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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
9章  女神の約束

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 ベッドはクルテが言ってたようにフカフカで寝心地がいい。横幅も()とりがある。クルテと一緒だと落ちるのを恐れて半覚醒状態の寝返りも、このベッドならぐっすり眠ったままで心置きなくできそうだ。


 掛け布団もフワフワと軽い。横たわると思ったよりも疲れが溜まっているのを感じる。投げ出すように身体を伸ばして天井を見上げれば、身体だけでなく心も解放されたように思えた。隣を気にしないで横になれるって、こんなにリラックスできるんだ……たまには一人で眠るのもいいかもしれない。だけど『たまには』だ。クルテが居ないと心配で眠れないに決まってる。心配で寂しくて、不安で眠れない。そうに決まってる。


 ふと思った。封印されている間、クルテは窮屈だったんだろうか? どんな状態で封印されていたんだろう? 人魚たちは洞窟に閉じ込められた。クルテはどこに封印されていた? そこでは身体を伸ばして眠れたんだろうか? アイツの好きな朝陽が差し込むところだといいのに。それとも狭くて、陽の光も届かない場所だった?


 いや、待て――そうだ、クルテはゴルゼとともに封印されたと言っていた。ってことは、ずっとゴルゼと居たってことか? いや、そんな? だって、それじゃあ責め苦のようなもんじゃないか。ゴルゼがクルテを放っておく……はずなんかないよ、な?


 蒼褪めたピエッチェが、ガバッと上体を起こす。なん百年、封印されていたんだったっけ? あれ? クルテが魔物になったのはいつだった? 精神体の魔物なんだから肉体はない。魔物になってから封印されたのなら、ゴルゼを恐れることもない。でも、そうじゃないのなら? いやいや、もしも精神体だったとしても、嫌なヤツと(つの)突き合わせて居なくちゃならないなら堪らない。


 カチャッとドアが()く音がしてシャボンの匂いが漂った。髪をタオルで(こす)りながらクルテが入ってきて、ピエッチェを見ると

「そっちのベッドにしたんだ」

と微笑んだ。同時に目の端に見えていたもう一つのベッドの上にいつものサックが現れる。


「それにしても顔色が悪い――ふぅん、そんな事を考えてたんだ?」

ピエッチェが何も答えないうちにクルテは心を読んだらしい。ベッド(ぎわ)まで来るとサックを探ってブラシを取り出し、ピエッチェがいる方のベッドに腰を下ろした。


 タオルで擦るのをやめると手櫛で髪を梳かし始めたクルテ、ピエッチェに背を向けたまま何も言わない。ピエッチェも、何を言っていいか判らず黙っている。


 クルテが口を開いたのは髪が乾いてから、

「お願い」

と言って後ろ手にブラシを渡してきた。反射的に受け取ってしまったピエッチェ、イヤとも言えず、クルテに少し()()()()()ブラッシングを始めた。そのままでは届きそうもなかった。


 髪を房に取りゆっくりとブラシを通す。少しだけ絡まっていた髪が、真っ直ぐに伸びていく。

「封印されたのは空間じゃない。物に、うーーん、なんて言うか、()りついた」

前を向いたままクルテが言った。

「その時、それまでの身体は捨てた」

魔物になったと言う事か……


「わたしよりも先にヤツが精神体になった。と言うよりわたしの父の魔法で肉体を奪われたんだ。だが、精神までは父も奪えない。何かに憑りつかせ封印する必要があった。その何かに誘導するための(おとり)がわたしだ」


 クルテの父も苦渋の決断をしたと言う事か? 充分に慈しめなかった娘、()びんに思っていた娘を魔物に変える……どれほど迷っただろう? それとも、森の女神との間に誕生した、どう扱っていいか判らない娘の厄介払いも兼ねていたのか? そうは思いたくない。


「わたしとヤツが一緒に封印されていたんじゃないかと心配しているようだが、それは違う。大まかに言えば同じものだが、幾つかに分けられるものだ。そして部分ごとにそれぞれの役目があるもので、その一部にヤツを封印した。そうだな、(たと)えて言うなら入れ子の箱。ヤツは一番奥の箱に閉じ込められ、わたしは一番外側。そんな感じだ」


「一番外側の箱なら、ヤツを封印した後、おまえは開放できたんじゃないのか?」

きっとできなかったんだと思いながらピエッチェが問う。クルテが少しニッコリしたように感じた。


「例えだからね。実際は箱ではなくて、もっと複雑な形状。そしてわたしは鍵でもあった」

「鍵でも? 入れ物であり、鍵?」

「その鍵をおまえが抜いてしまったからヤツの封印が解けたんだ」

俺が何をしたから封印が解けたんだろう? 封印されていたのが何かをクルテは教える気はないらしい。だとしたらいくら考えても無駄か。


「でも、それでおまえの封印も解けたんだろう?」

「わたしの封印が解けたのは、もっと後だ。おまえが崖から足を踏み外したあの直前のことさ」

「んんん? それだと矛盾しないか? ヤツはネネシリスに憑りついて、俺を排除しろと(そその)したんだよな?」

「そうだよ。それを手を(こまね)いて見ているしかなかったわたしが、どれほど悔しかったか判るか?」


「封印されているのに、なんでヤツの動きを察知できたんだ?――そうだ、おまえ、秘密を食ってるって言ってた。あの時まで封印されていて、どうやって秘密を食えたんだ?」

「移動できたからだよ。物に封印されたって言っただろう? それが移動すればわたしも一緒に移動する。そして周囲を見ることも感じることもできる――何しろ、ヤツはわたしに触れることができなかった。これで安心した?」


「あ、いや……」

なんだかまた誤魔化されそうな気がする。

「そうだ、封印を解かれたのに、なんでヤツはおまえを追って来ない?」

するとクルテが溜息をついた。


「やっぱ、おまえ、どこか馬鹿だな。ヤツはネネシリスから離れられない。そしてネネシリスがわたしの居所を知らない限り、ヤツはわたしを追って来れない」

あ、そこを忘れてた。憑りついたら自分の意思では離れられないんだった。


「じゃあさ、ネネシリスがおまえの所在を知ったら追ってくるってことか?」

「わたしがおまえと一緒にいることは気付いていると思う。だからネネシリスはおまえを探すのさ――ねぇ、もうブラッシングはいいよ。いい加減、痛い。わたしの髪を全部抜く気か?」

「あ、あぁ、ごめん」


 ブラシを返すと抜け毛の始末を始めたクルテ、チラッとピエッチェを見ると、

「わたしがあげた指輪、無くしてないよね?」

と訊いてきた。


「おまえの髪が金に変わったあれか? あるにはあるが……あの指輪ってさ、時どき消える。どうなってるんだ?」

失くしたと思って慌てて探すと、いつの間にか指に戻っている。どこか不思議な指輪だったが、元を(ただ)せば魔物クルテの髪だ。そんなものなのだろうと思っていた。ふぅん、とクルテが鼻を鳴らす。


「やっぱり髪の毛じゃ力が弱いんだ」

立ち上がるとブラシをサックに戻し、中から黒い革袋を出した。宝石を入れている革袋だ。


「これがいいかな」

中から出したのは黒い宝石、オニキスだ。ピエッチェを見ると、

「指輪を付けてる方の手を出せ」

と、宝石を持っていないほうの手を差し出してくる。


 逆らう理由もないので言われたとおりに手を出すと、

「オニキスよ、カテロヘブを守れ」

と言って、指輪の上にオニキスを乗せた。すると金の指輪に黒い石が埋め込まれた。続いてクルテが言う。

「姿を隠せ」

その声と同時に指輪が消えた。


「これで指輪は誰にも知られない。だけど必要な時には現れておまえを守る。ま、おまえの力だけじゃ足りない時に限って、だけどな」

「基本的には自力でどうにかしろってことか?」

苦笑するピエッチェ、

「そのほうが、おまえはいいんじゃないのか?」

真面目な顔のクルテだ。


 ピエッチェから目を逸らし、クルテが語り始めた。それはピエッチェもよく知っている話だった。

「七百年前のことだ。ローシェッタ国王は二人の息子のどちらを後継にするか悩んでいた。賢く堅実な兄、才気煥発で向上心の強い弟、どちらも捨てがたかった。だが、父王は兄王子を選んだ。弟王子にはザジリレンを平定し、その王となれと言った」

フッとクルテが笑ったのはなぜだろう?


「ザジリレン建国の王の言葉に『窮地に頼れるのは己一人』ってのがあったはずだが、あれは父親と兄に見捨てられたザジリレン王の嘆きの言葉だ」

「見捨てられた? いや、ローシェッタとは今でも友好関係にある」

「だよね。でも事実は違ってた。父王は気付いてたんだ。弟王子は自分よりも偉大な王となる。だから弟王子に王座を譲りたくなかった」

「自分の息子に嫉妬?」


「そうだね――そもそもなぜ父王は迷ったか? 兄王子は父王によく似ていた。賢く堅実、その資質は父王によく似ていた。継承させるに不足のある息子ではなかった。何もなければ父王は、迷うことなく王位を兄王子に継承させていた」

「事実、兄王子がローシェッタの王位を継いだではないか」


「父王に迷いが生じたのはローシェッタの占有がほぼ確定し、都をギュリューからララティスチャングに移すことが決まった頃だ。弟王子をギュリューに残すと決めた父王に、異を唱える者が多かった。弟王子はローシェッタになくてはならない存在、ララティスチャングにお連れください……『次期国王には弟王子を』と言っているのだと父王は受け取った。臣下たちにそんなつもりがあったのかどうか、確かなところは判らない。しかし、弟王子は父王にそう思わせるのに充分な資質を有していた」


 ザジリレンの国土のほとんどは険しい山地、ローシェッタから見て敵国との境界ではあったものの、山地であるがゆえ侵略を阻むものともなっていた。同時に領有しても旨味のないことから空白地帯とも言えた。


 そんなザジリレンを開拓し、村をつくり、街へと発展させたのは建国の王だ。各国が他国に干渉することのない今となっては不要なものだが、隣国への備えも地の利を生かした盤石なものだった。それを計画し、臣下を動かし、ザジリレンを国として成立させた()国の()()は父王が考えた通り、王としての資質がひょっとしたら兄王子より優っていたのかもしれない。


「もしも弟王子を継承者としたら兄王子はどんな行動に出るだろう? 不服を申し立て、ローシェッタを二分する争いになりはしないか? では反対に兄王子を次期国王にしたら? 弟王子は優しい心根も持ち合わせていた。だから兄王子や、まして父王に逆らいはしない。が、周囲はどうだ? きっと黙ってなどいない。弟王子を担ぎ上げて、やはり国を乱すのではないか?――そして父王は決断する。国王としてなすべきは、国の安寧を図ること。ならばどちらかの王子を国から出すほかはない。父王は弟王子を追放することにした」


 ザジリレンを平定し新国家を成立させよ……それは追放を意味していた? 俺が教えられた話とは違うぞ、クルテ!

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