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夕刻

 目が覚めてから1日が過ぎた。ミハイルは就寝まで暇を持て余し、自分の新しい肉体が反射するだけの窓を見つめる。

 あまりにも突然な出来事に右往左往していたわけだが、あれからナターシャなる人物に状況を細かく説明され、多少は整理ができた。


 理解できたことは多い。この屋敷はアルネイル共和国の首都、レーニアに存在するということ。ミハイル・フォン・ヘルトリングという男は、確実に死亡していること。時系列的には、自分が死んでからちょうど一月ほど経過していること。ナターシャは軍属であり、彼女と俺の住居でもあるこの屋敷は軍の関連施設でもあるということ。この肉体は例の文書の通り、兵器として製造されたということ。…


 何点か理解できないことはあった。なぜ敵国の軍人を素材にしたのかということ。これに関しては、ナターシャもわからないらしい。さぞ趣味の悪い奴が上にいるんだろうな、と無理やり納得させた。それと兵器として開発されたこの体が、何故少女体なのかということだ。だがその疑問は、ナターシャの趣味という至極どうでもいい解答を得た。普通に問題ではないのかと問いただしたが、どのような形状でも予定されていた物理的な性能は引き出せるらしい。今のところこの女、こちらの主観では自称天才の変態錬金術師だが、実際天才なのだろうか。それとも、ホムンクルスとはそういうモノなのだろうか。


 というかそもそも同意していないし納得もしていない。第二の生と言えば聞こえは良いが、死んでなお国家権力に扱き使われるなど呪いもいいところだ。

しかも、ナターシャ含むこの件の黒幕どもが選び抜いた末の素材ですらないというのだから目も当てられない。魂の定着という最重要項目が確立に左右されるとはなんとも杜撰な計画。先ほど物理的な性能と言ったのは、実用上の性能がこの俺次第だからだ。まぁ、誰でもよかったんだろうな、結局。


 生前?よりも幾分か柔軟になった脳をフル稼働させて今日の総括をしていたその時。


「仮称ミハイルちゃ〜ん!寝た〜?」


 例の変態錬金術師が施錠していた筈の扉を突破し、勝手に部屋に入ってくる。

 

「この体ってもしかしてプライバシーないの?」

「なによ〜、そんな青ざめちゃって。お姉さん泣いちゃうよ?」

「俺の方が年上だ。それとなんだ、仮称ミハイルって」

「いや〜、その名前は都合が悪くてね!できれば変えて欲しいんだけれど」


 唐突なその言葉に、緩い雰囲気が消える。


「な…!ふざけるなよ!俺はミハイル・フォン・ヘルトリングだ!これだけは譲らないからな!」


 椅子を倒す勢いで立ち、ナターシャの眼前で吠える。


「…ふ〜ん。いいよ。じゃあ、明日街に出よっか?ミハイルちゃん♡」

「な…!」


 ここはアルネイル共和国首都、レーニア。言ってしまえば、敵国だ。しかもこの国においてその名は、ラックに刺されていた新聞の書面をそのまま受け取れば、かなり悪名高い。いくら少女体とはいえ、その名を名乗ることは憚られるだろう。先ほどは呪いと形容したが、この生は世界の不条理ををミハイルなりに是正する機会でもある。無駄にはしたくない。やはり改名すべきだろうか。


「………」

「そんな睨んでも、現実は変わらないのよ?」


 だが、この名は、この姓は、自分が自分である唯一の記録だ。記憶などという曖昧なモノではない、真実にして最後の自己同一性(アイデンティティ)。そうやすやすと失っていいモノではない。

 脳内で意見の衝突が起こる。そこに思考リソースを使い過ぎて、もはやナターシャを睨みつけることしかできない。


「…頑固だなぁ。これはお仕置きかな?」


 ナターシャがそう呟いた瞬間、首筋に違和感を感じる。


「ひゃれぇ…?」


 意識が混濁する。

 なにか、さされ……


 意識を失い、制御を失ったミハイルの体が崩れ落ちる。


「っとと、簡単に意識飛ぶねぇ、君。ぶっ倒れて壊れられたらこっちも困るってのに。おーい誰かー!ちょっと手伝って!この子持って〜!」


 地面と接触する直前にナターシャがその体を受け止めたが、少女体とはいえ重いものは重い。さっさと守衛に来てもらって、そのままミハイルを運んでもらう。


「どう料理するかなぁ〜?ぇへへ…」


 同伴するナターシャのその目には、ミハイルと出会った瞬間の高揚と同じものが浮かび上がっていた。





 

話が…話が進まねぇ…!どうにか進めたいんですけど、構想的にもうちょっとかかりそうです。申し訳ない。

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