社交辞令
悔しがるアンダルト。男爵家との婚姻では、盤石ではない公爵家にとって、未だこの婚約自体を公爵に認められていないことは、セインからの情報で知っていた。
他の上位貴族の令嬢と婚姻をしようにも、年頃の女性はすでに婚約済みで誰もおらず、お飾りの公爵夫人の席は空席のままであった。かといって、そんなお飾りの公爵夫人の座をエリーゼが誰かに譲るつもりもなく、ことごとく婚約の話を潰していったこともわかっている。残念なことに、公爵夫人になりたいエリーゼが、アンダルトの未来を閉ざし、自身の願望さえ閉ざしていることに気が付いていなかった。
「王太子様、リーリヤ様。卒業の挨拶を……」
卒業式後は、それぞれの生徒が王太子になったセインと王太子妃になる予定の私に挨拶をすることになっていた。未だ公爵令息であるアンダルトは婚約者のエリーゼを伴い、挨拶のために私の前に二人が立つ。
私を睨むエリーゼに、無慈悲にも優しく微笑む。
「この度は、リーリヤ嬢とのご婚約、そして、卒業おめでとうございます」
卒業式のあいだ、ずっと何かを考えていたらしく苦々し気なアンダルトは、膝を突き頭を垂れる。それに倣いエリーゼも膝をついた。
「あぁ、ありがとう。二人も婚約したと新聞で見て知っていたが、祝いの言葉がまだだった。婚約、おめでとう」
「……ありがとうございます。その、セイン様はいつ、リーリヤを……」
「リーリヤか……いつまでも、リーリヤはアンダルトの婚約者ではない。私の妃となるのだ。そろそろ、呼び方も変えて欲しいところだな?」
「申し訳ございません」と謝るアンダルト。それ以上は言葉にならない様子だ。アンダルトが何も言えない状況に、エリーゼにも思うところはあったのだろう。私をきつく睨んで、今まで閉ざしていた口を開いた。
「リーリヤ様は、何故このような場所に! あのとき、あんな姿になったはずなのに! どうして!」
「あんな姿とは?」
セインは、不思議そうな表情をわざと作り、エリーゼに向けた。もちろん、私が白いネズミであったことは知っているのだから、エリーゼのさす『あんな姿』には身に覚えがある。
「……いえ、失踪されたリーリヤ様は、どこかの平民の殿方と駆け落ちしたと、新聞に書かれていたので……まさか、私より身分の上になる方とご婚約をされているだなんて、とても驚いたまでです。学校も来ていなかったですし、卒業式になんて……」
「エリーゼには、大変な心配と迷惑をかけしましたわ」
私もわざとらしく、エリーゼに気遣ってもらってと微笑むと、エリーゼは気づいたようで、一瞬だけ憎々しそうな表情をし、取り繕った。
「アンダルト様が真実の愛は素晴らしいと教えてくださり、幸せになるよう祈ってくださったおかげで、セインと縁を結ぶことができましたもの。婚約破棄をしてくれたアンダルト様にも唆したエリーゼにも感謝しているのですよ」
「……そんな」
どちらが悪いのわからないほど、目に涙をためていくエリーゼ。可哀想に見えるように演出し始めたエリーゼに、私は、困惑しながらも騙されまいと心を鬼にする。
「セイン殿下は、私のことを、可愛いと言ってくださったのに……リーリヤ様となんて」
「まぁ、セインはエリーゼにそのようなことを?」
セインの方を可愛らしく睨むと、「深い意味はないよ」と平然と返ってくる。
「リーリヤ以外を本当の意味で可愛いと思ったこともないし……こんな可愛らしい人は、後にも先にもリーリヤだけだ」
「本当ですか? エリーゼに言ったように、他所でも言ってませんか?」
「他所で言うのなんて、社交辞令じゃないか。お天気がいいですね? と同じだよ」
口をあんぐり開けて、固まってしまったエリーゼ。アンダルトが止めようとしたが、もう、遅かった。
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