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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
7章  絡みつく視線

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 王太子さまが()()レストランで食事をしたそうだ。しかもお料理がお気に召されたようで、褒美まで(つか)わされた――


「そんな噂が街に流れれば、店を取り上げようとしているヤツはどう思う?」

クルテがニヤッとする。

「王太子さまのお墨付きを貰った店に無体なことをしたらまずいと思うはずだよ。王太子さまに逆らうことになるからね。広まってた悪評も王太子さまのご威光で吹っ飛んでく。レストランからの依頼『よい噂を流して欲しい』にも合致する。我ながら、これ以上もない名案だ」


 どう見たってクルテはご満悦、自分の思い付きがよっぽど気に入ったのだろう。上機嫌で嬉しそうに笑っている。提案に水を差したくなんかない。キラキラ輝くような笑顔をなぜ消す必要がある? だからこんなこと言いたくない。だけど言わずにいられない……自分の性格がイヤになる。


「あのレストランにラクティメシッスが行くとは思えない」

ピエッチェが難しい顔で言う。

「グリュンパのホテルを見ただろう? 見るからに高級、王太子のご用命を受けられるのはあんな店だけだ」


「ギュリューにはそんな立派なホテルもレストランもない。だから貴族の別荘にご逗留、だよね?」

「そう言うことだ。それにあのレストランだって、王太子に来られたら困る。対応しきれるもんじゃない」

「お忍びで行けばいい。きっとラクティメシッスはそう言うのが好きだよ。そうでしょう、マデル?」


「ちょっと待て!」

慌てるピエッチェ、困惑するマデル、そんなマデルにクルテが微笑む。

「二人きりで話せるチャンスを逃す手はないよ?」


「なに言って……って、あ?」

一度は止めようとしたピエッチェも思い直し、黙ってマデルの返事を待った。


 お忍びならば護衛はついて来ない。グリュンパのホテルのレストランでの食事はきっと誰かが同席していただろう。マデルもラクティメシッスも言えない本心があったかもしれない。でも、あれ? 魔法の鏡で話せるんじゃなかったか?


 自分を見詰めるクルテを、暫く物言いたげに見ていたマデルがほっと息を吐く。

「判った、こっそり抜け出せるかどうか訊いてみる。ラクティメシッスさまなら面白がりそうね」


 マデルの答えにカッチーが口をパクパクさせているのを目の端に見ながらピエッチェが、

「でもクルテ、お忍びじゃ『王太子さまのお墨付き』の効果が見込めないぞ?」

とクルテを見れば、

「食事が終わるまでは身分を明かさなければいいよ……ラクティメシッスが居なくなれば捜索隊が出て、街が騒がしくなる。で、レストランで発見されれば、あっという間に噂が広がるはず」

と、事も無げに言う。


「それじゃあ、呼び出したマデルが困ったことになるんじゃないのか?」

「ラクティメシッスがマデルを窮地に追いやると思う?」

「あ、いや、うん、庇うはずだね。でもさ、顔が知られているんだぞ? 店に行ったら一目で王太子だと、レストランのほうも気が付くだろ?」

「自分でもあんな店に王太子が行くはずないって言ったよね? 人間の思い込みって怖いよね。自分の目でさえ信用できなくなる」


「あ、でも、クルテ」

今度はマデルだ。

「お料理はきっと気に入ると思うけど、ご褒美までくださるかどうかは保証できないわ」


「そこはマデル次第――ラクティメシッスがレストランにまでお礼をしたくなるようなシチュエーションを考えて。マデルになら考え付くってわたしは思うよ」

「なんだか責任重大過ぎて、頭が痛いわ……」

マデルが苦笑する。

「少し横になろうかな……夕食に行く時、起こしてね」


 マデルが寝室に行くとカッチーが、

「ひょっとしてマデルさんって?」

ピエッチェとクルテの顔を見る。


「仲良しみたいよ」

ピエッチェがなんと答えるか迷っているうちにクルテが答えた。

「とってもね」


「イヤ、クルテさん……二人きりになりたいなんて、マデルさんは王太子さまを思っているってことなんじゃないんですか?」

「人前では言えない苦情があるのかもしれないよ? 王太子さまに恥を掻かせるわけにはいかないとか」

「クルテさん! 誤魔化されませんよ? そんな雰囲気じゃありませんでした」


 怒り出しそうなカッチーにピエッチェが苦笑する。

「俺たちにも本当のところは判らないんだよ。でもカッチーと同じで、マデルはラクティメシッスを好きなんじゃないかとは感じてるんだ」


「あ、そうか、マデルさんも相手が相手だけにピエッチェさんやクルテさんにも打ち明けられずにいるんですね」

「で、わたしはラクティメシッスもマデルを、って思ってる」

クルテがニヤッとする。

「マデルに『王太子さまって魔法使いを個人的に食事に誘うんだね』って訊いたら、滅多にあることじゃないって言ってた」


「それってグリュンパでのことですか? つまりマデルさんのこと、王太子さまも特別扱いしてる?」

「って、わたしは感じた」

「そうなんですね」

カッチーは感激したようだ。

「マデルさんが王太子妃だなんて。姉さんなんて呼べなくなります。でも凄く、なんか嬉しいです」


「おいおい、そうと決まったわけじゃない。それに、判っているとは思うけどマデルをヘンに(つつ)いちゃダメだぞ」

ピエッチェが苦笑した――


 夕暮れ近くにクルテが『食事に出かけるのは面倒』と言い出した。


「今日はどの店にしようとか考えるのも(おっ)くう

「おまえは食べるのも面倒臭いとか言いそうだな」


 宿で用意できないかと訊きに、カッチーが受付に向かった。すぐ戻ってきたカッチーが、

「できるそうです。あとでアルが注文を取りに来るって言ってました」

と報告する。


 ほどなく部屋を訪れたアル、手書きのメニュー表を持ってきた。

「材料が同じなら、メニューにないものもできるよ。うちの女房の手料理で、ただの家庭料理だけど。ま、自慢できるほど味はいい。見た目はそれほどじゃないけどね。飲食店での食事に飽きたお口には最適だよ」

いつも通りペラペラと良く喋る。


「一番美味しいのはどれ?」

「そうだね、マカロニグラタンかな」

「二番目は?」

「茄子のグラタン」

「茄子は苦手……三番目は?」

「そうだなぁ、ミートグラタンかな?」

「そっか、アルはグラタンが好きなんだね」

「あはっ! バレちゃった?」


 クルテとアルが喋っている間にカッチーがマデルを起こしに行き、苦り切った顔でピエッチェが注文を決めた。ミートボールのトマト煮込みと薄切り肉のソテー、ポテトサラダにグリーンサラダ、チーズ入りの丸パン、それにコンソメスープだ。

「なんだ、グラタンは嫌いだったか……」

ボソッとアルが言い、クルテがこっそり笑う。ピエッチェの焼きもちだと見抜いていた。


「何か果物はあるかな?」

「え、っと、果物はオレンジとビワがあるけど、明日の朝と同じになっちゃうよ」

「それじゃあ、ビワを貰おう」

「はいよ、すぐに持ってくるよ。ビールもあるけど、どうする? ジュースだとリンゴとオレンジ。レモン水もある」

「じゃあ、ビールを二つと……」


「ビールは一つでいいわ」

カッチーと一緒にマデルが寝室から出てきて横から言った。

「わたし、もう少ししたら出かけるから、夕食は外で摂るわ」

なるほど、寝室に籠ってラクティメシッスと連絡を取ったか。


「それじゃ、ビールは一つね――って、料理、減らしますか? それぞれ三人前ずつでいいのかな?」

「イヤ、そのままでいい」

「はい、俺が責任もって食べます。で、飲み物はレモン水をお願いします」

カッチーを見てアルが笑う。

「うん、見るからに食べ盛りだ。任せた、食いまくれ!」

なんで()()()が任せるんだよ? ムカついたが何も言わずにいたピエッチェだ。


 アルが部屋を出て行くと、支度があると言ってマデルは再び寝室に戻った。

「マデルさん、お(めか)ししてるんでしょうね?」

カッチーがコソッと言った。


 マデルが寝室から出てきたのは、出来上がった料理を運んで来たアルがテーブルセッティングしている時だった。

「行ってらっしゃい、お気をつけて」

元気よく、アルはマデルを見送り、部屋のドアを開ける。

「楽しんでくるんですよ」

お陰でピエッチェもカッチーもマデルに何も言えなかった。


 クルテだけはマデルが寝室から出てくるなり近寄って

「とっても綺麗」

と微笑んでいた。マデルはそれに微笑み返し、ピエッチェとカッチーには会釈だけして出て行った。アルのことはまるきり無視だったが、アル本人は全く気付いていないか、少なくとも気にした様子はなかった。


「俺、もっと派手な服を選ぶかと思ってました」

丸パンを千切りながらカッチーが言った。マデルの服装のことだ。配膳を終えたアルが部屋から出て行くと、すぐに三人で食事を始めた。


「なんだか地味な服でしたよね。マデルさんは明るい感じのほうが似合うのに」

「さぁなぁ……まぁ、確かにマデルはいつも派手気味かもしれないな」

「ったく、ピエッチェさんはクルテさんにしか興味ないですもんね」

「なんだよ、それ?」

図星過ぎて否定もできないピエッチェ、

「わたしがどんな服着てても関心ないって」

クルテが、そのつもりかどうかは別として助け舟を出した。


「男物だろうと女物だろうとどうでもいいって言われた」

「クルテさん、それって『どっちを着ててもおまえは素敵だ』って意味です」

「そうだったんだ?」

クルテがピエッチェを見上げた。


「勝手に言ってろ」

ソテーされた肉を切り分けながらピエッチェが呆れて笑った。


 マデルは濃紺のタイトなシルエット、僅かに艶めくような滑らかな生地のドレスで出かけた。アクセサリーは真珠のイヤリングだけ。髪はひっつめに編んで左肩に垂らしていた。化粧も控え目で、地味と言えば地味だし、目立たない服装だ。その分、マデルの()が見えるような気がした。


 明らかにいつもと違う雰囲気はきっと相手の心を揺らす。自分にだけ見せてくれる別の顔、そう感じるんじゃないだろうか?


「まぁ、なるべく目立たないようにって思ったんだろうな」

口に入れた肉を飲み下してからピエッチェが言った。

「何しろお忍びだ。ラクティメシッスも目立たないよう気を付けてるはずだ。それなのにマデルが目立っちゃまずいよな」


「それもそうですね――寝ないで外の様子を気にしたほうがいいですかね?」

「寝ないでってほど遅くはならないと思うぞ。食事が済んだらすぐに店を出るだろうし」

「騒ぎになりますかね?」

「王太子が居ないとなれば騒ぎになるだろうね」


「それにしてもマデルさん、どうやってラクティメシッスさまと連絡とったんでしょう? やっぱり、魔法ですかね? 魔法って凄いですよね」

きっと魔法の鏡を使ったんだと思うものの、カッチーに言っていいものか?

「まぁ、魔法だろうね」


 確かに魔法は凄い。だけど諸刃の剣、だから少なくとも俺は使わない……ピエッチェがうっすら笑った。

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