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第十一話 命の歪みはほどほどに

 俺は昔、パーティの仲間達から『神童』と呼ばれていた。


 回復魔法の質、素早さ、回復心地が秀でているらしく、それを見込まれた俺は10才にしてSランクパーティのメンバーになるという偉業を成し遂げた。


 当時から『触れるとゾンビになる』と言われ続けていた俺にとって、仲間はとても暖かいものだった。命を預け合う信頼と勇気、コンプレックスだった回復能力が誰かの役に立っているという事実。全てが新鮮で、俺の精神を満たした。


しかし俺はいつしか命が分からなくなった。


 傷はすぐに癒える。俺も、仲間も。皆んな強いから敵は死ぬ。訪れた村には必ず平和が訪れる。賞賛、感謝、応援はいつだって自尊心を満たしてくれる。


でもいつからか。


──人の命に終わりを感じなくなった。


 俺が目の前にしている光景は、そんな過去からの贈り物だと思う。俺に跨る少女は艶やかな笑みを浮かべていた。

 

 仰向けになって見上げた葉っぱの隙間からは、青い空が見えて、でもそんなことが気にならないくらい、空色の髪の毛が暖簾の如く、カーテンの如く揺れる。


「アストさんは忘れたかもしれません。でも私にとっては永遠の記憶で、貴方が王子様に見えたんですよ……」


 俺を王子様などとおいそれたことを言う少女、ユイナ・クリフォード。『クリフォード』という姓は一度耳にしている。それは蘇生した少女、『シシリー』の性と同一であった。


ユイナは俺の顔に両掌をひたりと這わせると、俺の耳元でこう囁いた。


「でも、昔話はここまでです。邪魔が入ったら、ゆっくりデキませんもんね」


 ユイちゃんは美しい所作ですくっと立ち上がり草原の一点を指差す。この木の正面、数十メートル先を指し示す人差し指は、テスト中であることと、敵の接近を知らせた。


 そこには黒胡麻を撒いたように人が雑多としている。広大な草原に似つかわしくない黒い制服の集団は、俺達に気づいているらしい。視覚的にはゆっくりと、実際には全力ダッシュでコチラに向かってきている。


「……エレナちゃんが起きるまでに、私達、追いつかれちゃいます」


 俺達の最終兵器は、運の悪いことにまだ休養を続けている。そもそも、自分の一撃をノーガードでくらったんだ。必然的なのかもしれない。


ユイちゃんはもう少し付け加える。


「あの様子だと、魔法の射程圏内に入るのが数秒後で、前衛の攻撃部隊に追いつかれるのも時間の問題です」


無理っぽいねー。


「アスト! なんかすごい集団に狙われてるみたいだよ!」姉御が緊急事態を察知して俺に声をかけた。


 そこそこ離れた距離から、ものの数秒で合流した姉御は、ネガティブちゃんまで背負っているというオプション付きだ。

 彼女の体つきは、平均的な女子とあまり変わらないというのに、軽々しくネガティブちゃんを背負っている。


「アストさん逃げましょう! 私の予測で、ある程度の魔法は躱せますけど、物理攻撃は無理です! だから追いつかれる前に!」


「アスト! この子はどうすんだい!?」姉御は寝ているエレナを指差す。


「どうするって……担いでいくしか方法はないよな。それに、エレナが起きるまで耐えればいいし──」


ピチュン、ボッ!


 とうとう魔法攻撃がここまで飛んできた。しかもエレメント付与までされいる。俺達が木陰に潜んでいることが気に食わないのか、ご丁寧に火属性のエレメントだ。


「ちくしょうが、自然を大事にしてくれよ」


「エレメント……。こんな技術、Bクラスの連中ですよ!」


ピチュン、ボッ!


 幸い彼らが走っているからか、命中精度の低い魔法ばかりが飛んでくる。もし追いつかれたらエレメントの砲撃で集中砲火ですね、こりゃあ。


「もうやばい! ユイちゃんは魔法攻撃の予測して! 姉御はネガティブちゃんをどうにか連れてって!」


 俺は急いでエレナを背負う。相変わらずおも……たくない華奢な少女だ。これならどこまででも駆けられる。


ユイちゃんと姉御はもう走り出していた。


ピチュン、ピチュンピチュン!


 たった一本の木に、容赦ない火炎が襲い掛かる。攻撃学部のBクラスは自然を慈しむ心なんて無いらしい。


「強くても自然を大事にしないと、人間としては底辺だからな!」


俺は置き土産のような捨て台詞を吐いて、二人の背中を追った。


 総勢25名の底辺から逃げて、エレナが起きるまでの間、とにかく時間を稼がなければならない。

 俺達の勝利がエレナの『おはよう』で、アイツらの勝利は俺達の『おやすみなさい』。こんなにドキドキする追いかけっこは子供の頃はできなかったしな。せいぜい楽しむか。


「次は3秒後、左に避けて下さい!」ユイちゃんが総指揮をとる。


ピチュンピチュン、ボーッ!


 ピッタリ3秒後に右手側は魔法の雨に降られている。しかもかなり精度も高くなって、俺が避けた真横に命中。ユイちゃんの指示が無くては丸焦げだった。


 俺達はユイちゃんの指示の通りに走った。しかしながら不運は連続するらしい。前方には黒い影。手に持っているのは大きな盾。


『防御学部』御一行が待ち構えるその先で、ガンス達も苦戦を強いられていた。

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