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あの日のままの観覧車

作者: 川理 大利

小説家になろうラジオ大賞応募の短編小説です。

 クリスマスがすぐそこまで近づいてきて、街中がイルミネーションで色鮮やかに彩られる頃。海の近くの水族館に併設された、小さな遊園地。

 目玉のアトラクションである観覧車に、僕はひとりで乗っている。ゴンドラは一見動いていないように見えるものの、ゆっくり、ゆっくりと動いている。

 だんだんと頂上が近づいてくるたびに、景色は移りゆく。先程までイルミネーションの光で色鮮やかに彩られた、遊園地の園内しか見えなかったのだが、今は遠くに光るビル群まで見渡すことができる。

 観覧車の頂上の、少し手前くらいだろうか。


(今年も来てくれたんだね)


 どこからか声がした。彼女の声だ。


「もちろん来たさ」


(ふふふ。嬉しいなぁ。ありがとう)


 彼女の声は本当に嬉しそうで、僕も思わず笑顔になってしまう。


「約束したからね」


(そうだね。約束だったね。最近どう? 楽しい?)


「楽しいといえば楽しいさ」


 楽しいといえば楽しい。実際そうだ。楽しいとさえ思えば、どんなことも楽しく思えてくる。結局は思い込みこそが大事なのだ。


(彼女はできたの?)


 彼女が少し揶揄うように聞いてくる。


「できてないさ。作れるわけない」


 彼女などできないし、作るつもりもない。

 彼女と他愛もない話を続ける。傍から見れば何ともない会話だろうが、僕にとってはこの瞬間が何にも変え難いほど嬉しくて楽しい。

 しかし、そんな楽しい時間はあっという間に過ぎていってしまうものだ。乗っているゴンドラは頂上を過ぎ、だんだんと地上へ近づきつつあった。


(もうすぐクリスマスだね。今年はどうするの?)


 彼女が僕に問いかける。


「そうだなぁ。チキン買ってケーキも買って食べるんだ。きっと楽しいよ」


(ふふふ。それは楽しそうだね)


 外の景色は遠くに見えたビル群から、幻想的な園内の景色に戻りつつある。


(そろそろ、お別れだね。また来年も来てくれる?)


「ああ、きっと来るよ」


 僕のその言葉を最後に彼女の声は聞こえなくなった。

 観覧車から降りると、ハラハラと雪が降り始めていた。嫌でもあの日を思い出させる。僕はそのまま帰路についた。

 地下鉄の駅に入る前にもう一度観覧車を見る。観覧車はぐるぐると回っていた。

 そうだ。何も変わっていない。僕も、観覧車もあの日のまま変わらずにぐるぐるぐるぐると回り続けていた。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

1000文字にまとめるのは難しいものですね。

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