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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
11章 身を隠す

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15

 ふぅ……と溜息を吐いてクルテが紙袋を閉じた。

「あとは食事が済んでから」

ニンマリと笑む。が、ピエッチェを見上げ、

「それとも食べる?」

と訊いてきた。残っているのをピエッチェに食べるか訊いている。


「イヤ、俺はいい。なんだったらカッチーに――」

「ダメ! カッチーは自分の分を食べた。この袋は一心同体で食べる」

「なんだよ、それ?」

呆れるピエッチェ、カッチーは口を歪めて笑いを(こら)えている。


「そのままの意味。わたしが食べてもピエッチェが食べても同じだってこと」

「それ、意味が違くないか?」

ピエッチェは困惑し、カッチーはとうとうケラケラ笑い出した。


「違くない! ピエッチェが食べればわたしは満足。わたしが食べればピエッチェも満足するでしょう?」

それって、気持ち的にはそうかもしれない。だけど、

「もしそうならさ、タスケッテでおまえ、どうして俺にサンドイッチを作って持ってきてくれたんだ?」

クルテが食べたところで俺の空腹は満たされないって知ってるってことだよな?


「そんなことしたっけ?」

例によって忘れてるっぽい。カッチーが『クルテさんがサンドイッチを作った?』と驚いている。


「あぁ……一人部屋が三部屋しかなかったタスケッテ。食事も三人分」

やっと思い出したらしい。同時に気まずげにピエッチェをチラッと見た。

「まぁ、いいよ。深く考えなくて」

はい、そーですか。ニヤッとピエッチェが笑う。答えられなくて誤魔化しやがったな、コイツ。


 でもさ、クルテ、おまえ、わざと()しなことを言ったんじゃないのか? 心がすっきり軽くなったぞ? それに一心同体か……俺の罪をおまえも被るって言いたかったか? あぁ、そうだな、俺もおまえの罪を引き受けよう。おまえは俺で、俺はおまえだ。


 食べさせるのに時間がかかると言って、食事はジランチェニシスの部屋から先に運んで貰った。食事を始めればジランチェニシスは寝室から出てこないと見て、そのあとの三人分は持ってきてくれた時に、居間のある寝室に用意するよう頼んだ。カッチーに一人で食事させる気なんかもとよりなかった。


 他と違ってこの宿は食事が済んでも食器のワゴンを廊下に出す必要はないと言われた。廊下に放置されれば他の客の邪魔になり、宿の美観を損なうと言う事だ。なんだったらテーブルにそのままでもいいと言っていた。明日の朝、給仕係が片付けてくれるらしい。


「うわぁ……部屋も豪華だけど、料理も豪華ですね。マデルさんが居たら大喜びしそうです」

マデルには、食事が運ばれる前に手紙を書いた。今夜中に届けて欲しいと給仕係に多めのチップを握らた。早ければ明日の昼頃には返事が来るだろう。


 無事に宿に落ち着いたこと、そして支配人に聞いたあれこれ……偽カテロヘブが何人もいることはマデルも家人から聞いているかもしれない。マデルはどんな情報をもたらしてくれるのか?


「マデルはお屋敷で、もっと凄いご馳走を食べているかもしれないよ?」

クルテがカッチーに微笑む。今日もおまえ、食べてる途中で喋るんだな。必要がある時には喋るってことか?


「そうなのかなぁ? まぁ、マデルさん、王太子妃になる人ですもんね。マデリエンテ姫、なんてラクティメシッスさまが呼ぶくらいだし」

「うん、王室魔法使いの総帥のお嬢さま」

おいっ! マデルがいないのにそれを言っていいのか? って、それって今、必要なのことなのか?


「へっ? ウホげほっ!」

驚いたカッチーが食べ物を()に詰まらせる。あぁあ、言わんこっちゃない。ピエッチェが、水のグラスをカッチーに握らせた。


「ク、クルテさん、それ、本当ですか?」

水を飲み干したカッチーが、蒼褪めてクルテに問う。

「なんで? 嘘の理由は?」

「そりゃあ、大貴族のお嬢さまだってのは判っていたけど、マデルさん、そんなこと一言も……父ぎみが魔法使いってのもさっき知ったんです」


 ()()()ってのはヤッパリイネでキャビンからジランチェニシスを巧く追い出しての打ち合わせで、マデルが『ノホメが現役だったのは父が王室魔法使いになる前だと思う』と言ったのを指している。


「カッチーも言ったじゃん。王太子と婚約したって」

「いえ、なかなかオーケーしなかったのは身分違いとかってのがあるのかなって」

「なんの障害もないから、ラクティメシッスも一存で婚約を決められたんだよ」

「そう言われればそうですよね。ピエッチェさんも知ってたんですか?」


「いや、知ってたって言うか……マデルから聞いたわけじゃないんだ。ただ、マデリエンテ姫って確かそうだったなって。クルテだってそうだろう?」

クルテの脳内指示でそう答えたピエッチェだ。


 カッチーが、(から)になったグラスに自分でピッチャーから水を注ぐ。そして手に取りグラスを見詰めた。

「俺……マデルさんに馴れ馴れしくし過ぎました。まさか、そこまで高貴な姫ぎみだなんて思ってなくて」


 さすがにピエッチェが口を挟む。

「それってきっと、マデルを悲しませるぞ?」

ハッとして、カッチーがピエッチェを見る。


「マデルはなんで身分を隠したんだと思う? いろいろ事情はあるだろう。だけどきっと、俺たちや、()()()と親しくなりたかった。だからじゃないのか?」

「ピエッチェさん……」


 クルテが話す必要を感じたのはカッチーのためでもマデルのためでもなく、俺のためか? マデルが自分の正体を隠したのはなんのためか考えろ、そして俺にもなんのために身分を隠しているのかを再考しろと言いたかったか? でもクルテ、カッチーはこんなに動揺しているぞ? それに、マデルを擁護するフリして、俺は自分の言い訳を考えちまってる。


 言い訳……言い訳が必要なのか?

「カッチー、しっかり聞いてくれ」

ピエッチェがカッチーに向き直る。


「マデルは……マデリエンテ姫は、顔はともかく名や身分はそれなりに知られている。少なくとも王室魔法使いや上級騎士たちは知っているはずだ。だからフレヴァンスを捜索するには、そして俺たちと一緒に行動するには隠すしかなかった。それをおまえが許せないなら仕方がないと、俺は――」

「許せない!? 違います、ピエッチェさん!」

カッチーがピエッチェの言葉を遮った。


「許すもなにも……ピエッチェさんは俺がマデルさんを怒ってるとでも思ってるんですか? 怒るはず、ないじゃないですか」

「だって、理由はともあれ、騙してたってことだぞ?」


「違います。俺、騙されてなんかいません。知らされてなかっただけです。どんな人にも、いくら信用できる相手にだって言えないことの一つや二つあるものです。俺だってピエッチェさんたちに言ってないことがあります。いつか相談したいと思っていることだってある。打ち明けるにはタイミングだって大切です――それともピエッチェさんは、マデルさんが俺を騙してたって思ってるんですか? 悪意を持って?」


 いや、それはない。だが言えない。言わなくてもカッチーには判っている。そしてカッチーに救われたと感じ、ピエッチェは何も言えなくなっていた。


 そんなピエッチェを説得するかのようにカッチーが続けた。

「俺はね、むしろ自分に怒ってます。ピエッチェさんに言われて気が付いて、それで怒ってるんです。マデルさんは、いつでもマデルさんでした。俺に親切にしてくれて、いろいろ教えてくれて……身分を知ったからって、別のマデルさんになるわけないのに、俺が変わろうとしちゃったんです。マデルさんを悲しませるところでした。ピエッチェさんの言う通りです」


 実はザジリレン王は俺だ、本当はピエッチェなんて名ではなくカテロヘブだ。事情があって身を隠す必要があった。黙っていて済まない……そう説明すれば、マデルもカッチーもきっと納得してくれる。だって彼らは俺のことを知っている。隠そうたって隠せない俺自身を知っている。それをカッチーが俺に思い出させた。


 クルテがそっと、ピエッチェの左腕に触れる。

「ねぇ、お料理が冷めちゃう……カッチーも、考える前に食べようよ」

クルテを見ると、こちらを見上げて微笑んでいる。


 まったく、おまえには敵わない。カッチーとマデルを巻き込んで、幾つ問題を片付けた? それに、カッチーが俺を救ってくれるって判ってたんだろう?……俺にはやっぱりおまえが必要だ。


 ピエッチェとクルテから、慌ててカッチーが目を逸らす。

「しかし……こんな料理だとテーブルマナーが気になります」

ナイフとフォークを手に呟いた――


 明日の動きの確認も終わり、カッチーが自分の寝室に戻る。食べ終わった食器がテーブルにあるのは落ち着かないと、打ち合わせを始める前にクルテが食器をワゴンに乗せるようカッチーに頼んだ。そのワゴンを押してピエッチェたちの寝室から出たところでカッチーが無言で手招きした。


 行くと居間に、ジランチェニシスたちの使った食器がワゴンに乗せられて置かれていた。クスリと笑ってカッチーと見交わす。居間の、邪魔にならなそうなところにワゴンを置いて、カッチーは自分の寝室に入って行った。


 寝室に戻る前にピエッチェは、居間と玄関とを隔てるドアの鍵を見ている。小さなかんぬき錠は掛けられた状態だ。つまりジランチェニシスは間違いなく自分の寝室にいる。そして部屋の中の誰かが、中からかんぬきを外さない限り誰も入って来れない。玄関には回転式の鍵が付いていたが、それも給仕係が出て行ってからしっかり施錠している。


 少なくともそれから人の出入りはない。食事中も気配を気にしていたから大丈夫なはずだ。だが、眠ってしまったらどうだろう? 起きている時ほど気を張り巡らせられない。


「心配ないよ」

寝室のドアを閉めるピエッチェにクルテが言った。

「かんぬきに魔法を掛けた。もしも外されたらわたしは叩き起こされる。だから安心して寝よう」


「叩き起こされるって、具体的には?」

「あ、そこまで指示してない。ただ、『叩き起こせ』って命じた」

「それって、おまえをってことだよな?」

「うん、かんぬきに叩き起こされたら、カティのことはわたしが叩き起こす」

「その魔法、今から変更は?」

「無理。有効期限は日の出の時刻。それを過ぎれば、解除される」

「うーーん……」


「何か問題があった?」

「きっとかんぬきはおまえを本当に叩くぞ?」

「叩き起こせって、叩いて起こすって意味だった?」

「眠っている人を無理やり起こすって意味だけど、かんぬきにそれが判るかな?」


 クルテが真剣な顔でピエッチェを見詰めた。

「かんぬきに叩かれたら痛いかな?」

「どうだろう? かんぬきには叩かれたことがないな。でも金属だから、痛いんじゃないかな?」


「守ってくれるよね?」

クルテが縋るような目で言った……かんぬきから守るって、どうやって?

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