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悲劇の悪女【改稿版】  作者: おてんば松尾


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20/22

20 末路

教会の扉が閃光とともに開き、黒衣のアズル部隊が突入した。


ティナがミリアを抱き寄せた瞬間、騎士たちが四方からなだれ込む。


わずかな時間で、内部は完全に制圧された。


犯人たちは瞬く間に取り囲まれ、逃走の望みは断ち切られた。

床に押し倒され、抵抗する間もなく縄で縛られた三人の実行犯。

そして……なぜかブライアンまでもが、犯人たちと同じように捕らえられてしまった。


「アズル様、彼は……」

「いや、まだ誰が犯人か分からない。取り敢えず、成人男性は拘束しろ!」


……いや、これ、どう見てもミリアの父親だ。

誰もがそう確信していたが、アズルの家臣たちは黙って命令に従った。


無理もない。

彼らは息を潜めて様子を窺っていたのだ。

ブライアンの口から漏れた「伯爵家は金があるだろう」という言葉は、確かに彼らの耳に届いていた。


実の娘より甥を選んだ。

ブライアンが放ったあの冷たい言葉は、決して許されるものではなかった。


アズルは、後ろ手に縄で縛られたブライアンを冷たく見下ろし、最後にただ一言、突き刺すように言い放った。


「……恥を知れ」



かくして、ミリアを誘拐した一味は、きれいさっぱり全員捕まり、事件の幕は下りた。


ジェイはというと、多少キズは負っていたものの、命に別状はなく、しぶとく生きて救出された。


捕まった犯人たちは、ただの小物のごろつきだった。

貴族の子どもを攫うなんて極刑レベルの大罪なのに、計画はスカスカ、準備も甘く、どう考えても素人仕事だった。


そして、後の取り調べで、事件のすべてが明らかになる。

もちろん、黒幕もはっきりと姿を現したのだった。





***



――ジェイ。


まさか黒幕が八歳児だったとは、誰が想像しただろうか。

この衝撃のニュースは王都に瞬く間に広がった。


そして「年齢?そんなの関係ない」と、世論は子どもの犯行を許さなかった。

ジェイは極刑こそ免れたものの、結局はしっかり実刑になったのだ。

この世の中は、なかなか情け容赦ない。


真実を知ったブライアンは、理解が追いつかず、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「……そんな、嘘だろ……」


犯人たちは口を揃えて「ジェイに頼まれた」と証言し、

ミリアも同じように語ったという。


「子どもがそんな大それたことを企むはずがない」


彼はそう思っていた。だが、事実は違ったのだ。


一歩、二歩と後ずさり、壁に背を預けた。

自分の選択が完全な誤りだった。ことの重大さが胸の奥に重くのしかかる。



「イーライ様の名を騙った嘘の手紙で……ミリア様を呼び出したと」


説明に来た騎士がそう告げた。


「そんな姑息な手を使って、どうして可愛い従妹であるミリアに、あんな恐ろしい真似ができるのか」


指先が震え、手にしていた書類が床に散らばった。


ジェイは男子で、家の跡継ぎとして大切に育てられてきた。

「歴史あるクレメンツの名を残せるのはジェイだけ」と、母からも何度もそう言われていた。


あの時、ミリアは見たところ暴力を受けているようには見えなかった。

逆に、殴られたような跡のあるジェイを助けてやらなければと、心からそう思っていたのだ。


「……どうして……どうしてこんなことに……」


ブライアンの世界は音を立てて崩れ落ちていった。


今さら気づいても遅すぎる、彼に残されたのは、破滅への一本道だけだった。



***



エリザベスはジェイの釈放を求めて奔走していた。

裁判所に嘆願書を叩きつけ、王都の有力者に頭を下げまくり、あげく街頭に立って署名まで集める日々。


だが返ってくるのは冷ややかな侮蔑の言葉ばかりだった。


「侯爵家とは関わりたくないわ」

「学園でジェイにいじめられた子が山ほどいるんですけど?」

「どう育てたらあんな子になるのかしらね」


友人たちは冷たく背を向け、ただの顔見知りでさえ悪口を投げつけてくる。

最後には平民にまで石を投げられ、エリザベスは泣きそうになりながら叫んだ。


「ち、違うの!ジェイはまだ子どもなの!そんなつもりじゃなかったの!」


必死に弁明を繰り返すが、焦りのあまり言葉が過ぎる。


「だ、だって相手は身分の低い子でしょ!?ちょっとしたいたずらくらい、いいじゃないの!!許されるはずよ!」


……これが決定打になった。


それを耳にした民衆を怒らせてしまったのは言うまでもない。

結果、世論の氷点下の視線は溶ける気配を見せず、判決は微動だにしなかった。


そして、誘拐犯に拘束された恐怖のせいで、ジェイは牢の中で声を失った。

もう人を騙す言葉も、毒舌も出てこない。

泣きわめくことさえできない。


口だけは無敵だった少年が沈黙し、毎日ぽろぽろと涙をこぼしているという。




***




伯爵家の執務室。


ルノー家の親族が一堂に会し、クレメンツ侯爵家への“裁き”が静かに、形を成していく。



「因果応報……悪事には悪事なりの終わりが来るものだ」


ルノー伯爵の声は低く、揺るぎない。

伯爵は当然ながらクレメンツ侯爵家を許さなかった。


「もうだらだらと時間を与えてなどいられない。終わりだ」


ティナの叔父、ラドルフの声は氷のように冷たい。


「なら、私がルイスに頼むわ。すぐに騎士を動かす」


勢いよく告げたのはナタリー。

第三王子の妃である彼女の言葉には、王家の力が宿っている。


「待てよナタリー。叩き切りたい気持ちは分かるけれど、戦にはならない。騎士を出すまでもないだろう」


クリフがそれは少し待てと、静かに抑えた。


「そもそも、クレメンツが、我々に抵抗できる力はない。味方する貴族もいない。巻き込まれて一緒に沈む馬鹿はいないだろう」


アズルも淡々と続ける。


ルノー伯爵は机をトントンと叩きながら、実行犯の供述書を睨みつけた。

その目は、もはや情けも怒りも超えた、不動の決心だけを湛えていた。


「地位と名誉に溺れた者は、いつか必ず転ぶ」

ラドルフが呟く。


「欲に流されれば、栄光なんてあっという間に消えてしまう」

クリフがうなずいた。


「信頼を失えば、民の支えは続かず、最後にはすべて崩れ去るわ」

ナタリーは王家の一員らしい言葉で続く。


「だからこそ、真の強さは謙虚さに宿り、名誉を守る道は慎みの中にある」


アズルが静かに締めくくった。





***





そして数日後。

ついに、終焉の日が訪れた。


重苦しい空気をまといながら、ルノー伯爵、ラドルフ、クリフ、アズル、そして第三王子ルイス殿下。

五人の影が並び立ち、クレメンツ侯爵邸の巨大な扉を叩いた。


その音は、屋敷全体に響き渡り、まるで運命の鐘のように終りを告げていた。


彼らが携えてきたものは、ただの紙切れではない。


それぞれがクレメンツ侯爵家に突きつける、逃れようのない“現実”そのものだった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~


親戚多すぎなので登場人物紹介


《ルノー伯爵家》


ティナ・ルノー :ブライアンの妻

ブライアン・ルノー=クレメンツ :ティナの夫

ミリア(五歳) :ティナとブライアンの娘

ナタリー    :ティナの従姉妹

メアリー    :ティナのメイド

ラドルフ     :ティナの叔父

クリフ     :ティナの従兄弟  


***


アズル     :大公子

イーライ(八歳):大公子の息子

ルイス殿    :第三王子、ナタリーの夫 






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― 新着の感想 ―
クズブライアンにはジェイが学園で「ミリアがいなくなれば、ブライアン叔父さんが自分の父親になる」って言ってた事や兄嫁がブライアン狙ってた事とかを教えてもっと己の馬鹿さ加減を自覚させて再起不能にしてやりた…
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