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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
7章  絡みつく視線

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 警備兵が駆け付けたとなれば、次の判断をしなくてはならない。こいつらを警備兵に引き渡すか、それともこのまま見逃すか? どうせ小者だ、見逃してやってもいいが首謀者の名は聞き出したい。


(首謀者の名は判ったのか?)

頭の中でクルテに話しかける。


(いや、アイツ、なぜか全く考えてくれない。でも問題ないよ……それより、逃げるのはわたしたちのほうかもしれないぞ?)

(なんで俺たちが逃げなきゃならない?)

(馬鹿は馬鹿なりに悪知恵が回るらしい)

(うん?)


 クルテの返事を聞けないうちに警備兵が到着した。自然、組み合っていたピエッチェと男が距離を置いて離れていく。

「くそ、邪魔が入った」

男が小さく呟いた。


「こらっ! 夜中に何やってる? 乱暴を働く(やから)がいると通報があったぞ」

馬から降りもせず、一番偉そうな警備兵が怒鳴りつけた。


 クルテの心配はすぐに判った。リーダーがその警備兵に駆け寄ったのだ。

「お待ちしてました! あの男と、もう一人は男の(なり)した女、二人をひっ捕らえてください。理由もなく俺たちを襲ってきたんです。きっと盗み目的です」

そう来たか? さっきアイツに言ったことをそのまま盗用しやがった……やっぱり盗人だ。こっそり笑ってしまった。が、言わせっぱなしでいいはずがない。


「騙されるな、喧嘩を吹っかけてきたのはそっちだ」

ピエッチェが声を張り上げる。

「そこの店で食事しようとする俺たちに、絡んできたのはこの十一人の男たちだ」


「いえいえ、違います。そこで座り込んでる二人は、女に()まみれにされました」

血塗れってのは大袈裟だぞ?


「わたしをなんとか捕まえようとしたのはそっち。(ひと)じちにして連れを脅そうって相談してた。襲われれば反撃もする、当たり前だよ」

と少し笑ってクルテが言った。この場合、その笑いは()まんして欲しかった。警備兵の印象が悪くなる。


「だいたい、そこの店は腐った肉を出すと悪評が立っています。そんな店で食事をしたいと、誰が思うでしょう!?」

「ふむ、その店が例の店か……」

男の言葉を信用してしまいそうな雰囲気の警備兵が、現状を確認するつもりか、ゆっくりと馬を降りた。続いて降りたもう一人がランタンを掲げ地面を照らす。


「ここで遣り合ったのは二人」

ピエッチェと男が討ち合っていた場所だ。踏み荒らされた跡をじっくり見ている。

「こっちは、うーーん、三人か?」

逃げ回っていたクルテの足跡は、体重が軽いこともあって確かめ(にく)いようだ。


 偉そうな警備兵がピエッチェを見る。

「おまえと討ち合ったのはどの男だ?――こいつか。なるほど」

ピエッチェの視線を追った警備兵が相手の男を見て頷く。この二人ならこんな痕跡を残すだろうと考えたのだろう。


「で、おまえ、どこの誰だ?」

警備兵がピエッチェに訊いた。なんだか嫌な予感がする。警備兵は詰問調だ。

「ギュリューの者ではないようだが、この街で騒ぎを起こしたからにはそれなりの覚悟ができているんだろうな?」


「ちょっと待て、誤解だ」

警備兵は向こうの言い分を信じたらしい。ピエッチェの釈明は通るのか?


 馬の蹄の音は店の中にも届いている。

「捜索隊ではないようですね」

ラクティメシッスがティーカップを受け皿に置いた。


「はい、街の警備兵かと」

俯き加減だったマデルがそっと答えた。

「きっとピエッチェが警備兵を呼んだのだと思います。カッチーがいません」 


「カッチーはコゲゼリテの少年だったね――あなたに頼まれたことはまだ調べがついていないのです。だから、今日のところは結果をお話しできません」

「はい、急ぐことでもないので、それはお気になさらずに」

「王都に戻るまでにってご依頼でした。それまでにはハッキリさせておきますよ」


「それにしても捜索隊はどこを探しているんでしょう? 早く見つけてくれるといいんだけど」

「捜索隊がわたしを見つけ、身分がバレる。そんな計画でしたね?」

「えぇ、あなたが言い出したことですよ?」

するとラクティメシッスが済まなさそうに笑った。


「実は書置きをしてきました――想い人に会ってくるから探すな、ってね」

「えっ?」

「だから、いつまで待っても捜索隊なんか来ません」

「ちょっ……って、だって?」


「それはともかく、表の雲行きが怪しくなってきたようです。どうもわたしの出番らしい。ピエッチェでは手に負えないでしょう。今日は何かと予測が外れますね」

静かにラクティメシッスが立ち上がった。そして、さっと出口に向かうと、

「表を片付けてくるので、彼女をお願いします」

オーナー夫婦にニッコリ微笑んだ。


 表では、クルテを後ろ手に庇うピエッチェを、三人の警備兵が取り囲んでいた。

「詰め所に来て貰う。(おと)しくしていれば手荒なことはしない」

少し離れたところに立って、あれこれ言っているのはこの警備兵たちの長らしい。


「だから! 話を聞けって! 連行するのは俺たちじゃない、そっちの十一人だ。リーダー一人でもいい」

警備長に向かってピエッチェが訴える。が、まったく聞いて貰えずにいる。


(わる)きはやめろ。おまえたちは全く傷を負ってない。だが、向こうには怪我人もいる」

「それは喧嘩を吹っかけて来たくせに、あっちが弱かったからだ。俺たちのせいじゃない」

「まぁ、詰め所で話は聞いてやる」


「通報があったって言ったよな? それは俺たちの連れだ。十六の少年だろう?」

「確かにそうだが……ま、それも詰め所に行けば判ることだ。少年は詰め所に待機させている」


 くそっ! 悔しがるピエッチェを眺めて、喧嘩の相手はニヤニヤ笑っている。ざまぁ見ろとでも言いたそうだ。ピエッチェと討ち合った男だけは気まずげに目を()らしていた。


 店から出てきたラクティメシッスに気が付いた男がリーダーの袖を引く。

「やっと食事が終わったようだな」

リーダーがホッと呟く声がピエッチェにも聞こえた。


「ダメだ、ヤツらをこのままにしておくな!」

いきなり声を張り上げたピエッチェに、警備兵も声を荒げる。

おとしく従えっ! いい加減にしないと、縄を打つぞ!」


「何かあったのですか?」

穏やかで柔らか、なのによく通る低い声が喧騒の中に響く。警備兵たちがピエッチェとクルテに向けていた注意を()()声の主に向けた。


「ラクティメシッスさま!?」

警備兵たちが口々に叫ぶ。

「なぜこのようなところに?」


 取り巻いていた街人たちも、店から出てきた男に目をやり『ラクティメシッスさまだ』とコソコソ言い始めた。


「この店で夕食を摂っていました。シチューが美味しいと聞いたものですからね」

「そんな?……いや、この店は腐った肉を出すって――」

「このわたしが? 腐った肉を出され、腐っているとも気付かずに食べたと言うのですか?」


 穏やかだが抗えない響き、文句は言わせないと威圧されているのを感じて警備長が黙る。それにラクティメシッスの言うのももっともだ。腐った肉なんか食べられたもんじゃないだろう。


「聞いた通り、とても美味しい料理でした。わたしの舌が()しいとでも?」

「滅相もございません」

「あまりにも美味しいので褒美を考えているのですが、何がいいでしょうね?」

「それはご存分に」


「それと……」

ラクティメシッスがピエッチェに頷いてから警備兵に言った。

「あなたたちが捕えようとしている人をわたしは待っていました。一緒に食事をする約束だったのに、なんで来ないのだろうと思っていたのです」


「えっ!?」

警備兵の顔が真っ青になり、ピエッチェを見、ピエッチェを盗人かも知れないと訴えた男を見た。


「捕らえるのはそっちだ! 全員逃がすな。逃げたって捕えに行くぞ!」

警備兵たちが、遠巻きに見ていた男たちを次々に拘束していった――


 ラクティメシッスがピエッチェ・クルテと一緒に店に戻ってくる。出入口の扉をうっすら開けて様子を窺っていたオーナー夫婦はラクティメシッスと知ってホールの隅っこまで下がって(こうべ)を垂れている。よく似ているとは思ったけれど、まさか本人とは思っていなかった。クルテが言った通りだ。


「計画とは違ってますが、ちゃんと目的は果たせましたよ」

マデルに向かってラクティメシッスが微笑んだ。そして畏まっているオーナー夫婦に言った。

「あなたがたの願い通り、この店は評判の店となることでしょう。嫌がらせもなくなりますよ。あぁ、でも、もしもの時は『ラクティメシッスに伝える』と(おっしゃ)いなさい。それでもだめならセレンヂュゲの魔法使いの詰め所に訴えてくれれば、わたしが動くと約束します」


 そんな、勿体ない……オーナー夫婦は咽喉を詰まらせてしまった。


「さて、ワインでもいただいて、それから帰ることにしようかな――お二人もご一緒に。祝いの酒です」

この二人はピエッチェとクルテだ。


 マデルの隣に腰かけたラクティメシッス、対面に腰かけながらピエッチェが問う。

「なんのお祝いですか?」


 ラクティメシッスがうっとりとマデルを見詰める。

「わたしたちの婚約成立のお祝いです――正式なお披露目には是非あなたがたを招待したい」


「えっ? それは……おめでとうございます。でも、俺たちは招待されるような身分じゃ――」

「されるような身分に早くなって欲しいと言ったのですよ。そうじゃなきゃ、この人、王都に戻ってくれそうもありませんからね」

ラクティメシッスがマデルから目を離さずに微笑んだ。なるほど、旅の目的はフレヴァンス奪還だと、ラクティメシッスは知っているって事か。


 恐る恐るワインの瓶を持ってきたオーナー、

「申し訳ありません。こんなものしか置いてないんです」

そりゃそうだ、街のレストランに王族が飲むような酒があるとは思えない。


 ところがラクティメシッスは

「今夜の酒はわたしを心地よく酔わせることでしょう」

気にすることなく瓶に手を伸ばす。逆らえもせずオーナーは瓶を渡し、後ろにいた妻が慌ててグラスを乗せたトレイをテーブルに置く。


「飲む前から酔ってしまった」

開栓していないのにグラスに酒を注ごうとして苦笑するラクティメシッス、ピエッチェが瓶を受け取って栓を抜いた。


「ところで、あの男たちはどうしますか?」

酒を注ぐピエッチェに、ラクティメシッスが訊いた。


 微笑んでいるが、表面だけだ。コイツ、俺を値踏みする気でいる……そう思いながらクルテが追加で貰って来た二つのグラスにもワインを注ぐ。オーナー夫婦の分だ。


「たかが小競り合い、少し説教して帰してください。王太子さまのご威光で、今回のトラブルは納まるでしょう。今後を考えると、犯人捜しはしないほうがよさそうです」

「では、警備兵の詰め所でそう言ってください。グリムリュードがいますから、あなたの希望は通るはずです」


 グラスを軽く掲げてから、ラクティメシッスがワインを飲み干した。

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