表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
11章 身を隠す

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

190/436

 約束の時刻より少しばかり早めに行って、ジョインズの店の前でジランチェニシスを待った。果たしてヤツは現れるか?


 宵闇が広がり辺りは薄暗い。街灯の光を避けた場所で、周囲に人がいないのを確認してクルテが姿を消した。精神体になったんだなと思っていると、なぜかクルテの舌打ちが聞こえた。


(この、首にぶら下がってるのは何?)

シャーレジアに貰ったペンダントのことだ。

(あの爺さん、よっぽどカティが気に入ったんだね――うーーん……)


 と、右の手首に何かが巻き付いた。

(ネックレスになろうと思ったけど、あのペンダントが邪魔だからこっちにした)

姿を消すのではなくネックレスになろうとしたが巧く行かず、バンクルにしたらしい。


(見えないよりは落ち着くでしょ?)

(あぁ、心強いよ)

ピエッチェが指先でバンクルを撫でる。

(やめッ! (くすぐ)ったいってば!)

あぁ、そうだった。コイツ、擽ったがりだった。


(どのあたりが擽ったい? もっと擽ってやろうか?)

(馬鹿、やめろって! それどころじゃない!)

そうだ、ジランチェニシスがそろそろ来る。


 どんな状況でも『クルテと居ると楽しい』って感情が消えることがない。コイツが一緒ならどんな苦境も楽しんで乗りこえられる、そう感じた。でもそれは俺だけか? おまえはどうだ? だけど訊けない。訊いたところで『楽しいってなに?』と言われそうだ。


 かどを曲がって大通りに出てきた人影がゆっくりとこちらに向かってくる。ジランチェニシスだ。

(来たね)

クルテの声は心なしか緊張している。


「お待たせしました……混んでるようですね」

「予約してある」


 席は入ってすぐの窓際、ジランチェニシスが座った方からは見えないがピエッチェからはアルの宿の玄関が見える。混みあうことを見越して予約した席だ。料理の注文もすでに済んでいる。支払いはピエッチェが持つ約束になっていた。


「料理は注文しておいたけど、飲み物はまだだ……ビールとワイン、どちらに?」

「お任せします」

「いける口で?」

「それなりに」


 ピエッチェが(レス)()()(ンの)(店主)に頷くと、

「畏まりました」

と一礼して、ジョインズは店の奥に向かった。


「この店はよく利用されるのですか?」

ジランチェニシスの質問に

「今回で三度目、かな?」

嘘を吐く必要もないので正直に答える。ラクティメシッスとマデルの婚約の仮祝いを含めると四度目だが、あれは客とは言えないからいいか。


「それにしては店主と懇意な様子でしたが?」

「困っているのを助けたことがあってね」

「あぁ、なるほど……人助けも趣味ですか?」

これには苦笑いしただけで答えなかった。


 準備は済ませてあったのだろう。すぐに料理が運ばれてきた。

「取り分けるようにするか迷ったんだけど、それだと遠慮させそうだと思って……一人分ずつにして貰ったよ」

「そうですか……そうですね、誰かと食事をするなんて滅多にないことなんで、そのほうがありがたい」

ジランチェニシスは、ジョインズがグラスにワインを注ぐのを見るともなしに見ている。


「では、我らの明日に」

ピエッチェがグラスを持って掲げれば、慌てて自分のグラスを手にしたジランチェニシスが、

「えぇ、明日に」

唱和して軽くグラスを合わせた――


 アルの宿、ピエッチェたちの部屋ではベランダでカッチーが

「あれ? クルテさんは?」

と呟いた。

「今、ピエッチェさん、店に入ってったんだけど。向こうの路地から出てきた男と二人でした」


「暗いから見えなかっただけじゃ?」

居間でマデルが立ち上がる。

「それじゃ、行こうか」


 宿の受付ではアルが、

「今からお迎えかい?」

と話しかけてきた。

「それにしても、随分と遅いご到着だね。夕食は済ませてるんだったっけ?」


「今から一緒に食べるのよ」

マデルが微笑んで答えた。

「一足先に、みんなは食べ始めてるんじゃないかな?」


「へぇ、どこの店だい?」

「坂を下りたほうだったかな……まぁ、待たせちゃ悪いから行くわね」

「ほいさ、お気をつけて――部屋はばっちり確保してあるからね」


 宿を出て、坂を下っていく。

「そろそろいいかな?」

「向こう側に渡りますか?」


 広い通りを横切って、今度は坂を上る。

「こっち側、街灯の数、少なくありません?」

「商店やらは向こう側ばっかりだからね。わたしたちには好都合」


「ひょっとして、ジョインズさんの前の持ち主の店が()らなかったのはこのせいでしょうか? こっち側はなんか寂しいですよね」

「あぁ、あるかもしれないね。でもジョインズは流行らせた。プランと武器を持ってたって事よね」


「プランと武器?」

「経営方針と料理人としての腕――この路地ね」

マデルがジョインズの店の手前の路地へと入っていく。もちろんカッチーも迷うことはない。


 路地は街灯がなく真っ暗だ。が、マデルが何か呟くと、二人の周囲だけ少し明るくなった。

「これ以上明るくすると、気が付く人が出るかもしれない――ここだわ」

ジランチェニシスが誘拐した人たちを閉じ込めている屋敷の前でマデルが立ち止まった。


「鍵が掛かってるんじゃ?」

カッチーの心配は、カチャッと音がして解消される。マデルが魔法で開錠した。

「もう! わたしがこんなことに魔法を使ったなんて、ピエッチェとクルテ以外に言わないでよっ! 絶対だからね!」

プリプリ怒りながらマデルが屋敷の扉を開けた。


 中に入ると、灯りはあるもののシンと静まり返り、人の気配を感じない。

「本当に居るんでしょうか?」

不安を隠しもしないでカッチーが言う。


「ピエッチェとクルテが『ここに居る』って言ったんだから、間違いない――ここね、この廊下だ」

玄関の()の次は居間、そこを抜けると奥に続く廊下がある。一番手前の部屋は左右とも開けるな。左側の部屋は二部屋目から、右側の部屋は三部屋目から……


『左右七対で全部で十四部屋、そのうち十一部屋に人が閉じ込められている。センシリケの妻と娘は同じ部屋に居るから人数としては十二人――夢を見続ける魔法で眠らされている。マデルなら目覚めさせられる』


 カッチーが左側の部屋のドアを一つ飛ばして開けてみる。

「鍵は掛かっていません――います、ベッドに横になってます。女の人です」

すぐさまマデルも部屋に入り、横たわる女性を検める。

「うん、眠ってるだけ。クルテが言ってた通り、夢を見続ける魔法だね。これなら簡単に目覚めさせられるよ」

ホッとマデルが息を吐いた。


「とは言え総勢十二人、ちょっと手間がかかるけど、まぁ、何とかなるでしょう。カッチー、手伝って。目覚めた人のケアをお願い――始めるわよっ!」

マデルの威勢のいい声が響き、カッチーがこっそり微笑む。これでこそマデルさんだ……ここ最近のひっそり沈んだマデルをなんとかしたいと思っても、どうしたらいいか判らず気を揉んでいたカッチーだった。


 さんざん飲み食いし、ジランチェニシスは上機嫌だ。ワインの酔いも手伝っているのかもしれない。

「いやぁ、誰かと一緒に食べると、料理を旨く感じるものですな……いえ、ここの料理はもともと旨い、ますます旨く感じるって意味です」

訊きたいことはすべて聞き終わっている。ドンクやほかの街の悪党の事を、ジランチェニシスはピエッチェに訊かれるまま、ペラペラと話してくれた。


(コイツにとってあんな小悪党、物の数に入ってないってことだ)

心の中でクルテに言うと、

(アドバイスすると喜んで貰える、それが嬉しくて、求められれば知恵を貸した。そのうち気が付いたら先生と呼ばれ崇められてた。悪い気はしなかったんだろうね)

と返事が来た。


(ジランチェニシス自身が何か悪さを考えてたわけじゃなさそうだ)

(お陰で面倒事が減って良かったよ――ジランチェニシスが居なくなりゃ、ドンクの力も衰える。ま、便宜を図ってた馬鹿な下級魔法使いは処分するしかないね)

(ラクティメシッスは知ってるんだろうか?)

(あぁ、あのタヌキなら気付いてて知らんふりしてるんじゃ?)

ラクティメシッスをタヌキ呼ばわりしたら、マデルに怒られるぞ。


「それじゃあ、彼女はわたしの屋敷に?」

「えぇ、留守に入り込むのはダメだと止めたんだけど……早く解放して家に帰してやりたいって。何しろ……」

ピエッチェが声を潜める。

「姿を消しちゃうんで、俺にもどうにもならないんだ」

クルテが同席していない理由を聞かれ、自失している人々を起こしに行ったと答えたピエッチェだ。


 ジランチェニシスの屋敷に忍び込んだのは、本当はマデルとカッチーだ。囚われの人々を目覚めさせ、宿に連れて行くことになっている。


「そうですか……しかし、目覚めさせられますかな?」

「本人はできるって言ってたんだけど、そんなに難しいんだ?」

「まぁ、彼女は特殊ですからあるいは」

他人に聞かれたら困るから『精霊』とは言わない約束になっていた。この他人にはマデルとカッチーも含まれている。


「まぁ、開放する約束ですから。彼らをどうしようとあなたの勝手だ。わたしは構いませんよ。むしろ明日の朝、食事の世話をしなくて済むから大助かりだ」

「そう言って貰えると助かる。それにしても、彼女には手を焼かされてばかりだ。言う事をなかなか聞いてくれなくてね。あんたも覚悟したほうがいい」

「そんな相手を従順にさせるのも、また楽しいかもしれませんよ?」


 従順? それって魔法で眠らせ続けることを言っているのか? 心の中でピエッチェが皮肉る。それに気づくはずもないジランチェニシスは、ピエッチェがクルテを渡す気になっていると感じて嬉しそうに笑んでいる。


「では、明日は馬車で清風の丘のお屋敷に迎えに行くので。例の彼を連れてくるのを忘れずに」

少し前、アルの宿に十数名の団体が入って行くのが窓越しに見えた。そして今、ピエッチェたちの部屋のバルコニーに誰かが出てきた。多分カッチー、首尾よく事を終わらせたという合図だ。


「なんだか名残惜しいですなぁ」

「なに、明日からは、少なくとも王都までは一緒。食事も一緒に摂ることになる」

ジョインズの店を出て、路地の入口までジランチェニシスを送る。見えなくなってから、少しだけ坂を下った。

「巧くいったみたいだね」

姿を現したクルテがピエッチェの腕に絡みついた――


 その頃、ザジリレン王宮では王姉クリオテナとその夫グリアジート卿ネネシリスが睨み合っていた。二人の寝室、他には誰もいない。


「今すぐ白状したら、なんとか揉み消してあげるのに!」

「それはこちらのセリフです。王女とて、なんでも思い通り、やりたい放題できると勘違いしてはいけません」


「わたしが何を勘違いしていると!?」

「王宮の蔵の(かね)を好き勝手に使ってらっしゃる」

「はぁあ!? それはおまえだろうが!」


 蔵の(かね)が毎日のように僅かずつ減っている……それを互いに相手の()わざだと考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ