余すところなくたっぷりと
セインは、私の推測を聞きながら、考えを巡らしているのか、少し上を見た。考えてもわからなかったのか、私の方を見て降参とばかりの表情を向けてくる。
「それで、その、のろ……おまじないの解き方はなんだったの?」
「その解き方は……、アンダルト様とエリーゼには、一生かかっても、解けないことでしょう」
「どういうことだい?」
「こういうことですよ!」
私は身を寄せ、セインにそっと口ずけをした。驚きはしていたが、セインも私を支えてくれ、より求めてくる。
「……ん? リーリヤって、ときたま大胆だよね?」
「そうですか? セインも……だと思いますけど」
見つめ合いながらクスクス笑う。二人だけの穏やかな時間ではあるが、答え合わせをしていないので、んーと唸っているセインも気付いたようで、ハッとした。
「もしかして、キス?」
「そうです」
「キスなら……誰でもいいんじゃ?」
「そうでしょうか? 乙女がかけるおまじないですもの。愛し合うもの同士でのキスでないとダメだと、私は考えましたわ。おまじないの本では、残念ながら答えが読むことができないので、推測ではありますが。
……あの日、私が人間に戻った日。いつもと変わったことをしたのは、それだけでしたから……」
「それじゃあ、リアは、寝込みを襲って僕にキスをしたのかい?」
「大胆だなぁ?」とからかうようにセインが言うので、コクリと頷いた。その瞬間、そのときを思い出し、頬がカッと熱くなる。
あの日、アンダルトとの決別、いなくなった私の捜索が難航していることで苦しむセインを少しでも慰めたくて、眠っているセインの唇にキスをした。ここに来てから育った愛情を余すところなくたっぷり乗せて……。
からかってみたものの、私の予想外の反応にセインの方が慌てている。
「じゃ、じゃあ、なぜ、エリーゼは無理だと?」
「アンダルト様は、真実の愛に目覚めたといいつつも、エリーゼに愛想を尽かしていました。もちろん、エリーゼもアンダルト様の次期公爵という地位に目がくらんだだけで、好きだ愛しているは心から想っていたようには、アンダルト様の話を聞く限り思えませんでした。エリーゼはアンダルト様に愛の言葉をそれらしく口にしているだけに過ぎなかったでしょう」
「なるほどな。確かに、アンダルトの様子からして、卒業式の日、大勢の前であれだけのことを言われれば、さすがに、百年の恋でも冷めるだろう」
「いえ、たぶん、その前からではないでしょうか?」
「その前とは?」とセインは、最近の出来事を遡っていた。行きついた先の出来事は、私との婚約破棄をしたあと、エリーゼを伴い、各所への出向いたときに感じたズレのようなものが、要因ではないかと考えていた。
「エリーゼと婚約をすると決断されたのは、アンダルト様ですから……」
アンダルトの背中を思い出し、遠くを見つめるようにしていると、不意に抱きしめられた。
「どうか、されましたか?」
「いや、リアはアンダルトの本当の気持ちを見抜いていたんじゃないかと思って」
「だとしても、今は、アンダルト様を追うことはいたしません。私はセインの隣にいます。決して無理をしているわけではなく、心から、セインの側にいたいと願っているのですから」
「それなら、よかった」
ホッとしたような表情に、私は微笑みかける。セインが言ったように、アンダルトの心はわかっていた。私を求めていたことも。
……手を離したのは、アンダルト様のほう。それに、セインのことを本当に愛しているのですから、その手を掴むことは、もう、無理だったのです。
退席したアンダルトの後姿を見送ったとき、心から幸せになってほしいと願ったくらいだ。
「それより、あのとき、アンダルト様に何を耳打ちしたんですか?」
「あぁ、あのときね。アンダルトが、本当の『真実の愛』を自覚したようだったからさ、リアは僕のものだから、何があっても手放さいよって言っただけだよ?」
「本当ですか?」
ジトっとセインを見ると、「本当のこと以外、リアには言わないさ」と調子のいいことを言うので、頬を少しつねる。
「いたたた……本当だから。リアに嘘は言わない。僕がみつけたたった一人の愛しい人」
「もう! あまり調子のいいことを言っていると、ベルに言いつけますよ!」
恥ずかしくなり、拗ねたように詰ると、眉尻を下げ、困ったようにセインは微笑む。
「えーっと……それは、とても困るね。そうなる前に、そろそろ、寝ようか? 明日も早いし」
「……そうですね?」
ソワソワしてしていると、抱き上げられ優しくベッドへ運ばれたのである。
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