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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
11章 身を隠す

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 最大の問題は限定使用の魔法をどこに使ったか、だ。革袋から出してる(かね)は、そもそもどこの(かね)だ? 人が入れるほどの大きさの金庫って、まさかザジリレンの金蔵? あれは俺の(かね)じゃない、ザジリレン国のものだ。


 個人の(かね)もあるにはあるが、それは幾つもの小箱に分け入れて隠し部屋に置いてある。ふとした折に箱ごと家臣に褒美として与えられる程度のものが多く、大きなものでも人が入れるような箱じゃない。


 自室の壁に魔法を掛けて作った隠し部屋を知っていたのは父だけだ。(かね)だけではなく、その部屋には両親の形見や子どものころから大切にしていた物がある。他人にとっては価値のないものが多い。だが、王家に伝わる魔法書もそこの部屋に隠した。


 だから厳重に(いん)ぺい魔法を掛け、入り口には魔法封じも施し、術の痕跡も消した。きっとクルテにだって破れない。このまま王宮への帰還が叶わなければ誰にも知られず失われることになる。


 やはりザジリレン国の金蔵? クルテを盗み見るが、一口食べるごとにニッコリしては食事を堪能している。どちらにしろ、マデルとカッチーの前で問い(ただ)すわけにもいかない。心の中で話しかけることはしなかった。クルテの答え(いか)で表情を変えてしまわない自信がない。

「料理が口にあいませんか?」

食の進まないピエッチェをカッチーが心配する。

「ちゃんと食べておかないと、あとでお(なか)()く」

クルテがニヤッと言った。おまえが言うか? 自分だって、まだ半分も食べてないじゃないか……あれ? 食べ終わってないのに喋るんだな。


「でも、まだクッキーが残ってる。チーズケーキとフルーツケーキもある」

「クルテさん、早めに食べたほうがいいですよ。いくら焼菓子でも、そう何日も持ちません」


「わたしは今日には食べきる予定。あとで寝室にお茶を持って行こうかな」

そう言ったのはマデル、

「カッチーはもう食べ終わったの?」

とカッチーを見た。どうやら二人はそれぞれ分配済みらしい。


「昨日のうちに終わってますよ」

「それじゃあ、少しあげようか?」

「いいんですか? マデルさん、大好きです! お茶、俺が用意しますね」

「あら、嬉しい」


「わたしのは、ピエッチェと二人分しか残ってない」

クルテがカッチーにあげる気がないと暗に言った。

「カッチー、わたしにもお茶の用意」

おい、カッチーにお茶を運ばせる気か? 廊下を通ることになるんだぞ?


「部屋が別なんだから、いいよ、俺が淹れる」

「そっか、部屋は別――二人きりだね」

「なっ! そんな言いかたはやめろ」


「ピエッチェさん、顔、真っ赤ですよ?」

「クルテ、ピエッチェを(から)っちゃダメよ。頭が固い上に()なんだから」

ピエッチェを除く三人がクスクス笑う。人の気も知らないで……おまえら、勝手に笑っとけ!


 三人が食べ終わってもクルテ一人はたらたら食べている。部屋番号を教えていないのもあるが、今のところジランチェニシスの訪問はない。


 だが、あまりのんびりしていると宿の受付で部屋番号を聞いて、やってくるかもしれない。偽カテロヘブに食べさせる手間もあるから食事に時間がかかって、それでまだ来ないだけとも考えられる。出立時間は伝えてある。宿の受付で待ち合わせた。今夜はもう顔を合わせたくない。


 いつもクルテは好きな物から食べる。でなけりゃ興味を引いたものだ。今日はテリーヌから手を付けた。あまりお気に召さなかったようで、一口食べたらグリーンサラダに移った。グリーンサラダもキュウリとトマトを全部食べただけで中途半端に残っている。そのあと何を食べたかまでは、ピエッチェだってずっと見ていたわけじゃないから判らない。からになっている皿は果物の盛り合わせとクリームのムースだけ、パンにいたってはなぜか外側の硬い皮だけを食べ、中の柔らかい部分はそっくり残している。


 ま、皮の部分は塩気が効いて旨かったってことか? それにしてもなぁ、と思っていると、ジュースを飲み干したクルテが不意にピエッチェを見上げた。

「お腹いっぱい。ごちそうさま」

見事に食い散らかしたな。もっときれいに食えよ、と言いたいところだが

「そっか、じゃあ、部屋に戻ろう」

うかうかしてるとジランチェニシスが来てしまうかもしれない。立ち上がるピエッチェ、なのにクルテはサックをガサゴソしている。

「どうした?」

ピエッチェが訊いても答えない。


「あった……」

サックから出したのは紙袋、そんなものまで入れているのか、でも何に使う? 見ていると食べ残したパンの柔らかい部分を袋に入れて立ち上がった。

「部屋に行こう――二人きりだね」

まだ言うか!?


 二人部屋はドアの内側に衝立、その向こう側の左にテーブルと椅子が二脚、テーブルの上にはティーセットとポットが置いてある。右には壁を頭にベッドが二台並べてあった。左の壁の奥にあるドアはバスルームだろう。入り口の対面は窓だ。部屋に入ると、クルテはすぐ窓を開けた。

「真っ暗……」

外を眺めて呟いている。まぁさ、もう夜だからな、暗くて当然だ。


「あんまり長く窓を開けておくと虫が入るぞ」

「虫、嫌い?」

「夜に飛んでる虫はあまり好きじゃないかな。刺すヤツがいるからね」

「あぁ、刺されると痒い」

クスッとクルテが笑い、窓を閉める。カーテンを引くと椅子に座った。


「子どもの頃、虫取しなかった?」

「しなかったなぁ。友達に誘われたけど、いつも断っていた。取った後、虫をどうするのか考えると興味を持てなくてね」

籠に入れるか逃がしてやるか、どちらかしかない。そう長く生きられないのに籠に閉じ込めるのは忍びなかった。逃がす前提なら、楽しみのためだけに怖い思いをさせるのはどうかと思った。傷つける可能性があるのもイヤだった。


 生き物を飼ったのは二羽の小鳥だけだ。よく懐いて、籠から出すと肩に乗って頬を軽く突いてきてた。餌やりも籠の掃除も自分でした。可愛くて大好きで……死んだときは辛くって、泣きじゃくった。仲の良かった二羽は、一羽が死んでしまうとあとを追うようにもう一羽も死んでしまった。


 暫くは落ち込んでいて、心配した誰かが別の小鳥を連れてきたが、すぐに籠から出して放ってしまった。くれた相手は驚いたし、その場にいた父にも怒られた。

『せっかくの心遣いになんてことをするんだ?』

『どんな小鳥もチッチとテッテの代わりになんかなれない!』

そう反発して、泣いたっけ……あれ? チッチとテッテ? なんか違う。小鳥の名前が思い出せない。それに、逃がした小鳥をくれたのは誰だった?


 ガサゴソと音がする。見るとクルテがテーブルに布巾を広げ、紙袋に入れていたパンを出しては置いている。


「食うのか?」

「乾かすだけ」

「乾かしてどうするんだ?」

保存食ですか?


「明日、馬車から撒く。きっと小鳥たちが喜んで食べる」

「ふぅん……」


「食べるのはこっち、クッキーとケーキ」

今度はキューテマの袋を出して、ピエッチェを見る。はいはい、お茶ね、すぐ淹れるよ。


 お茶が入るのを待ちきれず、菓子を食べ始めるクルテ、ニコニコと嬉しそうにピエッチェが茶を淹れるのを眺めている。

「チーズとドライフルーツ、どっちが好き?」

クルテが尋ねる。どっちか選べってことか?


「今の気分はフルーツケーキだな」

「そうじゃない、チーズとドライフルーツ!」

「あん? そのまま食べるなら、チーズかな」

「でも、食べたいのはフルーツケーキ」

始まった、クルテの遠回し。


「同じ物でも違うもの。違うものでも同じ物」

「うん、それで?」

「代わりに成れるものと成れないものの違いは?」

また心を読んでたな。


「かけがえのないほど大切なものは代替が効かない」

「マデルに手順が大事って教わった。それは順番、そして数。そうそう、見た目も大事。見た目が違えば同じ物でも違うもの。さらに代わりが効かないものはとっても大事」

いつにも増して何が言いたいのかよく判らない。


「なぁ、クルテ。 もうちょっと判り易く言えないかな?」

問うピエッチェをクルテが真剣な眼差して見詰めて言った。

「だけど一番大事なのは?」

そうかい、自分で考えろってか? 俺はどっちかっていうと、おまえが何を考えているのかが知りたいんだけどな。


「ところで、確認しておきたいんだが?」

「革袋がどこの金庫に繋がっているか?」

判ってたか。


「まさか、ザジリレンの金蔵じゃないよな?」

「そのまさかだ。他にどこがある?」

おいっ!


「あれは俺の(かね)じゃない!」

「判ってる。借りてるだけだ。王宮に戻ったら返しとけ」

そう来たか!


「仕方ないじゃん。カティの(かね)がどこにあるのか判らなかった。だけど(かね)は必要」

「そりゃそうだけど」

「ほかの人の金庫じゃもっと問題」

「ザジリレンの金蔵だって問題だ。減っていることに気付かれたらどうする?」


「大騒ぎになりそうだよね。誰が持っていったのかが取り沙汰されるだろうけど、どうせ判らない」

「判らなきゃいいってもんじゃないだろう?」

「じゃあさ、どうしたらいい?」

それを訊かれると、うん、困る。


「ほかに方法がないんだから、今は我慢しろ」

「ううっ……」

「判ったら寝るよ。それから、(かね)の出どころが判ったからって、ケチるのは禁止。必要経費は削れない」

必要経費ねぇ……おまえの花籠や果物も必要不可欠か?


「カティが居ないとわたしは生きていけない。でも花と果物がなけりゃ、やっぱり生きていけない。カティもわたしが居たって食べ物が無きゃ生きていけない」

マデルの言うとおりだ。俺はおまえに勝てる気がしない。勝ち目があるとはこれっぽっちも思えない。


 サックをベッドに放り投げ、もう片方のベッドにクルテが潜り込む。ピエッチェも隣に横たわり、クルテをそっと抱き寄せる。大好きだよ、クルテ――


 翌朝、良く晴れた空は快適な旅路を保証していた。

「パンは乾いたか?」

布巾の上に置いたパンを紙袋に戻すクルテに微笑むと、

「いい感じ」

微笑み返してきた。クルテがパンを撒き始めたら、いつかみたいに小鳥に(たか)られるかもしれない。まぁ、そんな道行きもたまにはいいかな?


 朝食はマデルとカッチーの部屋で四人で摂った。ピエッチェたちが自分たちの部屋に行ったあともジランチェニシスが来ることはなかったと聞いて、ホッとすると同時に少し心配にもなる。王都へ行くのをやめると言い出さないか? 自分を嫌っている人たちと同行するのは苦痛だろう。


 出立の支度をするため少し早めに部屋を出る。カッチーと一緒に(うまや)に行ってリュネにキャビンを繋げている間に、クルテとマデルが病人を運ぶ手伝いを受付に頼んでいた。


 ジランチェニシスが、宿の従業員に運ばれる夢見人と一緒に来るのを見てホッする。

「いい天気ですなぁ……明日あたり、そろそろ雨かも知れませんな」

なぜか笑顔でジランチェニシスがそう言った。

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