*明かされたヒミツ
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総司は眠そうな目をこすりながらベッドから起きあがると、注射後に襲ってくるらしい強烈な痛みに歯を食いしばって耐えていた。
そんな総司を黙って見ていられなくなったのか、ハジメは総司のベッド迄金平糖を持っていき、ほぼ無理やり口の中に残り全ての粒を入れ込む。
すると総司は、少しだけ表情を緩めた。どうやら、金平糖を気に入ったらしい。
「で、山川。俺達は……いや、新選組は一体どうなったんだ?」
俺のそんな言葉に病室の空気が重く張り詰めた。
「そのテーブルの上に置いている書物。それは、新政府軍と旧政府軍の戦争…つまり『明治維新前後』をまとめたものだ。君たちには読みにくい書体かもしれないが後で読むと良い。」
「……君たち、新選組は──敗北した。私の祖先である『会津班』と共に死んでいったのだ。」
──山川は、そう哀愁漂う言葉で俺達に事実を伝えると、煙草の灰を窓の外へと落とす。
俺も『生きてきた時代』では、齢32の割に人生経験を積んできた方だと我ながら思う。
だけど、この山川は齢50前半ほどだろう。俺には到底出せない数々の苦労を乗り越えてきた男の俺から見てもうらやむほどの艶気があった。
そして中々の色男だ。こう言っては何だが、会津で色男は珍しい。
まあ、かの散々世話になった会津藩主もそれなりに二枚目だったが、色男ではなかった。
「会津は滅びた…のか?」
ハジメは静かにそう聞いた。
総司は先ほど、今が1943年だと知らされたからか未だ全貌をつかめていないらしい。
少しばかり状況がつかめないといった瞳で、黙って俺達の話を聞いていた。
「滅びた。」
「……これは、私たち会津に伝わる話だがな。君らは最初、ただの浪士──いや、武士に憧れた若い衆にすぎなかった。もっと簡単に言えば、荒くれものの集まりだ」
「だけど、自慢の荒業で京の街で新政府軍を捕まえていき、見事政府公認を経て、会津藩主の支援の元、元の『壬生浪士組』から名を替え『新選組』へと変化した。そして鉄の掟と呼ばれる掟を作り、近藤をはじめ、君…土方君が組織を率いた」
──昨日の事の様に思い出す、ミブロから新選組へと変わったあの瞬間を…。
名ばかりが先行し、組織は勝手にデカくなり、内部抗争が起き、そしてそれをまとめるために仲間を殺し、絆を作るためという大義名分で鉄の掟を作った。
元はと云えば薬屋の末っ子の俺が、そんな固い真似を出来るはずがない。
だけど親の様に信じた近藤さんの顔を立てるべく、あの時は副隊長として、組織を率いる為に自ら嫌われ役に手を挙げ、鬼と呼ばれようが、仲間殺しと呼ばれようが、そうするしか方法が無かった。




