幸福の白いネズミ
謎とされていた私の失踪事件について、妃教育のことも含め、私の身に起こったことを王となったセインは大まかに10年経った今、公表した。
新聞では、セインが『白いネズミ』によって、「隠された『白い宝玉』が見つけ出された」と大々的に発表したため、この国に住まう白いネズミは、良いことが起こる……『幸福のネズミ』として取沙汰されることとなった。以降、王太子妃となった私のことを新聞等では『白い宝玉』と呼ばれるようになる。
私とセインの婚約発表と同時期に、アンダルトとエリーゼの婚約解消、公爵家から侯爵家への婚約破棄に伴う賠償、男爵家から侯爵家への盛沢山な事件や賠償など、大きな出来事も内々に処理をされ、処分が言い渡されていたことも発表された。
私の捜索のさいに、公爵家と協力体制を取っていたことや男爵令嬢エリーゼが私の失踪に大きく関わっていることが、エリーゼからの手紙から発覚したと公表された。アンダルトとの婚約を無理に進めたことで、男爵家が公爵家の威を借りて悪事を働いていたこともわかり、公爵家の信用も失墜している。
公爵家から、アンダルトによる勝手な婚約破棄による賠償として、私は領地の一部を委譲され、両親へ補償金も支払われる。男爵家にとって、エリーゼが起こした事件はことが大きすぎたため、領地と爵位の返還、侯爵家の多額の賠償金により、お取り潰しとなることが決まった。多額の借金を抱えながら、元男爵家は平民以下の暮らしをしているらしい。もちろん、元男爵夫妻の元には、娘エリーゼの姿はない。娘が公爵夫人になれると息巻いていた男爵夫妻は、あばら家で年老いていく自分たちの先を思い、途方に暮れていることだろう。分相応でない夢の代償は大きかった。
アンダルトは、エリーゼとの婚約を解消したのち、正式に公爵の地位を継がせることができないと、公爵から宣言された。次期公爵となる弟の手伝いと称し、私へ委譲された領地で、小さな農園を開いく。従業員はおらず、一人きり。
アンダルト自身にも侯爵家への婚約破棄の賠償金を支払う義務が発生した。高額であったため、公爵が代わりに立て替え、今は、侯爵家への賠償分を少しでも公爵に返すために、汗水たらし泥だらけになりながら、働いているらしい。
◇
新聞で一躍有名になった『白いネズミ』、国王夫妻の仲を取り持った赤い目をした白い毛のネズミの話は、王妃となってから私の子どもたちのために作った絵本が、いつしか国の子どもたちの寝物語となった。その絵本に出てくる、白いネズミのリアが、『幸福のネズミ』として国民に親しまれることとなった。
「あっ、ネズミ!」
「待ちなさい! あのネズミは、もしかしたら、この国の守り神かもしれないのよ」
「……守り神?」
「そうだよ。白いネズミは、この国の王様と王妃様を出会わせてくれた神様の使いなんだよ。大切に見守ってあげないと」
小さな子どもが、母親を見上げている。まだ理解できていないからか、『幸福のネズミ』として親しまれていても、子どもは去っていく白いネズミをつまらなさそうに見送った。
「今晩、この国の素敵な王様と心優しい王妃様のお話をしてあげよう。楽しみにしておいで?」
「王様と王妃様のお話?」
「あぁ、王様が出会った賢い白いネズミの話だよ!」
「それって、この前のお芝居の話かな?」
「学校で見に行ったと言っていたね!」
「そう、とっても素敵なお話だった。……守り神様の使いだったのかなぁ? あのネズミ」
うーんうーんと悩む子の手を取り、優しく微笑む母親。買い物帰りの母娘は家へと帰宅し、出会った白いネズミの話を家で待っていた父親にする。
その夜、その家族は、楽しいひとときをすごし、眠りにつく。母が子に聞かせる『白いネズミのお姫様』の話を聞きながら、幸せな夢を見られるだろう。
幸せそうに笑う家族の様子をドス黒く薄汚れたドブネズミがこっそり覗き、悔し気に「ぢゅう!」と鳴いた。
*-* End *-*
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本作は、これにて、完結となります。
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