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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
7章  絡みつく視線

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17

 睨み合ったままギリギリと力比べが続く。が、どちらからともなく相手を押しやり、ぱっと離れた。

「面白れぇ」

首領が嬉しそうに呟く。


 ピエッチェとしては面白いはずもなく、苦り切った顔だ。怪我をさせてもいいなら、すぐ決着が付けられる。大きな図体の割に動きは軽快、そのうえ馬鹿力、そんなヤツが思い切り振り降ろしてくる剣は(かわ)せても、弾き飛ばすのは難しい。太刀筋はまったくのでたらめで隙も多い。だが、でたらめだけに読み切れない。下手に斬り込めば、腕を斬り落としてしまいそうだ。


 片腕になったらこの男はどうなる? 命が助かったとしても、できる仕事は限られてくる。ひょっとしたら女房がいるかもしれない。見た通りの年齢なら、子がいればまだ幼いはずだ。男が働けなくなると、家族もろとも路頭に迷う。


 リーダーを含め、剣の扱いに不慣れな連中六人はオロオロと遠巻きに見守っている。屈強な男五人のうち二人がクルテに向かっていた。残りの二人、こちらはピエッチェの相手の男の後ろに控え、剣を構えて居るものの掛かってくる気はなさそうだ。首領の獲物には合図があるまで手を出さない、そんな暗黙の了解があるのかもしれない。


(いて)っ!」

背後で男の小さな悲鳴が聞こえた。

「ごめんね、痛かった?」

きっとクルテはクスッと笑った。相手の男が()たん踏んで悔しがっていそうだ。


 クルテは掛かってくる男どもから素早い動きで逃げ回り、そのついでに切っ先で(つつ)いてでもいるのだろう。あるいは浅く斬り込んでいるのかもしれない。かすり傷程度なら、すぐに治る。だがこいつは、俺に向かってくるこの男はそんな小手先じゃ誤魔化せない。大した相手ではないが、油断したら怪我をするのはこちらだ。


「おい、じっとしてないで掛かって来い」

男がニヤニヤと挑発してくる。さて、どうしたものか?


 店内ではホールの隅でオーナー夫婦が(ちぢ)こまってガタガタと震えている。それなのにラクティメシッスは全く気にする様子もなく、

「お茶のお替りをいただけますか?」

穏やかな笑みを二人に向けた。


「あ、はい。すぐお持ちします」

ハッと正気を取り戻したような顔で、妻のほうがテーブルに近付いてティーポットに手を伸ばす。夫のほうはソワソワと、必要もないのにやっぱりテーブルに近付いた。妻と離れるのが不安なのだろう。


「大丈夫ですよ。この店は安全です」

そんな二人にラクティメシッスは、再びゆったりとした微笑みを向ける。

「深呼吸をしてごらんなさい、落ち着きますから――それと、お二人もお茶をご一緒しませんか?」


 言葉もないままに、愛想笑いだけを浮かべてポットを手に厨房に引っ込む妻、追う夫、二人を見送ってマデルが溜息をつく。


「あれ? 楽しいのはわたしだけ? 溜息だなんて、退屈ですか?」

「この状況で退屈できるほど、わたし、図々しくありません」

「それって……」

ラクティメシッスがニヤッとする。

「わたしを図々しいと遠回しに言っている?」


「そうじゃなくって!」

慌てるマデルに声を立てて笑うラクティメシッス、

「あなたって、なんでこんなにゆったりと構えていられるんですか? 外が気になったりしないの?」

マデルの疑問に、

「外のことは、ピエッチェだったっけ? 彼に任せましょう」

と言いつつ、カーテンを少しだけ(めく)って外を見る。


「あの構えはザジリレン流、しかもかなり鍛錬を積んでいますね。しかるべき師匠について、子どものころから仕込まれたもの。たかが乱暴者に(おく)れを取るはずもない。でもちょっと苦労してるかな」

「苦労?」

「怪我をさせずに降参させようとしているようです――でも気になるなぁ。彼とはどこかで会ったことがあるような? 森の聖堂に行く途中ですれ違ったときから考えてるんだけど、思い出せなくて」


「ザジリレンではそれなりの騎士だったようです。部下を持たされていたようなことも言っていました」

「部下に指示を出した経験は浅い。実践経験もそれほどない。隊を任されていたとは思えませんよ?」

「えっ? でもお見立てでは優秀な騎士なのでは?」

「模擬戦の経験は多いでしょうね――まぁ、どこで会ったのかはそのうち思い出すでしょう。それよりもっと気になることがあります」

「気になること?」

「あなたは気付いていないのですか? 魔物がいます」

「えっ?」

カーテンを元通りにしてマデルに向き合うラクティメシッス、今度はマデルがカーテンに隙間を作って外を覗き込む。


「見たって見えやしませんよ」

ラクティメシッスが苦笑いする。

「魔物と言うのは正確ではないのかな? 魔物のようなもの、魔法使いでもない、でも魔力は大きい……精霊? いや、こんな街中に精霊が居るはずありません。精霊は森に()んでいると相場が決まっています。まぁ例外もあるようですが」


「精霊って実在するのですか?」

カーテンを戻してマデルが(たず)ねる。厨房の方をチラリと見て、ラクティメシッスが口早に小声で答えた。

「王の前にしか現れないそうです。そして精霊に気にいられた王の治世は安泰なのだとか。伝説なのか真実なのか、学者の間でも意見が分かれています――お茶の用意ができたようです。この話は終わりですね」


 言い終わると同時にホールにオーナーの妻が入ってくる。テーブルの傍まで来ると

「お待たせしました」

と新しいカップにお茶を注いだ。夫のほうも厨房から出てきて、今度はホールの端で立って見ている。妻に、金魚のフンみたいで見っともないとでも言われたのかもしれない。


「あなたがたも遠慮しないで、お茶を。でないとこんな長時間、店に居座った心苦しさでお茶が飲めません。一緒だと気づまりなら別のテーブルにどうぞ。外の騒ぎは(じき)に納まりますよ」

そこまで言われて固辞してもと思ったのだろう、夫が慌てて厨房からお茶のセットを持ち出してくる。客に出している茶器より数段劣る、普段使いと判る(しろ)ものだ。


「これで心置きなくお茶を楽しめますね」

マデルに向かってラクティメシッスがニッコリ微笑んだ――


 ピエッチェと男の討ち合いはまだ続いている。討ち合いと言っても討ち込むのは男だけ、ピエッチェはそれを(かわ)すか、受け止めるかのみだ。時に力比べになるが、これも焦れた男が力任せに押すのを、グッと押し返してピエッチェは後退してしまう。そんなことの繰り返しだ。さすがに男は息を切らしているが、ピエッチェは平然としている。


 クルテの手応えのなさに翻弄されていた二人の男は無駄に体力を消耗し、ところどころ血の染みを見せて地に尻を着けてしまっている。一人は袖がボロボロ、出血はあるものの、どれも傷はごく浅い。猫に引っ()かれでもしたかのようだ。フフンとそれを見るクルテは楽しそうだ。


 リーダー含む六人は始まったときと変わらず(こわ)ごわと見守っている。変わったところと言えば五人(ひと)かたまりになったところだろうか。


 首領の後ろに控えていた二人はとっくに剣を(さや)に納めている。自分たちの親玉は意地でもこの男をやる気だと感じているのだろう。が、同時に自分たちが加勢したところで戦況が変わらないことも察している。どんなに首領が力を尽くしても軽く(あしら)われているだけだと判っていた。


「いい加減、諦めたらどうだ?」

肩を上下させて息をする男にピエッチェが言う。

「俺には勝てないと、判っているんだろう?」


「フン!」

男が足に力を込めてピエッチェに向かう。

「魔物とやり合って諦めたらなぁ、死ぬしかないんだよっ!」


 振り下ろされた剣をガツンと受け止めて、

「俺は魔物じゃないぞ?」

ピエッチェが(はな)じらむ。

「それともおまえの目には魔物に見えるのか?」

ダン! と剣を押し返し、タンと後ろに飛ぶピエッチェ、ピエッチェがいたところに斬り込んだ男がフラつく。


「くそっ! どうしてそっちから討ち込んでこない!? あんたにとっちゃ俺を()るなんて簡単だろ?」

「俺は始めから、そこの店で飯を食いたいだけだって言ってるんだ。おまえを傷つけたってなんの得にもならない」

「まだ言うかっ!」


 それにしてもカッチーはどうした? 警備隊の詰め所がどれほどの距離か聞いておくんだった……男とは別の意味で焦れるピエッチェの、頭の中でクルテの声がした。


(遠くで馬を走らせる音がしている。こちらに向かってる)

(警備兵か? それとも捜索隊?)

(馬鹿か、捜索隊がこっちに向かって急ぐはずがない)

それもそうだな、ピエッチェが苦笑いする――


 店の中ではオーナー夫婦が目のやり場に困っていた。それでも聞き耳を立てずにいられない。


「お願いです。わたしの妻になってください。『はい』と言ってくれるまで、帰しませんよ」

もちろんラクティメシッスだ。


 戸惑うマデルがマジマジとラクティメシッスの顔を見る。

「あ……あなたは狡いわ」

今にも泣き出しそうな顔だ。


 魔法の鏡で打ち合わせた通りの展開、マデルがプロポーズを承諾し、それに一役買ったレストランに謝礼を出す。そののち実は王太子だと身分を明かせば、このレストランは大評判となる――

『大丈夫。だからって結婚を強要したりしませんよ』

鏡の中でラクティメシッスは微笑んだ。それを()みにしたマデル、ところがここに来てラクティメシッスの本当の目的に気が付いた。


 強要はしない……そう、ラクティメシッスがマデルに()いするはずがない。でも、周囲は? 数年前から早々に婚姻するよう言われ続けているラクティメシッスだ。マデルを思っていると知られれば、ましてマデルが承諾したと聞けば、すぐにでも話を進めようとするはずだ。


「狡い? わたしが? 不思議なことを言うのですね。わたしはあなたに頼まれたのに?」

だが、少しは気が引けたのか、

「わたしもこのところ苦しい立場に追い込まれているんですよ」

と、悲しげな顔になる。


「あなた以外は考えられないのに、早く結婚しろ、子を(もう)けろと毎日言われてるんです――ねぇ、わたしの子を産むのはイヤですか?」

マデルが悔しそうにラクティメシッスを見た。

「わたしのこと、子を産む道具と見ているの?」


「まさか! そう(とら)えたのなら誤解です――そりゃあ、あなたが産んでくれたらどんなに嬉しいか。でも子宝に恵まれなければ、それはそれでもいいんです」

「嘘ばかり。お立場上、許されません。それとも第二夫人でも考えて?」

「そんなことができるなら、他の人と結婚してますよ」

ラクティメシッスが穏やかな眼差しをマデルに向ける。


「もしわたしたちに子ができなかったら、その時は妹の子を、と考えています」

これは(やぶ)へびだった。マデルの顔が見る見る蒼白になっていく。ラクティメシッスがそんなマデルの手を握る。


「判っています。なんであなたが旅に出たのか――約束してください。妹を無事連れ戻した(あかつき)には、わたしと結婚してくれると」

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