔力の使い方は中途半端になった」


「自分が引き受けることで、他の誰かがジランチェニシスを開花させるのを妨害したとも考えられるね」

「あぁ、それもあるな。あるいはノホメには断れない理由があったとか――どちらにしろ、今の話は全て推測だ。確証があるわけじゃない。柔軟に対応しないと失敗する」

「でもさ、カティ。真相に少しは近付いてきたような気がする」

「まぁ、確かに手応えが出てきた感はある」 


「だって、妥当ローシェッタを画策するヤツが居ると考えれば、フレヴァンス誘拐やラクティメシッス失踪にもつながる」

「うーーん。フレヴァンス誘拐はジランチェニシスの気持ちを巧く利用したって事だろうけど、ラクティメシッス失踪は誰かが仕組んだことだとは思えない」


「本人の意思で失踪したと考えてる? まぁ、ラクティメシッスを罠に掛けるのは並大抵のことじゃないよね。でもさ、それを言うなら、彼だったら反対に、敵を捕らえられるんじゃ?」

「王家打倒を考えるとしたらどんな人物なのかを考えろ。下手に手出ししたら王家も無事じゃすまない、そんな人物なんじゃないのか?」

「なるほど」

クルテがニヤリと笑う。


「ザジリレン王家におけるネネシリスみたいなもんだ」

「ネネシリス? なんでここでヤツが出てくる?」

「ネネシリスを反逆者として断罪すれば、その妻も放置できない」

「あ……」

「ヤツの妻は現国王の姉。夫と結託して弟を亡き者にしようとしたと疑う向きも出てくるはずだ」

「そんな――」

「そんなことはないとカティが言っても無駄だ。姉を庇っていると思われるだけ」

クルテの言う通りかもしれない。だが今はザジリレンより、ローシェッタで何をするかだ。


「ラクティメシッスが姿を消したのは王宮に入ってからだ。そして一度は会議に出席している。その会議、何を話し合ったんだろう?」

「マデルに連絡が付けばなぁって今、考えたでしょ?」

どうせ心を読んだんだろう?


「明日もマデルから連絡が無かったら、少しマデルの様子を探ってみよう。何か噂になってるかもしれないし、屋敷に訪ねて行ってもいい」

「屋敷に行ったってどうせ門前払いだぞ?」

「それでもいい――わたしを誰だと思っている? マデリエンテ姫って聞けば、家人なら知ってることを何かを思い浮かべるはずだ」

そうだった、おまえは相手の心が読める……そう考えてピエッチェがハッとする。


「おまえ、離れていても〝よく知ってる〟相手の心は読めるんじゃなかった? 遠いと無理なんだったっけ?」

「馬鹿か、ローシェッタ王室魔法使い総帥のお屋敷に、魔法遮断が掛けられてないはずない」

あ、うっかりしてた……でもさ、馬鹿だなんてあんまりだ。


「じゃあ、間抜け」

「おいっ!」

クルテがクスッと笑って話を戻す。

「同じ理由で王宮の中も覗き込めない……中に入ったら要注意だな。いつもは使える魔法が、場合によっては使えないと思っといたほうがいい」

そうか、そう言うこともあるか。


「まぁさ、まずは明日、偽カテロヘブに話を聞いてみよう。何か出てくるといいんだけど」

「おまえも何かあると感じてるのか?」

「わたしはただ単に、冗談か何かをジランチェニシスが真に受けたか、例の懸賞目当てなんだと思ってるよ」


「ギュリューではカテロヘブに懸賞が掛けられたなんて訊かなかったぞ」

するとクルテが少し考えた。

「そう言われるとそうだね。懸賞金の話はララティスチャングで初めて聞いた。他の街で接触した連中は、誰一人思い浮かべなかった――でも、偽カテロヘブを目覚めさせれば明らかになる。もう寝る。物すごっく眠い」

立ち上がったクルテが、急にフラフラと倒れ込む。


「おい、どうした?」

慌てるピエッチェ、ソファーでクルテはもう眠っている。

「なんだよ、おい?」

このままここで寝かせておくか? それもなんだかなぁ……仕方ない、ベッドに運ぶか。


 まずは通路の確保だと、ピエッチェが寝室のドアを開ける。

「あっ?」

「えっ?」

いたのはフレヴァンス、クルテの菓子袋を手にしていた。


「お(なか)()いちゃったの」

そりゃそうだろう。


 近寄れば、すぐさま絵の中に入ってしまいそうだ。ドアのところに立ったままピエッチェが尋ねる。

()は?」

「からっから」

「レモン水でいい?」

「うん、大好き」

「今、持ってくる」


 付属の居間からレモン水の瓶を持ってくると、もう一度ドアのところに立つ。

「それがレモン水?」

フレヴァンスが訊いてきた。


「そうだよ」

レモン水を見せるとスルリと瓶が手を離れた。

「あっ?」

落としてしまったのかと焦るが、瓶はスィッとフレヴァンスに向かって宙を行く。マデルが物を運ぶ魔法と同じだ。


「ありがと――またね」

呼び止める間もなく、クルテの菓子袋とレモン水の小瓶を持ったままフレヴァンスが消えた。絵の中に戻ったのだ。


 殺気を感じてピエッチェが振り返る。クルテだ。眠ったんじゃなかったのかよ?


「あんだけ大きな魔法だ、さすがに気が付く」

ムスッとクルテが言った。絵の中に潜り込む魔法のことだ。

「フレヴァンスと二人で何してた?」

あー、また焼きもちですか?


「なんにもしてない。咽喉が渇いたって言うからレモン水を一本あげた」

「ふぅん……それで?」

「それでって言われてもなぁ、それだけだ。レモン水と、そうそう、おまえの菓子袋を持って、絵の中に戻ったぞ」

「えっ!? わたしのお菓子? フレヴァンスが持ってった? 絵の中に? なんで取り返さなかった?」


「あっと言う間でそんな余裕がなかった」

「レモン水を渡す余裕はあったんだよね?」

「だって、咽喉が――」

「やっぱりフレヴァンスのほうが……」

もう、いい加減にしろ――って、泣くなよ、おい!


 ソファーに突っ伏してさめざめと泣くクルテ、やれやれとピエッチェがクルテのところに行って覗き込む。

「言っただろう? 俺にはおまえだけ……って、なにぃ?」

クルテはもうスヤスヤと眠っている。

「ったく……」

苦笑いしてピエッチェがクルテを抱き上げる。どうせ寝たふりだ。


 寝室に入ると絵の中でレモン水をラッパ飲みしていたフレヴァンスがクスリと笑ってから動かなくなった。クルテを抱いたままピエッチェがその前を通り過ぎる。すると床に投げ出されていた魔法の布が肖像画を覆った。さらに魔法の上掛けを感じる。クルテの仕業だ。可哀想に、これでフレヴァンスは自分じゃ布を()けられなくなった。知らないうちに絵から出て、徘徊されちゃあ困るってことか。クルテの寝たふりはまだ続いている。


 (くすぐ)ってみようかな? ピエッチェがふと思う。だけど、やめておくか。焼きもちの矛先を納められなくての寝たふりを、暴く必要なんかない。


 翌日――案の定、ジランチェニシスは夢見人を置いての外出を渋った。

「あなたたちだけでカテロヘブ王を王宮に連れて行く気ですね?」


 なるほど、王宮に行く気はあるってことか。

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