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第一ゲーム

『スリル満点、ドキドキワクワクの脱出ゲーム!恋人との絆、試してみませんか?

参加費:無料

参加条件:恋人同士であること』


一目見て気付いた。あ、これデスゲームだなって。多分、金持ちが道楽でやってるタイプの。


バカみたいなパステルカラーまみれの広告をクリック、詳細を確認、うん、デスゲームだ。参加しよう。


しかし残念ながら現在俺に恋人はいない。募集中だ。おっぱいが大きくて(このおっぱいが大きいというのは単に乳房の大きさではなく、柔らかい肉で暖かく包み込んでほしいという意味だ。つまり包容力優先。腹の脂肪でも良いものとする)俺という赤ちゃんをデロデロに甘やかしてくれる聖母はいつ現れるんだろうか。


何はともあれ、恋人がいなけりゃデスゲームは始まらない。あいつで良いか。と、俺と同種のバカにリンクを送ったところ、すぐに返信が来た。


「ええやん、行こ行こ」


てなわけで、俺たちは今日から恋人になった。




※ ※ ※




「ようこそ!スリル満点、ドキドキワクワクのデスゲーム会場へ!」


知ってた。


「何が起こってるか分からないって?大丈夫!今から説明しますとも!」


あ、司会者のウザめのノリに相方(偽名:三枝(さえぐさ)(れん))がイラついてる。前みたいに初手司会者キルしないと良いけど。止めろよ?


「これから、恋人のみなさんにはゲームをしてもらいます!もちろん、ただのゲームじゃありません。もしクリアできなかったり、ルール違反をしたりしたら、罰ゲームとして死んでもらいま~す!」


ふざけた調子から入って死者が出てから場が引き締まる想定なんだろうが、語り口が軽すぎて最低限あるべき「もしかしたら本当に…?」という緊張感・緊迫感が全くない。減点だな。


「ですがきっと問題ありません!みなさんが愛ある恋人同士なら、クリアできるに決まってます!我々は何があろうと互いを好き合う!そんな素敵な恋人たちが見たいだけなのです!"何があろうと"、ね」


「ふざけるな!俺たちを殺すつもりか?!そんなこと許されるはずがないだろう!」


おお、テンプレ客がこんなところにまで。いっそサクラを疑うほどの本当に見事なテンプレセリフだ。


「許す、許さないの話ではないのですよ。このゲームに参加した時点であなた方の生殺与奪の権は私にあります。あぁ、警察の助けを期待するのも無駄です。あなた方は"遠くで旅行しているだけ"、そういうことになっています」


「くそ…っ!オイ、ミカ!お前のせいだぞ!お前が面白そうなゲームがあるって言ったから!」


「はぁ!?あなただって楽しそうって参加したがったじゃない!あなたっていつもそう!何かあったらわたしにばっかり責任を押し付けて!」


「何だと?!」


痴話喧嘩は余所でやってくれませんかねぇ。


『ルール違反を確認しました』


電子音、次いで銃声。


「ヒッ…あ……」


死体となった痴話喧嘩カップルの近くにいた女が悲鳴のなり損ないを上げる。


本物の血だ。サクラの線は消えたな。あと憐、血を見てワクワクしないの。今回はバトル系のデスゲームじゃないんだから。


「失礼、割り込みがあったため順序が前後しましたが、今からゲームクリアまでずっと適用される大事なルールを発表します」


段取りの悪さを誤魔化すドラムロールが会場に響く。


「ずはり、"決して喧嘩しないこと"!恋人は仲良くあってほしいですからね~」


円満のためには喧嘩も時に重要だと思うんだが。


てかさっきのカップルがそのルールに抵触して殺されたなら、先に言っとかないとダメだろ。なんか素人感あるなぁ。


「さてさて、早速ですが第一ゲームに参りましょう!第一ゲームは──エピソードトーク!」


いぇーい!フゥーフゥー!と、囃し立てるようなわざとらしい歓声とは対称に、フロアはヒエヒエだった。


「みなさんにはこれから、元カレ、もしくは元カノとの思い出を話してもらいます!3分以上という最低ラインさえ守っていただければ、馴れ初め、デート、別れ際など内容はどんなことでも大丈夫です!

それと、今の恋人がハジメテであれば、『元カレはいません』、『元カノはいません』と宣言してもらって構いませんよ。

一人につき一つのエピソードです。最初のゲームだから軽めに行きましょう!

──このゲームで追加される禁止事項はただ一つ!"絶対に嘘を吐かないこと"!こちらの嘘判定器が正確にジャッジします。嘘と判断されたら監視員が即射殺しますので」


素人が開催してるデスゲームだな、確信した。この嘘判定器、確かに性能は良いが"判定に掛けられた人間が嘘と認識しているか"で嘘と決まるタイプだ。だから思い込みの激しいヤツには使えないし、俺たちも認識をすり抜ける裏技を知ってるから効かない。


とはいえ、だ。こんなデスゲームを開催するのにわざわざ元カレ、元カノがいない人間を集めるわけがない。もっと言えば、そのエピソードは恋人たちの仲が崩壊するレベルのエッグイ過去のはずだ。作り話は苦手なんだがなぁ。


「それでは、ゲームスタート!」


マァ、やるしかないか。


「どっちから先に話す?」


「私からで良いわよ。そうね、じゃあ5人同時に彼氏がいたときの話でもしましょうか」


「5股か?やるねぇ」


「ちょっと、5人同時に恋したと言ってちょうだい」


「分かったよ。それで、恋多きレディは何をしたんだ?」


「特に普通よ?デートしたり家でのんびりしたり、それぞれの趣味を一緒にやったり、後はセックスもほどほどにね」


「ふーん、僕より上手かった?」


「テクニックは大したことないのもいたわ。でも、私が満足できない男は選ばないわよ。少なくとも大きさはあなたより上ね」


鼻で笑われる。クソ腹立つなこいつ。見たことねぇだろってキレられないのも輪を掛けて腹立つ。昔行ったイカサマ防止のために全裸にされるタイプのデスゲーム会場に今更ながらイラついてきた。クレーム入れてやろうかな。


「その頃、月火水木金はそれぞれ恋人と過ごす時間、土日は私の時間って感じだったの」


シフトか?


「とっても充実してたわ。どの()も可愛くて、カッコよくて、愛してた。まぁでも、隠し事は長くは続かないものね」


「バレた?」


「ええ、もう。いっそギャグよ。鉢合わせにはならないように気を付けていたのだけれどね」


「顔の形変わるまで殴られた?ネイルのために伸ばしてた爪剥がされた?肉削がれて食わされた?」


「そんなわけないでしょ、バイオレンスね」


いつものお前だよ。


「自分の他に彼氏がいたことは別に良かったのだけれど、それを隠してたってことが不満らしくてね」


「浮気は良いのか」


「浮気じゃないわよ?全員愛していたんですもの」


いけしゃあしゃあと言いよる…


「それでねぇ、問題だったのはセックスの回数だったのよ。平日は誰かしらと会うわけだから、連続でだと体力的にキッツイじゃない?だから断ってたのが別の男とセックスしてたからってバレて、みんな拗ねちゃったの」


「拗ねるで済むんだ…」


「ただ何回もヤるのはやっぱ無理だからどうしようってなって、結局『じゃあ、全員平等に6Pしよう』って話になったの。股裂けるわよ!」


「アッハハハハッッ!!!そのオチは反則でしょ!!」


「そんな笑わなくて良いじゃない」


「え、で、ほんとにヤったの?」


「当然。ヤってやったわよ、輪姦セックス」


「アッッハハハハハハッッ!!!!!」


待って無理、息できない。


「全く、こういう話ほんと好きね。ほら、次はあなたの番よ」


「ひひひ…あは、あー、僕の話ね。うん、じゃあ僕も彼氏の話しようかな」


「あら、あなたバイなの?初めて知った」


「その表現、あんま好きじゃないんだ。人の性別で恋しないって言ってくれ」


「分かったわ。馴れ初めはどんな?」


「マチアプで出会ったんだけどね。中肉中背の、マァ顔はそこそこ良いけどそれ以外は平凡って感じの男だったよ。歳は22歳、趣味はカラオケと筋トレ、漫画はちょっと読むけどニワカだって」


「うわぁ、大学生って感じね」


「当時僕は高校生だったんだけど、彼は大人の余裕って感じがあってね、ガキの僕は大層ときめいたもんだよ」


「今もガキでしょう」


うるせぇ。


「彼との日々はとっても楽しかったよ。学生じゃできない悪いこともたくさんしたし、刺激的だった。僕、初めての酒もタバコもあの人の好きなのなんだよ?あの背徳の味が忘れられなくてさぁ、今でも銘柄は彼と一緒。いや、向こうは変えてるかもしれないけどね?あぁ、それと、バイトで忙しいからって中々会えなかったとき、親に隠れて夜中にこっそり通話したこともあったなぁ。思い出すと今でもドキドキするよ」


「今のところ普通の話ね」


「別に指定されたのは"元カレのこと"ってだけなんだし、普通の話でも良いでしょ?…と、言いたいところなんだけどね」


「何かあったのね?」


「その男、妻子がいたんだ」


「…あら?その男、22歳なのよね?」


「あぁ、男はそう言っていた。ハリのある肌も自然な大学生的ノリも、どう見ても20代、上に見積もっても30代が精一杯なくらいだ。でも、こうなっちゃそれを信じるわけにはいかないからね。身分証を見せてもらった」


「どうだったの?」


「52歳だった」


「30歳サバ読み!?」


あ、素が出たな今。関西のイントネーションが出なかっただけセーフか。出身とか偽ってるし。


「若い男に組み敷かれたかったんだとさ。大学生のノリは実際に大学入って学んだんだって」


「ガチすぎでしょ!あははっ!ふふっ、それでそれで?その後はどうなったのよ」


「妻子にバラされたくないよね?って脅して口止め料ブン取って別れた」


「アハハ!最っ高!」


まるで悪友と猥談を話してるような盛り上がりに、俺たちのブースの監督者が困惑してる。マァ、事実その通りだしな。でも残念、嘘判定器が反応してないから殺せない。そっちが決めたルールくらい守ってくれよ?


周りでは自分の知らない話にギスったり、参加者同士に元カレやら元カノがいたりと大混乱だ。死体もちらほら。南無阿弥陀仏~。


クリア者には白々しい賛辞が送られ、次のステージへ移動となった。その道中、監視にバレないよう耳元で憐が囁いてくる。


「なぁ、さっきの話、実話やろ?」


「内緒。お前は?」


「なら、うちも内緒」


「「あは」」

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