嫉妬
学園卒業式の日、新聞には2つの記事が並んだ。『失踪していたと思われていた侯爵令嬢リーリヤ嬢が王太子の婚約者に選ばれた』というものと、『卒業式の日、突然、姿を消し、失踪したエリーゼ嬢』。
どちらの話題も、大々的に取り上げられていた。新聞は飛ぶように売れていると聞いていた。もちろん、ベルも買ってきてくれて、私の部屋に置いてあった。
「見事に話題をかっさらったね? どちらもリーリヤの話だ」
新聞を読みながら苦笑いをしているセイン。お茶を一口飲んだあと、可愛らしく小首を傾げてみた。
……王太子の婚約者は私ですけど、エリーゼの話は違うのでは?
疑問を感じて、セインに聞くことにした。両方、私の話ではないはずだからと。
「どうしてですか?」
「1つは王太子の婚約者の話だろう? 失踪していたとされていた侯爵令嬢リーリヤ様は、王太子妃となるべく数ヶ月間、王宮で作法などの勉強をしていたそうだ。卒業式で、セイン王太子殿下と並び立ったリーリヤ様は、以前よりさらに気品に溢れ、とても美しかったという。純白のドレスにセイン王太子殿下と揃えたであろう青いリボンがとても素敵だったと、卒業式へ参加された令息令嬢たちは口々に語る。なお、リーリヤ様のルビーの髪飾りは、白く輝く髪によく映え、瞳の色とあいまって美しかったと聞く。
なるほど、なかなか、この記者は、見る目? いや、取材も言葉遣いも巧みにうまいようだ」
セインは、私の記事を読んで満足そうに頷く。もう一方の一面には、エリーゼのことが書いてある。そちらもセインは口に出して読み始めた。
「……何々? 卒業式の終わったあと、王太子殿下たちへの挨拶をする中、次期公爵と名高かったアンダルト様と婚約者であるエリーゼ嬢の順番のときに問題が起こった。いきなり、エリーゼ嬢が、怒気をあらわに、リーリヤ様につかみかかろうとした。婚約者であるアンダルト様がエリーゼ嬢を止めに入っていたが、二人の間に何か起こったらしい。王族に対して、卒業や婚約発表の慶事での振る舞いにはあまりにも失礼なことだ。
エリーゼ嬢が、ご婚約発表をしたリーリヤ様に対して、不満をぶつけたらしい。その後、光ったあと、エリーゼ嬢はその場からいなくなり、アンダルト様が、エリーゼ嬢の着ていたドレスを持って部屋から出ていったらしい。
そのさいに、ネズミの駆除をしたというが……何が、あったのだろうか? その場にいた方々は、見てはいたが、子細はわからなかったと首を傾げる」
セインが読み上げる新聞を聞きながら、当時のことを思い出す。先日のことではあったが、それ以降、王妃に次の王妃としての厳しい教育を受ける日々で、卒業式がもう遠い過去のようあった。
新聞を折りたたみ、ソファに深く座り直しているセイン。最近は、陛下について執務を手伝っているので、セインも疲れているのだろう。
「そういえば、リアは、今日も母上のところだったのかい?」
「はい。王妃様の側にいると、とても、学ぶことが多くて……」
「そっか、連日だよね? 疲れていない?」
労ってくれてはいるが、拗ねたようなセインに「どうかされましたか?」と尋ねると、大きなため息をひとつついた。
「リアを母上に独占されて、嫉妬しただけだよ。それ以上のことはない」
対面の席から、セインの隣に座り直すと、肩にコテンと頭を乗せて甘えてくる。外でのセインのイメージとは違い、ときどきこんなふうに私に寄りかかることがある。婚約が発表になった以降、こんな時間が少し増えたように思う。そんなセインの仕草がたまらなく愛おしいかった。
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