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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
10章 友好と敵対

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 金髪で碧眼……


「アイツがラジ?」

唸るようなピエッチェの声、遠ざかる人影を凝視するが夜目の遠目、人相風体を見極められるもんじゃない。


 クルテがフッと息を吐く。

「可能性が高いってだけだ。誰かに名を問われれば思い浮かべもするだろうけど、そうでもなきゃ心の中で自分の名を唱えるヤツは滅多にいない」

()()()どころじゃなく、居ないと思う」

「それは思い込みだ。(たま)には、(まれ)に、ひょっとしたら居るかもしれない」

三つも重ねたら、ますます居なく思えてきたぞ。


「潜伏先を考えてくれたらよかったのに」

「まぁ、仕方ない。マデルたちに判った理由を説明するのも厄介だ――あの方向だと清風の丘にも行けるな」


「一つ問題を忘れていた」

「問題?」

「清風の丘は遠い。馬車で行けば目立つし、を見つけ出せて忍び込めたとしても、リュネを放っておけない」


 ふむ……

「歩いて行くか?」

「えっ……」

ギョッとするクルテ、ピエッチェがつい笑う。


「冗談でも(かつ)いで行けなんて言うなよ。(ジョ)()()()(の店)から宿までなら、まだなんとかなる。でも清風の丘までは無理だ」

「レストランからだって拒否したくせに」

拗ねるクルテ、

「まぁいいや、明日考えよう――そろそろ寝るか?」

居間の中へと入っていく。


 ピエッチェも中に入り、バルコニーの戸を閉めながら言った。

(宿の)(主人)に相談したら何か教えてくれるかもしれないぞ」


「アルが?」

「俺たちが知らないだけで、街人たちが普段使う交通手段があるはずだ」

「駅馬車みたいな?」

「そんな感じだね。でなきゃ、不便だろう?」

「あ、レムシャンもそれを使ってるのかな?」


 清風の丘から勤め先に通うのに徒歩では大変だと、話した時には思いつかなかった。清風の丘は貴族の別荘地、乗合馬車が通るのを貴族たちが許すとは思えない。だが丘の(ふもと)だったら? ピエッチェとクルテを見て、子どもを家の中に避難させた女を思い出す。丘の下には庶民の住まいがある。馬を所持できない彼らを客にする乗合馬車があっても()しくない。


 ベッドに潜り込むとすぐにクルテが甘えてきた。抱き寄せ抱き合いキスをして、大好きだよと今夜も囁く。クルテは切なげな顔でピエッチェを見たが、何も言わずに目を閉じた。


 朝食を運んで来た(宿の)(主人)がキョトンとした。

「こないだ、清風の丘に行ったんじゃなかったのかい? ギュームさんに会いに行くって言ってたよね?」


「馬で行ったんだよ。ほら、馬具屋の場所を訊いたのは(くら)とか買うためなんだ」

「んじゃ、今度も馬で行けばいいんじゃ? あー、でも、四人で行くなら馬車か。うん、ギュームさん()にゃ馬車の置き場なんてなさそうだ」

アルはどうやらピエッチェたちがギュームを訪ねていくのだと思い込んでいる。あえて訂正することもない。


「だったらさ、連絡馬車を使うといいよ。清風の丘までは行けないけど、(ふもと)まで連れてってくれる。確か、十二人くらい乗れるんじゃなかったかな? ここから一番近い停車場は馬具屋の前。あとで時刻を調べてメモにしておくけど、向こうからの時刻は判らない。降りるときにでも訊いてくれ」


 清風の丘の麓から各所に向けての連絡馬車は、もともとギュリュー警備隊の詰め所に所要のある者のためのものだったらしい。王室魔法使いが常駐しているセレンヂュゲと違って、ギュリューでは警備隊が役所を兼ねている。警備隊に出向く街人も少なくない。


 マデルは今日も浮かない顔だ。昨夜もラクティメシッスは鏡を覗いてくれなかったのだろう。

「マデル、顔色が悪い」

クルテが心配そうに、マデルに言った。

「なんだったら、今日は宿で休んでる?」


「そんなのダメ」

「なんでダメ? わたしが風邪を引いたりお腹が痛かった時、宿で(おと)しくしてろってマデルは言ったよ?」

「だって……病気ってわけじゃないから」


「でも、もうちょっとで病気になる、そんな感じです」

カッチーが食事の手を止めてマデルを見る。朝から元気にモリモリ食べるカッチーなのに、今日は食の進みが遅い。マデルを気にしてチラチラ見ているものだから、食べることに専念できずにいた。それほどマデルは顔色が悪い。


 ピエッチェとてカッチーと同じだ。もっともこっちは頭の中でクルテと相談していた。おい、マデルったら、今にも倒れそうだぞ。そうだね、宿で休んでたほうがいいって言う……


 顔色が悪いだけじゃなく、マデルは食欲もないようだ。皿をフォークで突っつくだけで、口に運んだ料理は僅かだ。デザートのカスタードプディングだけは先に食べてしまって皿が空になっている。


 ピエッチェが、自分の分をマデルの前に移動させた。

「食欲がないなら無理に食べなくていい。食べる気になる物だけ食って寝とけ――どうせ今日は空き家探しで終わる。中を調べるには準備不足だ」


 クルテがピエッチェの真似をして自分の分をマデルの前に押しやると、カッチーさえ大好物のプディングを(ため)うことなくマデルの前に置いた。

「あんたたち……」

声を詰まらせるマデル、涙ぐみそうなのに無理やり笑顔を作った。

「さすがに三つは多すぎるわ」


「んじゃ、カッチーの分はわたしが食べる」

「えっ!?」

クルテが一皿、サッとデザートを自分の前に引き戻す。一瞬ギョッとしたカッチーが

「いいですけどぉ。それって自分の分は食べるってのと同じですよ?」

と笑う。


「ううん、わたしの分はマデルに食べて欲しい。だからわたしが食べるのはカッチーの分」

「そっか、それじゃあ、そう言うことにしておきますか」


「そこまで言われたんじゃ()()()()プディングを食べないわけにはいかないわね」

微笑むマデル、今度は自然な笑みだった。


 食事が終わると

「お言葉に甘えて、わたしは部屋で休んでる」

マデルが寝室に引っ込んだ。少ししてアルが食器を下げに来る。

「これ、連絡馬車の時刻表だ。早めに行ったほうがいい。満席だと次まで待たされるよ」


 ありがとう、と受け取ったピエッチェがニヤリとする。アルが部屋から出て行くと

「へったくそな字だなぁ」

と笑った。


 横からカッチーが覗き込む。

「確かに……俺の字のほうが幾分マシです」

「そうだったか? 似たようなもんだろ? まぁ、読めないわけじゃない。手間をかけてくれたことに感謝しなきゃな」


 クルテも覗き込んで、

「警備隊の詰め所前までどれくらい時間がかかるか訊けばよかった」

と呟いた。

「それとルート。きっと、あちこち回っていくんじゃないかな?」


「言われてみればそうだ。でも、そんなに気にすることもない。判ったところで連絡馬車のルートを変えることも出発時刻を変えることもできやしない。決まった時刻に着かなきゃならないわけでもない」

「だけどやっぱりルートは知りたい。ま、乗る時に訊けばいっか――ここの警備隊の詰め所にはラクティメシッスに連れられて行っている。警備兵の中にわたしたちの顔を覚えてるのが居て不審に思われるかもしれない。一つ手前で降りたほうが無難」

「一つ手前で降りたところで警備隊の前を通らなきゃ清風の丘に行けないなら、意味がない。だけど、そうだな……訊いてみて、それから考えよう」


 警備隊の詰め所は、あの女の家の近くだった。こっちから行くとなると清風の丘に上る坂の方から詰め所に向かいそうだが、そうとも限らない。それに、一つ手前がどれほど距離があるのかも確かめておかないと、歩き疲れることになるかもしれない。


 それよりも、とピエッチェがカッチーを見た。

「おまえも留守番だ」


「えっ? 俺、足手まといですか?」

「そうじゃないよ――マデルの監視を頼みたい。アイツ、俺たちが出かけたのを見計らって、無理をしてでも清風の丘に行こうとしそうだ」

「あ……」

ありそうだとカッチーも思ったのだろう。だが一緒に行きたいと顔に書いてある。


 だけどピエッチェとしてはカッチーに残って欲しい。クルテがマデルを読んでいるからこそ、カッチーに頼んだ。寝室に入っていくマデルは『後から行こう』と考えていた。


「それにさ」

カッチーに『うん』と言わせたいクルテ、ピエッチェを補足する。

「マデルだって一人でお茶は寂しいし、余計なことを考えちゃう。カッチーだったらマデルは気を遣わないでいられる」


 残念そうな顔をしていたカッチーが、少し考えてから明るく言った。

「マデルさんは大事な人です。何しろ王太子さまの婚約者だ。そんな人のお世話を任されるなんて、俺、責任重大ですね」


 ピエッチェとクルテが頷き交わす。マデルとカッチーが居ないなら、クルテの能力を最大限に発揮できる――


「清風の丘の最寄りなら終点の警備隊詰め所前だ。その手前? 相当歩くことになる。降りる馬鹿は居ない」

連絡馬車の(ぎょ)しゃはピエッチェの問いに素っ気なく答えると、

「それがイヤなら乗るな。乗るならさっさと乗れ」

と、機嫌が悪いのか喧嘩腰だ。ルートを訊ける雰囲気じゃない。乗れば判ると連絡馬車に乗り込んだ。


 連絡馬車は(ほろ)を掛けた大きな荷馬車、セレンヂュゲからグリュンパへの駅馬車のほうがマシだった。向こうは座りやすい座席が進行方向に向かって座れるよう設えてあったが、こっちの座席は荷台の両端、低い棚のようなお粗末なものだった。それでも無料で利用できるのだから文句が言えるものでもない。


 カラフルな建物が立ち並ぶ中、坂を上り、坂を下り、暫く平たい道を行った。それからまた坂を上った。前に清風の丘に行った時とは違う道だった。どうやらあの時とは反対方向から警備隊詰め所に向かうようだ。()がいいたところで警備隊の前を通ることは避けられない(さだ)らしい。


(まぁ、覚えられてたってかまわない。何か言われたら、ギュームに会いに行くって言えばいいだけだ)

(それもそうだね。ギューム、わたしたちにさんざん利用されちゃってる)

ニヤッとクルテが笑った。


 警備隊詰め所の前には立ち番が居て、ピエッチェたちを見ると()げんな顔をしたが声を掛けてくることはなかった。


(やっぱり顔を覚えてるみたいだな)

(王太子が連れて来たんだ、忘れやしないさ――清風の丘の見回りに見付からないよう、気を付けなきゃね)


 道を尋ねたら子どもたちを慌てて家に入れた女の家の前では今日も子どもたちが遊んでいて、あの女がそれを見守っていた。前を通るピエッチェたちをチラリと見たがなんの表情も示さない。こちらは全く覚えていないようだ。


(あの時はリュネも一緒だったから)

(なるほど……)


 坂を上るにつれ、汗ばんできた。ギュームの家の前を通り過ぎる頃には汗だくだった。

「あれ?」

と、聞き覚えのある声が聞こえた。

「ピエッチェさんとクルテさんじゃないですか?」

ギュームは今日も庭で絵を描いていたらしい。

「先日は失礼しました。また来ていただけるとは……今日は嫁が出かけてるんですよ。どうぞお入りください」


 って、なんてタイミングが悪いんだ?

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