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その死の価値

 ルーシア帝国陸軍大佐、ミハイル・フォン・ヘルトリングの死は、電撃的に国内外に知れ渡った。

 もともと数多くの戦役で手柄を上げていた彼は、その分帝国民の期待を背負っていた。国家元首ほどの地位もなく最高司令官でもなかった彼に対し、国葬の是非が議題に上がる程度には国民からの人気もあった。

 しかし、さらなる軍備の増強や領土拡大に躍起になる増強派の軍人や民衆に疎まれていたこともあり、結局国葬や軍を挙げての葬儀は執り行われなかった。


 一方、アルネイル共和国では、敵軍の英雄が斃れたことに国が湧き、プロパガンダの題材になった。ミハイルを倒したとされる少年兵の名は喧伝され、その名は新たな英雄の名となった。

 色とりどりの花に飾られた街頭には出店が並び、さながら祭りのような騒ぎとなっていた。


「やってんねえ」

「ほんと馬鹿馬鹿しいっすよ。戦局は依然劣勢だってのに、たかが一人殺したところでね」


 アルネイル共和国首都レーニアの新聞社、その一室。ハンチング帽をかぶった細身の男二人が、お祭りムードの街道を窓越しに見下ろしながらつぶやく。


「にしても、最近はまた一段と匂うな。例の大佐との戦闘について、関係者の名前以外一切の情報が開示されてない。なにかおかしいと思わないか?」

「そんなこと言ったって、結局うちらみたいな弱小メディアがどうこうできる話じゃないっすよ…まぁ、なんとなく隠されてるのはひしひしと伝わりますけどね」

「そうだよな。なにか隠されているのは間違いないって記者の勘が教えてくれるんだが」


 定期的に戦況を発表するという律儀なことを開戦以来行ってきた政府が、最近になって特定の情報を出し渋るようになった。しかも、喧伝するような戦果に対してだ。その事実は、その筋の人間に不信感を抱かせるには十分だった。


「なんだ、せっかくのムードが台無しじゃないか」


 その時、くたびれたシャツに身を包んだ大男が、豪快にドアを開け入室してきた。その顔からは、外の雰囲気にあてられていることが読み取れる。


「あ、お疲れ様です。社長」

「お疲れ様っす」


 社長と呼ばれたその男は、無遠慮に二人の肩に手を乗せる。


「何話してんだ?」

「例の戦闘についての情報が制限されていることが、どうも怪しいというか、まぁそんな話です。…ただの個人の所感なんですけど」

「ふぅむ」


 社長は窓から見える荘厳な雰囲気の建築物ーーーアルネイル共和国中央議事堂を注視しながら、顎に手を当てて考え込む。


「わからんでもない。だが俺はどっちかっていうと少年兵の方が興味深いな。あれもたしか、最近急に徴兵し出しただろう。」

「っすね。この国もここまで堕ちたか、って感じたっすよ、少年兵とか。いくら辺境のあの辺りが切羽詰まってるからって、未成年であろうが問答無用で徴兵っすもんね」


 そんな会話の折、細身の男のうち誠実そうな方が口を開く。その視線はやはり、中央議事堂に向いていた。


「あの辺りは元々人口が少なかった上に、正規軍の損耗が激しくなったらすぐ住民が徴兵され始めたからな。もはや女子供以外なら誰でもいいんだろう」

「どちらにしろ酷い話っすね。それに最近はどこも治安が悪いし、なにより帝国との戦争に終わりが見えないしで気分は最悪っすよ」

「それでも帝国よかマシさ。まだ共和国の方が自由があるし、なにより平和だった。こんな状況も戦争さえ終われば全てうまくいくよ」

「どうだか」


 社長は楽観的な発言をしつつ、じゃあ、と元の部屋に戻って行った。何がしたかったのだろうか。


「とにかくだ。少年兵やらもそうだが、今喧伝されてるこの戦闘には何かしら裏がある筈だ。弱小メディアなりに、身の程に合う範囲で探ってみるよ」

「ちょ、変なことして捕まらないでくださいよ?こっちにまで飛び火するのは勘弁っす」

「犯罪行為はしないさ。別のことも記事にしないといけないしな、片手間にやってみるよ」

「好きにしてくだせーよ、ったく。一度決めたら何言っても曲がんないんだから…」


 会話が終わると、各々部屋から退出した。

 薄暗い部屋をほんのり照らす唯一の窓からは、戦争に浮かさた民衆が笑っているのが見えた。

待たせた割になんも話が進まんかった……

前にも書きましたが、更新頻度は作者のモチベ次第です。申し訳ない。

こんなんでも待ってくれる方がいるなら、うれしい限りです。

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