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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
11章 身を隠す

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 センシリケたちが部屋を出て行ってから、ジランチェニシスが偽カテロヘブの分と言って料理を取り分けた。冷ましてから与えるのだと笑う。

「熱いまま口に入れてしまうんでね」


 八人掛けのダイニングテーブルは四人ずつ対面で座るようセッティングされていたが、ジランチェニシスが偽カテロヘブ用の食事を寝室に持って行った隙にカッチーが長辺三脚・短辺一脚に並び替えてしまった。


 三脚並んだ真ん中にピエッチェ、その右にクルテが座った。ピエッチェの前にはカッチーが座り、マデルはクルテの正面だ。さらにカッチーは、クルテの横の短辺の椅子と長辺二脚の椅子を部屋の隅に追いやった。ジランチェニシスは四人とは離れた短辺に座るしかない。

「おい。やり過ぎじゃないか?」

余りの露骨さにピエッチェが顔を(しか)める。

「どうかしらね? アイツ、ピエッチェよりも鈍感よ。自分が外されてるのに気が付かないかも」

言ったのはマデルだ。


「キャビンで何かあったのか?」

心配するピエッチェに、

「遠回しは通用しないってイヤってほど実感しただけ」

さもウンザリとマデルが答え、カッチーが

「マデルさんの言う通りです。アイツ、なんにも気付かないで、()いてる椅子に座って『お待たせしました』って笑顔で言うと思います」

愚痴ってから自分の席に座る。そこで寝室のドアが開き、ジランチェニシスがダイニングに戻ってきた。


「いやぁ……寝かせておくか迷ったんですが椅子に座らせることにしたんで、ちょっと時間を取りました。お待たせして申し訳ない」

()いた椅子に迷いもなく座る。


 マデルとカッチーの予測通りのジランチェニシスを、どう受け止めたらよいものかピエッチェが言葉を失う。すると、

「ご馳走が並んでいますね……さぁ、みなさん、始めましょうか」

ジランチェニシスが場を仕切る。ギョッとカッチーがピエッチェを見、マデルが呆気に取られてジランチェニシスを見た。


 食事開始を告げるのは家長と相場が決まっている。カッチーを連れてコゲゼリテを出て以来、ピエッチェの役割だった。ここに居る五人では最年長だが、ジランチェニシスはあくまでゲスト、家長代わりになれるはずがない。それとも本人はそう思っていないのだろうか?


 微妙な空気の中、クルテがピエッチェの腕に()な垂れかかった。

「その赤いのはなぁに?」

「ん? あぁ、エビだ。食ったことないのか?」

クルテは魚介類の煮込み料理を見ている。他は一人ずつ皿に盛られ各々の前に置かれていたが、その料理だけ鍋で供されていた。


 クルテがいきなり質問するのはいつものこと、でもお陰で凍り付きそうだった雰囲気が急激に緩んで動き出す。マデルが自分のサラダを突き始め、カッチーも思い出したようにスープにスプーンを差し込んだ。


「エビ? 川にいた。でもそんなに丸くなかった。それにいっぱいあるはずの足がない、ヒゲもない、目玉もない」

「頭を外して、足を取って(から)を剥いてある。胴体の旨いところだけ食べるんだよ。それと、こいつは海にいたヤツだ――いいから食ってみろ」

説明しながら取り分けた皿をクルテの前に置き、次の皿にも同じように装っていった。


「海って行ったことがない。行った?」

「ザジリレンの南は海だ。見てみたいか?」

「いつか行く?」

おまえが行きたいなら連れて行く……だが、これは声に出さず微笑むだけにした。ジランチェニシスの手前、将来を思わせるようなことは言えない。


 次の皿はマデル、その次は迷ってからジランチェニシスの前に置いた。マデルは軽く会釈を寄こしたが、ジランチェニシスは無反応だ。小さく、

「まぁ、女性が先でしょうな」

と呟いただけだった――


 食事中はジランチェニシスが一人で喋りまくっていた。これは旨い、あれは旨いに始まって、調理法について(うん)ちくを披露したり、食べたことがある珍しい食べ物の話をしたり……相手をするのはピエッチェだが、ほとんど生返事だ。途中、急にマデルやカッチーにも話を振って、二人を慌てさせもした。もちろん二人も生返事、しかしジランチェニシスは気にならないようだ。ただ、クルテは何を言われても聞こえないふりで、これには少しムッとして、ピエッチェを睨みつけていた。


「あー、そうだ。明日はキャビンに乗せる飲料、少し増やします。それに、水以外にも何か用意してください」

カッチーがそう言ったのは、食事が終わり、ジランチェニシスがカテロヘブにも食事をさせると言って寝室に引っ込んでからだ。

「アイツ、一人で全部飲んじゃいました。しかも、水だけなのが不満らしくて……ワインが飲みたいだのビールがあったらなとかボソッと言うんでイラつくんです」


「水を入れる革袋、新調できないかしら?」

と、溜息を吐いたのはマデルだ

「アイツが触った、口を付けたって思うと、いくら洗ってあっても気分が悪い」

そこまで嫌うか。


 二人の要請にピエッチェが

「明日はカシス水やレモン水の小瓶を箱で買って積み込むか?」

困り顔で笑う。

「あいつ、キャビンの中でもあんな調子?」


「態度はデカいくせに、言葉は丁寧、気持ち悪いのよね」

「いちいち知識をひけらかされるのにもうんざりです。そこの畑で作っているのはトマトだナスだ、あの木は木材にするとどーたらこーたら……」

「わたしもカッチーも、返事しないのに気にならないみたいだし」


「ララティスチャングまでに仲良くなるようピエッチェさんに言われたけど、俺、無理そうです」

「ピエッチェ、わたしも無理だと思う」


 そこにジランチェニシスが戻ってきて、マデルとカッチーがハッと黙り込む。しらじらしい雰囲気が漂うのにジランチェニシスは気付いていない。手に、偽カテロヘブに使った食器を乗せたトレイを持っているのを見て、他の食器とワゴンに乗せて部屋の外に出すためカッチーが立ち上がった。これは条件反射、カッチーのいつもの仕事だ。


 手を伸ばしたカッチーに、ジランチェニシスが当たり前のようにトレイを差し出した。

「ピエッチェさんだったら労いの言葉を必ずかけてくれる」

呟くカッチー、これをジランチェニシスが笑った。

「なんのために? 従僕になど取り入る必要はありませんよ」

ピエッチェに向けての言葉だ。


 ピエッチェは答えない。が、立ち上がり、

「寝るか?……マデルとカッチーはこっちの寝室を使え」

いつも通りの明るい口調で言って、ダイニングの奥の居間のある寝室に入って行った。


 マデルとカッチーもついてくるが、

「こっちの寝室って、二室だったよね?」

マデルが首を傾げる。

「わたしとカッチー、同じ部屋?」

嫌そうなのは(いびき)を気にしてだろう。


「少しは仲良くなった方がやりやすいかと思ったが」

ソファーに腰を下ろしてピエッチェが嘆く。

「仲間ってわけじゃないって、思い知らせたくなった」


「仲間どころか、ピエッチェと同等だと思ってるよね、あれ」

マデルがピエッチェに共鳴するが、ピエッチェの怒りの元は違った。

「別に俺と同等なのは構わない。だけど、カッチーを(しも)()扱いしたのは許せない」


「ピエッチェさん、俺、そんなの気にしてません」

「俺が気になるんだ――で、アイツと俺たちは別なんだってことを見せつけたい。だからこっちに呼んだ。でも、困ったな。ベッドをどうするか……」


「今夜だけでしょ?」

ケロッと言ったのはクルテ、

「我慢しろって?」

泣きそうなマデルにカッチーが

「すいません」

と小さくなる。するとクルテが笑った。

「我慢するのはカッチー。でも大した我慢じゃない――ベッドを一台、居間に出せばいい」


 マデルが使う寝室のベッドを居間に運び、それぞれの寝所に解散した。もちろんクルテとピエッチェは一緒だ。


 寝室にも小さなテーブルと椅子が二脚置いてあって、その椅子に腰かけてピエッチェがクルテに微笑みかけた。

「で、何が気になるって?」

部屋に通されてすぐ、宿賃を気にしたピエッチェに『そんな事より気になることがある』とクルテが言った。その件だ。例によって、

「そんなこと言ったっけ?」

首を傾げるクルテにピエッチェが苦笑いする。クルテも椅子に座り、キューテマのロゴが入った紙袋をガサゴソ漁っていた。


「そうそう、カティは気付かなかった?」

そう言うと袋から出したジャムを乗せて焼いたクッキーを差し出した。ピエッチェが首を振ると自分の口に入れ、モグモグしながら言った。

「清風の丘のジランチェニシスの屋敷にも、ジョインズの店の裏手の家にもイチョウの木がなかった――お茶、持ってきて」

あ……イチョウの木のことなんか、すっかり忘れてた。


 居間に行けばお茶の用意がある。自分で行けと言おうと思ったがやめた。カッチーが寝ている部屋にクルテを行かせたくなかった。


「お茶が欲しいってクルテさんに言われましたね?」

居間に入ってきたピエッチェを見てカッチーが笑う。お見通しだ。


「なんだ、また読書か?」

「えぇ、今日は女神の助言に従わなかった王さまがお仕置きされる話です。女神って割と厳しいって言うか、残酷です」

「へぇ……ほどほどにして寝るんだぞ」


 寝室に戻り、お茶を淹れる。嬉しそうな顔でお茶を啜るクルテに、自分で行けと言わなくてよかったと感じる。だが、クルテはお茶を一口啜っただけ、すぐにイチョウの話を再開した。


「こっちにあるかなって、さっき階段を上る時、踊り場から庭を見たけど無かった。どこに行ったんだろう?」

「清風の丘にもジョインズの店の裏にも、なかったのは確かなのか?」

「うん、探したけど無かった」


 センシリケは誘拐してきた人や無心された(かね)を庭のイチョウの根元に置くと言っていた。置かれた人やかねは翌朝には消えたらしい。魔法が掛けられた木、フレヴァンスを連れ去った犯人のもとに繋がる木だと考えていた。ところが、カジノでセンシリケを味方に引き入れた後、なくなってしまった。


「あるとしたら、やっぱり王都なんだろうな」

ピエッチェが言った。

「センシリケは令嬢の居所は王都のどこかだって言っていた。実際はギュリュー・清風の丘だったわけだけど、なんの根拠もなく王都にいるとは言わないはずだ」


「妻子を連れ去って誘拐や(かね)の無心をし、手にイカサマの魔法を掛けたのはジランチェニシスじゃなさそうだね」

「あぁ、センシリケはヤツを見てもなんの反応も示さなかった」

「王都に繋がりがあって、そんなことができる魔法使いは?」


 クルテの問いにピエッチェが視線を険しくする。

「ノホメが魔法使いなのは疑いようもない。そして、そのノホメは仲間に会うと言って王都に行っている」


「つまりノホメ?」

「あるいは、その会いに行った仲間。もしくはその二人」

「イチョウはその仲間の屋敷にあると見込んでるんだね?」

「そうであってくれ。これ以上、厄介な人物の登場は勘弁して欲しい」

ピエッチェが泣きそうな顔で笑った。

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