お幸せに……
「……何故、リーリヤ様が卒業式にいらっしゃるの? ……どうして、あのとき確実に……」
幽霊でもみているかのように、私の姿を見てみるみるうちに、顔が青ざめていくエリーゼ。可哀想に私がこの場にいることに怯えるように震えている。
「リーリヤ、一体……、一体どういうことなんだ? 卒業式だぞ?」
アンダルトといえば、私を見るなり、目を何度も瞬かせて、驚いている。
まさか、私が卒業式に出席できるなんて思っていなかったのだろう。エリーゼの話を鵜吞みにして、婚約破棄までしたうえに、セインにエスコートをされて、今の席に座る。セインの婚約者が座る場所にだ。
混乱しているのが、手に取るようにわかった。アンダルトに向け、哀れみを込め微笑んだ。
「どうって……お隣にいるエリーゼ嬢に聞かれてはいかがですか? 私の失踪について、全てを詳しく話してくださいますよ。あぁ、でも、失踪した時点までしか知らないと思いますが」
「そ、それは……」
「それに、アンダルト様にとって、私はつまらない女ではありませんか? アンダルト様には、私がどこかの誰かとの幸せになるよう願っていただけましたから……私も真実の愛というものを知りました」
隣で微笑むセインを見上げる。胸の内からじんわりとした愛情を微笑むことでセインに伝えた。
「な、そんなこと、言った覚えは……」
「私、聞いていましたの。アンダルト様が、私を探す気がないことも、つまらないとおっしゃったことも、私がいないとダメだと言ったことも」
「聞いていた? どこでだ……俺が、話したのは……」
慌てるアンダルトに、優しく微笑んだ。侮蔑の意味も込めて。
「私には、直接おっしゃらないのに、セインには何でも言えてしまうのですね? 隠しごとがあるのは構いません。多くの貴族がどのような生活をしているか知っていますし、愛人程度、何人いようと咎めるつもりもありませんでした。そのエリーゼとのことも、私をお飾りにして領地へ追いやることも……私はそれでも構わなかったのです。
アンダルト様はご存じないのかもしれませんが、……公爵夫人になるための教育とは、そういうものも含まれていますから。
夫婦となる予定でしたのに、私には本音を言ってくださらなかったことが、本当に残念でなりませんわ!」
怯えたような視線と今まで知らなかった私の覚悟を聞き、アンダルトは揺れている。エリーゼを見ようともせず、私に縋るような視線で見つめ返してくる。
……そんな目は、もっと早く見たかったです。私は、あなたの側にいるために、ずっと努力をしてきたのですから。今は、もう、その目に応えることはできません。セインが、大切なものを手放したように、私もアンダルト様、あなたを受け入れることはないですよ。
「リーリヤ……戻って……」
「何故、私が? アンダルト様がおっしゃったように、私が尽くす方は他にいます」
「でも、あの、祖父たちの約束は……」
「反故にされたのは、アンダルト様でしょう? その話は、すでに公爵と決着がついています!」
「いや、俺は何も聞かされて……」
「そうでしょうね。私との婚約を解消したことで、次期公爵から外されたのでしょうから? 公爵が大事な話をアンダルト様にすると思いますか?」
忌々しいと言わんばかりの表情となり、私ではなく、セインを睨んだ。
……向かう先が違いますわ。アンダルト様自身が、私の手を離したのですから。
「アンダルト様」
「……何だ」
「お幸せに……」
アンダルトたちから少し離れた場所へ移動することになった。セインが、少し手を回したらしい。立ち上がり、セインの手を取る。名を呼ばれても、振り返ることはしなかった。
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