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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
7章  絡みつく視線

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「あぁ、あれね」

クルテが投げた話題に、食い付いてきたのは朝食を運んで来た宿の(ある)だ。

「うちも()()()()()受けちゃってね……美味い飯屋って訊かれて紹介してたんだけどさ」


「紹介料でも貰ってるのかって怒られた?」

クルテは主人(あるじ)とすっかり打ち解けていて、ピエッチェは面白くない。目を逸らしてムスッとしている。


「そうなんだよ。なんかさぁ、腐った肉を食わされたぞって。腹を壊したらどうしてくれるとか言っちゃってさ」

「それでアル、どうしたの?」

アルと言うのは宿のあるの名だ。さっきクルテが訊いたらすんなり教えてくれた。


「どうしようもこうしようも、うちの宿は無関係、本来なら『知らねぇよ』って済ませたいところなんだけど、暴れそうな勢いで怒ってる。朝食をサービスするって言ったら、それだけかよって言われちゃったけど、まぁ、収まってくれた。それ以来、あの店を紹介するのはやめたさ」

「腐った肉を出すような店なの?」

「うーーーん」

アルが唸って考え込む。


「うちの宿もそうだけどさ、食べるものを出すなら細心の注意を払う。それでも事故はあるからね……けど、立て続けってのはちょっと考えられない」

「立て続けって?」

「最初はうちの泊り客、その次の日はデレドケから遊びに来てた街人、その次の日は坂の上のミレズ、そしてその次の日はって感じで続いたんだよ」


「みんな、肉が腐ってたって?」

「いいや、虫や髪が入ってただの、注文と違うものを出されただの、日によっていろいろさ」

「それじゃあ、やっぱり店に落ち度があるんじゃ?」

「半年間、クレームなんか一度もなくて、味も接客もいいって評判だった。それなのに、急に? ジョインズがトチ狂ったとでも? あ、ジョインズってのがあの店の亭主だ」


「アルは店に問題はないって思ってるんだ? クレームつけるお客が可怪(おか)しいってこと?」

「そうは言ってないよ。たまには理不尽なことを言う客も居るだろうけどさ、こうも多くちゃね。でもよぉ……」

「でも?」

アルが顔を曇らせる。


「この街はさ、()ものに冷たいんだ。昔っから住んでるやつらの仲はいい。だけど新参者には、表面上はいい顔するけど、なんて言うかなぁ、()け者扱いって感じでさ。俺はこの宿の娘と一緒になったからマシだったけど、それでも街の一員って感じになるのに三年かかった。娘が生まれてやっとさ」

「アルってパパなんだ?」


「おう、上の娘が四つ、下のボウズは二つになった。俺と女房が仕事してる時はジジババが世話を焼いてくれる。二人とも母親似でさぁ、みんなが可愛いって褒めてくれる。俺に似なくてよかったって言われるのが(しゃく)に触るけどよ――って、そんな話じゃねぇ」

嬉しそうに照れ笑いしたが、すぐに真顔に戻ったアルが声を潜める。この部屋に、訊かれちゃまずい誰かがいないのは判っているが心理的なものだ。


「あの夫婦はこの街に来てすぐにあの店を開いた。それが繁盛してる。さっきも言ったが味も良ければ接客もいい。店内の雰囲気もいいってなるとさ、やっかむヤツらも出てくる」

「あの店の前の持ち主とか?」

「ああ! 面白くないだろうね。場所が悪くって客を集められずに手放したんだ。なんで余所者が成功するんだ? って思うだろうさ」


「その人が嫌がらせで悪評を流したとかってないの?」

「うーーん……」

またもアルが考え込む。真面目な顔だが、この男がそんな顔をすると滑稽に見えるのはなぜだろう?


「そいつはヤンネってんだが、この街の飲食店のまとめ役みたいな男でね。面倒見のいい、頼りがいのあるヤツだ。ヤンネがって言うよりも、ヤンネの取り巻きが(そん)たくしてってのはあるかもしれない。でもさ、そうだとしても旅人にまでは手を回せないと思うぞ」

「そうだよねぇ」

クルテもアルにあわせて難しい顔で考え込んだ。


「本当にクレームはあったのかな?」

「へっ?」

「一番最初のクレーム、この宿の泊り客はタカリ目的だったとか?」

「あぁ、それはありそうだけど、そのあとは?」

「街人が付けたクレームは嫌がらせ、街に広がった悪評は()()()()()()言いふらしたとかは?」

「お嬢ちゃん、もっと判り易く言ってくれよ。俺、頭、悪いんだ」


「街の噂の大半が嘘ってことだよ。その中に本当の話が幾つか混ざれば、全部が本当だと、聞いた相手は思い込む。さらに尾ひれがついてくってこと」

「そう言われると、旅行客がどんなヤツかってのは聞かないな――実はよ、街ぐるみでジョインズを追い出そうとしてるんじゃないかって、そんな気がしてた」


「街ぐるみ?」

「言っただろ? 俺もこの街に馴染むまで三年かかったって。でも、俺はこの宿の婿だった。だから明白(あからさま)に虐められはしなかったけど、ジョインズへの風当たりは酷いもんさ。野菜も肉も割高でしか売ってやらない。だからジョインズはデレドケで仕入れるようになった。でもそいつは悪手だ、余計に反感を買う――俺も()からこの街に来た一人として少しは庇ってやったし、アドバイスもした。でもさ、ここまで来るとなんもできない。下手なことをすれば俺が標的にされるし、女房の立場もなくなるからな」


「ジョインズさんとは仲がいいの?」

「おう! 前は一緒に飲みに行ったりしたぜ。でも女房がね――さて、いい加減にして仕事に戻るよ。腹減ってるとどんなヤツも怒りっぽくなる。客に怒られるのはいいんだけどよ、女房にも怒られる。それがおっかねぇ」

ケタケタ笑うとアルは部屋から出て行った。


「随分と夫婦仲がいいみたいね」

マデルが呆れ顔で笑った。


 まずは朝飯だ――朝はどこも代わり映えしない。スープとちょっとしたサラダ、タマゴ料理にパン、そんなもんだ。昨日は茹で卵だったが今日はオムレツ、『これは特別にオマケしといた』と言われたのはデザートの苺ムース、他の客には出してないような口ぶりだったが、実のところは判らない。


 例によってクルテが皿を睨みつける。

「これは何?」

苺ムースを見たのは初めてらしい。マデルが、

「苺ムースよ……イチゴを潰して生クリームとかと混ぜてゼラチンで固めてあるの」


「ゼラチン……潰し――」

「黙って食え」

いつも通りピエッチェが口を封じる。が、クルテ、ピエッチェを見上げ、

「イチゴは潰れててもいい」

ムッとした顔で言った。

「でもゼラチンって?」


「そんな事を気にしてどうする? 人間の食いモンだってことは判ってるだろ」

「人間の食いモンって言いかた、笑っていい?」

クスッとしたマデルにギョッとしたが、

「コイツにはそれくらい言わないと判んないんだよ」

と、()()八つ当たり気味のピエッチェ、魔物クルテについ言ってしまった言葉だ。ちょっと首を(かし)げたが、何も言わずにクルテも食事を始めた。


 レストランの(ある)ジョインズと宿屋の主人(ある)アルの話は多少の違いがあるものの大まか一致している。


「数回のクレームを〝毎日〟って言いふらしたのは誰なのかしら?」

「アルさんは街ぐるみって感じてるみたいでしたね」

「街が閉鎖的なのはありそうだな。街人のほとんどが旧都だったころの居残り組、建国に大きく貢献した兵士たちの子孫って誇りもある」

食事をしながらマデル・カッチー・ピエッチェが話す横で、クルテはまるで無関心だ。一口一口ゆっくりと食べている。


「なによ、それ? 王都が今の場所に移って七百年も経ってるのよ?」

「馬鹿馬鹿しいとは俺も思うよ。でも、自分の故郷やルーツに特別な思い入れがあるのは人情としてあるんじゃないのか?」


「あ、俺も、コゲゼリテを誇りに思ってます。悪く言われると(いか)りを感じるし。でもコゲゼリテは移住者も多かったんです。その人たちを締め出そうなんて、少なくとも俺は知らないなぁ」

「歴史の表舞台に出てきたことのないコゲゼリテと、旧王都で建国に大きく貢献したギュリューとじゃ、比べるのは無理があると思う」

「まぁ、どうせコゲゼリテはド田舎です。でもね、とってもいいところです」


「田舎なのはギュリューも同じだよ。新参者を排他しようとするのは田舎にありがちなんじゃないのか? 田舎って言いかたはまずいか? 古い街って言うのが妥当かな?」

「ピエッチェって、けっこう言葉に(こだわ)るよね」

指摘したのはマデルだ。

「なんかさ、誤解されたり、(げん)を取られないように用心してるって感じるよ」


「そうか? 自分じゃよく判らない」

これは嘘だ。子どものころから(しつ)けられたことだ。不用心な批判、誤解される言動を控え、言葉尻を取られるようなことは言うな。王になってから役に立つことだと言い聞かされた。もちろんそれをここで言うわけにはいかない。


「もう一度ジョインズに話を聞いてみるかな」

「そうだね、具体的にどんなヤツがどんな苦情を言ったのかを確認した方がいいかもしれない」

「昨日は幾度かクレームがあったとしか言ってませんでしたよね」

「でも、街では毎日ってことになってる」

「あとは噂の震源地か?」

「震源が一つとは限らないよ」


「坂の上のミレズさんにも会いに行きますか?」

「そっちはどうだろう? 首謀者とグルだったら(やぶ)へびだ」

「街人の誰がクレームを付けたかジョインズに聞いて、ソイツらの繋がりを調べたら?」


「アルは、ヤンネは絡んでないって言ってたけど、裏表のある人物かも知れないしな」

「ヤンネって飲食店を幾つか経営してるって話だけど、やってるのは飲食店だけなのかしら?」

「店だって、ギュリューだけとは限りませんよね」


「どうでもいいけど、お茶が(ぬる)い。(ぬる)くてもいいからお替り」

ズズズッと音を立ててお茶を飲み干しクルテが言った。はいはい、とマデルがカップにお茶を注ぎ足す。


「おまえなぁ、もとはと言えばおまえがジョインズから引き受けた話なんだぞ。なんで無関心なんだ?」

ピエッチェが(なか)ば呆れ半ば怒っている。するとクルテが首を(かし)げた。


「聞いてたけど、ジョインズに会いに行くのはやめた方がいい。少なくとも後回しに……会うにはあの店に行かなくちゃならない。街中で追い出そうとしている店を(ひい)にしていると思われたら、あとがやりずらくなる」

「うむ……」

「ヤンネには会いたい。面会の口実を考えろ」

クルテが巧く話を引き出して心を読めば、嫌がらせの真相は簡単に判りそうだ。


「あと、今日はリュネとショッピング。それが終わったらまた考える」

まるでリュネが買い物をしそうな言いかたに、マデルがニヤッとした。


「それじゃあ、クルテはピエッチェと一緒にリュネを連れて買い物ね。わたしとカッチーはどうしたらいいかしら?」

が、クルテの返事がない。


「あぁあ、クルテさん、また眠っちゃいましたよ」

カッチーが力なく笑い、ピエッチェが舌打ちする。


 腕に絡みついてきたのには気が付いていた。でもそれが、居眠りのためとまでは気が付かなかった。仕方ない、少し眠ればすぐに目を覚ます――

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