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スーパーの自動ドアさえ潜ってしまえば後はもう楽園。

もう一か月分の運動した。

明日からずっと寝ていよう。

少なくとも七月はずっと寝る、何もしない、もう決めた。


「結構おっきなスーパーだね」


「そうだな」


「あ、ロッテリアある。エビバーガー食べたい」


「じゃあロッテリアにするか」


「うん。兎に角座りたい。足可哀想」


「わかった」


「疲れたわねぇ。なっちゃん」


「うん。いっぱい歩いた」


私はエビバーガーとオニオンフライトポテトのセット、佐倉君は絶品チーズバーガーとポテトのLセットを頼み、空いているので広めのソファの席に座った。


「生き返るぅー」


「お疲れ様」


「まだ終わってないでしょ?」


「そうだな。これからだ」


「ちょっとイケオ。ひょっとして除霊なんてなっちゃんを連れ出す口実でこれから人気のない所に連れて行くって魂胆じゃないでしょうね?」


「ない。それにあんたがいるんだからそんなことさせないだろう?」


「当たり前でしょ。私が何があってもなっちゃんを守るわよ。かすり傷一つつけたら八つ裂きにしてやるんだから」


「ホントにしちゃうからねセイラちゃん」


「八つ裂きにした人間がいるのか?」


「八つ裂きにはしてないけど、怪我はした、よ」


「あれは正当防衛よ。後遺症が残るようなものじゃないし。なっちゃんが悪いんじゃないんだから」


「何があった?」


「うん、えっとね、うーん、、私可愛いじゃない?」


「高二にもなってツインテールにしてることを除けばな」


「何よ、その言い方。色白でお目目はきゅるんきゅるんで世界一可愛いでしょうがー」


「ツインテールダメなの?」


「あんまりしてなくないか?二次元以外」


「一番楽なんだけどなぁ」


「まあいい。それで?」


「あ、えっと、私可愛いでしょ。だからね、結構先生とかに依怙贔屓されること多くて、おまけに話すのも話合わせるのも下手で友達出来なくて、まあそれはいいの。セイラちゃんがいたから寂しくなかったし。でも中学とか入ると見た目だけはいいもんだから先輩とか他校の子とかに告白されるようになってね。中二の時に学校で一番人気があったサッカー部の先輩に告白されたのね。当然断ったんだけど。それ以降クラスの女子から無視されるだけじゃ済まなくなって、最初は教科書とかノートに落書きされるレベルだったんだけど、ある日まあ身の危険を感じるほどのできごとがありまして、まあ何もなかったんだけど、セイラちゃんが激怒しちゃって、暴れまわりまして・・・」


「まあ、想像はつく」


「それから、こっちは何にも関係ないんだけど、先輩以外でも私に告白してきた子達が事故にあって大怪我したり、突然転校したりと、まあいろんなことがありまして、私をいじめた人間は不幸になるって話が私と関わった人間が不幸になるって話に進化しまして、それがまあ田舎なので高校にまで引き継がれ、現在に至る、と」


「なっちゃんは悪くないわよ。私だって悪くない。イケオ、あんたはいじめられた子が悪いっていう人間じゃあないでしょうね?」


「問答無用でいじめた人間が悪い」


「でしょ?でしょ?なっちゃんは何にも悪くないの。なっちゃんは非力で自分の身を守れないんだから誰かが守ってやらないと」


「そうだな」


「何よ、素直じゃないの」


「こういう話は除霊師をしていると山ほど聞いてきた。守ってくれた。助けてくれた。幽霊は怪我をする心配もないし、死ぬわけもないしな」


「そうよ。無敵でしょう?おまけに美人だし。ずっと一緒にいるんだもの。見栄えはいいに越したことはないでしょう?」


「うん。セイラちゃんホント綺麗」


「でも一生そうやっているつもりか?」


「そうよ。一生よ。一生なっちゃんの傍にいるわ。それでいいんだもんね?なっちゃん」


「うん」


エビバーガー美味しい。

佐倉君は何を食べても同じ顔だなぁ。

そして今日もハンバーガーが小さい。

ジュースのコップも小さい。

大きな手なんだなぁ。

私と全然違う生き物だ。


「昨日も言ったけどこのままだと一日の大半を眠って過ごすことになるぞ。それで本当にいいのか?」


「何とかできたりするの?」


「除霊したらな」


「じゃあいい。セイラちゃんいなくなったら寂しい」


「健康な身体は手に入るぞ。暴飲暴食しなくていい、適度な睡眠でも生きていける身体が」


「食べるの好きだから平気。眠るのも。ひょっとしたらこの世で好きなの食べることと寝ることだけかも」


「それと私セイラちゃんね」


「うん、そうだね」


私達は見つめ合う。

そうだ、私が好きなのは美味しいものと、お気に入りのベッドで眠ることと、あとは時々お父さんとお祖母ちゃんとお祖父ちゃん、それだけ。


「私達はこんなに上手くいっているんだからほうっておいてくれない?イケ坊や」


「今は若いからいいかもしれないが、年を取った時に後悔しないか?あれもすれば良かった。これもすれば良かったって」


「しないんじゃないかな。そもそも何にもしたいことなんかないし」


「あんたにだって夢とかあるだろう?」


「ないよ。できれば大学行って就職して、セイラちゃんと二人で静かに暮したいかなって、それだけ」


「何でセイラさんじゃなきゃいけない?あんたは見た目もいいし、これからだって友達や彼氏ができるかもしれないだろう?」


「できないよ。それにセイラちゃんは私のこと何でも知ってるし、私もセイラちゃんなら何でも話せる。

風邪をひいたりお腹痛くなったり腰痛くなったり寝違えたりしないし、暑くっても熱中症になったりしないし、事故に合ったりしない。心配しなくていいもん。人間は面倒」


「そうだな、人間は面倒だ」


「あら、同意するの?あんたも色々あんのね」


「何もない人間なんていない」


「十七のガキに説教なんてされたくないわね」


「そうだな。悪い」


「悪いと思ってないでしょ?ホント可愛くない子」


「一生このままでいい。このままがいい。起きていられなくなったらその時考える」


「そうよ。何とかなるわよ。生きてさえいたら、ね」


「食ったら出よう。歩くのはもうあと少しだ」


「そっから船に乗るとか言わないでしょうね?」


「言わない。もう本当にすぐそこだ」


「うん。頑張って歩くよ。その前にあそこのたい焼き食べてもいい?」


「ああ」


「あと、その横のクレープも」


「ああ。美味そうだな、クレープ」


「クレープ好きなの?」


「ああ」


「じゃあどっちからにする?」


「俺はたい焼きはいい」


「たい焼き嫌い?」


「嫌。今日はいいってだけだ」


「あっそ。じゃあクレープ食べてシメにたい焼きにする」


「ああ、そうしよう」


クレープ焼いてるとこ見るの大好き。

たい焼きも、たこ焼きくるくるしてるのも好きだし、お好み焼きひっくり返すの見るのも好き。

やっぱりフードコートいいなぁ、ふるさとだわ。

一日中いてもいいな。

スーパーなら閉じ込められても一生平気かなぁ。

クローズドサークルはスーパーじゃ成立しないのかな。


「私スーパー好きかも」


「は?」


「あ、ごめん。ごめん。何でもない」


私はバナナチョコケーキクリーム、佐倉君はバナナチョコブラウニーを頼んだ。

私達はソファ席に向かい合って腰かけた。

フードコートというのは何処の県にいっても喧しく騒がしく他人に関心がない。

木を隠すなら森の中だ。

深刻な話はここでするに限る。

その後の人生を決定づける大事な話をするならフードコート一択だ。


「クレープって美味しいよねぇ」


「ああ」


「毎日食べたいよ。家の近所のスーパーのフードコートクレープないんだよね。駅前まで行かないとクレープ食べられないんだよ。コンビニのも美味しいけど、やっぱりこの紙に入ってるのワクワクするよね?」


「そうだな」


「この生地もちもちで美味しい。やっぱりクレープは生クリームとバナナが好き」


「そうだな」


もうこのままフードコート廻って帰りたいな。

外暑いし。

まだいっぱい歩くだろうし。


「あんたは好きなものいっぱいあるじゃないか」


「え?」


「食いもんだけでもこの世に好きなものいっぱいあるじゃないか」


「うん、あるけど・・・」


「さっきの話に戻るが、あんたはそんなに好きなものがあるなら大丈夫じゃないか。別に友達がいなくても家族がいなくても、あんたが好きで寝てる時間が勿体ないと思えるくらいのめり込んで没頭できる趣味とかがあれば寂しくなんかないんじゃないか?」


「趣味?」


「ああ。流石にセイラさんがいなくなったら食欲は収まるからこんなには食べれないだろうけど、食べ歩きとか立派に趣味だろ?」


「趣味、佐倉君は趣味ってあるの?」


「俺は除霊が趣味だから」


「趣味が仕事になってるんだ?」


「仕事ではないな、これで食べていけるわけじゃないし。でもまあ、趣味と言われたら、趣味だろうな」


「趣味ですかぁ」


「爆発する映画も好きなんだろ?」


「うん。でも大体途中で寝ちゃうから。家でテレビで見るしかないんだよね」


「除霊が済んだら寝なくなるぞ。そしたら映画館で見ればいい」


「別にお家のテレビでいい」


「他の国に行って、美味いものを食ったり、綺麗な景色を見たりしたくないか?」


「日本の食べ物が一番美味しいんじゃないかなぁ。綺麗な景色もテレビでいい。世界遺産とか見れるし」


「温泉」


「お家のお風呂でいい」


「スポーツを始めるとか?」


「私自転車乗れないからどこ行くにも歩きだから結構身体動かしてると思うよ」


「自転車乗る練習したらどうだ?」


「補助輪外すとこから?もうこの年じゃ無理だよ」


そういえばあの自転車どこに行ったんだろう?

お祖母ちゃんが捨てちゃったのかなぁ。


「ちょっとあんたもういい加減にしなさいよね。なっちゃんが1パーセントにかけるって言ってるんだから外野が口出ししないでよ」


「悪霊になってからじゃ遅いだろ」


「私は絶対にならないわ。自信があるもの」


「根拠はないだろ」


「ホントおせっかいね。もう今日が終わったら出禁だからね。夏休み中二度と会わせないから」


「セイラちゃん。まあまあ」


「むー」


「ごめんね。私達ばっかり食べて」


「それはいいのよ。何回も言ってるけど私ホントに何も食べたくないし、美味しそうとも思わないの。だから気にせずいっぱい食べて。美味しそうに食べてるなっちゃんが大好きなの」


「本当に食べたくないか?」


「ないわよ。何よ、それ」


「食べている人間を見てもなんとも思わないか?」


「思わないわよ。よう食べるわねとは思うけど」


「そうか」


「何よ、あんたってホント何考えてるかわかんないわー。子供の頃からそうだったの?」


「ああ。こんなだった」


「あー。かわいくない子。あんたこそ除霊が趣味だなんて灰色の青春じゃないの。もうちょっとコマシな趣味みつけなさいよ。せっかくかっこいい顔に親御さんが産んでくれたのに。可哀想な子。あんたこそ後悔したって遅いんだからね。幽霊なんて相手してないで女の子とお付き合いして若い時代を楽しみなさいよ。ただし家のなっちゃんは駄目ですからね。適当な加工しまくり尻デカ女とよろしくやってなさーい」


何て悪いお口。

そして生き生きとしたいいお顔。

セイラちゃん元気いっぱい。

やっぱり来て良かったのかな。

セイラちゃんもこの十年私以外と喋ることなかったからホントは退屈だったろうな。

最近の私ほとんど寝てるし。


「考えとく」


何を?

クレープを食べ終えた私はたい焼きを買いに行き一つだけ買って席へ戻る。

半分あげようかとも思ったけど、これ以上佐倉君に立ち入りたくなくて立ち入って欲しくなくて無言で咀嚼した。

こんなたい焼き一つで何を大げさなと思うけれど、私の人生にはこの十年こんな風に誰かと話したことはただの一度もなかったのだ。

昨日からいろんなことが一気に起こりすぎて冷静さを失っているのがはっきりとわかる。

もう家に帰ってゆっくり眠りたい。

でも実は今日はこれからメインイベントが始まるのだ。

見たことのない、初めての、何かが。



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