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第二十三話 覚醒する領域

 ファイアーバード『オーバー:ツー』略してオーツーとでも呼称しようか。奴の戦闘能力は未知数。ただ一つ分かるのは、オーバー:ワンとは比べ物にならないってことだけだ。


 窓の外。エレナはグラウンドで独り佇む。大きく動くこともせず、ただオーツーに対して剣を構えているだけ。


エレナが突撃していないのを確認して、俺は胸を撫で下ろす。


 エレナが突撃して即死しようものなら、カトレア先輩のヒールすら間に合わずに『俺が死ぬ』。

 死神がヒタリ、ヒタリと俺の背を伝って来るような感覚。ヒールが使えなくなって、初めて知る『死への恐怖』はいかなる感情よりも新鮮だった。


「カトレア先輩、救援に行きましょう。オーバー:ツーなんて、エレナ一人には荷が重過ぎますよ」


「ダメ、絶対ダメ。アストみたいなお荷物が行っても、戦況は変化しないよ?」


 カトレア先輩にしては強い口調だった。珍しく優しさを込めていない声色と言葉。グサリと容易く俺の心に突き刺さる。

 しかし俺の中では、カトレア先輩への恐怖よりも『死への恐怖』が格段に勝っている。


「お荷物でもなんでも構いません。けど、正の領域が存在する事を伝えて、無謀な戦闘を避けないと──」


「でも私が許さない。ユイナだとか、エレナだとか、挙句の果てにはマリオンちゃんとか言い出す」


 カトレア先輩の口調は淡々と、しかし発言内容はチグハグと。そして今度は啜り泣くように言葉を続ける。


「……アストは何も分かってない」


 不安定なカトレア先輩を見ていると、逆に俺は冷静になってゆく。ただ落ち着く、思考と感覚。俺は神経が尖っているのを肌で感じていた。


「私の気持ちだけを感じてよ。他のことなんて、みんないらない」


「感情も行動も、何もかも意味がわからないです。結局、カトレア先輩が言いたいことは何ですか?」


俺は半分呆れ、半分は憤っていた。


 エレナが窮地に立たされているというのに、彼女はお気持ち表明。冷静とはかけ離れた悠長な行動。もはや会話すら億劫だった。


「……アストには言いたくない。聞かないで」


「じゃあもう聞かないです。その代わりに、俺がこれからする事にも口を出さないで下さい」


「……やだ」


「もう知りませんから」


 俺は「すみません」と言って、マリオン先輩とカトレアの隙間から抜け出した。そのまま生物室を飛び出して、廊下を駆け抜け、正面玄関へ。


 学園の校舎はコの字型になっており、正面玄関は縦線の中点にある。コの字の内側に中庭、外側にグラウンドが設置されている。


俺はもちろん外側、グラウンドへと出てゆく。


──グギャァァァァァ!


 グラウンドの中央にファイアーバード。奴は校舎の方を向いている。そしてその延長線上にエレナ。彼女は後者を背に、剣をしっかりと握っていた。


俺は彼女の元へと急いだ。


「エレナ! 戦力が整ってない! とりあえずこの場から逃げよう!」


「あんな鳥、私一人でも十分よ! アンタはせいぜい私の後ろで──」


──グバァァァ!


 ファイアーバードは口を開き、燃え盛る息を俺達に吹きかける。口腔から真っ赤な炎。光景はスローモーションに見える。


 俺は反応できた。がしかし、エレナは被弾してしまう。彼女は一瞬だったが、炎に包まれた。


「ゔぁっ! あづぃぃぁあ……あっ、あれ? 熱くない?」


ヒラヒラと不思議そうに彼女は全身を見ている。しかし火傷なんて見つかるはずもない。


そりゃ当然。


「だっ、大丈夫? ぐうっ、がぁっ」


俺の顔は爛れているだろうか? 腹が焼けているのは分かったが。


「アンタなんで! 私を庇うなんて馬鹿じゃないの!?」


「がっ、庇ったんじゃない。ゔゔっ、けど、詳しく話してる、よっ、ゆうも無いから、とりあえず、逃げっ、ようか」


 「分かったわ」と言ってエレナは俺に肩を貸す。その後俺は、彼女の驚異的な脚力で中庭まで運ばれた。その間わずか数秒。ファイアーバードも動かなかった。


「アンタ、ヒールは? なんでしないのよ?」


俺はパクパクと口を動かして、「できない」とだけ伝えた。


「早く言いなさいよ! ったく、とりあえずすぐにヒーラー呼んでくるから、それまで死なないでね。ちゃんと生きてなさい」


タンッとエレナは視界から消える。


 熱い、熱い。うっすらと見える視界は空を映す。今日は晴天。いつもならいい天気だって喜ぶんだろうな。


「アストさん! やだぁ、死なないで!」


 ユイナの声が聞こえた。そしてヒールの心地いい感触。全身の痛みが少しずつ、少しずつ、ゆっくりと治まってゆく。


あぁ。ユイナのヒールは美しい。優しい太陽のようだ。


「アンタもヒーラー? まぁいいわ。カトレア先輩呼んできたから、ちょっとどいてもらえるかしら?」


「アスト、私が来たよ。もう大丈夫だから」


エレナの声と、カトレア先輩の声が聞こえた。


「いやです。アストさんは私が癒します」


「いいからどいて。今は誰が癒すとかじゃないの。この状況分かってる? 一刻を争ってるのよ?」


「ユイナちゃんどいて? 私がアストを癒すから、貴方じゃ相応しくない」


「カトレア先輩はさっき振られたじゃないですか! 私聞いてましたよ!」


俺の体が徐々に癒されてゆく間、そんな口論が聞こえる。


「貴方には関係ない。それは過去のこと。アストは私を望んでる」


「そんなのアストさんが可哀想です。邪魔しないでください!」


「ヒーラー同士でケンカしないでよ! どっちでもいいから早くこいつを癒やして!」


「分かった」そうカトレア先輩の声が聞こえた後、額に冷たい手の感触。


──ヒール


 スゥッと全身から痛みが消える。一瞬の出来事。かつての痛みが嘘のよう。俺は上半身だけを起こす。視界はクリアになり、鮮明に三人の女子が見えた。


 カトレア先輩が俺を覗き込み、エレナはその後ろで腕を組んでいる。ユイナは俺に抱きついている。


「いや! 私のヒールで回復するの!」


──ヒール


 ユイナは駄々をこねる子供のよう。可愛らしい独占欲の反面、やっていることは危険だ。


「ユイナ、これ以上ヒールしたら中毒になるから」


「なればいいんです。そして私を襲えばいいんです」


 ユイナの恐ろしいほどに腹のすくんだ声。目のハイライトは消えているだろう。体制的に確認はできないが。


「ダメだって。ううっ、これ、これっは」


「アンタやめなさい! ヒール中毒なんて引き起こそうとしちゃ──」


「離れません! 絶対に!」


ものすごい力。エレナの力を上回って俺に張り付いている。


「あぐぐぅ、ぐぅ、ああああ」


 目の前がチカチカと光る。思考はグルグル回る。ありとあらゆる魔法の詠唱、戦闘技術、闘争本能。駆り立ててはいけない欲望を抑制すればするほど溢れ出て来る。


「ぐぁぁぁぁぁ」


腹に穴が空いたように痛い。視界が暗い。モノクロの世界。やっと訪れた。


──これが正の領域か


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