*不治の病
──労咳を倒した?
労咳と云えば、かかれば皆死ぬと言われている不治の病だ。感染した者は血を吐き、やせ細っていく。
そして最後、皮と骨だけになり死んでゆく。
確かに俺も、頑張って飯を食えば、頑張って修行を積んで強い体を作れば…血を吐いても、倒れても、生命までは取られやしないと思っていた。
だけどそんな理想とは裏腹に、体から生気を吸い取っていくその病には、心底恐怖心を憶えたものだ。
いわば、コロリと似た様なものだった。絶対に、成りたくない。そして、成れば最後、『生きたい』と皮肉なほどに強く思わせてくる病だ。
そんな病を倒した、だと?
「昨日、俺は満月を見ながら思っていたんです。俺はもう明日は越えれない、と。そんな俺が、労咳を倒した?土方さん、貴方、自分が死んだと認めたくないだけで、本当はここは冥界ですよね?」
いつになく回る自分の口を抑えることなく、蒸し芋を口の中に放り込む。ふわり、と蜜の様な甘さが口内に広がった。
「……ま、そうなるわな。なあ、ハジメ」
「ああ。俺達も数日前は……そうだったからな」
「まあ、総司。とりあえず芋食って寝ろ。お前はあと数時間経てば死ぬほど痛い『注射』が待ってるんだからな。」
「ハア?」
「良いから、さっさと寝ろ。ここは冥界だ。寝たら俺ら全員極楽浄土だよ。分かったな?」
「……」
少しヤケクソ気味にそう言われた俺は、なぜか無理やり、二人に両隣の白い布を閉められて再び、少しばかり閉鎖的な空間へと戻ることになった。
最後の芋を口の中に放り込むと、直ぐ近くにあった水を汲まれた器に気が付き、口へ流し込む。
久しぶりに飲んだ水は、とても美味しかった。
「寝たら極楽浄土、か。」
「まあ、皆で行けるなら悪くないか」
そう言いながら俺は布団を再びかぶると、瞳を閉じる。どこからともなく、聞き慣れた寝息が聞こえてきたことに少しばかりの安心感を憶えた。




