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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
10章 友好と敵対

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 ピエッチェが不意に笑った。自嘲の匂いがプンプンする。

「今日は何してた? 買い物に出て、あとはボーっとしてた」

身体を少し離して、クルテがピエッチェを見上げる。

「マデルを待ってたんだよ。マデルからの情報を」


「で、どんな情報を手に入れた? 魔法使いの下っ端役人たちはマデリエンテ姫の顔を知らなかったってことか?」

「怒らないで」

「怒ってない」

「嘘だ。カティは自分に対して怒ってる」

言葉に詰まったピエッチェがクルテから目を逸らした。


「事態はどんどん悪い方向へ進行している。しかもローシェッタを巻き込んでしまうかもしれない。なのに俺は? コゲゼリテに辿り着いてからこっち、何か事を進められたか? 何も成し遂げていない。ただローシェッタ国内を行ったり来たりしただけだ。有力な情報一つ掴めていない」

「ごめん、わたしのせいだ」

「なんでおまえのせいなんだよ?」

慰めるな、余計に惨めになる。怒鳴りたいのを(かろ)うじて抑えたピエッチェ、それでも乱暴な言いかたになった。そんなのダメだ、悪いのは俺だ。クルテに八つ当たりするのは間違っている。


 クルテも退()いてはいない。

「どう行動するのか、ほとんどわたしが決めた。カティはわたしの提案に従っただけだ」


「おまえの提案に乗ると決めたのは俺だ。代替案を考えもしなかったのも俺だ」

「わたしを信用してのことだ。わたしはその信用を裏切った」

「おまえを信用したのも俺だ。それに、おまえは裏切ったわけじゃない。思ったよりもスムーズに行かなかっただけだ」

「違うんだ。そうじゃない……」

ピエッチェを見詰めていたクルテが視線を外して(うつむ)いた。


「わたしは……カティに言ってないことがたくさんある」

「あぁ、魔法による制約だろう? それだっておまえのせいじゃないし、この件には関係ない」


 ピエッチェが立ち上がる。自分から言い出したくせに、こんなことを話していてなんになると思った。話題を変えるか、話しを打ち切るか? 今は何を話しても最後には愚痴になりそうな気がして、打ち切るほうを選んだ。

「もう寝よう。ぐっすり眠れば、明日にはいい案が浮かぶかもしれない」

そんなに簡単なら()()()()思いついている。


 ところがクルテに動く気配はない。座って俯いたままでいる。

「どうした? 来いよ、今日は一緒に寝てくれないのか?」

返事をしないクルテにピエッチェが不安になった。


「俺のことがイヤになった? それは困る……おまえと一緒じゃなきゃ、安心して眠れなくなっちまってるんだぞ?」

冗談めかして言ってみる。でも冗談なんかじゃない。本音だ。


 それでもクルテは動かない。そしてピエッチェは落ち着かない。

「クルテ?」

とうとうクルテの前に膝をつき、顔を覗き込んだ。クルテがピエッチェから顔を背ける。

「なんで泣いている?」

クルテの瞳が涙で潤み、いつもよりはっきりと緑色に見えた。


 (てのひら)で頬を包み込むようにクルテの涙を(ぬぐ)い、ピエッチェが囁く。

「おまえは悪くなんかない……泣くなよ。泣かないでくれ」

優しい声にクルテがチラリとピエッチェを見、そして顔を歪めた。

「カティ!」

両腕をピエッチェの首に回して抱き着くクルテ、抱きとめたピエッチェがふと思う。クルテ、おまえ、俺のことを『おまえ』とは言わなくなったな……


 ピエッチェの手が慰めるようにクルテの頭をゆっくりと撫でた。だが、次の叫びでその手が止まる。


「違うんだ! わたしは、わたしは……ラジの正体も、どこに居るかも知っているんだ!」

――クルテ? 今、なんて言った?


 突き放し、問い詰めたい衝動、ダメだ、まだ理由を聞いてない。詰問は理由を聞いてからでもできる。

「知っているなら、なぜ俺に教えなかった?」

ピエッチェの声が震える。クルテはしゃくりあげ、なかなか返事を寄こさない。

「泣くな。泣いてないでちゃんと話せ――いや、まず落ち着け」

そうだ、まずは落ち着け。自分にも言い聞かせ、クルテを抱き締める腕に力を込めた。


 こうしてクルテを抱き締めれば、あんなに(たかぶ)っていた気持ちが鎮まっていく。俺にクルテは必要だ。手放しちゃいけない。でも……ラジの正体と居所を明かさなかった理由を聞いても、同じ気持ちでいられるだろうか? 理由によってはクルテが言うように裏切りかも知れない。それでも同じ気持ちでいられるか?


 いいや、クルテは裏切ったりしない。もし裏切りだったとしても、そんなつもりはなかったのに結果としてそうなった。そんなところだ。だってこんなに泣いているじゃないか。少なくとも後悔してる。


 誰だって失敗や(あやま)ちを繰り返す。俺もそうだ。クルテは俺をいつも許してくれている。今度は俺が許す番だ。それにしても……魔物も人間と同じように、自分の失敗を後悔するもんなんだな。


 ふとクルテの嗚咽が止まった。抱き着いていた腕を緩めピエッチェの顔を見る。そしてフッと笑った。


「おまえにラジの正体と居所を言えば、すぐに行くと言い出すに決まってる。なんで判ったかとマデルは訊くだろう。説明ができない。だから言わなかった」

「クルテ?」

豹変に戸惑うピエッチェ、クルテがピエッチェの腕を解く。


「だからわたしは誘導した。ギュームに会えば、彼から聞いたのだと誤魔化すこともできる。清風の丘の屋敷を探せとも言った。ラジの潜伏先は清風の丘だ。ノホメは何も知らないと言ったが心で考えていた」

「だったら! クルテ、それは裏切りじゃない」


「相変わらず馬鹿だな。おまえにだけ打ち明けるって手もあった。だがわたしはそうしなかった」

「その替わり、誘導してくれてたんだろう?」

「なにしろ! 言えないわけじゃないのに言わなかった。嘘を吐かないっておまえと約束したのに、判らないって嘘を吐いた」


 クルテが立ち上がる。ピエッチェも慌てて立ち上がり、クルテを抱き締めようとする。だがクルテがそれを許さない。『おまえ』と呼ばれたこともあり、ピエッチェが焦る。もしやクルテに嫌われたのか?

「クルテ、ちゃんと理由のある嘘だ。って言うか、なんでおまえ、怒ってる?」

ピエッチェの腕から逃れようと身体を(よじ)っていたクルテの動きが止まった。


「怒ってない。きっとこの感情は『悲しい』だ」

「なにが悲しい? おまえを悲しませるようなことを俺が言ったのか? だったら謝る、すまなかった。それに教えてくれ。俺のどこがいけなかった? 直すよう努力するから」

動きを止めたクルテをピエッチェがそっと抱き寄せる。


「好きなんだ、クルテ。裏切ったと言われても、そんなはずはないって思った。もし万が一、裏切られていたとしても許したいと思った。いつもおまえは俺を許してくれている。俺はおまえを責めたりできない。なにがあっても、俺はおまえが好きなんだよ」

再びクルテの目に涙が溜まっていく。


「カティ……心なんか読めなきゃよかった」

ピエッチェの胸にクルテが顔を(うず)める。カティと呼ばれピエッチェがホッとする。嫌われちゃいないんだと思えた。


「そんなこと言うな。俺はおまえが心を読めても読めなくても構わない。だけど現実として、おまえのその能力は役に立っている。心が読めることは、おまえの欠点なんかじゃない」

だからラジの正体や居所が判ったんだろう? そう思ったがそれは言わずにいた。


 クルテは暫くピエッチェに(もた)れていたが、

「明日はギュリューに向かう?」

とポツンと言った。


 ラクティメシッスが居ないセレンヂュゲに用はない。マデルの心境を考えると複雑だが、居所が判っているんだ。まずはラジを追いたい。

「あぁ、王都に行くには(みや)が必要だ。手ぶらでは行けない」

フレヴァンスが土産ならローシェッタは必ず喜ぶ。恩と感じ、その恩に報いようとするだろう。


「それでラジの正体は?」

ピエッチェの疑問にクルテが答えを躊躇する。


「ノホメがそう思っているだけで事実は違うのかもしれない。それでも聞く?」

「あのバアさんは元王室魔法使い、だったら確かな情報なんじゃ?」

「彼女の家族はそう言ってたが、本人は一度もそんな事を考えていない。だから家族がそう思っているだけかもしれない」

ノホメが家族に見栄を張ったってことか?


「それでもいい。可能性として知っておきたい」

ふむ……とクルテが唸る。


「ローシェッタ現国王の父親、つまり前王には十代で病死したことになっている娘がいる。それがラジの母親だとノホメが心の中で思った」

「現国王の姉か妹?」

「姉になる――そして前王には(おおやけ)にはできない子が居た。妃を迎える前に他の女に産ませた男の子だ」

「ってことは現国王の兄だな」

「うん、そうなるね。で、その隠し子がラジの父親だ」

「ってことは、ラジは現国王の……甥? いや、待て、なんだって?」


 その話が本当ならば、ラジは母親違いの兄妹の間に生まれたことになる。ザジリレンはもちろんローシェッタでも、ピエッチェが知る限り諸外国でも、親子婚や(きょ)()婚は許されていない。


「ノホメの心を読んだだけだ。それに、ノホメがそう思わされていただけの話かもしれない」

ふむ……と今度はピエッチェが唸った。


 ノホメが認識している通りだとしたら、ラジがローシェッタ王室を恨む気持ちも判らなくもないと思った。


『少年は誰を呪った?』

『王家に連なるすべての者ども。怒りのままに呪い、そして愛を欲しがり愛してもいた――』

ジェンガテク湖で聞いた人魚の言葉を思い出す。


 それにしても、ラジの両親はどうして結ばれたのだろう? 隠し子ならば王宮には居なかったはずだ。それとも別人の子として王宮で育てられたのか?


 コテージでの生活はラジの父親が支えていたと考えるのが妥当だ。つまりそれなりの経済力があったことになる。前国王は血のつながりを隠す代わりに金品を与えていたか?


 違う。この話の一番大きな問題はノホメだ。なぜラジの父親が前国王の隠し子だと知っている? たとえノホメが元王室魔法使いだったとしても、ここまで大それた秘密を知っているのは不自然だ。そんな秘密はごくごく限られた人物にしか明かさないはず、下手をすれば隠し子本人さえ父親が誰かを知らされないことだってある。なるほど、クルテが話すのを(ため)うのも頷ける。


 とにかくラジを捕まえることだ。この際、出自はどうでもいい。ラジを見つけ出しフレヴァンスを救出する。肝心なのはそこだ。


「清風の丘で()き家を探すのはいいとして、中に入るのは難しそうだな」

屋敷を囲む門扉とフェンスの、上部は刃物だった。フェンスの隙間は通り抜けられるほど広くない。


 するとクルテが少し考えてから言った。

「明日はいつも通りの時刻に起きて、一階のレストランで朝食を摂ろう。そのあとすぐに発つ――ラジ探しより先に、無事セレンヂュゲを出ることを考えたほうがいい」


 そうだ、ドンクに狙われているんだった……

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