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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
10章 友好と敵対

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 この『多分』に続くのは、『そう』なのか、『違う』なのか?


 と、クルテが一本の細いロープに姿を変えた。

(わたしを使って額縁を背負い、ぬいぐるみは小脇に抱えろ)


「おや、そんなロープをお持ちでしたか?」

ジランチェニシスの問いに、クルテが

(腰袋に入れてあったと言え)

ピエッチェに指示を出す。


「えぇ、腰袋に入れてました」

なんだか無理があるし、子どものようにお気に入りの(おも)ちゃをポケットに入れていたみたいでイヤだったが、他に言い訳が思いつかない。


 ジランチェニシスは疑わなかった。

「そうでしたか――いつもいろいろなものを備えてらっしゃる?」


「いつ、何が必要になるか判りませんから」

「腰袋ではなく、帯に吊るしている剣で大抵のことは解決できるのでは?」

シャーレジアの剣をチラリと見、

「わたしは剣を扱ったことがないんです。教えてくれる人が居ませんでした」

訊いてもいないのに言った。


「扱えるようになりたかった?」

「そうですねぇ……まぁ、その代わり、魔法が使えるから良しとしますよ」


()ガー(かい)ちゅうに隠してる)

これはクルテの声だ。ピエッチェとて、それには気付いていた。


「よろしいかな? では、参りましょう」

ピエッチェが頷くのを見て、ジランチェニシスが部屋から出て行く。ドアを開ける間際、クスリとピエッチェを笑った。笑われても仕方がない。背には大きな額縁、小脇にクマのぬいぐるみを抱え、きっと誰が見たって笑うだろう――


 照明はあるものの、薄暗い廊下を進んだ。この屋敷、外観にはある窓が内側にはない。夜や闇が好きなのではなく、ジランチェニシスは陽光が嫌い……が正解なのかもしれない。


 広い廊下はやがて階段に辿り着いた。下へと向かっている。地階に居たのだから階段を下れば地下だ。


「地下室は水が溜まってしまったのでは?」

「えぇ。まるで湖のようですよ……舟の用意があります。向こう岸は別の屋敷の地下になっています」

「では、目的の屋敷は隣の屋敷?」

「向こう岸が隣だなんて、誰が決めたのですか?」

魔法で空間を歪めた? それは女神の魔法、ジランチェニシスには不可能だ。


「そんな馬鹿なとお思いですね――まぁ、わたしの魔法ではありませんよ。森の女神に願った事です」

ローシェッタ王家の血を引くジランチェニシスの願いを、森の女神は()にはできなかったと言う事か。


 ところがクルテが真っ向から否定した。

(女神に願ったってのは嘘だ)


(ジランチェニシスになんか、女神が魔法を使うはずがないって? アイツはローシェッタ王家の血を引いてるらしいのに?)

(そりゃあ、ヤツが願えば女神は拒めない。でもそれは、対面して願った時に限ってだ。目の前に居ない相手の願いを聞き入れるほど女神はお人よしじゃない――ヤツはいったいどこで女神と遭遇した?)


(清風の丘なんじゃないのか?)

(清風の丘は森じゃない。森だったのに人間が潰してしまった。ずーっと昔、ギュリューがローシェッタの都だったころ――人の手が入らなくなれば、あっという間に木々は枯れる。清風の丘に限らずギュリューはそんな場所だ)


(ギュリューを管轄する女神が居ないってことか?)

(久々に察しが良くなった)

だがそうなると、ジランチェニシスはどんな手を使って地下の水溜まりを別の屋敷まで繋げたんだろう?


 階段を下り切った先にはドアがあり、その先はいつか迷い込んだあの広い空間だった。壁際の階段をさらに下へと降りて行く。迷い込んだ時と同じで照明が点いては消えていく。暫く行くと、階段の脇の下方で水面が揺らめき始めた。


 船着き場には、今日は小舟が係留されていた。小舟と言っても十人くらいは乗れそうだ。


「十三人……わたしとあなたを入れて十五人。乗り切れそうもありませんね」

「こちらに戻ることはありません。向こうの屋敷にも玄関ぐらいあります」

「向こうの屋敷はどこに?」

「清風の丘ではありませんが、ギュリューです。あの(ジョ)()()()(の店)の近くだから、宿まで歩くのも苦にならないでしょう」


 あのレストランのある場所と清風の丘の標高差の分、階段を下りたんだろう。そう考えると……


 ピエッチェよりも先にクルテが言った。もちろん頭の中でだ。

(ここって本当に地下室?)


(おまえもジェンガテク湖の地下水流を思い出したか?)

(流れてないから水流じゃない。地底湖のほうがあってる)

煩いな、そんなこと判ってら。そんな細かいこと、どうでもいいだろ?


(ジランチェニシスは屋敷の下で地下水を掘り当てたってことだろうな)

ピエッチェの推測に

(ここでアリジゴクを飼ってたってのは嘘だね)

クルテが決めつける。むろんピエッチェも同じ意見だ。そして、さらに推測を広げた。


(ひょっとしたら……コテージのウッドデッキで見つけたアリジゴクを練習に使った? コテージの横の森で、アリジゴクを魔物にしたんだ)

屋敷の地下であんなデカいアリジゴクを飼っていたのなら、どうやってジェンガテク湖の森まで運んだのかが不思議だった。これでその謎も解ける。


 ジランチェニシスが舟に板を渡し、乗り込んだ。ピエッチェも無言で続く。すると板が引き込まれ、すーーッと舟が動き出した。

「ここは風もなく、流れもない。だから舟が沈むことも、大きく揺らされることもありません」

進行方向を向いて立ったまま、ジランチェニシスが言った。小舟は水面を滑るように進んでいく。


(物や生き物を魔物に変える練習?)

クルテの質問で、中断していた脳内会話が再開される。


(むしろ巨大化。ぬいぐるみを大きくする必要を感じて、巧くいくか試したんじゃないか?――ぬいぐるみは文字が書けるのかと聞いた時、ヤツは笑い飛ばしたが内心ギョッとしたんじゃないかな)

(フレヴァンスに届いた手紙のことだね)

(あの手紙をぬいぐるみが書いたんなら、ヤツの言うとおり、ぬいぐるみがヤツを(そん)(たく)しての犯行。でも否定した。ならば手紙の差出人は?)

(ジランチェニシス……だけどヘン。書けるか訊いた時点でこちらがフレヴァンスに届いた手紙を知っていることに気が付く。書けるって言えば、すべてぬいぐるみのせいにできるのに否定した。ヤツにしては迂闊)


(それはさ、最初は自分でフレヴァンスを迎えに行くつもりだった。だけど、フレヴァンスに恋人がいることを知ってしまった)

(マデルのお兄さんだね)

(そう、だから自分が行っても拒絶されるかもしれないと考えた)

(そこでぬいぐるみに誘拐させることにした?)


(もし、手紙のことを尋ねたら自分が書いたってヤツは言いそうな気がする。なぜなら手紙が自分の正当性を裏付けるって考えているから)

(どういう理屈?)

(約束を忘れたのはフレヴァンスだって言いたいんだよ。不誠実なのはフレヴァンスだ、自分は約束通り迎えに行っただけだってね)


(だったら自分で行くんじゃ?)

(それが行けない事情ができた――誘拐はフレヴァンスの結婚相手を決める舞踏会で起きている。なぜその日を選んだか。優越感を得るために、恋人の目の前で彼女を奪いたかった)


(うーーん、なおさら自分で行くんじゃないか? 行けない事情って?)

(自分の顔が嫌いだと、ヤツは言った。なんでそんなに嫌うのか? ラクティメシッスとそっくりだからだ。いやでも自分に流れる血を自覚してしまう)

(そして舞踏会に行けば、人々がヤツのことを隠された存在、父親が前王の隠し子だと気付くかもしれない。それを避けたかった)


(きっとね……気になるのは、いつ自分の出自に気付いたかだ。ヤツはローシェッタ王家に連なる全員を呪っていると、人魚が言っていた。となると、コテージを去る前には知っていたと考えられる――それと、手紙はフレヴァンスの居室に届いている。魔法を使うにしたって、王宮に潜入して初めて可能なことだ。手引きした誰かが必ず存在する)

(その人物、今すぐ特定するのは無理)

(判ってるって)


 苦笑するピエッチェを

「どうかしましたか?」

ジランチェニシスが(いぶか)って振りかえる。


(この間抜け!)

クルテは呆れたが

「いえ、この先のことを考えたら、()()ね」

ケロッと答えるピエッチェ、ジランチェニシスは

「思っていたよりずっと、俗物だった……」

呟いて前を向いた。


(巧くやり過ごしたじゃないか)

(おまえに褒められると、なんだかすごく嬉しいぞ。(けな)されてばかりだからなぁ)

(貶してばかり?)

貶すつもりはないとでも言うのか? が、クルテは

(そうなのかな?)

と考え込んでしまった。


 それからは、向こうの屋敷に着いてからどうするかを相談した。もちろん脳内会話だ。だが、決まらないうちに向こう岸が見えてきた。


 清風の丘の屋敷の地下と向きが違うだけで同じ景色、思った通り階段が上へと向かっている。だが、それほど高くは続いていない。板が渡されジランチェニシス、ピエッチェと下船した。向こうでもそうだったが、板のセッティングは魔法だ。二人が渡りきると自動的に岸に引き上げられて動かなくなった。


 そう言えば、(もや)い綱がない。向こうでもそうだったか? まぁ、ここなら舟が流されることもないのだから不要だ。


 ピエッチェに頷いてから、ジランチェニシスが階段を上り始める。もちろんピエッチェも続く。いつかのように見えているのに見えない階段ではなく、ここは普通の階段だった。


「そう言えば……」

振り向きもせずジランチェニシスが言った。

「いつかはお楽しみいただけましたか?」


「いつか?」

「勝手に人の家に入ってきたから(なに)ごとかと思いましたよ? 迷わせて閉じ込めようかと思ったのに、大広間に入り込んだ。だったら舞踏会にお招きしようと思いついたんです」

デレドケの迷宮か。


「招待されたのは舞踏会だけじゃなかったようだが?」

「ステップを踏まないと進めないことによくぞ気が付かれた。それにダンスもお上手で――えぇ、汗を()かれたんじゃないかと思って、水浴びでもいかがと思ったんですがお気に召さなかったようですね。それにしても宙を進むなんて……どんな魔法を使ったのかと驚きました。施術したのは婚約者のお嬢さん、精霊の魔法には本当に感心させられます」

ジランチェニシスが笑んだような気がした。

「あの魔法を見て、どうしても精霊が欲しくなりました。だからお二人は無事にあそこから出られたんですよ」


 階段を上りきった先のドアをジランチェニシスが開ける。

「それに彼女は勘がいい。ピエッチェさんの選択に合わせて迷宮が変わっていくことに、すぐ気が付いた。それなのにあなたときたら……あなたは彼女に(ふさ)しくない」

余計なお世話だよっ!


「あなたは彼女に毒見をさせた。わたしはね、そんなあなたから彼女を救ってあげたいのです」

暖炉の部屋でのお茶会……毒見をさせたつもりはないが、でも――

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