*生命が繋がれる場所
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「オイ、急患の数は?」
「すみません、まだここには回せません!」
「軍からは何も命令が来ていないのか?どうなってるんだ?」
忙しない声と沢山の足音が聞こえてきて、重いまぶたを開ける。天井に移るのは、先ほどまで見ていた綺麗な満月では無く、無機質で真っ白な物だった。
人間の本能だろうか。
何か月も眠っていた布団と、今、寝転がっているこの布団…よりも数弾柔らかい何か、の違いに気付く。
そしてビクッと身震いをすると、今迄感じていた痛みとはまた違う、もっと鈍い痛みが筋肉を駆け巡り、全身を余計に強張らせた。
「ッ、なんだこれ。痛いな。」
思わずそう呟いた俺は、腕に幾つも貼られている、見たことのない肌色の、滑りのあるものを腕から外した。
すると、何か細いものを差し込まれた様な跡が目に入る。
見たことも、憶えもないその光景に黙って目を見開いていると、隣の布がサッと揺れ、見慣れた顔がひょこっと俺を覗きこんだ。
「──総司、久しぶりだな」
意地悪な表情でそう言った男──
もう二度と会うことはないと、昨日散々、思い出を巡らせていた時にしつこいほどに脳内に浮かび上がってきた『あの男』だった。
「ひっ…土方歳三?」
「おい、ハジメ。総司が起きたぞ」
「分かってる。」
気だるそうな声が聞こえる。
そして土方さんとは反対方向の布が再び開いた。そこには、目の横に傷を付けた斎藤一の姿が見える。
俺は体を巡る鈍痛を我慢しながら、上体を起こした。確かに体中痛いが、昨夜、上体を起こした時とは遥かに違う痛みだ。
体が軽く、そして、喉も痛くない。
改めて目に入る数々の見たことのない設備に驚きを隠せないが、それよりも戦場へと往ったはずの二人が目の前に居る事実の方が訳が分からない。
「二人共、まさか亡くなったのですか?」
「プハッ、お前ここを冥界か何かだと思ってんのか?」
「まあ、全部白ですしね。」
「冥界だったら黒だろ。」
土方さんはそんなことを言いながら、布団の中から柔らかい紙に巻いた蒸したさつまいもを取り出すと、ホイ、と半分にそれを折り、俺に手渡す。
「総司、食え。食わないと治らねえぞ」
「……治る?」
「あんなあ、ここは冥界でも何でもない。」
「お前は生きている。」
「労咳を倒したんだ、お前は。」




