知名度を上げたい金太郎
ボイコネライブ大賞応募作品のため、会話についてはボイコネルールに準拠しております。
平安時代中期、京都から遥か東の地にある足柄山の周辺の集落にて、一人の赤子が産声を上げた。
金太郎と名付けられたその子は、すくすく大きくなりました。
金太郎は周りの子供と違い、大変な力持ちでした。
母親は体の成長した金太郎に鉞を与え、金太郎はその意を汲んで材木の伐採や薪割りなどで親孝行をしました。
父親は何をしているのかって?
父である坂田蔵人は、京の都の宮中に仕えていたましたが、母が出産のため地元に帰っている間に、金太郎の誕生を待つことなく亡くなってしまっていたのです
さて、鉞を手にした金太郎は森に頻繁に薪を得に行きましたが、そこで動物たちという友人を得ます。
そう、金太郎は動物とコミュニケーションを成立させる能力を持っていたのです。
ある日動物たちと森で遊んでいると、茂みから大きな熊、ツキノワグマの日本産亜種であるニホンツキノワグマが現れ、襲ってきました。
震え上がる動物たちを庇って金太郎が熊と組み合います。
激しい戦いの後、金太郎は熊を倒しました。そして熊は金太郎の友となり、他の動物とも仲良くなりました。
こうして金太郎は薪割りや熊との相撲、熊に乗っての乗馬の稽古などをし、鍛錬を積んで行きました。
ある時、かの藤原道長に仕える武将である源頼光が家臣を引き連れて足柄峠に差し掛かり、金太郎に出会いました。
頼光は金太郎に非凡な才を感じ、家臣たちと模擬戦をさせたところ、金太郎の全勝でした。
力量を頼光に認められた金太郎は頼光の家臣として迎えられ、父の姓を受け継いで坂田金時と改名し、京にのぼりました。
<金太郎 幼少期から成人するまで編 完>
注:金太郎は前述の通り坂田金時に改名しましたが、馴染みやすさを優先し、金太郎表記のままにします。
金太郎が頼光に連れられて向かった京の都。
この都にはこの時(西暦九百八十年頃)、錚々たる人物たちが住んでいました。
源頼光も十分に有名人なのですが、学校で絶対習う、名前を知っているレベルを上げます。
まず藤原道長。天皇の外戚として絶大なる権勢を誇り、
「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の かけたることも なしと思へば」の句でも知られています。ちなみに金太郎が上京した頃はまだ十歳ごろですが、後に頼光の主君になります。
道長の娘が一条天皇の二人目の皇后で(天皇が二人の皇后を持つことができる先例となったのがこの一条天皇です。画策したのは自分の娘を皇后にしたかった道長ですが)、この娘が産んだのが一条天皇の次の次の天皇である後一条天皇であり、天皇の祖父、後見人として摂政の地位に着いてさらに権勢を増すこととなります。さっきの句も摂政になって以降に読まれた句です。
次に清少納言と紫式部。それぞれ枕草子と源氏物語の作者として知られています。
どちらも一条天皇の皇后に仕えていて、清少納言は一人目の皇后(道長の兄の娘)、紫式部は二人目の皇后に、それぞれ仕えていました。
仕えている時期は重なっていないので面識はないと思われますが。
ちなみに光源氏のモデル説がある人物は何人もいるのですが、そのうちの一人が道長です。
また、言わずと知れた天下の陰陽師、安倍晴明もこの時代です。
いかがでしょう? こうしてみると金太郎の時代背景がイメージしやすくなりませんか?
さて、京にのぼった金太郎はすぐに頭角を表し、渡辺綱、卜部季武、碓井貞光と共に頼光四天王と呼ばれ、主君である頼光の仕事、即ち京の都の守護を果たすため、京の治安維持に奔走しました。
最大の功績として語られているのが「大江山の鬼退治」いわゆる「酒呑童子退治」です。
この時代、京の若者や姫君が次々と神隠しに遭い、原因究明のため安倍晴明に占わせたところ、大江山に住む鬼の仕業とわかりました。そこで源頼光と四天王が成敗に向かったのです。
道中で八幡大菩薩から特別なお酒を授かり、鬼の居城にて鬼と酒を酌み交わすことに成功しました。
その宴席では、酒好きなために「酒呑童子」と呼ばれていることや、比叡山に住んでいたのに最澄が延暦寺を建てたからいられなくなって大江山に住みついたことなど身の上話を鬼から聞きました。
その後、御神酒を飲んで酔って寝た鬼、酒呑童子の寝室を襲い首を刎ねて成敗したのです。首を刎ねたのは渡辺綱の太刀の一閃とも、金太郎の愛用の鉞によるハイアングル・アックス・ドライバーだったとも伝わっています。「酒呑童子を成敗した刀」というのが現代でも複数伝わっているので真相は不明ですが……
ちなみに酒呑童子を退治した逸話を持つ日本刀は、「童子切」「鬼切丸」の二振りで「童子切」は国宝であり天下五剣にも選ばれている太刀です。
ほかにも土蜘蛛退治の話など、「今昔物語集』や「御伽草子」などに記載があります。
このように主君や仲間と共に奮闘した金太郎は賊を成敗するために福岡県へ向かう途中、岡山県にて重い熱病にかかり亡くなったと伝わっています。五十五歳でした。
でも金太郎の話はまだ終わりません。
江戸時代になると金平浄瑠璃という人形浄瑠璃が流行しましたが、これが金太郎たちの次世代の話になっています。もちろん創作です。
頼光の弟の一人、源頼信の長男の源頼義と頼光四天王の息子である坂田金平・渡辺竹綱・碓氷定景・卜部季春の「新四天王」が活躍し、特に金太郎の息子である金平が人気であったためにこの名が付いたとされています。
この坂田金平の人気にあやかったのがご存じ「きんぴらごぼう」です。
最後に頼光の兄弟の話が出てきたので今年に話すにはちょうどいいので追記しますと、今年の大河ドラマで出てくる鎌倉幕府の初代将軍、源頼朝、彼も「源」姓ですよね? 彼は河内源氏です。そもそも源氏とは、祖となる天皇別に21の流派があって、そのうちの清和源氏という清和天皇から分かれた氏族がいます。
頼光もその兄弟たちもこの清和源氏なのですが、長男の頼光は「摂津源氏の祖」、次男の頼親は「大和源氏の祖」、三男の頼信は「河内源氏の祖」と呼ばれています。
そう、頼光は源頼朝の祖の兄なのです。
頼信が頼朝の祖なのですが、では頼朝時代に頼光と頼親の子孫がどうなったか、嫡流あたりに限っていうと、大和源氏はいまいちパッとしないです。なんか散らばっちゃったみたいです。
摂津源氏の方はみんな大好き牛若丸こと源義経に味方して頼朝に疎まれて領地を没収されたりしてます。「みんな○泉が悪い」ってやつですね。でも全滅はしてなくて全国に散らばり遠い子孫に明智光秀がいます。
金太郎が大河ドラマとも繋がってるって驚きではありませんか?
<金太郎 青年期から最期まで編 完>
◇◇◇◇◇◇
先生:はーい、金太郎の話は読み終わったねー、では問題出すよー
次の中から「行動が仲間はずれなもの」を選べ。
1:桃太郎
2:浦島太郎
3:金太郎
4:一寸法師
先生:太郎がついてないから四だ、とか言ったらかかと落としだからねー、気をつけてねー、やったことだからねー
先生:じゃー、一番だと思う人ー
生徒たち:……
先生:じゃー、二番だと思う人ー
生徒たち:はい!はい!はいはい!!
先生:じゃー、三番だと思う人ー
生徒い:……はい……
先生:じゃー、四番だと思う人ー
生徒ろ:はい!
先生:正解は二番です
生徒い・生徒ろを除く生徒たち:わーい、やったー!
先生:い君、ろ君はなんで三と四って答えたの? まず、い君から
生徒い:誰かに仕えたのは金太郎だけ? あとクイズ的に今日のテーマの金太郎からかと
先生:クイズ的にって答えはやめなさい、どっかのMCに怒られるわよ、でも最初の発想はいいわね。一寸法師も姫の屋敷で働いてたの、つまり誰かに仕えると言う意味では一寸法師・金太郎が仲間になるわね
生徒い:そっかぁー
先生:では、ろ君は?
生徒ろ:はい、他の三人が何々太郎だからでッ
ドゴっ!!!!
生徒ろの学習机が粉々になった、先生のかかと落としによって。
生徒ろは椅子ごと素早く身を引いて回避したが、その椅子が邪魔で先生の追撃を受けてしまう。かかと落としで振り抜いた足の勢いそのままに床を踏み込み、逆の足で放った前蹴りを、その鳩尾に。
生徒ろ:ぐはぁ!
悶絶する生徒ろ
ひとしきり苦しむ生徒ろを見据えた後、生徒ろと粉砕された机に手をかざし回復魔法を唱える先生。机は復元され、生徒ろの傷と痛みは消える。
先生:避けんじゃないわよ、ったく
生徒ろ:く、今回もダメだったか
体罰ぎりぎりと言うより明確に体罰なのだが、生徒ろも納得してるし傷も痛みも全て治すから問題ないと言うことらしい……問題ないわけないのだが……
先生:まぁ、いいわ、じゃあ、は君、なんで二番か答えて
生徒は:はい、浦島太郎だけ鬼退治をしていないからです
先生:よくできました、正解です
生徒に:でも先生、私も二番って手を挙げたけど、金太郎だけ一人で鬼を退治したわけじゃないから、ソロで倒してないから、ちょっと自信なかった……
生徒ほ:それなら桃太郎だって犬猿雉と一緒じゃん
生徒に:いや、そこはオトモア○ルーカウントでいいかと
先生:金太郎も集会所のムフェ○やマ○戦だと思いなさい。ソロ討伐かどうかは問わないわ
生徒に:そっかー、わかりました
生徒へ:先生、いつまでもワールドで例えないでくださいよ、サ○ブレイク出ているのに
先生:いつも言っているでしょう、先生のスイ○チはあ○森専用機です
先生:他に質問はあるー?
生徒と:他の四天王の話聞きたいです
先生:この金太郎は諸説ある中で概ね有力な説とか有名な説とかで構成されているので文献によっては異説もあるのね、そこも含めて話すね
先生:まず渡辺綱、彼はソロでも活躍してて、茨木童子っていう鬼の腕を切り落とした話が伝わっているわ。この茨木童子は酒呑童子の仲間で酒呑童子戦でもいたって話もあるのよ。で、腕を切った刀が「鬼切と呼ばれることになるわ
生徒ち:え? でもだったら酒呑童子戦で頼光一向は正体バレちゃんじゃないですか?
生徒り:それに鬼切って酒呑童子切ったから鬼切なんじゃないですか
先生:二人ともいい気付きね。ここも諸説あって渡辺綱は頼光四天王に入ってないって文献もあるの、そもそも四天王じゃなくて三人って文献とかね。あと刀については、ヤマトタケルが草薙の剣を母親からもらったんだけど、敵に火を放たれて草を切って逃れた逸話で草薙の剣と呼ばれるようになった話みたいに時系列がおかしくなるのはよくあることと受け入れるしかないわね
生徒ち&り:はーい
先生:渡辺綱についてはまだあって、源氏物語の主人公光源氏の実在モデル最有力候補である源融を祖先にもっているの
生徒たち:へー
先生:つぎは卜部季武ね、彼もソロの逸話があるわね。不気味な赤子を抱いた不気味な女に「赤子を抱け(怖くてできるわけがないだろうがな)」と言われ、臆せず抱いた、という話ね
生徒ぬ:地味ですね
先生:最後の碓井貞光はもっと地味よ、金太郎を見出したのは頼光ではなくて碓井貞光だった、という説があるくらいで他に特に有名な話はないわね
生徒ぬ:確かに地味ですね
生徒る:ご主人の頼光が何している人なのかよくわからないんですが?
先生:朝家の守護と称された人なのね頼光は。子孫は要人の護衛とか、天皇の住む宮殿の警護とかの任についたっていうから頼光もそう言うことをやってたと思っていいわね
先生:摂津源氏の名が示す通り、源頼光、というかその父の満仲伝来の摂津国を本拠地としていたのだけど、ここは今で言う兵庫県ね。でも活動の拠点は京だったので、公家とも関わりが深く和歌も得意な文武両道だったと伝わっているわ
先生:お祖父ちゃんのお祖父ちゃんが清和天皇で血筋もあり、位としては下位貴族だけど任地で財を蓄え、藤原道長のお父さんの 兼家に仕えていたんだけど兼家が亡くなった時に道長の振る舞いに感心し仕えることに決めた見る目もあったの
生徒を:え? 主君の息子に引き続き仕えただけじゃないですか?
先生:道長は三男なのよ、その時は長男の道隆が父の後継となっていたし、次男もいたので道長は不利だったの。この時点で道長が権勢を誇る未来を思い描けてた人はいないんじゃないかな? だから頼光はすごくいい選択をしたの
先生:それに武士団も率いていて武力もある、次の武士の時代の先駆け的な存在だったの
生徒わ:金太郎の時代背景はわかりましたけど、結局金太郎は一言で言うと何をした人なんですか?
先生:足柄山で生まれて、力持ちで、仲間と一緒に酒呑童子を倒した人、でいいと思うわ
生徒か:実在した人なんですか?
先生:下毛野 公時と言う人がモデルと言われているわ。藤原道長に付き従う護衛に抜擢された人で、警護を司る「近衛府」と言うところの役人の中で「第一の者」って言われるほど評判がよかったそうよ
生徒か:しもつけのの? のの?
先生:今で言う栃木県あたりを下毛野というの、そこの氏を名乗る公時、なので、さかた の きんとき と同じ感じで、 しもつけの の きんとき
生徒か:理解しました
先生:はい、では今日の授業はここまでにします
生徒よ:きりーつ、れー
生徒たち:せんせー、さよーなら、みなさん、さよーなら
<知名度を上げたい金太郎 完>
B「お読みいただきありがとうございます、知名度を上げたい金太郎、でした」
A「お疲れ様です、金太郎が頼光の部下なのは知ってたけど、同時代に誰がいたのかは知らなかった」
B「私も。酒呑童子をハイアングル・アックス・ドライバーで倒したことくらいしか知らなかった」
A「それは某プロレス風ギャグ漫画の話ね、しかも倒してないし。本編にもその技出してたな」
B「繰り返しはギャグの基本かと」
A「ギャグといえば先生のかかと落としのくだりは何? 唐突に回復魔法が出てきてどの世界線かと思った」
B「すみません、ノリで書きました。後悔していません」
A「まぁ、嫌いじゃないけど…… あと、これ、童話カテゴリで投稿したの?」
B「うん、金太郎って童話じゃん」
A「記載内容に歴史要素が多いから心配になったけど、歴史にあげたら童話じゃんって言われるからいいか」
B「そうそう」
A「頼光の家系から頼朝まで話を繋げたのは面白かった」
B「大河ドラマやっている間に投稿したかったのはこれが理由なのです。頼朝が退場する前に投稿したかったけど間に合わなかった……」
B「あととても余談だけど「頼光の家系」ってAが言ったのわかっているんだけど、文字で読むと家系ラーメン? って思っちゃった」
A「((ヾ(・д・。)フリフリ。しかし本作は、前作のオオカミ少年のよりその前のあまり受けなかった赤ずきんちゃんと似た系統だね」
B「そうなのよ、よく知られている事象同士を繋げただけだからね」
A「厳しい評価になることを覚悟しないとね」
B「わかっている、でも次のセリフだけは言わないと」
AB「「評価頂けると大変嬉しいです、よろしくお願いします!」」