お隣さん
『お隣さん』
ある男性が、「イシシ……」と言いながら少し古いアパートに引っ越してきた。隣の部屋には70代くらいの老婦人が住んでいるらしく、挨拶の際に手作りのお菓子をもらった。
どこか物静かで優しそうな人だと感じた。
数日後、彼は深夜まで起きていると隣の部屋から不思議な音が聞こえた。
最初は木の床をコツコツと歩くような足音。次に、重いものを引きずるような音。
気にはなったが、大したことではないと気に留めなかった。
その翌日、彼が出かける準備をしていると、老婦人に廊下で出くわした。
挨拶をしようとしたが、彼女は何も言わず、じっと彼を見つめていただけだった。
その後も数日間、老婦人はいつも同じ服を着て、同じ無表情で彼を見つめてくるだけ。
気味が悪くなった彼は、引っ越してから間もないが、友人にその話をした。友人は怪訝そうな顔をして言った。
「お前、隣の部屋の住人、誰だって?」
「70代くらいのおばあさんだよ。なんか無表情でちょっと変わってるんだけどさ。」
友人はしばらく考えたが、やがて答えた。
「……ふうん。だったら、いいんだけどさ。」
解説
・まず、冒頭に出てきたこの『ある男性』の正体であるが、『イシシ……』と喋った事から彼は石造人間『イシンガー』であることにお気づきだろうか?
イシンガーには戸籍がない。つまり、税金も払っていなければ、住民票もないのだ。そんな彼に引っ越しができるはずがないのである。
・そして、イシンガーは石造人間である。声帯は持ち合わせているが、歯はおろか舌も石製なので、流暢な日本語など喋れないのである。
ならば、『70代くらいのおばあさんだよ。なんか無表情でちょっと変わってるんだけどさ。』という台詞は、一体誰が答えたのだろう?
・イシンガー族は代々友人を作らず、孤高に生きていくことを信条としているのだ。『友人』という馴れ合いは、イシンガーにとっては屈辱以外の何者でもないのである。
よって、イシンガーに友人はいない。絶対に! 絶対にいない!!
だとするなら、この『友人』を名乗る人物は何者なのだろう……?