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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
7章  絡みつく視線

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 ソファーに腰かけていたクルテが、部屋に入ってきたピエッチェを見てニマッと笑う。が、すぐ悲しそうな顔になり、ピエッチェの後ろにカッチーがいるのに気付いて嬉しそうな顔に戻った。

「カッチー! マデル!」


 ピエッチェが受付を離れるのとほぼ同時に宿に入ってきたマデルとカッチー、ティーセットはカッチーが部屋に運んで来た。クルテが悲しそうな顔になったのは、ピエッチェが手ぶらなのを見て、お茶を持ってきてくれなかったと思ったからだ。


 お茶のセットは、マデルとカッチーが入ってきたのを見てアルが慌てて二人分追加してくれた。イチゴの皿も四人分あって、マデルがめいめいに配った。お茶を淹れているのはカッチーだ。


 自分の前に置かれたイチゴを見てクルテがマデルを見上げた。

「イチゴ、食べたかった?」

マデルが頼んだと思ったか?


 が、返事を待たずにクルテが先回りした。

「違う、アルが気を利かせた――潰れてないイチゴ」

ピエッチェが、

「黙って食えって」

と呆れるが、クルテは黙らない。


「潰れてないイチゴ、まるまま、そのまま、イチゴそのもの、生粋(きっすい)のイチゴ」

「なんだよ、それ? 歌?」

ますます呆れるピエッチェを、クルテが見上げる。

「そうなのかな? そう、歌。でも、イチゴじゃない」


「どう見てもイチゴだぞ?」

「おまえ、馬鹿か? 歌のほう」

「元歌がある? って、おまえさぁ、その言いかたはないだろう?」

「そっちが心の中で、コイツ馬鹿なんじゃないのかって思ったのが先」

どうしてそれが判るんだと追及するわけにはいかない。


「もしそうだとしても、思われるようなことをするおまえが悪い」

「そっか。判った」

クルテの言葉に厭味(いやみ)はない。でも、本当に判ったのかは疑わしい。


「わたしが悪くてもイチゴは悪くない。きっと美味しい」

カッチーからティーカップを受け取りテーブルに置くと、その手でイチゴを一つ摘まむと口に入れたクルテ、

「ほら、美味しい」

満足そうな笑みを見せる。マデルがピエッチェを見て、

「どうせクルテには勝てない。諦めたほうがいい」

クスッと笑った。


 マデルたちは昨日の本屋に今日も行ったらしい。が、今日は『寄り合い』はなかったようで、なんの情報も得られなかった。その代りと言うのもなんだが、カッチーが本を数冊買い入れている。昨日はうっかり買わずに店を出てしまっていた。


「みんなそれぞれに仕事もあるだろうからな。毎日集まってってことはなさそうだ」

「本屋に『昨日も来てたよね』って言われちゃいました。一晩考えて、買う本を決めたんですって誤魔化したけど、もう行かないほうがよさそうです」

「マデルのことは何か言われたか?」

「知り合いかって訊かれたんで、姉ですって。年の離れた姉さんだねって言ってたけど、疑われちゃいなさそうです」


「一緒に行ったのは失敗だったかもね」

とマデル、

「もっとも、一人で行ってもわたし、覚えられちゃいそうだけど」

と笑えば、『言ってろよ』とピエッチェも笑う。だが、内心、マデルは目立つだろうなと思っていた。


「で、本屋がジッと見てたから、店を出たら真っ直ぐ戻ってきたのよ。カッチーったら五冊も買ったんで、どこに行くにも荷物になりそうだったしね。他に寄ったら疑われそうだった」

「あれ? 俺のせいですか? マデルさん、喉が渇いたから宿に戻ろうって言ったじゃないですか」

「そうだったっけ?――昨日に引き続き、今日も暑いわね」


「馬具屋が氷入りのレモネードをご馳走してくれた」

イチゴを食べ終わったクルテがボソッと言った。

「ピエッチェがハチミツを入れてくれなかったから、とても酸っぱかった……でも、まぁ、レモンは酸っぱい」

「なんで俺のせいなんだ?」


 慌ててマデルが

「リュネは温和(おとな)しく(くら)を付けさせてくれた?」

とピエッチェの気を()らす。


 クルテを睨みつけていた目を和らげたピエッチェ、

「あ、あぁ……あとで厩に行って、リュネを見てやるといい。アイツ、見違えるほど綺麗になったぞ」

と笑む。

(たてがみ)と尻尾を切りそろえて、おしゃれにして貰ったら随分と見栄えが良くなった。リュネも嬉しいらしくって、宿までクルテを乗せてきたんだが足取りも軽快、ご機嫌だった」


「クルテさん、リュネに乗ったんですか!?」

カッチーが羨ましそうにクルテを見る。クルテは微笑んだだけで、すぐ視線をピエッチェに戻した。そんなクルテをチラリとピエッチェが見た。


「で、馬具屋で面白い話を聞いた」

ピエッチェが、マデルとカッチーを見て言った――


 リュネを飾り立ててくれた馬具屋には娘が二人いる。上の娘はセレンヂュゲで夫と暮らしているが、仕立(したて)屋をしている下の娘はまだ嫁いでいない。が、これも夫になる男は決まっていて、もうすぐ一緒になるだろう。


 婚約者は貴族の三男、大した貴族ではないから分配できる財産もない。騎士はおろか、文官にもなれず出世の見込みもない。貴族の身分を捨て馬具屋の入り婿になることが決まっている。仕立ての依頼が貴族からもくるのはこの婚約者の()だ。


「で、仕立の仕事で、下の娘は清風の丘によく行く。貴族さまのところに生地見本を見せに行ったり、採寸したりだな。で、貴族にだって噂好きはたくさんいる。そこでこんな話を聞いたそうだ」


 ギュームがグレーテを自分の妻だと思い込んでいる――


「へっ?」

カッチーが()頓狂(とんきょう)な声を上げた。

「まさか、ギュームさん、ボケちゃった?」


 うーーん、とピエッチェが考え込む。

「いや、そう噂されてるってだけで、本当かどうかは判らない。例のレストランの悪評と同じだ」


「でも、もしそうならわたしたちを会わせたがらないのも理由が付くわ」

神妙な顔でマデルが言った。

「コテージに住んでいた少年とラクティメシッスさまが似ているかどうか、訊くのは無理かも知れないわね」


「ふむ……」

再びピエッチェが考え込む。クルテからの指示待ちも兼ねた時間稼ぎだ。


 マデルたちに話したのはクルテが馬具屋の女房の心を読んで得た情報で、ピエッチェも知ったばかりだ。


「ある貴族がレムシャンの家の前を通った時、『おまえはその(とし)になっても母さんと一緒じゃないと眠れないのか?』って声を聞いたらしい。それが噂の発端だ」

ピエッチェが再び話し始めた。


「それだけでギュームがグレーテを自分の妻と思っていると考えるのは、少し飛躍している気もしないでもない」

「そうね、小さな子が遊びに来ていたら、そんな会話もあるかもしれないわ」

頷くマデル、カッチーも『なるほど』と呟いた。


 納得していないのはピエッチェだ。

「女神の森の聖堂で解決してない事があるのを忘れていた。それが気になる」


「解決してない事って? もうあの森に魔物は出ないんでしょう? 女神の像も女神の娘の像も見つけたわ」

「ギュームはこう言っていた。気が付くと食物が置かれていた――いったい誰がギュームのために食品をあそこに運んだ? 魔物でないのは判っている」


 マデルが蒼褪めてピエッチェを見た。

「まさか、コテージの少年? あるいはフレヴァンスさまを連れ去った何か? それが今もギュームを監視している……ピエッチェはそう考えている?」


「聖堂では、魔物がギュームに()りついている気配はなかった。だが、魔法使いとなるとなんとも言えない。もし監視しているとすれば魔法使いだと思う」

「そうね。力の強い魔法使いなら、魔法の痕跡なんか見事に消しちゃうもの」

マデルがチラリとクルテを見て言った。クルテはさっきからウトウトしている。それが芝居だと判っているのはピエッチェだけだ。


 マデルの視線に気づいたカッチーが

「クルテさん、また眠っちゃってますね」

と薄く笑った。そして

「クルテさんの魔法も痕跡が判らないってことですか?」

と真面目な顔でマデルに訊いた。


「えぇ、クルテの魔法はとっても特殊。いっさい痕跡が感じられないの。いつも驚かされるわ」

それは魔物だからだと言えないピエッチェ、話を逸らせというクルテの指示に、

「なにしろギュームに会うことだ。会えばギュームが本当に錯乱しているのかはっきりするし、何かに監視されているかどうかも探れる」

話を本題に戻した。


「魔物でも魔法使いでもなくて、幽霊なんてことはありませんよね?」

カッチーがおっかなそうに言った。

「魔物なら退治できても、幽霊は退治できそうにないです」

ギュームが妻の幽霊と暮らしていたことは、カッチーは知らないはずだ。マデルから聞いたのかもしれない。それとも単にカッチーがたまたま幽霊と口にしただけだろうか?

「今日買った本、幽霊が出てくるんです」

そういう事か。


「とうとう女神の娘は飽きたか?」

ピエッチェが笑うと、

「まさか! 女神の娘が幽霊を慰めて、居るべきところに導くって話です」

カッチーも笑う。

「俺も女神の娘みたいに慰めてあげたいとは思うけど、やっぱり幽霊は怖いです」


「そうだなぁ……でも幽霊の場合、見える人と見えない人がいるみたいだし、幽霊のほうも姿を見せる相手を選びそうだぞ?」

「俺、幽霊には好かれないよう気を付けます」

そんな問題なのか? でも、まぁいいや。わざわざ修正するまでもない。


 とにかくギュームに会おうと話は決まったが、会うための口実が思いつかない。

「焦って失敗するより、ここはのんびり構えましょう」

マデルの一言で、話しが打ち切られる。


 カッチーがリュネを見に行きたいと言い出し、マデルも一緒に行くという。

「ついでだから少し散歩してくるわ。何か思いつくかもしれないし」


「それなら花屋に行って、クルテが喜びそうな花を買ってきてくれないか?」

ピエッチェの頼みにマデルが微笑む。


「クルテ、すっかり眠っちゃったみたいね」

「あぁ、本当にな。いい気なもんだ」


 話しが終わった途端にクルテからの通信が途絶え、肩にクルテの重さを感じていた。マデルの言う通り、すっかり眠ってしまったらしい。


 マデルたちが出かけ、ベッドに運ぶか迷ったがそのままでいた。クルテの眠りはきっと浅い。近頃は(うな)されていないようだけれど、そんな気がした。食べてすぐ眠くなるのは、身体が追い付いていないんじゃないかと思った。


 食べなくても問題ないと言っていた。だけど食べなければ奇妙だと思われる。だから食べる――それはクルテにとって負担なんじゃないのか?


 食べたら、消化しきれていないと姿を消すことも別の物になることもできない。できなくはないが、体内に残った食物をぶちまけることになると言っていた。実際ピエッチェも一度見ている。デレドケで閉じ込められた部屋、クルテは暖炉の火に手を(かざ)し、火傷して咄嗟に姿を消した。あの時、床にぶちまけられた物を確かに見ている。


 今の状態はきっと、クルテにとって辛いものだ。人間に成れさえすれば、そんな辛さを味わわなくて済む――クルテの肩をそっと抱き寄せた。

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