ドブネズミ
エリーゼの目が狂気に満ち満ちていた。薄ら笑いから狂ったように大きな声で笑うその姿は禍々しささえあった。令嬢らしくないその姿に、アンダルトも引いている様子ではあったが、エリーゼへと手を伸ばした。エリーゼは、アンダルトを振り払い、座った目を私に向ける。それを察したのか、セインが私を庇うように、少し前に立ってくれた。話を逸らすためか、正気ではないエリーゼの視線を自身に向けさせるセイン。私は怖くなり、セインの上着の裾をギュっと握る。
「……エリーゼ嬢は、白い毛にルビーのような目をしたネズミを知っているかな?」
「はぁ? そんなもの……」
「私とリーリヤが、結婚できる理由はね、そのネズミがもたらしてくれたんだ。エリーゼ嬢には、感謝しかないよ! ぜひとも、エリーゼ嬢もアンダルトと幸せになってくれ」
「どういう……? セイン様もリーリヤ様も、失踪のことを何か知っているのか?」
「エリーゼが、セインと私を結んでくれたというお話ですよ、アンダルト様。おかげさまで、セインとこうして、手を取り合える日々が、私は幸せでなりません! ありがとう、エリーゼ!」
アンダルトは食い気味に失踪の真実を求め、エリーゼは苦々しそうにする。私は感謝の意を込めニッコリ笑いかけると、エリーゼは仰け反った。
「もう、顔も見たくないっ! リーリヤ、もう一度、あの姿に戻れっ!」
その瞬間、あのときと同じように目の前が、パッと明るくなり、目を瞑る。とっさにセインに庇われ、影になったのだが、セインが元の場所に戻り目を開けると、エリーゼがいた場所に彼女の姿はなかった。
「……エリーゼ?」
「ぢゅう?」
少々汚い声で鳴くネズミの声が足元から聞こえ、セインと私、アンダルトの三人が下を向く。そこには、どす黒く汚いネズミがエリーゼの着ていたドレスの真ん中に佇んで私たちを見上げていた。
「あら……ネズミさん」
自身のことを思い出し、そのネズミがエリーゼなのだとわかった。見た目は、私がなったような白い毛のネズミではなく、薄汚れたドブネズミ。
「なんだ、この汚いネズミは! 誰か、駆除を!」
当然のように、害獣であるネズミの駆除をするように言うアンダルト。私は、身に覚えがあったため、アンダルトを止める。
「アンダルト様、少々お待ちください!」
私の声が、会場に響き渡る。アンダルトは、「何を言うんだ?」と訝しんで私の方を見ていた。
「な、なんだ……?」
「アンダルト様、よくごらんになって! この愛くるしいお顔を。エリーゼにソックリですわ!」
「なんだって? エリーゼは、このようなドブネズミなどではない!」
「そうですか……」
残念そうに、肩を落としていると、その肩にセインの手が置かれる。任せてと言っているようで、微笑み返した。
アンダルトの耳元でセインが何事かを囁き、驚いたアンダルトは、ドブネズミを憎々し気に睨んだあと、エリーゼが着ていたドレスだけを持って、足早に会場から出て行った。その場には、ドブネズミとなったエリーゼだけが取り残され、アンダルトを呼ぶも無情にも扉は閉じてしまった。アンダルトに呼ばれた侍従たちが、ネズミ駆除のためにやってくる。
アンダルトに見限られ呆然としているネズミになったエリーゼを連れ、侍従たちは部屋を出て行った。
突然のことに会場は騒然となったが、私たちの婚約発表や卒業の祝いなどで、会場で起こった一連のことは、誰も口に出すことはしなかった。
その後、エリーゼがどうなったかは、私の失踪事件以上にどこからも情報が上がってくることはなかった。
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